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二巡目1

一巡目の双六が終わった。

少しだけ不安だったが、虚も目を覚ました。

ふっと胸をなでおろした。

にしても、俺の3歳の頃か。

何があったっけな、あまりうまく覚えていないな。

誘拐・・・?くらいか。

そんなに詳しく覚えてはいないが、すさまじく抱かれ心地の悪い男が俺を抱いていた気がする。


「さて、どんどん行きまぁしょう。」


あの頃のことを思い出そうとする思考を邪魔するようにルメスは、またダイスを手渡したきた。

実はちょっとこのゲームは楽しい。

何があったかは覚えていないが、そんな感覚があった。


「じゃあ、虚君。第二順目と行こうか。」


虚は、何も言わず首をこくんと一回縦に振った。

それを確認し、虚より先にダイスを転がした。

続いて虚もダイスを転がした。


コロコロコロ・・・

賭 6   虚 1


「おやおやぁ、虚様は1ですかぁ。幸先不安ですね、ですが取り合えず始めましょう。」


そして、また目の前が暗転した。


---------虚の人生------------

12歳。

ちょうど中学生に上がるころ。

借金は年々膨らみ続け。

そんな中父親がどこからともなく大金を持ってきたおかげで借金は消し飛んだ。

父親は、毒を抜かれたかのように高収入の仕事に励み続けた。

どんな仕事かは分からない、


ふっと目の前に光が飛び込んできた。

あの体験から6年で虚の父親が借金を返済し普通の生活を歩めているようだった。

って、おい・・・。


「一巡目のことを思い・・・だした・・・?」


借金取りの電話に出て、利息で借金が増えたという体験を思い出せた。

じゃあこっちの記憶はこっち限定ってことなのか?

まだ二回目だから断定はできないが、三度目、四度目と同じことになるならこの考えは正しいと断定できる。

と、再び体験する“今”の虚の人生を見渡す。

おそらく学校の宿題であろうプリントが机の上に広げられていた。

部屋の中は、シングルサイズのベッドに勉強机。

これだけだった。

質素な部屋に感じてしまう。

だけど俺の生活水準と違いすぎるからこれが普通なのかもしれない。

それとも虚はこういう方が落ち着く性格・・・?

すると、コンコンコンと部屋の扉をたたく音。


「虚、入っていいか?」


どこかで聞き覚えがある声だった。

これが、虚父か?

そう思って


「あぁ、いいぜ・・・あっ」


いつもの口調で返事をしてしまった。

しまった。そう思っている間に扉を開けて入ってきた。


「母さんが見つかったって、警察から連絡が入ったよ。」


母さんが見つかったって警察から連絡?

借金があった時に出て行ったのか?

てっきり、母親は共働きをしていると思っていた。


「えっと、その“なんで母さんって出て行ったんだっけ?”」


思ったことをそのまま聞いた。

これがどんな結果を招こうが、自分自身それが知りたかった。

借金を負っている間に出て行ったのなら“あぁ、そういうことか”で納得できる。

だけど、違う気がした。

いつもは不幸な自分だが、他人事に関しては嫌になるほどに勘があたってしまう。

嫌な特技だ。

どうせなら自分のことに関する勘だって当たっていればよかったのになんてことを今まで何度感じたことか。


「わからない。借金を返済した途端に消えた。」


本当にわけがわからない。

なぜ、なぜわざわざ借金を返済したときに消えたのか。


「お前にはつらいかもしれないが、お母さんは・・・死んでたらしい。」


え・・・?

死んだ?

まだ物心付く前だったならどれだけ幸せなことだったか。

この年で、母親をなくすのは・・・


「それでだ、お母さんが死んで保険金が・・・。」


「おい!何が保険金だよ!大切な人が一人死んだんだぞ!そんな時に!」


思わず、怒鳴ってしまった。

だが、俺は悪くない。

母親が死んだという話をした後すぐさま保険金の話しをするこいつが悪い。


「虚、ちゃんと聞いてくれ。」


そういって感情に任せて怒鳴り散らした俺をやさしく抱いた。

妙な既視感があった。

どこかでこの人に会ってる気がする

そう感じた。


「多分、いや絶対お母さんが死んだのは俺のせいだ、だからお母さんの保険金と残したものは全部お前のものだ。大切に・・・してやってくれ。」


生ぬるい水のようなものが虚の父の顔から俺の首元へ流れてきた。

泣いていた。

声に出して泣いていたわけじゃないが、きっと大声で泣きたかったであろう。

必死に声を押し殺してそれでも涙は抑えられずに。


「いいか、虚。俺は・・・お前が幸せに暮らすために尽くすよ・・・。」


最後に力一杯抱きしめて、それ以上何も言わず部屋を出ていた。

ゆっくりと扉を閉め、直ぐに大きな大きな声で泣いていた。

なぜか俺も泣いていた。

大声を上げて泣いていた。

自分の声で、虚の父親の声がかき消されていた。

そして、泣き疲れた俺は眠ってしまった。



よく覚えていない。

だけどひどく疲れていた。

普段だと体験しない疲れ方。

きっとこれは・・・。


「泣いたのか・・・。」


「どうです?12の頃の虚様は?といっても覚えていないと思いますけど。」


無駄にチャラいあのしゃべり方じゃなかった。

まるで別人のような雰囲気があった。



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