〜I〜 マサキが言ったんだ4
マサキが、お前らはワーストだって言ったんだ。
僕は詳しくは覚えていないけれど、言ったんだ。
リタイアした人数が過去最多らしい。
だって、仕方ないじゃん、暑かったんだもん。6月なのに真夏日だったんだよ。脱水症状を起こしちゃうよ。
朝から夕方まで、皆で歩いたんだ。通気性の悪い長袖長ズボンにブーツを履いて、腕捲りをしていたけれど、荷物もあるし、飲み水は2リットルだけだった。
途中で人数が減っていくんだ。疲れでなかなか気がつかないけれど、いつの間にか、前を歩く人が変わっているんだ。
ふと思うんだ。あいつ、逝っちゃった、って。もちろん声には出さない。
歩ききって、鏡を見たときに初めて自覚したよ。僕の体も脱水症状が起きているって。驚いてもいないのに、目が皿になっていたよ。1分ほどでジュースを3リットルも飲んだのは、あのときだけだな。
そしてもう1つ気づいたんだけれど、僕はけっこう負けず嫌いなんだ。
脱落者という烙印は無いのだけれども、僕の中には存在していて、忌々しさと極上の魅惑に満ちていた。それを撥ね退けるだけの意地もあるみたいだ。
だから、マサキが脱落者の数で怒っていると分かったときは、ありがたいお説教はそっちのけで、ゴールできたことが嬉しくて、内心は少し浮かれていたんだ。
でも、脱水症状を起こしたことは事実だし、他にも反省点はあった。修行僧になったような、変な気分だよ。