星を冠する名 アトル
名前が浮かんだからすぐに書き上げた話。
しばらくしてやっと落ち着いたらしいブラフマーは、また上から目線で行ってきた。
「た、たしかに、今回は私が悪かった。謝ろう。私は自分の過ちを他人のせいにするなんてことはしないのだ。ほら、あたし神だから!ね?神だからさ!」
・・・最高にうざい。
「3分の1。それが君の中にある。そのおかげで私は一部魔法の行使ができないし、君の力の調整は完全じゃない。正直に言おう今の私にできるのはその力の暴走を防ぐだけ。」
このテンションの変わりよう。
「なぁ、そんな簡単に渡してよかったのか・・・?」
「あぁ、正直有り余っていた力だからな。なにより金髪の言葉もあってな、おまえになら安心だと。」
「あの金髪のチャンネーは俺のことなんて言ってたんだ。第一あの少しだけの時間で俺の何がわかったていうんだ・・・」
ブラフマーから視線を少し外し、離れたところで相変わらずニコニコしながらこちらを見ている金髪の美女に視線を向ける。
「あの金髪はな、私の娘だ。」
いきなりのカミングアウト。
この神様は俺を混乱させるのが好きらしい。
「む、娘・・・?だってあんたどう見たって15、6歳くらいにしか見えないし・・・ほら!あの金髪なんて20歳かそこらにしか見えないぞ!それがどうしたらあんたの娘になるんだ!」
「私はおまえと会ったときなんて言ったか覚えているか?」
「いろいろ起こりすぎて忘れちまいそうだが覚えてる。この世界の創造神・・・だったよな?未だに信じられないんだが」
魔法の行使の時の姿を覚えているから神だということは納得している。だが創造神、それについてはいまいち納得できない。
「あの金髪も私の創造物だ。だから私の娘。君の質問に答えよう。あの金髪は今言った通り私が作った。そのときにな、君にやったように能力の押しつけをしたんだ。」
ついには、開き直って押しつけと言いやがった。
「金髪に渡した能力は“精神干渉”他人の意識記憶に無差別的に干渉する能力だ。だからあの子はこの森から出ることはない。出させない。ひとたび町にでも出てしまえば人格が崩壊する。」
「つまりは意識を失っていた俺に干渉したってことか。あぁ、そうかじゃああのときの記憶が復活したのもチャンネーのおかげってことか・・・ってずっと気になっていたんだがよ、あのチャンネー名前ってないのか?」
いささか聞くのが遅いとは思ったが仕方がないだろう。混乱していたのだから。
「あの子に名前はない。私もほかの存在に名前をつけたことがなくてな、いまいちそんな名前をつけるべきか悩んでいたんだ。あぁ、そうだ!透!あの子の名前考えてくれない!?」
ずっとおまえと呼ばれていたからか、唐突な名前呼びにどきっとする。
にしても名前・・・名前ねぇ・・・
「名前か・・・、そうだな・・・」
きれいな金髪その美貌。
正直言ってしまえばすごくきれいだ。
ヴィーナス・・・いや流石にそれはやり過ぎだな・・・
たしかヴィーナスは金星・・・
金星、金星・・・
・・・
そういえば金星の神様にケツァルコアトルというのがいた気がする。
「アトル・・・アトルっていうのはどうだ?」
「なんでその名前にしたか聞いてもいいかい?」
「あぁ、意味というかその名前にしたのはな、ほら、なんていうかすっごくきれいなかみしてるし、そのすっごくきれいだし最初に浮かんだのはヴィーナスって名前なんだ。」
「ヴィーナス・・・ねぇ、その名前もいいとは思うんだけど?」
「確かにいい名前だとは思うんだがいささかやりすぎかなって思ったんだ、で理由の続きヴィーナスっていうのは金星を冠する名前なんだよ、でなだったら金星を冠するって言うところだけを取り出して考えたんだ」
「なんだかこう、連想ゲームみたいな決め方をしたんだね、おまえは」
連想ゲームという単語を知っていたのが驚きだった。
「続き話していいか?さっきも言ったみたいに金星に関係した名前がいいなって思ったんだ。それで俺の知ってる中で金星に関係したのはケツァルコアトルスって名前があったんだ。」
「おぉぉ!なんだその名前は!すごくいい響きをしてるじゃないか!少し長いとは思うが。」
ブラフマーの目がきらきらと輝いている。
「そうだ、それだ。少し長いんだよ、だから一部を切り取ってみた。ただそれだけだ。それだけなんだがあいつは気に入ってくれるかな?」
ブラフマーは息を深く吸って吐き出すとこういった。
「あいつは気に入ると思うぞ、その証拠にほら」
背中にあったかくてふわふわした感触が二つ。
・・・これはあれだ、よく見たことがある。
多分背中に当たっている。
そんな金髪・・・いや、アトルのほうを振り返ってみた。
「ふふっ、ありがとう。名前つけてくれて・・・本当に。アトルかぁ・・・いい名前だね。それに金星の名を冠する者・・・ね。」
その表情はニコニコとした作られた顔じゃなくて一人の女性の本当に喜んでいる笑顔だった。
そんなアトルの表情をみていたらすっかり背中のもののことを忘れていた。
「よかったな、きんぱ、いやアトル」
ブラフマーは言う。
「本当に、本当にありがとう。こんなにうれしいのは初めてだよ。」
俺の知っているアトルの口調ではなかった。
こちらが本来の口調なのだろう。
きっと警戒心を和らげるためのあの口調だったのだ。
「そんなに気に入ってくれて名付けた俺としてもうれしいよ。」
俺はそういった。
アトルは、切り株のところへ走って行ってその上に立つと右手を空に掲げていった。
「私はアトル!金星の名を冠する者!」
そういうと彼女は、先ほどの表情よりもいい笑顔で振り返った。
書き溜め分がまた終わったからまたちょっと空くよ