戦闘狼 一ノ島犬牙
そこに現れた一人の男。
なぜ口笛を吹いて男が来るのかわからなかったが。
どうにもその男の顔を見たことがある。
「なぁんだよォ、こんな時間に呼び出してよォ・・・ん?」
その男はじっと俺の顔を見ていた。
あ、気がついたもしかして・・・
「おまえ、もしかして犬牙・・・か?」
「おォ!やっぱりそのツラァ透かァ!!」
彼の名前は一ノ島犬牙。
俺の大学時代の友達だった。
大学卒業1ヶ月前にいきなり音信不通になったんだ。
一ノ島のことだからきっと海外にでも出かけたんじゃ無いかと思っていたが。
まさか異世界に板とは予想もつかなかった。
「やっぱり犬牙か!!めっちゃ久しぶりだな!いきなり音信不通になってずっと心配してたんだぞ!」
「透もここにいるって事はよォ、おまえもイタリアにいたのかァ?」
「へ?イタリア?」
「お?その反応みる限りよォ、イタリアにはいなさそうだなァ」
やっぱりというかなんというか、音信不通だった理由は海外旅行だったらしい。
あいつはいつも海外行くときには携帯を持たずにその場の力でなんとかするむちゃくちゃなやつだからな。
「まァ、その話はそのうちな。で、ラフさんよ、金髪に呼ばれてやってきたはいいんだがよォ。何のようだァ?」
そうだ。なんでこいつを呼んだんだ?
「あぁ、君を呼んだ理由・・・ッとその前にこの金髪にはアトルという名前がついたからそう呼んでくれ、」
「あァ?そうなんか、おまえがつけたのかラフさんよォ」
「ちがうぞ、アトルの名前をつけたのは透だ。」
「おォ!透!おまえが名付け親かァ!!くぅ~~、なんだか先を越された気分だぜェ!!」
「あぁ!そうだ!アトルに名前をつけたのは他でもない俺だ!これからはアトルと呼んでやってくれ!」
「あァ!わかったぜェ、ってことだ改めてよろしくだぜアトルよォ!」
「うん、改めましてよろしく、犬ちゃん。」
ん・・・?犬ちゃん・・・ww
「犬ちゃん・・・ってwww」
「あァ!てめぇ透笑うな!!」
「ごめん、ごめん。で、どうして犬牙をよんだんだ?」
まさか出会えると思わなかった友人と出会えたことで忘れていたが町に行くのになんで犬牙
をよんだんだ?
「おまえたちが楽しそうにしていたからうまく話を切り出せなかったが、犬牙、おまえを呼んだ理由はまた私たちを町まで連れて行って欲しい。」
「あァ、なんだそんなことかよォ。まァいいぜ、町に行くんだな?ちょっと待ってろ。」
なるほど町に行くために犬牙を呼んだのか・・・
ってなんで犬牙を呼んだのかがまだわかっていない。
その理由を探すためにもじっと犬牙を眺めていると
「透ゥ、驚くかもしれねぇがちィっとみてな。」
そういうと犬牙はその場で数回身体運動をすると
「戦闘狼!!」
そう叫んだ。
その瞬間彼の体は異常に膨張を始め、だんだん収まってきたと思えばその姿は明らかに俺の知っている者じゃ無かった。
「嘘・・・だろ?」
「嘘じゃァねェぜ。これが俺の能力“戦闘狼”だ。」
何でそんな力が手に入ったんだ?
もしかしてブラフか・・・?
「おい!ブラフ!あれもおまえの力か!?」
「違う。私にあんな力は無い。あれは彼特有の能力、いわば特有能力と言ったところか?」
なんたって、そんな力を身につけたんだ?
だったら何で俺にはそのスキルとやらが無いんだ?
「なんで犬牙にだけあんな力があるんだよ・・・そして何で俺には貰い物の力しかないんだ?」
「転移者にはスキルがつくんだよ、この世界は。君は一度死んでここに来た。いわば転生者だ。だから力が無い。」
「なんだァ?透おまえ・・・死んだってのか・・・」
「あぁ、確かに死んだよ。だからブラフの言うように力が無いんだろ」
「そうでもないぞ、透。君は不思議だな。転生者なのにスキルを持っている。そして普通じゃできない多重スキル保持をしている。」
・・・
能力が・・・ある?
本当にか?
今、ブラフ本人が転生者には力が無いと言ったばかりなのに。
「ほ、本当に俺にはその特有能力・・・ってのはあるのか?」
「君の特有能力。それは、君の無自覚で発動しているようだ。詳しくは知らないが、おまえ寝る直前に使っていたぞ?」
「え・・・?俺そんな力使った覚えが無いぞ!いったいどんな力を使ったんだ!?」
「私はどんな力を使ったかはしらない。だが、たしかに力を使ったって言うことだけはわかるぞ。私が渡した力のためにも君自身の力のためにも、これから町へ行くんだろ・・・?」
「あぁ、そうだったな。ワリィ犬牙、町まで乗せてってくれるか?」
「あァいいぜ、おまえもちょっと今ので疲れち待ったようだしなァ。俺の背中でゆっくり休んでな」
「さぁ、行くぞ透、それにアトル。早く乗れ。」
「わかりました、ブラフ様。それと、透、疲れちゃったみたいだけどまた膝枕でもしようか?」
「あぁ、アトル。よろしく頼む。なんか、こう、いろいろ大変なことばっかりだなぁ・・・。」
「オイ!いちゃついてないで早く乗れっといっとろうが!!」
「オィ!透ゥ!またってどういうことだよ!アトルに膝枕してもらったのかよォ!くぅ~~、うらやましいぜ!」
うるさい。
こっちは疲れ果ててるというのにガヤガヤと。
でも、かえって落ち着いたかもしれない。
「あぁ、犬牙うらやましいか?だったらもっとアプローチを・・・」
そう言い掛けた時
「お“い”!!早く乗れって言ってんだろうが!!のれっつってんだから早く乗れよ!」
ブラフが切れた。
そりゃキレるさ。
そして気がついたが1日目とはまた違う怒り方をしていた。
「すまん!今すぐ乗るからお怒りを沈めたまえ~~」
「す、すみません!ブラフ様!今すぐ乗ります!」
「わかってるなら急いで乗れ。日が暮れるぞ」
「そうだぜェ、ただでさえこっからは時間がかかるんだ。早く乗れよォ!」
そうやって森奥でガヤガヤしながら俺たちは狼状態の犬牙の背中に乗った。
さぁ、あらためてこっから町へ向かおうか。
そして俺はアトルの膝枕を堪能しながら
ブラフは未だにちょっとキレながら
犬牙の背中に乗り、走る。
風を切るスピードで。




