魔王城跡国立図書館 4
目が覚めた。
本当にこっちに来てから何回気絶をしているんだ?
今の状況を把握しようと周りを見渡すが、暗くて何も見えない。
手は・・・おそらく手錠だろうか?
動かない。どうやら壁に留められている
足は特にこれと言った拘束はない。
あのときの背中の痛みなど体には一切無い。
おそらく傷跡も何もかも内容だ。
こんなことができる奴なんて、今のところ俺は知らない。
ひょっとしたらこの世界の魔法はこんなに効力が強いのか?
いや、そんなに強いんだったらおそらくこの世界はもうちょっと変わった形になっていると思う。
ともかくだ。ここからどう脱出するか・・・
手は動かないから何も行動ができない。
ん?まてよ、この手錠の一部を触れば?
スゥ・・・
予想通り手錠の一部だけが欠けた。
これはいける。
少しずつ少しずつ、音を立てないように確実に手錠を消滅させていく。
片方の手錠が完全に消えた。
これならもう片方も消せる。
ガチャッ
ドアが開いて、部屋の中に光が差し込む、どうやら自分の居るところは牢屋だったらしい。
なにせ、魔王城だ。牢屋があったって不思議じゃ無い。
「あら、手錠消えてるわね。予想通りと言えば予想通りなのだけれど目覚めるのがちょっと遅かったわね。」
そう言って部屋に入ってきたのは女性だった。
白衣を着て、マスクをしている。
「こんにちは、一応自己紹介しておくけれど私はピオス・アクレー。貴方の大怪我を治してあげたのは、私よ。」
そう云いながら、牢屋の扉を開いて自分の前まで来る。
「なぁ、ここはどこだ?俺の予想だと図書館の地下か?」
「まぁ、そうよね。それくらいは予想がつくわね。そうよ、付け足すなら貴方が気を失ってからそう時間はたってない。1時間くらいじゃないかしら。」
1時間・・・と言うと、絶対犬牙達も不思議がって探しに来ているはず。
あいつらは一体大丈夫なのか。
「それと、犬牙達はどこだ?」
「それよりも、フェルガーノ君が呼んでるから早く手錠を解くなら解いて?」
え?解いちゃって良いのか?
ならお言葉に甘えさせてもらおう。
もう片方の手錠に触れて手錠を消し去る。
「なんてわざわざ手錠外させたんだ?」
「だって鍵なんて持ってないもの。」
そういって、ピオスは懐から蛇が巻き付いたような杖を出してその杖で俺の手錠がかかってた所を突いた。
ガチャン!!
突いた途端に消え去っていたはずの手錠が俺の手についていた。
「こっちの方が遙かに楽だからね。」
なるほど・・・
これも一応能力の一つか・・・
応用次第ではもっとひどいこともできそうだ。
これで俺の怪我を治したのか。
おとなしくしたがっていた方が良いだろう。
にしても、モノを直す能力・・・か。
ピオスにつれられるままに歩き数分。
また見たことのある部屋の前につれて来させられた。
館長室。
たしか、魔王フェルガーノのいた部屋。
廊下の破壊痕は一切残っていない。
ピオスの能力だろう。
「じゃあ、うまく話し付けてね。私は帰るからさ。」
そうしてピオスは歩いて帰っていった。
そういえば、手錠は外されていない。
手錠のかかった両手を持ち上げて何とか扉を3回ノックする。
「透さんですか?フェルガーノさんはすごく怒ってますんで何とかしてくださいよ。」
「俺を大けがさせた奴の台詞か?」
「それに関してはわざわざピオスさんをお呼びしたんですからチャラですよ。」
そう扉の向こうと会話をしながら扉が開いた。
もちろん、扉を開けたのは三上。
ここは憎しみを込めて君は付けずに呼んでおこう。
「透ゥ、やっときたかァ。心配したぜェ。どうやら本当に無事なようだなァ。」
扉の先には5人の人がいた。
その人たちの組み合わせを見て俺はちょっと驚いてしまった。
なんで、ここにいるんだよ。
まさか追いかけてきたとか?
それだったらもう二人いるはず。
「透、いつまで突っ立っているつもりだ?早く入ってこれば良いのに。」
部屋の中にいたのは、フェルガーノ、三上、鳴実、犬牙、そしてブラフ。
「我が神よ、早く説明をしてください。いまにも怒りでこの者達を殺してしまいそうです。」
フェルガーノがそう言うと
「透さん、まさか本当にフェルガーノさんが信仰する主神様と知り合いでしたとは。」
「透、お前のその力は今後むやみに使うな。いろいろと面倒だ。」
確かに今回はちょっと調子に乗って能力を見せびらかした節がある。
三上は能力があると言っただけで、その能力については一切明かさなかった。
犬牙は名前だけ告げたけれども。
あまり能力について詳しいことは今後しゃべらない方が良いだろう。
「でだ、フェルガーノ。透の能力の件だな?」
「はい、そうでございます。詳細を教えてください。」
「お前に教える義務は無い・・・が教えておかないと透の身が危うそうだな。そうだな」
そう言ってブラフは俺が転生者だという事を隠して俺たちがアダマンタイトを探しに行っていると言うことまでを伝えた。
「そういうことでしたか。私めの早とちりでした。お詫びになるかは分かりませんがアダマンタイト鉱をこちらでご用意しましょう。」
そう言うとフェルガーノは今までの態度とは一変し、俺たち一行を三上の部屋よりも広くもっと豪勢な部屋に通した。
「ここでお待ちいただくようお願いします。」
三上は俺たちの対面の席に座っていた。
「透さん、フェルガーノさんに言われたからとはいえ、大変なことをしました。すみませんでした。」
そう言うと、わざわざ俺の横に来て土下座をした。
「こんな謝罪で許されるとは思いませんが、せめてこちらを」
差し出してきたのは一つの指輪。
緑色に輝く宝石のようなモノが埋め込まれている。
「三上さんと鳴実さんは持っていないでしょうから差し上げます。本来はとても効果なんですが、謝罪ですから。」
と言われても、とくに何の用途があるのか分からない。
ふと犬牙の手を見ると同じ緑色の指輪があった。
「なぁ、犬牙。この指輪って・・・?」
「あァ、それはよォ。地図だ。」
この指輪が地図?
分からない何をどう使えばこの指輪が地図になるんだ?
「まァ、言葉で言っても分かんねェよなァ。俺も最初は分かんなかったぜ。試しに指に付けて皆ァ。」
犬牙に言われるがままに俺と鳴実は指輪をはめる。
原理は分からないが、魔法でも付与されているのだろうかこの国の地図が頭に浮かんできた。
「その反応から見て正常なようですね。安心しました。」
三上はそっと胸をなで下ろした。
「その指輪はですね、体験されたとおり地図です。その指輪と言うより宝石の方に魔法がかかってましてその地図はリアルタイムで更新されます。」
理解が正しいかは分からないがカーナビのようなモノと考えて良いだろう。
「これで許していただけました?」
正直許せる訳が無いのだが、今俺の体に傷は無いしその上ここまでやってもらったとなると許さないのはどうかと思う。
だから一応許すことにした。
「あぁ、許す。一応な、だけどもう一つだけ条件だ。」
「はい、何ですか?」
条件と言っても俺が望むことはそんなに難しくない。
「今後もしお前が必要になったとき協力して欲しい。ただそれだけだ。」
「そうですか、分かりました。是非、それとおそらくフェルガーノさんは自分から協力を申し出てくると思いますよ。」
ガチャッ
フェルガーノさんが大量の鉱石をおそらく魔法で浮かせながら帰ってきた。
そして、それを俺の目の前に置き、フェルガーノさんは再び俺の目の前にやってきて
「先ほどはすまなかった。私の早とちりだった。このアダマンタイト鉱石はその詫びとして受け取ってくれ。」
深々と頭を下げながらの謝罪。
許すしか無くなるだろう。
「分かった。にしても、こんな大量の鉱石どうやって持ち帰るんだ?」
いや、でもよく考えれば犬牙いるしそこの心配はなさそうだ。
「君たち3人にはこれとは別に渡したいモノがある。」
そうして渡されたモノは、ネックレス。
しずくの形の飾りがついている以外には普通のネックレルにしか見えない。
「それは私に通じる事ができるアイテムだ。何かあれば私から協力をさせてもらいたい。是非それで呼んでくれ。」
「首に掛けちまったら狼化したときにはじけ飛んじまうからなァ。」
犬牙はネックレスを首には掛けずポケットのしまった。
俺と鳴実はネックレスを首に掛けた。
「では、目的地までお運びしましょう。どこまで行きましょうか?」
アダマンタイトを手に入れた今、メルバゴ鉱山に向かう意味は無くなった。
ならオールマイティアで良いのだろうか。
「オールマイティアまで頼むぞ、フェルガーノ。」
まっさきにブラフが答えてくれた。
帰りは、獣車に乗せてもらった。
揺れなどは全くなく、人を乗せることを訓練してあるようだった。
スピードはとても速くオールマイティアには2時間程度で着いた。
「では、我が神。またの機会があれば。」
それに返事をすること無く俺たちは獣車を降りた。
するとフェルガーノと三上は帰って行った。
やっとオールマイティアに帰ってこれた。
ガチャッ
「透ちゃん、犬牙ちゃん、鳴実ちゃん、心配したわよ。それとお帰りなさい。」
扉を開けて中に入ると早々にイティスが駆け寄ってきた。
店の中には、アトルと話している見知らぬ男性がいた。
「イティス、早々に悪いんだけどその男の人誰だ?」
俺はその男を指さしてイティスに訪ねた。
すると、イティスが答える前にその男はこちらを振り返った。
その顔はニュースで見たことがあった。
子供による両親の殺害事件、その被害者である父親だった。
その事件の数ヶ月後、生きた姿で再び発見されたとも新聞で見た。
そんな男が目の前にいた。
「こんにちは、たぶん新聞とかで見たことがあるだろうけど、零橋 終時です。あなたたちと同じ現世の人間です。」




