手紙は部下から侍女へ
手紙を配達する部下は姫様付きの侍女と会う
木々の枝葉はまだ僅かに新芽を這わせるばかりで、冬枯れの残る季節。
朝日が白く照らすなかで、我らが近衛騎士団長様は静かにここを発たれた。
姫様に内緒で離れたいからと、出立式もない。
若くして、王女付きの近衛騎士団長をその身に務め、その地位に恥じぬ技量を発揮し、
いまや王国に名高いその人としては、何とも静すぎる旅立ちである。
王宮内でさえこの旅立ちを知る者は少ない。
手紙の配達を頼まれた部下は、たった一人の彼女の見送り人だった。
「さて、姫様のとこへ配達に行くか。」
近衛騎士団長を見送った部下は、手紙を携え城内へと行く。
姫様の部屋へと向かうと、部屋の近くで姫様付きの侍女に会う。
騎士団長の助手をした時に、何度か顔を合わせていた侍女ソフィー・メディナであった。
「ソフィー殿、ごきげんよう。」
「ごきげんよう、フリード様。 お早いですね、どうなされました?」
王宮に従事している若い侍女はたいてい貧しいどこかのご令嬢である。
この侍女も例に漏れずその一人であったが、ご令嬢にしては活発な、稀に人当たりの良い人材であった。
その快活な侍女は尋ねる。
「また、ロドアス様のお使いですか?」
「ああ、今回は団長様から姫様へ、お手紙の配達に参りました。」
「お手紙ですか? また、どうして?」
騎士団長の出立を知らない者がまたひとり。
部下は、姫様付きの侍女でさえ知らないのかと驚きつつ、手紙を手渡す。
「まあ、俺には事情はよくわかりませんが、団長から頼まれましたので、
どうか、姫様にお渡しください。」
侍女は不思議そうな顔をしたが。なにか思いついて一人納得していた。
「きっと、直接伝えるのがお恥ずかしかったのですね。
わかりました。 姫様にお渡ししておきますよ。」
「ええ。 確かにお願いします。
それから、姫様以外は検めないよう。」
「あら、わかっております。 大切なお手紙を覗いたりしませんよ。
それとも、フリード様は覗かれたのですか。」
部下は少々動揺した。覗いてはいない、だが配達の途中、ほんの少し好奇心があったことが動揺を誘う。
慌てて、侍女に弁解する。
「いや、そんなことはしてないですからね。 団長には言わないでくださいよ。
いや、ほんとに、俺の首が飛ぶので。」
次は侍女ソフィーと姫様