魔王城跡国立図書館 2
「では、お三方のお名前を聞いてもよろしいですか?」
自分の名前と能力持ちであることを告げた彼は自分は紹介したのでということでこちらに自己紹介を振ってきた。
「俺はよォ、一ノ島 犬牙だ。能力は戦闘狼だぜェ」
犬牙も能力者であることを明かした。
おまけに能力の名前までしっかりと
「戦闘狼ですか!知ってます!本で読みました!」
この図書館には能力者の名簿でもあるのかな?
なんで犬牙の能力が載っている本があるのか気になった。
三上君はそれに付け加えて
「イティス様の書かれた本で!」
と告げた。
なんだ、そういうことかと納得してしまった。
イティスはそれほどにも金と知識には余裕があるのか。
図書館に著書が入るとなるとこの国での知名度がうかがえる。
「私は、六瀬 鳴実よ。能力は無いわ。」
鳴実の能力は気にしたことが無かったがどうやら能力はなさそうだった。
「無能力者ですか、犬牙さんは能力持ちでしたからてっきり向こうの世界から来ると能力を持っているとばかり思ってましたが、そうでもなさそうですね。」
「えっと、次は俺だな。肆 透だ、一応二つ能力を持ってるんだが、詳細は分からん、そのためにも今あるところに向かってて今日はその寄り道ってとこだ。」
自分には二つ能力があること。
そして、その能力がよく分かっていないことを告げた。
そして、部屋にあった鉛筆のようなものを右手でとって、左手に持つところをしっかりと三上君に見せた。
「えっ!?き、消えた!?そんな力見たこと無い。いや、ロストクリーリネス・・・?いや違うもっと大きな力な気がする・・・まさか、今赤くなった眼が関係している?すいません!透さん・・・でしたよね!ちょっと館長室まで来てもらえますか?」
どうやら興味を持たれてしまったようだ。
といっても、今見せたのは貰い物の方なんだが・・・
「まぁ、いいけど?じゃあ犬牙と鳴実はここに待機って事で良いのか?」
「はい、ひょっとしたら時間がかかるかもしれませんがお待ちいただければ幸いです。」
というわけで、この図書館の館長室に向かうことになった。
三上専用の部屋から出て、長い長い廊下をひたすら進む。
すると、
「ここです。」
ついたのは木製両開きの扉、三上君がその扉を3回ノックする。
「魔王様、失礼します。」
ふぁっ!?
魔王ってあの魔王!?
どこに行ったか分からなかった魔王様だとっ!?
「朱文、どこで誰が聞いてるか分からんから、その名前で呼ぶな。」
どうやら、本当に魔王のようだ。
「すみません、フェルガーノさん。お入りしてもよろしいでしょうか?」
今は“フェルガーノ”と呼ばれているらしい。
雰囲気から察するに、今は魔王としては認識されておらずフェルガーノという人物として認識されているみたいだ。
「いいぞ、入れ。」
魔王様、いや、一応フェルガーノさんといった方が良いのか?
が、そう言うと目の前の両開きの扉が独りでに開いた。
すると、大きないすに顔が見えないように背を向けて座っている男がいた。
「で、何のようだ?ん?その人間は誰だ?見たところ、お前と同郷の人間か?」
「はい、僕と同じ地球のそれも日本から来たようです。透さん、自己紹介をお願いします。」
「お、おぅ。えーっと、肆 透っていいます。えっと、魔王様って本当なんですか?」
率直に聞いてみたすると、少し困ったような声で、
「朱文、お前が魔王様などと呼ぶせいで知られてしまったでは無いか、魔王はずいぶん前にやめたというのに・・・あぁ、すまん。私はフェルガーノ・ドレイブスという名前で今は過ごしている。そちらの名前で呼んでくれ、それとこの事はくれぐれも他言無用で頼む。」
魔王は自分でやめたらしい。
そのずいぶん前というのがどれだけ前なのか知らないが、かなり昔であることは間違いなさそうだ。
なんたって、図書館で調べれば分かるかもしれないと言うことはもはや伝説とかそういうレベルって事だ。
「朱文、用事ってのはなんだ?その透とやらのことか?」
「そうです、まずは彼の力を見てみてください。」
そういうと、三上君は俺の方を向いて一つの棒きれを投げてきた。
なるほど、つまりこの棒を左手で消して能力を見せろって言うことか。
納得した俺は、左手でその棒きれをつかもうとした。
手に触れたところでやっぱりちゃんとその棒きれは消え去った。
「これでいいのか?」
そうやって三上君に聞いた途端、
「朱文、戦闘準備して下がれ、我はそやつと話がある。」
あきらかに敵意殺意むき出しのご様子でフェルガーノは立ち上がった。
今までいす越しで見えなかった顔がやっと見れた。
人間の顔。
エルフでもドワーフでも何でも無い。
たしかに人間の顔をしている。
そして直後、瞬きをする暇も無く俺の体が後方へ飛び、廊下の壁を5枚貫きやっとの事で止まった。
口から血が出た。
こんなことは、向こうでも死ぬ間際の時しか体験したことが無かった。
肋骨も何本か折れてそうだった。
クソ痛い、アトルにやられたときのあの痛みと比べるとまだましな部類ではあるけども、
壁伝いに何とか立ち上がった。
たくさんの壁の穴の先には片手に分厚い本を持った三上君とフェルガーノが立っていた。
「なぜ貴様が!我が神と同じ力を持っているのだ!!答えろ!さもなくば殺す!理由によっては答えても殺す!!」
この世界に来て、初めての戦い(?)が元魔王と日本人能力者となりそうだな。
「やべぇ状況になったな。せめて犬牙が居れば何とかなったかもしれねぇけど、一人ですか・・・カハッ」
血反吐を吐きながらそんな台詞を吐いた
その頃・・・・・
「すげェな!透のやつあんな力持ってたなんてよォ!」
「えぇ、そうね、それより彼が連れていかれたのがとても気になるのだけれど。それに透、二つの能力があるって言ってたわよね。そのもう一つって何なのかしらね?」
彼の力はすごかった。
左手で触れたものがまるで砂のようになってちりぢりに消えてしまった。
私もできることなら能力が欲しいと、彼の能力を見て思った。
そしてあの司書の男、能力を持っているのは明かしたがどんな力かは明かさなかった。
彼の能力も気になる。
それに、日本人である彼を受け入れている館長とやらの存在だ。
「ねぇ、私ちょっといやな予感がするの、犬牙ついて行ってみない?」
「あァ、確かに何か起こりそうな気がするなァ、どうせそれもあるし朱文ってやつとここの館長が気になんだろォ?」
「えぇ、そうよ。同じ考えのようなら話は早いわ。行きましょう」
早く行かないとやばそうな気がする。
私の中でそう、何かが告げている。
まるで第三者から何か伝えられているように。




