二人の転移者~虚&賭~ 1
魔王国家第4都市。
魔王国家内の都市の中でもっとも人通りが多く、賑わっている都市。
この世界には珍しく娯楽のそろった町である。
かなりの頻度で店舗ごと移動してしまう仕立て屋に、賭博の神が経営しているカジノ。
他の都市と違い、少々おかしな店なども多数存在する。
そして今、カジノの中には二人の転移者がいた。
一方は、弐口 虚
もう一方は、漆原 賭
「な、なんとっ!虚様のロイヤルストレートフラッシュです!ベットチップ数250枚、25,000チップ獲得です・・・。」
会場がわっと沸いた。
対戦していた他の客の顔からは血の気が引いていた。
「そ、そんなばかな!ロイヤルストレートフラッシュだとっ!?それもチェンジ無しで!」
「ふひっ、やった・・・またできた。まだ・・・いける・・・よね?」
そう言って、虚はゲームを続行した。
「えっと、そのオールベットで。」
ありえない!
そんな言葉が周りの観覧客の中から聞こえた。
「あの・・・虚様、本当にオールベットするのでしょうか?」
「ひっ、ダメ・・・だったんですか?」
こんなに勝たれていては、カジノの経営が危うくなってしまう。
「いや、ダメではないですが・・・」
確率で考えるならば0.0001%、連続して勝つとは思えないが、すでにこの男はやってのけた。
それも、3回連続。
一度目は、フラッシュ、二度目は、ストレート、そして三度目はさっきのロイヤルストレートフラッシュ。
普通ならありえない。
彼には、何かある。
観客の大半はそう思ってはいたが、それがいったい何なのかが分かっていなかった。
唯一、客にまぎれて観覧をしていたオーナー以外は。
「KとAで、ブラックジャックだ。」
もうすでに何度目だろうか、彼の手元には、10、J、Q、K、A以外のカードは回ってきていなかった。
「賭様、ブラックジャックです!掛け金が500,000チップですので、ナチュラルBJの倍率2.5倍、1,250,000チップの獲得です。」
もちろんイカサマなどはしていない。
究極の強運の持ち主なのである。
「ほんと、こっちに来てからおかしいぐらいに運が付きに付きまくってる。」
彼は、小さいときギャンブラーだった両親からもらったとあるペンダントを肌身離さず付けている。
777とスリーセブンがデザインされたペンダント。
「じゃあ、もうワンゲームしようか。次はっと・・・どの卓に付こうか・・・」
このカジノは、トランプを使ったギャンブルが主流である。
今やっていたのは、ブラックジャック。
配られた手札で、21に近づけていくだけのゲーム。
さすがに、同じ勝ち方で何度も勝ってしまったため、周りからイカサマだと騒がれ始めてしまった。
同じ卓に付いていても、暇な上、ギャラリーがうるさい。
「っと、なんか人だかりができてるな。」
すごい!まただ!
連続で強い手札で勝っているぞ!
この卓はたしか・・・
ポーカーの卓か、それに連続で強い役で勝っているという。
「面白そうじゃん。」
目の前の人混みをかき分け、その卓の空いてる席を見つけた。
「次のゲーム、俺も良いかい?」
席に座り、ディーラーに声を掛ける。
「あっと、その・・・よろしくお願いします。」
この世界では、初めて見た、マスクで顔を隠し、大きめの帽子を深くかぶってなるべく顔が見えないようにしている。
それに・・・
「もしかして、君も日本人・・・?」
そう声を掛けた途端に、彼の動きが固まった。
そして、ゆっくりとこちらを見てマスクを取ってこう言った。
「えっ・・・、もしかして貴方も・・・?」
「あぁ、そうだよ。こっちから話を振ったけどその話は後にしてもいいかい?今は、とにかく君とギャンブルがしてみたい。」
彼が日本人だろうとどうだろうと、今はとにかく自分の運を試してみたい。
どこまで行けるのか、気になってしょうが無い。
ペンダントに軽く振れ、今は亡き両親を思い出す。
「では、ベットタイムです。」
ディーラーがそう告げた。
「「取りあえず、オールベットで。」」
俺と彼、二人しての全賭け。
確実に頭がおかしい、客観的に見ればそう考えるのが当たり前だ。
「はっ、良い根性してんじゃないか!」
「あっと、その・・・負けませんから」
今周りを見れば、どの卓にも客はいない。
そう、すべての卓の客がこの卓を一目見ようと集まっている。
「では、手札をお配りします。」




