赤い目。
「じゃあ、もう手加減はいらないな?」
「え、ちょっとまっ」
再び吹っ飛ばされた。
少しは目が慣れたのか、今俺は蹴り飛ばされたのだと気がついた。
だが、それに気がついたところで何にもならない。
さっきと同じ要領で壁をイメージしようとした。
確かに壁が作れた、だがそれは多々一瞬だけだった。
壁には無数の穴があけられて、俺が衝突する勢いに負けて破壊された。
「いつまでそんなちゃっちいものに頼ってるんだ?少しは歯向かえよ、じゃないと何時までたっても帰られないぞ。」
そんな事言われたって、
この状況からどうやって切り返せばいい?
そうだ。
こっちから近寄れないのなら相手を寄せればいい。
長くしなる鞭を何とかイメージした。
鞭なんて一回も扱ったことはなかったがイメージで何とかなるだろうと勢いだけで作った。
どう見たって距離的には届きそうではないが、手首のスナップを利かせてあいつも足元を狙った。
本当にイメージしだいでどうとでもなったらしく、足元をすくわれて勢いよく自分へ向かって飛んできた。
この隙になんとか足を踏ん張れそうだ。
グッと足に力を入れて踏みとどまった。
相変わらず自分のところまでは距離があり、まだ自分に向かってきている。
一度強く鞭の引いてさらに勢いを増したあいつの体にタイミングを合わせて腹に蹴りを入れる。
さすがにあいつほどの力はなく、飛ばし返すなんて事はできなかった。
「ふふっ、よく考えついたな。やっとまともな攻撃をしたじゃないか、まだまだ軽いがなっ!
近距離からこぶしが飛んでくる。
さすがに避けれそうにはなかった。
両腕を体の前にクロスして何とか衝撃に供える事はで来た。
が、よろめいてしまい、追撃を受けてしまう。
まだ足に力を入れてるため、今度は吹っ飛ばされるなんて事はなかった。
攻撃を受けているだけじゃダメだ。
苦し紛れだが拳を顔面めがけてたたき込む。
わざと避けなかったのか、パンチは顔面の中心をとらえた。
「おいおいおい、一応アタイだって女の姿をしてるんだぞ?それも顔面に・・・。さすが、女を襲っただけはあるな。」
皮肉交じりに言われてついカッとしてしまった。
何も考えられず、蹴りを横っ腹に入れた。
うまく蹴りが入ったのか、痛そうにしていた。
「待て、何だよその赤い目・・・透!戻ってこい!」
・・・。
蹴る、殴る、刀で切りつける、銃で撃ち抜く。
まるで、自分ではない何かが体を動かしているように、頭は全く働かないが体だけが黙々と動いていた。
「うるせぇよ、黙れよ。捨てられた能力めが。」
よく分からないが、何かひどいことを口走った気がした。
そんな気がしたが、口をつぐむことができない。
頭がボーッとしている。
視界の先では、まるでさっきまでの自分を見ているようにさんざんな姿になったあいつがいた。
「あっ・・・、やばいっ!出てけッ!透!ひとまず帰すぞ!」
その一言が聞こえた途端に、目が覚めた。
いかにも豪華そうな天井が見えた。
ゆっくりと体を起こした。
ひどく汗をかいていた。
息が荒くなっていた。
ブラフと同じ姿の女の子を自分の体が勝手に・・・。
「予想より早かったな。大丈夫かい?透君、精神世界はどうだった?」
ベットの横には、零橋 終時がいた。
「大丈夫じゃなさそうだな。やっぱり負担が大きかったのか?それとも・・・。」
ふーっ、ふーっ
息が荒くなる。
はぁーっ、はぁーっ
さっきまで見た光景を思い出して。
「落ち着け、落ち着くんだ透君。君は寝ていてくれ、その間少し君の中へ入るが良いか?」
「はぁーっ、はぁーっ、中って・・・さっきの所・・ですか?」
「そうだよ、何があったのか僕自身が見てくる。自分ならある程度向こうのことは心得ている。では、君が寝静まった頃に入りに来るよ。それじゃ、ひとまず休んでいてくれ。」
そういうと、ゆっくりと腰を上げ部屋の扉から外へ出て行った。
・・・。
さっきまでの光景。
あの周りは真っ暗な世界。
金色の目をしたブラフ。
俺が鳴実を襲ったことを口に出された途端に体のコントロールを失って押し返された。
またあんなことにしてしまうなら嫌だ。
自分の見知った人を自分の手で傷付けてしまったのが・・・
寝よう。
また夢であの世界のことを見てしまうかもしれないが、精神と体をしっかりと休めよう。
ベットの直ぐ脇に用意されていたタオルで体の汗をぬぐいそのまま布団を肩までかぶり、目をつぶった。




