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018 【試み】


「まさか……いや、そんなはずはない。あのボルが……」


 信じられない光景を目の当たりにし困惑する。

 全貌までは見えない。ただ半裸のボルとクローレがベッドの上で何かをしていることだけは分かった。

 身体を寄せ合い、ベッドが軋む音が鮮明に聞こえてくる。


(ま、マズイものを見てしまった……)


 今までのボルを知っている俺からすれば忌々しき事態だ。自分の中にあったボルゼベータという男の人物像が徐々に崩れていく。


「―――も、もう戻ろう。これ以上は……」


 引き返そうと身を反転させ、戻ろうとした時だった。


 ―――ガタン!


「誰だ」


 微かに開いていた扉に足が当たり、音を立ててしまう。

 当然、ボルは不審な物音にすぐに気づき扉の方へと視線を向ける。


(や、やば……)


 そう思った矢先、発動していた魔法の効果がきれはじめる。


(くそっ、こんな時に……)


 失態だった。ちょっとした好奇心が招いた結果がこれだ。


「と、とりあえず逃げ……」


 静かに立ち上がり、来た道を引き返そうとした時だ。


「おい貴様、此処で何をしている?」

「ッッッ!」


 背後から聞こえる声。いつも聞きなれている声だった。

 俺はゆっくりと振り向くと、そこには半裸の姿で睨むボルが立っていた。


「ぼ、ボル……」

「覗きか? 随分といい度胸をしているんだな」


 ボルが怒りを見せるのはごもっともだ。今回は俺が悪かった。

 でも気になって仕方がなかったのだ。

 

 俺以外の相手に気を許すことなんてないと思っていた。だがボルは彼女を受け入れ二人きりになる時間まで設けた。

 俺はその真意を知りたかったのだ。


「ボル、お前……」

「我がなぜあの小娘の要望に応じたか……そう言いたいのだろう?」

「……」


 返答はせず、ただ無言を貫く。


「ふん、図星か。で、なければわざわざ五感無効と透明化の魔法を使ってまでコソコソする必要はないからな」

「気づいていたのか?」

「当たり前だ。そんな小細工は我には通用しない。書庫に結界を張らなかったのもお前が来ると予想してのことだ」

「初めからこうなることが分かっていたと?」


 ボルは「ああ」とだけ一言発する。

 俺はボルの筋書き通りに動いたってわけだ。そしてボルが彼女の要望を受け入れた理由はただ一つ。

 例の刻印のことについての話を聞こうとしたためだとそう言った。

 

「貴様も自分の耳で聞いた方が納得がいくだろう?」

「ま、まぁそれは……」


 なんだか複雑な気持ちだ。気遣いなのかハメられたのか、俺の心の中では二つの感情が渦巻いていた。

 するとボルは、


「レギルス、少し話がある。中へ入れ」

「話?」


 無言で頷くボルを見て何かあるのだろうとすぐに察する。


「……分かった」


 そう返答し、俺は部屋の中へと入って行く。


 ♦


「……そういうことだったのか。俺はてっきり血迷ったのかと」

「間違ってもあり得ないことだ。我は目的もない行動はせぬ」


 俺は今までに起こった経緯をボルから全て聞いた。クローレの頼み、そしてあのベッドの上での一連の流れまで全部だ。


「クローレは大丈夫なのか?」

「一応できるだけの処置は行った。一晩寝れば回復するだろう」

「お前にしてはやけに優しい対応じゃないか。人が変わったようだ」

「調子に乗るな。我はただ目的があるからこそ行ったまでのこと。そうでなければこの女を救う理由などない」


 いつもの対応。だがこの時のボルはなんかこう緩いというかいつものような厳格さはないようにも思えた。


「それでボル、話って?」


 もしこの場でクローレが目覚めたらと思い、話を本題へと切り替える。

 ボルは一度、クローレの寝ているベッドへと視線を移し一言。


「メルツが見つかった」

「なに? それって……」

「貴様の思っている通りだ。我の推測通り、このクローレとかいう女にも刻印があった」

「ま、マジか。で、どこに?」


 ボルは自分の身体を使ってうなじの部分を指さす。


「同じメルツだった。あのメロディアとかいう女とな」


 先ほどクローレの服を剥いだ時に偶然見たのだという。ただ一つ違うのはクローレの刻印は常時光を帯びており、俺たちの持つ刻印と非常に酷似していたらしい。


 その上そこには膨大な量の魔力が溜められており、今にも爆発寸前という非常に危険な状態だったらしい。


「通りでいつも厚手のマフラーを身に付けていたわけだ」


 前にクローレと一緒に風呂に入った時も確かマフラーをしていた。

 少々疑問には思ったが、あの時は色々と別の事で頭がいっぱいだったのでそこまで不信感を募らせたりはしなかった。

 

「レギルス、これは早く原因を探る必要がありそうだ。この女に秘められた魔力は尋常じゃない、ある意味人間爆弾だ」

「そんなにか?」

「嘘を言っているように見えるのか?」


 いや……確かにボルの言っていることは本当のようだった。

 ボルが本気の時は目の色が赤色から青色に少しだけ変わる。最近はあまり変化がなく嘘をついているのか本当のことを言っているのか分からないことがあったが今は鮮明に色の変化が伺えた。

 

「本当……なんだな?」

「ああ……」

 

 ボルがここまで深刻そうな表情を浮かべるのは初めての事だ。

 やはり言っていることは嘘ではないのだろう。


「レギルス。少しの間この女のことを頼む」

「ああ……それは構わないがどうしてだ?」

「やる事がある。このことを知った以上、あの女にも何かしらのヒントが眠っている可能性がある。我はそれを探りに行く」


 あの女……メロディアのことか。


 確かにメロディアのメルツにも何かしらのヒントが眠っているかもしれない。俺だってそれを聞きだせるもんならそうしたい。


 だが刻印の話題が二人にとってはタブーである可能性もある。それに現状では彼女たちが本当は何者であるかすらも把握できていない。

 情報がそれなりに揃うまでは下手な行動は慎んだ方が無難だ。


 だがボルは一度決めたらすぐに行動に移す男。止められないことは分かっている。

 

 だから……


「ボル、お前分かっているよな?」


 圧をかけた視線でボルを見つめる。

 だがボルは俺と目を合わせることなく、ただ一言こういうだけだった。


「……ああ、大丈夫だ」


 ボルはその一言だけを放ち、部屋から去っていく。

 

(大丈夫なのか……?)


 俺はただその後ろ姿を見て、心配を募らせるばかりだった。

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