アナザー、零橋 終時は知っている。 2
イティスの店は今の町で言えば1番街らしい。
なんでも王都を0番街としてその周りに6つの町がありそれぞれを1から6番街として呼ばれているそうだ。
これから向かう仕立屋は1番街と2番街のちょうど合間にあるらしい。
前までなら、機械国家のなかにあったのだが、今は機械国家はどうなっているのだろうか。
だが、予定の上では直ぐ帰るのだ。
特に知る理由も無いだろう。
何事も無く帰れれば良いのだが、今は俺と、アトル、ブラフマー3人の衣服をそろえることだ。
この格好で別にかまわないのだが、何かあったときにこの格好では動きにくい。
こんな格好じゃ無くても良かったな。
だが、ブラフマーに久々似合うのだったらかっこよく決めて会おうと思っていたのだ。
「なぁ、イティス。ワヅラの仕立屋はこの辺なのか?」
1番街はそう広くないため、2番街との間まで来るのにはそう時間はかからなかった。
「えぇ、そうよ。そのはずなんだけれど・・・無いわね。」
「ないな。」
「ないですね。」
「ワヅラのやつまた店舗替えしたわね・・・面倒くさいことをしてくれる子だわ。」
辺りには確かに店はある。
いろいろな店が、あるのだが衣服の店らしきものは一切見当たらない。
ワヅラは、前からすぐに店をたたんでは店舗を移動すると言うことをよくやるやつだった。
「あのクソめ、どこに行きやがった。」
新しくなったこの世界のことはほとんど知らないに等しいので、皆目見当もつかない。
ブラフマーも、しばらく森にこもっていたらしく何も知らないとみて良いだろう。
となると頼りなのはイティスのみだ。
「イティス、どこに行ったか心当たりはあるか?」
そう質問すると、ため息交じりに
「今さっきまではここにあったらしいけど、今は、魔王国家外っぽい気がするわ。」
「魔王国家っていうのはこの7都市のことで良いのか?」
「えぇ、そうよ。でも、国家外となると簡単には訪れなさそうね、あきらめるしか無いのかしら・・・」
前とは違って様々な国家が存在するせいで国家間を易々と移動することはできなさそうだ。
ならしょうが無い。急ぎと言えば急ぎなのだからあいつらを呼んでも良いだろう。
「シファーを呼ぶか。」
「あまり、ドゥニアの方とは関わりたくないけど仕方が無いわね。」
ブラフマーは、大きくため息をついた。
「なんだ・・・あいつを呼ぶのか。終時私はちょっと外すから終わったら呼んでくれ。」
「すまんな、お前はあまりいい仲では無かったな。終わったら呼ぶから、アトルと一緒にそこらの店で待っててくれ。」
「そうさせてもらうことにするよ・・・」
そうして、ブラフマーとアトルは二人で飲食店らしい店に入っていく。
でだ、シファーは傲慢だ。
自分がすべてだと思っている節がある。
だからこそ操りやすいことはある。
「シファー、どうせ聞いてるんだろ?ルーベとやらからも、頼んであったアレ返してくれ。」
すると、自分の影の中からぬるっと出てきた両目真っ黒の人間らしきもの。
「ふふふっ、お久しぶりですね終時、それにイティスも。終時、アレを返して欲しいと言うんですか?」
そのどこを見ているか分からない瞳を俺の方向に向けてきた。
多分俺を見てると思って間違いない。
「あぁ、必要なんだ。返してくれ」
「わかりました。」
そう言って無詠唱で真っ黒な魔方陣を出してそこに手を突っ込んだ。
そしてそこから1本の刀。
日本刀を出してきた。
「コレクションとしては気に入ってたんですがね、帰るときにはまた返してくださいね。」
「返すも何も元々俺のもんだろうが、ファトスお手製の俺専用だ。分かってるからその目で見ないでくれ、眼がおかしくなりそうだ。」
「ちゃんと預けてくれるなら問題はありません。そういえば、ブラフマー様の気配を感じるのですが?」
「あぁ、あいつはお前に会いたくないってよ。」
「ふふふっ、残念です。もう何百年と合っていませんからね、久々に会ってみたかったのですが、嫌われていましたか。では、あまり長居したくありませんので、これで失礼します。」
そういって、また俺の陰に消えた。
「まったくもう、ドゥニアの人たちには変態しかいないのかしら。」
「シファーが変態なのは否定しないぞ、それよりブラフマーを呼んできてくれないか?」
建物の壁にもたれながらイティスに頼んだ。
しかし、あいつらの相手はいつも疲れるな。
「その必要はなさそうよ。」
たしかにブラフマーはアトルをつれて店から出てきた。
「もうおわったか?早く済ませて、イティスの店に帰りたい。」
早く済ませたいとの事なので、さっさと終わらせることにした。
俺は刀を鞘から抜き、両手で構え勢いよく目の前の空間を突いた。
すると、目の前の景色がゆがみ始めて一人の女性が飛び出てきて勢いよく転がっていき、気にぶつかり止まった。
「痛いじゃ無いっすか!ってあれ、なんかいっぱい居ますね?どうしたんすか?」
「お前を探してたんだぞ、ただでさえ今は土地勘が無いのに店替えしやがって。」
「だってしょうが無いじゃないっすか!大きな気配が3つも4つも近づいてくるんすから!」
そういいながらワヅラは目の前で地面に家の絵を描いた。
「裁断。」
そう静かに叫ぶと今絵に描いたとおりの家が目の前に建った。
「で、あたいを呼ぶって事は依頼っすよね?うちは高いっすよ~~?」
そうなのだ、まがいなりにも神が経営する衣服店なのだ。
そりゃあ高い、だが今の持ち合わせでは足りない。
下手したら一着も買えない。
「イティス頼む。」
イティスはワヅラを見てにこっと笑うとワヅラが全力で頭を押さえて倒れ込んだ。
だが、流石神。復活は早かった。
「いってぇぇ!何するんすかこんなに大量の知識流し込んで!って、ん?」
ワヅラの動きが止まった。
そして手をわなわなさせ始めたかと思うと
「これは、作りがいがありそうっすね。これを作るんだったらお代はなしで良いっすよ。こんない楽しそうな仕事は何年ぶりっすかね。」
「交渉は成立で良いかしら?」
一体、イティスの奴は何の情報を流したのだろうか。
いや、少しだが予想はできている。
こちらに無いデザインの服の情報だろう。
ブラフマーの和服の時もデザインを渡してやったら料金はなしで良いと言った。
「えぇ、いいっすよ。それと、力は使わないで手作りしますんで5日ほどいただくっすよ、直接届けに行きますからえっと・・・どこに行けば良いっすかね?」
「オールマイティアで頼むよ、ワヅラ。」
俺がそう言うと
「合点承知です!では、早速取りかかるんでお帰りになって良いっすよ?」
服は5日間ほど掛かるそうだし、ブラフマーも帰りたがっているので
「じゃあ、帰るか。」
「あぁ!早く帰ろう!」
帰ることにした。
「イティス様、彼は、終時さんは一体どういう関係なのですか?」
アトルは嫉妬していた。
自分の知らない人間がすぐに親しげにしていたからだ。
「透君の時もそうなのですが、あのブラフ様と簡単に仲良くなってなんだかこう変な気持ちです。」
アトルがそう打ち明けると、
「大丈夫、思っているよりラフは寛大だからよ。彼らがおかしいってのもあるかもしれないけど。」
「そうですか・・・」
「なにも心配しなくて良いわよ、ラフの中から貴女が消えるなんて事は無いわ。」
4人は歩きながら少し後ろを歩いていたイティスとアトル。
イティスはそう言ってそっとアトルの頭の上に手を置いた。




