アナザー、零橋 終時は知っている。
「あまりそうぽんぽん世界を超えられては困るんですよね・・・」
扉が消えて一歩二歩と踏み出したとき背後からやる気の無い声が聞こえる。
世界を超えて直ぐに現れるとしたら彼らしかいない。
「いや、すみませんね。こちらも急ぎの用事でね、お騒がせしました。世界の・・・え~と、初めてお見かけする顔ですね。」
相手は自分と比べて圧倒的な存在。
しかし、このなんともやるせない姿格好、見たことは無い。
この状況なので彼がドゥニアの一員なのは間違いが無いだろう。
「え、あぁ、めんどくせぇ・・・ルーベです、ルーベ。めんどくさいし確認終わったんでかえっていいっすよね?てか帰ります。さようなら」
そういって彼は詠唱もなしに真っ黒の魔方陣を展開した。
「ひとつだけ伝言をお願いします。“久ぶりに干渉しないといけないから例のもの返してくれ。”とシファーとカミエによろしくお願いしますね。」
「おどろきましたね・・・見た感じあからさまにただの異世界人なのに先輩達と知り合いなんですか・・・わかりました、めんどくさいけど伝えときますね。伝えとかないと面倒そうだし。」
そう言い残すとルーベは黒い魔方陣によって現れた真っ黒の穴に入って消えた。
おそらく彼は怠惰。
シファーのやつまた面白そうな人材を拾ってきやがった。
「さて、ちょっくら行くとは言ったがどうしたもんか。」
取りあえず、まだ情報が少ない。
その状況に行くところと言ったら決まっている。
オールマイティア
また、あのクソオカマに会いに行こう。
「はぁ・・・気が進まないな・・・」
どうせまたあいつは俺が来たことも知ってるんだろうな。
あいつから身を守るために簡易的な短剣一つを道中で購入した。
金銭に関しては、こちらの通過も多少なりとも残っているので問題は無かった。
それをタキシードの内ポケットにしまう
「なによりも、通貨が変わってないことが救いだな。」
一回世界が生まれ変わっても変わらないものは変わらないようだ。
だが、ここで問題が一つ。
「オールマイティアの場所が前と変わってるじゃ無いかよ。」
彼の今居る町はオールマイティアのある町の隣町。
オールマイティアの場所がわからない今、通行人に地道に聞いていくしか無い。
俺の知ってるこの世界ではスラム街なんてものは無かった。
だから、一つ話を聞くだけで金銭を要求されるなんて事は無いだろう。
「すみません、オールマイティアというバーの場所ってわかりますか?」
私が訪ねたのはつい通りかかった美人のエルフ。
スタイル抜群で思わず胸に目が行ってしまいそうだが必死にこらえる。
こんなことバレたらあの専務にキレられる。
「オールマイティアですか、それなら隣町ですよ。地図を書きましょうか?」
「ありがとう。地図の方お願いします。」
そういうと、エルフは、にっこりとほほえむと宙を手で切る。
そこに現れる緑色の魔方陣。
無詠唱、すると魔方陣のあった位置から紙が落ちてくる。
エルフはそれを拾うと俺に渡してきた。
「道中をお気をつけて。」
「ありがとう。」
エルフから地図を受け取りその地図の通りにオールマイティアを目指す。
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コンコンコン
オールマイティアの扉をノックする。
ガチャッ
扉が向こうから開けられる。
「あら、久しぶり。待ってたわよ終時。」
今回は真剣だったらしく、予想以上にちゃんとした対応をとってくれた。
内ポケットの短剣が無駄になった瞬間だった。
「今日は人が多いな。おぉ、ブラフマーじゃないか。元気にしてたか?」
「ふっ、終時私はいつでも元気だぞ?」
「相変わらず上から目線の話し方だなお前は。」
「あら、ラフの話し方は誰のせいよ?」
俺のせいだった。
「すまん、俺のせいだったな。・・ところでそこの金髪のお嬢さんは何なんだ?」
俺がいたときには見たことが無かった。
俺が知らないだけでずっと居たのか?
「あぁ、紹介する。彼女の名前はアトル、私の創造物だ。」
創造物。
コイツは生命でさえ簡単に作ってしまいやがる。
ただ、このアトルっていうお嬢さんの見た目からしてきっと作った理由は一つだろう。
「ブラフマー、お前一人で寂しくてその娘を作っただろ?」
そういうと、ブラフマーは一気に顔を赤くした。
どうやら図星だったらしい。
「だ、だってぇ!終時が居なくなってから寂しかったんだよぉ!?」
「それほどに俺のことが好きだったのか、ハハッハッハ」
俺が笑うとむすっとした顔でひたすらこっちを見つめてくる。
そして、アトルというお嬢さんに目を移してみた。
「おじいさん、記憶が読めない人って初めて見たよ。」
「そりゃ、それが俺だからなハハッハッハ」
俺の記憶が読めないのは知っている。現世に居るときの俺の記憶は読み取れるだろうが。
「終時、話をする前に皆で貴方のその堅苦しい格好とあからさまに動きにくそうなラフとアトルちゃんの洋服を作りに行きましょう?」
そういわれて、ブラフマーの服装に目を移す。
遙か前に俺が日本から持ってきてやった着物をいつまでも着てやがった。
まぁ、あの着物をこっちに持ってくる際にドゥニアの奴らと一悶着あったから大事にしてくれること自体はうれしいが。それに比べアトルのお嬢さんはなんとも簡素な格好をしている。
危なっかしい。あんなに太ももを露出してこの世界じゃ無かったらどうなっていたかの予想が容易である。
「そうだな、こっちでいつまでもこの格好というわけには行かないか。じゃあ、クソオカマ、ブラフマーそれとアトルのお嬢さん店じまいして一旦町へ出ようか。」
「アトルのお嬢さんじゃなくて、アトルでいいですよ、それと終時さんはいくつなんですか?」
「わかった、これからはアトルと呼ぶよ、それと俺の歳だな?45だ。ここに来たのは15年ぶりだがな、こっちの時間で言えばどのくらいだ?計算がめんどくさいからよしとしよう。」
「45歳・・・そうは見えないですね。良い意味です、安心してください。」
「安心・・・ね。」
ガチャリ
クソオカマが店の鍵を閉めて、4人揃って仕立屋へ行く。
そういえば仕立屋にはまだあいつは居るのかな。
到着してからの楽しみだ。




