~序章~
序章のサブタイトルが思いつかないな。早まった王? 駄目だ笑う(笑)また思いついたら書き加えます。
むかしむかしあるところに、とても仲のよい夫婦がおりました。
サディスティア王国、リーベル城内。
「リア! 私達の宝物の様子はどうだい!?」
「あなた!」
「リーベル王! 大声は出さないで頂けますか! お腹の子に障ります!」
間髪入れず注意した王妃付きの侍女だが、彼女も声も中々にでかい。だがこの幸せに満ちた空間でそれを指摘する者は誰もいなかった。だがそれも仕方ない。公爵家の娘、エミリアが王に嫁いで三年、ようやく御子に恵まれたのだ。出会いこそ政略結婚だった彼らだが、出会ったその日に互いに一目惚れ、今では国一のおしどり夫婦として国民からも愛されていた。夫婦円満、しかし王族に生まれたからには跡取りが必要だった。子どもを授からない年月、焦ったエミリアは身を裂くような思いで愛する夫に側室を勧めたが、夫は頑なにその意見を呑まず、いざとなれば養子を迎えると言っては大臣たちを困らせたものだ。だが、その憂いももうなくなった。王妃の懐妊はまたたく間に城、いや国中に春をもたらした。だが現実は冬真っただ中である。まぁこの際どうでもいい。おめでとうございます王妃さま! 国王さま! 彼らの子を待ち望んでいたのは国民も同じ。市場では安産祈願のお守りが何度も売り切れ、大都市クランクスでは懐妊を祝うパレードも行われた。
「もうすぐ会えるんだね。しかし、まさか双子だったとはな。神様も乙な事をして下さるじゃないか」
デレデレと妻の大きくなった腹に耳をあてる王。国民には見せられない顔である。勝手に巻き込まれた神もとんだ災難だ。
「おっ、蹴ったぞ!」
「ふふ、もう元気いっぱいでわたくしも大変ですわ。きっと男の子でしょうね」
「解らんぞ? 元気な女子かもしれん」
「男の子と男の子かしら?」
「いや意表をついて女子と女子だったりしてな」
「娘がいいからってそんな。ふふっ、ならわたくしは男の子と女の子を望みますわ」
イチャとイチャと周りが見えてない二人に、侍女がわざとらしく咳き込んだ。
「仲が良いのは結構ですが、御子のお名前は考えていらっしゃるのですか?」
その質問に王妃がパアっと明るい表情で答える。
「ええ! 男の子の名前はわたくしが。女の子の名前はアル、アルベルトが考えてきてくれたの」
エミリアはうっかり出た夫の愛称から、しっかりと本名を言い直した。そう、一見して親ばか丸出しのこの王こそがアルベルト=リーベル、大国サディスティアのトップに立つ男である。
「私はもう考えてきたぞ?」
「あら奇遇ですわ。わたくしも決めていたところです」
「おおそうか! なら一斉に言うか!」
「いや別々でいいのでは? それよりも大声を抑えて欲しいのですが……」
「素晴らしいわ。なら一緒に」
「いや聞けよ」
「「ユリシゥスァ」」
「ごめんなさい!? 発音が出来ない名前は控えて貰えますか!?」
侍女の悲鳴は城中に響き渡った。たぶん誰よりも声を張っているのは彼女に違いないが、この国で一番偉いバカップルにツッコミを入れることを忘れない侍女に、他の召使いたちは心の中で拍手を送っていた。
「これは凄いぞリア! 頭の発音は同じだった! もう一息で重なるんじゃないか!」
「まぁ、わたくしたち、ほんとうに気が合いますね」
「男女に同じ名前つけてどうするんです!! 馬鹿ですかあんたら!」
侍女が口から火を噴いたように見えた。二言目の方は完全に本音が漏れだしている。この天然主人の侍女に就いてから彼女の精神は強くたくましく育っていった。それは王の側近にも言えることだが、彼は今、王の代わりに執務をこなしている。彼は戻ってきた王がサインだけで済むようにと、山程ある書類を仕分けしていた。そんな同じ苦労を背負う者同士通じ合うところがあったのか、王妃付きの侍女と王の側近の結婚式は盛り上がったものだ。そう、彼女は既婚者であった。更に旦那はこの瞬間も王にこき使われている。今すぐ夫に会いたい。癒されたい。侍女は切に願った。
「お話が進まないようなので勝手ながら私が仕切らせて頂きます。先に男の子のお名前をどうぞ。エミリア様」
「ほんとう、ティアはしっかりしてるわ。さすがわたくしの自慢の侍女だわ」
「勿体ないお言葉です。どうぞ」
「えっとね~。ふふふっ」
「はいリーベル王、どうぞ」
「え、リアは……」
「次に聞きます」
「お前はクリスより容赦ないな。よし、リアも皆もよく聞け。女子の場合は『ユリシア』だ」
もちろん姓は王族のものとなる。
「あら、とても似てるわ。わたくしが考えた男の子のお名前は『ユリウス』ですわ」
「…………えー、お二方が一生懸命お考えになられたお名前に異論を唱えたくありませんでしたが、双子ですよ? 似過ぎてません?」
「名前も似てるなんて、双子の子にぴったりじゃないか。さすが私のリア。素敵な名だ」
「あなたこそ素晴らしいわ」
「え? いいんですか? ダウトですか? 呼び間違える度にお父様嫌いなんて言われても私は助けませんよ?」
「ちょっと待て、なぜ私だけが嫌われる前提だ。安心しろ。我が子を呼び間違える親などおらん。私もそうだ」
後に彼が呼び間違えた回数は三桁に上ることを、今はまだ誰も知らない。ちなみに「お父様嫌い」ではなく、正しくは「お父様いい加減にしろ」と言われることとなる。それはさて置き、まだ課題は残っている。なんと言っても双子。同じ性別で生まれてくることも考えられるからだ。
「しかし、王女と王女、王子と王子、姉妹や兄弟でお生まれになられた場合はどうなさるのです?」
「その時はその時だ。また二人目の名前を考えればいい」
「ですが、わたくしは男の子が欲しいですわ。あなたの跡を継ぐ王子になる子が」
「そんなに気負うことはないぞ。男児でなくても良い。元気な子を産んでくれれば。跡目の問題は後々ゆっくり考えればいい。もちろん、君と一緒にだ」
「あ、あなた……」
「あの、何度も水を指して申し訳ないですが、そう深刻にならずとも、まだエミリア様もお若いですし、この先、再び御子を授かる機会が訪れるのでは? まぁ無責任な発言とは重々自覚しておりま、」
「はっ! そうだな! また子どもが出来るかもしれないんだ。今問題にする話ではなかったな。君の侍女は天才だな!」
「……す」
「そうですの! ティアはとても利口で。そうですわね、やだっ、わたくしったら悲観してばかりで恥ずかしいわ」
「私のことを想ってのことだろう? 恥じることはない」
「あなた」
「リア」
「はいすみません! 用も済んだのならそろそろ王にはお戻り頂けますか? うちの亭主が心配なので」
「そうだ。お前達は子を作らないのか? 私達の子と良き遊び相手になるだろうに」
「作ろうとして出来るものではありませんから。神様から授かるのを待つのみです。それと夫に残業させない環境が必要になりますから」
「大変だな」
「まさかの他人事」
ティアは遠く離れた執務室で、今も業務を行っているだろう夫を想い涙を呑んだ。頑張ってあなた。私も頑張っているわ。とりあえず直ちに王をそっちに返すからね。
その後、名残惜しいと王妃から離れない王を力ずくで引き剥がし部屋から追い出した彼女は、城の者たちからこの国の裏のトップとして、恐れられながらも慕われていた。
そして約一月が経った頃、元気な女の子が二人、この世に誕生した。しかしおめでたい反面悲しいことも。難産だった為か、エミリアは次の子を望めない身体になってしまった。それを医者から告げられた彼女は跡目を作れない悲しみと、王の寵愛が離れていくのを恐れ、出産後も間もなく病に臥せてしまった。心の病である。アルベルトが何度も彼女を安心させる言葉を口にしたが聞こえてないのか虚ろな瞳で空を見つめるばかり。そして彼は決心した。
「まさか王妃様が倒れるとは……。王、我が主、双子の女子はどのように市民に発表なさりますか? 国民がもう外で待っています。もう一人の名前も急ぎ考えねばなりませんよ」
冷静なクリスの言葉に、アルベルトは必要ないと呟いた。そしてこの先、ユーリの運命を狂わせる言葉を口にする。
「生まれた子は男女だったこととする。クリス、すぐに城の者達に箝口令を敷け。名は、長女はユリウス、次女はユリシア。そして、ユリウスは私の息子とし、この国の王子になって貰う」
実はむかーし書いたオリジナルのリメイク版。未完結で止まってしまっていたのを蘇らせました。色々変えた部分もありますが、ラストだけは今も昔も変わってません。完結に向けて頑張ります。素人の拙い文章ですが、お付き合いよろしくお願いします。