~第一章~ 王子到来。人助けは優しく行うこと。
※脳ミソをかる~くしてお読みください。
サディスティアの双子の赤子が産声を上げてから十七年と数カ月、近々ある催しがもうけられようとしていた。王女ユリシアの即位式だ。今年十八となる彼女は、同盟国、カザヲォルトの第三王子を夫に迎えたその時、女王の第一歩を踏み出すのだ。
お祭り騒ぎの街中と反対に気を張っているのが、今回王子を迎え出る兵たちだ。彼らは祖国に恥じぬ正装で武器を携え、王子の到着を今か今かと浜辺で待っている。いかに無礼なく王女の元へ送り届けるのかが彼らの使命であった。王子を乗せた肝心の船は約半月の船旅を終え今日到着する予定であるのだが、未だに肉眼で捉えられない船を探しては焦り、不安な表情でしきりに頭上を気にしている。そう、今日は彼らの指揮官も海岸に来ていた。しかし浜辺ではなく、海に突き出た崖の上で待機しているらしい。これは失敗は許されないと彼らは再び気合いを入れ直した。
一方崖の上には、黒い布地に身を包む二人がフード越しで会話していた。
「おっかしーですねー。もうそろそろ見えて来てもいいと思うんですが」
声はまだ若い女のものだった。少女らしき人物は右手で日陰を作り遠くを睨んでぼやいた。
「確実に今日と決まった訳じゃねぇだろ。俺まで引きずってきやがって」
文句を言う声は変声期を終えた男のもの。こちらも声音からして若そうである。
「いや~、下に部下を待機させてはいるんですがねぇ。やっぱり心配じゃないですか。部下が何者かに襲われて王子が誘拐でもされたら大変じゃないですかー」
「もっと部下を信じてやれよ」
「一応いつお越しになってもいいように一月前から待機させているんですけどねー」
「もっと部下に優しくしてやれ!? って、おまっ、それって手紙を向こうに送った時じゃねーか! どんだけ気が早ぇんだよ!」
「ほら、もしも何かあって早く到着した時の場合を考えてですねー」
「どんなだよ!?」
「嵐に吹かれて漂流して流れついたり」
「死んでるわ!」
「身代わりを探す時間も考えて」
「死体が前提かよ!」
「と、色々考えてきたんですけど、もしかして既に沈没してる可能性も捨てがたいですね。わたし、ちょっと船を出して沖まで見てきますから、隊長は今の内に身代わりに人間探しててください。向こうに送ってる間者のいつかの報告によると、王子の外見は金髪に碧眼の好青年みたいですよー」
「誰が探すか! だからまずその前提で話すのをやめろ! クソッ」
吐き捨てるように悪態をついた男は、おもむろに懐から望遠鏡を取り出した。
「……あ? なんだ。もうそこまで来てんじゃねーか」
「なんですか! いつの間にそんな便利道具を隠してたんですか!」
「隠してねーしテメェも常備しとけよ」
「わたしはお金と武器しか持ち歩かない主義なんです」
「ナニコイツ怖い。それより、アイツら二隻で来るって言ってたか?」
「そんなのいちいち返信なんか貰ったりしてませんよ。時間の無駄です。しかし二隻って軍隊でも乗ってるんですかね? 一応身分もありますし、親衛隊ぐらいは連れて来てもいいとは書きましたが」
「お前が書いたのかよ!?」
「ユリシアさまのお手をわずらわせるなんて、愚の骨頂です」
「いやじゃなくて、またあのハゲに睨まれんぞ」
「なんでヨハネ如きに許可を貰わなきゃいけないんですか」
「あれでも一応大臣だからな?」
「ほんっと、あの豚野郎邪魔ですよねー」
「やべぇ、コイツの後ろにクーデターが見える」
「それより、ちょっとわたしにも見せてくださいよ。隊長ばっかズルいですよ」
「ズルいってなんだ。ぶってんじゃねーぞ気色ワリィ」
「やだ、可愛いからって惚れちゃ駄目ですよー」
「死ね。崖から落ちて死ね」
「おー、あれが王子が乗った船なんですねー。ていうか隊長、アレは二隻じゃなくて一方に襲われてるんですよー?」
「はあ?」
「もー。どう見ても片方海賊船じゃないですか。あれも数に数えたらカザヲォルトに訴えられますよ。まったく、もし軍隊の乗った船なら海の藻屑にしなきゃって心配したじゃないですか」
「お前が訴えられろ」
少女は男の文句もどこ吹く風の様子でひたすら望遠鏡を覗いている。
「んー……どうやらうちの海賊じゃなさそうですね。ひとまず安心しました」
「お前海賊まで飼ってんのかよ……」
「海は物騒ですからね。治安で雇ってるんですよ」
「物騒なのはテメェだ」
「しかしアレ、誰の回し者ですかねぇ?」
「あ? ハゲじゃねぇの?」
「そうでしょうか? わたしを本気で怒らせたら命がないくらい知ってると思うんですよ」
「ヤな知識だなぁ」
「まぁ誰の差し金かは今は置いときましょう。とりあえず救援を出しますか。いつまでも放っておく訳にもいきませんしね」
「当たり前のことがお前の口から出るともの凄く慈愛に満ちた言葉に聞こえる」
「じゃあさっそく船の手配を……」
「どうした」
「……落ちた」
「は?」
「隊長、ちょっとこれ預かっててください」
「って、オイ!」
――ザブンッ
マントを脱ぎすてて崖から飛び降りた少女に男は焦った。急いで下を見下ろした時には、既に水しぶきをあげた後で水泡だけが浮いていた。
「馬鹿ユーリが! 落ちろとは言ったが本気で落ちる奴があるか!」
同じくマントを脱ぎすて続いて飛び降りようとしたところで止まる。沖に向かって泳いでいる彼女の姿が見えたからだ。
(まぁ、あそこまで泳げるならとりあえず怪我は無さそうだな)
出逢った頃から無茶ばかりする奴だった。その都度心配する自分も随分と甘くなったものだ。
とりあえず代わりに船を手配した後、再び望遠鏡で沖の様子を窺ってみた。すると船体から離れてどんどんこちらに戻ってくるユーリの姿があった。しかしよく見ると何かを掴んでいる。
(なんだアレ? 金髪の……男?)
まさかとランは震えた。そして叫ぶ。
「襟を掴むなああああああ!!」
ユーリに首根っこを掴まれている王子は、今にも窒息死しそうな顔色であった。
丸っと全部書き直しました。やっぱ私はこうでなきゃな。友達は納得のテンポ(笑)
会話も多いけどギャグも多い。というかギャグのみの回。二人の会話シーンは第三者がいたらもっと突っ込まれていた筈。
誤字脱字やルビのおかしな場所があったら教えて下さい。たくさんあると思うんです←
次回は王子回。を書けるといいなぁ←