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025 【夜に二人で】


 その夜、俺はとある酒場で人を待っていた。


「はぁ……なんてこった」


 いきなりの宣告に溜息が止まらない。


「異界に飛ぶってどういうことだよ」


 そう呟きながらも水を一口含む。

 昼過ぎに神殿でバル爺に言われたことがどうしても理解できなかった。

 

 当然の異界への左遷修行。あの後ボルもかなりピリピリしていた様子だったが分からんでもない。


「―――あの人は全てが唐突過ぎるんだよ……いつも」


 大賢者の考えていることは理解できない、ホント。


「お待たせ~」


 背後から聞こえる女性の声。

 耳障りの良い澄んだ声が俺を気力を徐々に回復させていく。


「メリッサさん、待っていましたよ!」


 思わず声が嬉しさで跳ね上がってしまう。

 

 なぜってこんな美人と隣同士で初めてのお酒を堪能できるのだ。しかも二人きりで。

 これはもうテンションが上がらないわけがない。


「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃった」

「い、いえ! そんなこと気にしないでください。メリッサさんこそ忙しいのに誘ったりしてすみません……」

「それは全然気にしなくていいわ。私も楽しみにしていたの」


 楽しみ……? それは俺と酒が飲めることがか? それってもしや……

 

 いらぬ妄想が膨らむ。絶対に、誓ってあり得ないことだけど。


「さぁーて、明日は休息日だし久々に飲んじゃおうかな」

「メリッサさん、お酒強いんですか?」

「どうだろう? でもお酒は大好きだし、前にゲールと飲みに行った時は私の圧勝だったわ」

「ゲールって、あのゲール準賢者のことですか?」

「そうよ。彼は中々強かったわ」


 強かったって……確かゲールさんって生粋の酒好きで相当強いほうだと聞いたことがある。

 ていうか圧勝ってなんだ圧勝って。

 何の勝負をしたんだ?


 少しだけお酒を飲むのが不安になってくる。


(まさかメリッサさんってかなり酒強いんじゃ……)


 容姿から見れば想像もつかない。

 どちらかと言うと控えめでアルコールにも弱い方って感じのイメージがあるけどそうでもない感じだなこれは。


「さ、レギルス。早速一杯いきましょ!」

「あ、はい……」


 メニューは二人一組で見る方式。

 お互い身体を寄せ合い、一つのメニューを眺める。


「レギルスは何が飲みたい?」

「お、俺はなんでも……アルコール初心者でも飲みやすいのであれば」

「そうねぇ……」


 考え込むメリッサさん。

 それにしても……


(いい匂いだ。なんていう香水だろう……)


 匂いがきつすぎて気持ち悪いような香水ではなく、セラピー効果があるようなほんわかと匂ってくるタイプのものだ。

 ほのかにスウィートな匂いが鼻を通り、気分に安らぎがもたらされる。

 

(大人の女性って感じだなぁ)


 いつの間にか俺の視線はメニューではなく、メリッサさんの方へと向いていた。

 耳元のイヤリングが色気が大人の女性を演出し、右目の下にある泣きボクロが色気を出している。


 可憐な蒼い髪と澄み切った蒼い瞳がまた美しさを際立たせ、一言で彼女を表すなら一輪の青いバラという所だろうか。

 それほど俺には立場も容姿も眩しい存在だった。

 

 今日はいつにも増してその眩しさに拍車がかかっていた。


「レギルス? どうしたのさっきから私を見て……」

「へっ? あ、いやその……すみません。ぼーっとしてました」


(やばっ、さすがに凝視しすぎたか)


 つい見惚れてしまって思考回路から何までが停止していた。

 怪しまれている……様子はなさそうだが心配そうな顔を向けられ、返答に困る。


「大丈夫? 何かあったの?」


 下を向く俺の顔を覗きこむようにして聞いてくる。

 アングル的にはもう距離が近すぎて冷静な判断ができなくなるくらいだった。

 いつもならすぐに出てくるような言葉が瞬時に出てこない。


 俺は一旦彼女から目をそらし、小声で返答する。


「い、いやまぁ……色々と」

「そう……だから私を呼んだのね?」

「そ、そんなことじゃ……」

「うふふ、いいのよそれでも。私でよければ力になるわ」

「ほ、本当ですか?」

「うん、お酒でも飲みながら気楽に。ね?」


 純朴な笑顔を向けるメリッサさん。この笑顔に何度救われてきたことか。

 俺は今の今まで彼女の見せた笑顔はほとんど記憶にある。


 俺が賢者の世界に足を踏み入れた時に初めて向けてくれた笑顔。そして成人を迎えた今日、お酒の席で見せてくれたちょっと大人の色気を含んだ笑顔に至るまで全部だ。

 この世界に入り立ての頃は彼女の笑顔こそが俺の原動力であり、いつしかそれは目標へと変わっていった。

 

 独り身だった俺がこの世界でまともに暮らしていけてるのも彼女による支援があってのものだ

 メリッサさんには頭が上がらない。

 

 俺は彼女の言葉に甘え、例の事について話すことを決めた。


 ♦



「……そう、そんなことが」

「はい……俺にはバル爺が何を考えているのか分かりません。なぜあんなことを」


 俺はメリッサさんに神殿でバルトスクルムに言われたことをそのまま話した。

 それを聞くとメリッサさんは腕を組み、首を傾げる。


「うーん、異界左遷は基本的に罪人とかに課せられるものだけど修行という名目でそれは聞いたことないわね」

「そうですよね……俺たちやっぱ何かしたんでしょうか。理由は明日に言うとは言ってしましたけど」

「確かに気になるわよね。私も突然異界に行けなんて言われたら戸惑うもの」

「あぁぁぁぁ……どうすればいいんだぁぁぁ」


 机に突っ伏しながらひたすら嘆く。

 だがなぜか気分が悪いわけではなかった。


 アルコールのおかげなのか少し気持ちよさや開放感を感じるくらいだ。

 

「もーどうすればいいんでひょうかねめりっしゃしゃん。おれこのままじゃ……ヒクッ」

「れ、レギルス大丈夫? 顔がかなり赤いけど……」

「だいひょうぶれすよこれくらい。まだまだいけますって、ヒクッッ」


 この時にはもう既に俺の脳は機能していなかった。酔いが回ってしまい、言葉遣いも言動もおかしさを極めていた。

 顔も締まりが無くなり、傍から見ればタチの悪い酔っ払いと言う感じだ。


「めりっしゃしゃんはお酒強いんれすねぇ~さすがっすーヒクッッ」

「れ、レギルス!? あなた顔がどんどん……」

「ええ? なんれす?」

「いや、その赤く……」

「えー? 大丈夫っすよこれくらい……」


 段々と意識が遠のいていく。

 頭はぼーっとして身体はまるで空中に浮かんでいるかのようにフワフワとした感覚になる。

 

 でも気分は良く、誰かに抱擁されているかのような感じだった。


(幸せってこういうことなのかな)


 憧れでもあり、俺の初恋の相手と二人きりでお酒を飲んでいるという満足感とアルコールによる作用が上乗せされ、気分は最高潮だった。

 

 はずなのに身体が全然ついてこれていない。

 眠気が襲い、誰かに自分の身体を操られているのかと疑うくらい制御不能に陥る。


(うぅぅぅ……もうダメだ)

 

 そうした幸せを感じながらも俺は机に突っ伏したまま、の世界へと入ってしまった。

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