第一章 『パートナーとクラスメイト君』
更新しました!!
こちらは何ヶ月も遅くなってしまい申し訳ない。
いや、まじで、すんません。これからはきちんと更新します、きっと、多分……。
ては、今回もよろしくお願いします!!
コツコツと卵を角にぶつけ少し罅を入れそこを起点に割ると中身がボウルの中に落ちていく。その作業を四回ほど繰り返すと手元に寄せておいた砂糖と塩を入れて箸でよく掻き混ぜていき、その片手間にコンロに火をつけフライパンを熱する。ある程度熱されたら油をフライパンに少量流し入れ底面全体に万遍なく広げる。そこに掻き混ぜた卵を流し込みフライパンを傾かせ底面を卵で覆う。焼けたら端からクルクルと卵を巻いていき、空いた底面にサッと油をひいてから卵を流す。先ほどと違う点と言えば端っこに丸めた卵の下にも入れて繋がるようにしたところだろう。それを数回繰り返したら卵焼きは完成、フライパンから皿へと移す。少し高めのところから落とし空中に浮いてある卵焼きに右手に持っていた包丁を振るい七等分に切り分ける。鮮やかな黄色の卵焼きの端っこを指でつまんで口に放り入れると甘めの味付けをされた卵が口の中いっぱいに広がった。
「うん、美味い」
我ながらよく出来ていると思う。
続いてアスパラを適当なサイズに切り分けベーコンで巻いて解けないように爪楊枝で固定したらフライパンに投入。パチパチと油とベーコンが弾ける音が聞こえてくる。ベーコンがカリッとなるまで焼くのが我が家のルール。
次に、豚肉の小間切れとレタス、タマネギ、ピーマンを焼き豚肉に赤色が無くなってタマネギがシンナリとしたら焼き肉のタレをかけて味付け。シンプルだが美味いのが焼き肉のタレだと思う。さすが黄金、とっても美味しくいただいてます。
冷蔵庫から筑前煮と昨夜の夕食の残りであるポテトサラダを取り出して準備は整った。
用意していた弁当箱におかずたちを鮮やかな彩りになるように入れていき、最後にご飯をよそえば作業は終了し、五人分の昼食用の弁当が完成する。自分と義姉、そして腐れ縁三人の分。
現在の時刻は六時半。学校に行くには早すぎる時間帯。手持ち無沙汰とはこのことを言うのだろう。
寝間着用ジャージの上につけていたエプロンを外し、椅子の背もたれに掛ける。両手を上にあげてグッと伸びをしてから階段を降りていく。
降りた先にある扉を開けると、入り口側から奥へ向かって明かりが順番に点灯していく。製作者好みのカッコいい点灯の仕方。ドヤ顔が目に浮かぶようだ。
その部屋はどこまでも無機質な白。扉を閉めれば立っている場所すら不鮮明になるであろう空間だった。
入り口脇にはコンビニのATMのような機械が置かれてあり、その機械のおかげで無機質な白の中で正気を保っていられている。
機械に近寄り画面に触れる。タッチパネル式の機械の画面には『ようこそ、使用者様』と表示されていた。
『疑似戦闘室』―――いわゆる、トレーニングルーム。作製者は言わずもがな我が家の天才義姉さん。確かVRやホログラムなどの技術をぐっちゃぐちゃに盛り込んで、一体、何世代後の技術だよってレベルの機械がこの部屋には導入されている。何かのパトスでも暴走したのか。
それを言ったら、『愛しい義弟のためよ!結婚までは秒読みね!!』と返されるのは簡単に予想がつく。それにしても、相変わらずすんごい技術ですなー。なお、結婚等の発言は聞かなかったことにする。
画面を弄り始めると画面の中に柴犬のような耳を頭の上に生やし、柴犬のような髪の色をしたメイド服の女の子が現れる。もはや柴犬を擬人化して美少女に変えた感じ。誰の趣味だこれ。
『開発者が使用者様の好みに合わせたと申しておりましたワン。語尾にワンをつけると尚よしとのことワン』
「俺ここ最近豹に嵌まり始めた」
『なんとでしたら、くるりんぱ。こんな感じでよろしいでしょうかガルル』
「豹の鳴き声分かんないからって語尾ガルルは適当すぎだろ……」
あっという間の早着替え。豹の耳と尻尾を生やしてしまう。猫との違いがよくわからん。もうニャでいいのでは?
『使用者様。今回はどのように』
そう表示された次には難易度、状況、場所などが選択できるようになる。
難易度はイージー、ノーマルなどが選べる。状況は例えば一対一や多対一などといった戦闘する状況。場所は戦闘する場所。といった感じでセッティングすることができる。
ここを使うのはせいぜい三十分ぐらい。選ぶのに時間を割くのは非効率だろう。
「難易度はカオス。それ以外はランダム」
『受諾。全装置起動。投影開始』
白一色の部屋が変化し始める。壁、そして地面が変わり薄暗い建物の中のようになる。
『難易度:カオス
状況:乱戦
場所:第二魔力武装高等学校
…
…
―――構築終了
お待たせしました。存分に訓練をお受けになって下さい』
今度は画面の中ではなく俺の横に投影された人間大の姿でメイド服の裾をちょこんと摘まんで頭をさげた。
いや、ちょっと待て。
「おい乱戦ってどういうことだ朝からそんなハードなのできるわけないし動けるわけないだろおーいラプラース中止にしよう?」
『それは無理ガルル』
「とってつけたような語尾しやがってどちくしょう!!」
敵が出てきたのにあわせて腰の得物を抜く。
あーもう。誰だ朝っぱらから特訓しようと思った馬鹿は!俺か!?阿呆だー!
☆
遅刻しなかっただけ褒めて欲しい。それでも、抜けないものは抜けないのである。
スパコーン、そんな軽快な音が教室に響き渡る。
「さすがにねぇ、授業初日に寝るのはどうかと思うなぁ」
机に突っ伏して息絶えかけていた俺に容赦の無い仕打ちをしたのは我がFクラスの担任、柳田せんせー。ボサボサヘアーが特徴の男。
朝のラプラス(語尾ガルルのAI)の無茶苦茶な訓練のせいで疲労がかつてないほど溜まっている。それでも、何とか起き上がって学校に来たのだ、それなのにこの仕打ちとは。僕もう引きこもりたいです。
「で、話聞いてた?まあ、聞いてるわけ無いよねぇ」
分かってんなら聞かないで欲しい。いや、悪いのが俺だっていうのはわかってるんだけどさ。
「はぁ~。みんなごめんねぇ、聞いてなかった人がいるからもう一度説明するよぉ~」
なんて優しい先生なのだろうか。でもね、そういう風に言っちゃうと俺が責められちゃうんですよ?
「魔装使いは基本的に二人一組で任務にあたってもらう。国家の組織だなんだって言われてるけど、有り体に言えばただの雑用押しつけられている何でも屋だからねぇ。名目上として危険なところに一人では行かせることによる非難を防ぐための制度だよ」
魔装使いの裏の名前が『国の雑用係』。魔力による身体強化で常人の数倍の耐久力を持っているため危険地帯などに多く派遣されるのだ。
なんせ、銃弾を受けても死なないのだから戦争での人命救助などやらされる。一般人が行うことができない危ない仕事が回されてくるのだ。
もちろん、毎度そんなことが起きるわけでもない。そんなのは稀だろう。
「二人一組はこの学校でも採用されている、というか育成を目的としている学校なんだから当然あるんだけどねぇ。そこで、今日は最初にペアを決めてもらいま~す」
その言葉に戦慄。
学校で出る嫌なワードランクイン、『ペアを組でください』!!
コミュ障に加え人見知りのぼくはその言葉で一気に瀕死まで追い込まれてしまう。
「といっても、まだ出会って一日も経ってない君たちに好きな人と組んでと言っても厳しいよねぇ」
そう言って、ボサボサヘア先生は持ってきていた本の間に挟めてあった紙を手元に引き寄せる。
「てことで、先生が適当にペアを決めてきたから~今学期中はその人とペアねぇ」
生徒からの反応は主に二つ。えぇ~、と批判する声と、いいんじゃない?と肯定する声。
正直、この申し出はありがたい。なんせ自分から声なんて掛けられないからネ。もはや、掛ける前から断られる未来を視てしまう。ヤダ、ぼく未来視でも使っちゃったのかしら?真実過ぎて涙が出そうです。
「じゃあ出席番号順から発表していくから静粛に~」
俺としては誰でもいいと言いたいところだが、知り合いの方が気楽ではある。
なので、出来れば歳高あたりが好ましい。ダメならモーさんでも可。交流が無い人となんて喋ることすらできないだろう。
「次、アルトリュース・ペンドラゴン、幻装英二ペア」
という感じに、出来れば交流があった人がいいなぁ。
「ん?」
「え?」
「あ?」
俺を含めた三者三様の声が漏れる。
何かの聞き間違いかしら?
俺のペアがあのアーサ王の直系であるアルトリュース・ペンドラゴンと聞こえた気がした。あ、そういやアルって呼んでくれって言われたっけ。
おずおずと手を挙げるぼっち少年。
「えっと?ボサボサ先生、もう一度、言ってもらってもいいですか?ちょっと耳が旅に出ていて聞き取れなかったんです」
「旅行からは帰ってきたんだねぇ、おめでとう。先生的にふざけんな、死ねとしか思わないけど~」
そんなぶっちゃけはいらん。でもね、生徒に死ねとか言わないでね?終いにゃ泣くぞ、こら。
「正直な話、これだけは僕の一存で決めるわけにもいかなくてねぇ。あのロリッ子―――学園長が適当に決めちゃったんだよ~。一応、国の方からなんだか言われてるらしいけど、この学園に入ったからには一生徒として扱うことになるから特別扱いはしないようにって。てことで、クソガキ庶民の幻装英二君に学園長と相談して決めました」
この先生、実は俺のことが嫌いなのではないだろうか。ちょくちょく俺に毒を吐いてきやがる。なに、俺そんな悪いことしたのかしら?
それに、上司をロリッ子って恐れを知らないな。聞かれたらクビになるんじゃないかなとおもう。
「ふむ、それは決定事項ですか?」
「決定事項だっつってんだろ。いいからさっさと下がれ。後がつっかえてんだ殺すぞ?」
もう少し優しさを持って欲しい。
ペア同士は席が隣り合うため移動が行われる。初期は名前順に並んでいたので、最初の方に呼ばれていた人たちは教室の後ろへと下がりペアの交流を深めている。
これも、全員のペアが発表されるまでだが、最初に呼ばれていた方が話す時間が長くなるので仲良くなるには都合が良い。
それに、なんていったってあのアーサ王の直系であるアルトリュース・ペンドラゴンがペアなのだ。俺の心は流星になって急上昇しています。キラッ☆
そこには、美しすぎる笑顔のアルがいて右手を差し出していた。
「幻装くん、これからよろしくお願いします」
「え、は、はい!ど、どうかよろしゅくおねがいしましゅっ!!」
カミカミだった。
忘れていた。俺ってコミュ障でぼっちのクソニート予備軍だった。憧れの人とまともに話すなんて最高位スキルを所持しているわけがない。
死にたい。というか、悶え死ぬ。いや、恥死だ。恥ずかしさのあまり死んでしまう。
そんな俺をアルはクスクスと優しく笑ってくれた。
そして、他愛もない話をしながら他のクラスメイトのペアを聞いていると知っている名前が出てくる。まあ、知り合いなんだから当然だけども。
「もう名前だけでいいかぁ、んじゃモルドレッドに歳高ペア」
おお、なんとまあ。数奇な運命だこと。俺の知り合い同士が組むなんて、作為的なものを感じずにはいられない。
それぞれのペアが発表されると席替えが始まる。
実際、学校が始まって二日目なので机の中に荷物がある生徒は少ない。というより、ほとんどいないだろう。このことから、机と椅子の移動はせずに生徒単体で移動する。
あらかじめ席順は決まっていたらしく言われたとおりにそれぞれ席に着いていく。俺とアルは窓際最後尾とかなり良い位置に決まっており移動した。
「じゃあ、これからのカリキュラムの説明を始めるねぇ」
ボサボサ先生の言葉を耳にいれながら、頭の片隅に浮かぶ漠然としたものの正体を探る。
嫌な予感がするのだ。このペア決めから、クラス、何もかもに作為的な、誘導されている気がしてならない。
ぱっと見、俺にとって利益があるように思えてる時点で他者が介入しているのは確実だろう。
学園長だろうか、と予想はつけられるが如何せん俺は学園長のことを知らない。そういうことをする奴なのかどうかすら不明なのに、下手な予想は身を滅ぼす。
それに。
(俺に対してと思うのは自意識過剰か)
別な奴に対してかもしれないのだ。わざわざ、苦労を背負い込むような考えはするべきではないだろう。てか、したくねぇ。
ただでさえ、昨日、紛いものに目をつけられ、幼女に狙われたのだ。学生生活は平和に、そして穏便に過ごしたい。
まあ、そんな願望はいいとして。
わたくし、幻装英二の心情を言葉にしますと、こうなるのです。さすがに声にするのはあれなので、心の中だけで叫びます。
「いっやっほぅっ!!」
「黙れ、幻装息の根止めるぞ?」
おかしい。声に出してないはずなのに周囲から引かれて、ボサボサ先生に酷い発言されるなんて意味が分からない。
世の中、おかしいなとぼくはおもいました。
☆
正直、浮かれていた。
よく考えてみてくれ。憧れの存在と同じ学校ってだけでも感激ものなのに同じクラス、加えて今学期のペアにもなれたのだ。嬉しいと思うのが当然ではなかろうか。
そして、何よりアルはとてつもなく美しい。金糸のように鮮やかな髪の毛は肩甲骨辺りまで伸びており、振り向くたびに髪が踊り柑橘系の匂いが散布される。顔は小さく整っており、微笑んだ顔はまさに女神のよう。翡翠の瞳は覗き込んだ者を離さず、そのまま捉えて釘付けにしてしまう。背はあまり高くはないが、スッとした姿勢により小さいとは感じさせない。染み一つ無い肌は綺麗で、手足なども細い。中学から上がったばかりで女性的な凹凸は少ないが、その美しさにそんなものは関係がない。
総じて、めちゃくちゃ美しいのだ。大事なことだから二回言いました。
総華は子犬のような可愛い系だが、アルは猫のような気品のある可愛さと言える。
そんな同級生と学校にいる間、ほとんど一緒に過ごすことになったのだ。浮かれるなというほうが無理なものではないかと思う。
そんな素敵な女の子と組んだ俺はと言うと。
「おい、幻装。お前、つらかせ」
複数の同級生に机の周りを囲まれてました。
何故だ…?と思いたいが、まあ十中八九アルと組んだことによるやっかみだろう。逆の立場だったら俺だって嫉妬してしまう。それほどまでに、彼女の相方という立場は極上のものなのだ。
しかし、その気持ちをまさか初日に出すとは思わなかった。それに、絡んできてるやつらは全員がペア同士で男性だけだ。つまり、ボサボサ先生に決められたペアが男だった奴らってことになる。
ん?
中には女生徒とペアだった奴もいた。確か、相方は。
「………ッ」
視線をその子に向ける。
その女生徒は関わりたくないと言わんばかりに机に顔を向け、こちらを見ないようにしている。
あ、思い出した。あの子、入学式で俺にちょっかいかけてきた黒髪おかっぱ目隠れ生徒だ!
はぁ、どうしてこう、相手を思いやれることができないのかね。
面倒くさいが、仕方ない面をかしてやろうか。
俺は鞄の中をあさり紙粘土を取り出して―――
「お前、何してんの?」
「ちょっと待って、あとちょっとで面できるから」
自分の顔を造ります。
「いや、そうじゃねぇよ!」
「着いてこいって意味だっつうの!」
「てか、なんで粘土が鞄に入ってんの!?」
うるせぇなぁ。
今、1/1スケール幻装英二くんフェイス造ってんだよ。中々のできに僕満足。
よし、でき―――
ドン!
グシャッ!!
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
造り終えた直後、慈悲のカケラすらない拳が我が最高傑作を潰してしまった。
「うっ、うっ、うううううう!!」
「……、」
俺のガチ泣きに囲っていた連中は気まずそうに口を開く。
「「「「「なんか、ごめんなさい」」」」」
「ううううっ!!!」
しかし、一人がハッと当初の目的を思い出してしまった。
「いや、こんなくだんねぇことなんざどうだっていい!いや、確かにクオリティは高いが!ふざけてないでさっさとこいや!!」
「………チッ」
さすがに最後まで騙すことは出来なかった。惜しいところまでいったとは思うんだがなー。
どう断ればいいのか策を巡らせようとしたところで横やりが入る。いや、もしこれが本当にペアのことについてなら彼女も当事者の一人であるのだ。
彼女は彼の王を想起させる凜とした声を出す。
「待ちなさい。貴方たちは何故、私のパートナーを連れて行こうとするのです」
隣の席から立ち上がり、未だに座って泣いているフリをしている俺を庇う立ち位置まで動く。
その顔からは不当な要求に対する怒りがあった。
アルトリュース・ペンドラゴンにとってこの国に来て初めての相棒だ。過剰に反応してしまうのは仕方の無いことだろう。
立場、境遇、その他様々な彼女を象る要因はまだ俺は知らない。だから、俺はこれを彼女の正義感ゆえの行動だと思う。
「うるせぇ!あんたはすっこんでろ!俺らはこいつに用があるんだ!!」
「王族だかなんだか知らないが、ここでは関係ないんだよ!」
事実その通りである。ボサボサ先生が言っていた通り、この学校に身分差を持ち込むことは禁じられ、それを楯に脅しなどをしようものなら退学待ったなしなのだ。国の圧力は当然あるだろうが、こと魔力武装高等学校はそれらを完璧に無視している。曖昧な態度でもなく、濁しているわけでもなく。ただ、ハッキリとこう示しているのだ。
『雑魚に血なんて関係無い』と。
つまり、王族だろうが、庶民だろうが雑魚は雑魚。その力に、技に、精神に血筋などは関係が無いのだ。
求めるのは強さ。それを基準にこの学校は成り立っている。
それが顕著に現れている部分は明確にある。
「アル」
俺を守るように立っていた彼女に呼び掛ける。
彼女は振り向く。
遠くからはどこかで聞いたような声で姉上!姉上!と叫んでいる人がいる気がするが幻聴だろう。
「まだ用件を言われていないから邪険にしなくてもいい。交友のお誘いかもしれないしね」
自分だけのときに絡まれれば適当にあしらることができてよかったのだが、如何せんアルにも迷惑がかかるようなら少しは真面目に対処しなければならない。
「ついていこう。エスコートは任せますぜクラスメイト君」
「なっ……!」
このクラスメイト君も自分が簡単についていく選択肢をとるとは思わなかったのだろう。
席から立ち上がり、一番前に出ているクラスメイト君の肩に手を乗せる。さりげなく顔を耳に近づけて、すぐさま教室の出口に向かって歩き出す。
そのすれ違いのとき、一瞬だけクラスメイト君の表情が強ばったのを認識できたのは何人いただろうか。
だが、やはり納得はできなかったのだろう。アルもついていくと主張を始めてしまった。
やれやれ、と思うが、この件に関わるのは仕方のないことか。あまりにも早すぎるこの展開に感じるものがあったのだろう。
「ん、まあ俺の実力を確かめるってことにしますか」
「それならモルドレッドのときに少しだけ見ましたよ?」
「ふっふっふ、俺にはまだ10段階覚醒することができる!」
「む、それはモルドレッドに失礼ですよ。きちんと相手をしなくては」
少しは打ち解けられたのか、軽口程度なら聞けるようになった。最初に呼ばれて話してたおかげだろう。ボサボサ先生あざーす。
チラリと視線を歳高に向けると目が合った。それだけで、俺の意図が伝わったのか歳高はただ頷いて、羽交い締めにしている自分のパートナーを連れて教室を出て行った。パートナーさんのあの形相、こわすぎー。破壊神かと思ったぞ。
今日の授業は午後一時までだ。先ほどのペア発表が終わった時点で学校の授業は終わっていたのである。そう、自由の身、何者にも捕らわれることなく自由な時間を謳歌できるはずだったが、世の中そう上手くいくもんではないのだということだね。
絡んできた五人はどこか得体の知れない者を見る目で俺を見て、しかし後には引けない覚悟で俺たちをエスコートしてくれた。
☆
まあ、やることは結局予想通りだったってところだな。
あの展開から友好のお誘いなわけがない。十中八九、調子に乗ってる奴を懲らしめる系の呼び出しだった。
こういときは定番の校舎裏かな?と思いもしたが、クラスメイト君たちは中々の良識人なのかきちんと模擬試合ができる建物の一つを借りていた。
戦闘授業があることから、この学校にはこのような施設が数多く存在している。様々な環境下での戦闘の動きを覚えさせるためだろう。確か、密林のような施設もあったはずだ。
今回選ばれたのは何の変哲もない体育館のような施設。体育館と違うのは地面が人工物ではなく砂などの自然界にあるものを使われている点だろう。
そして、フィールドの周りには観客席のようなものがあり、見物人がチラホラと見える。天井は高く、これ建てるのにどの位の金額が掛かったのか見当もつかないくらいだ。
見物人のほとんどは我がFクラスの生徒たち。さすがに他のクラスの生徒が初日から喧嘩をやるだなんて思ってもなかったのだろう。知っていて、ここに来てたらどんな情報通だ。
俺とアルはフィールドの真ん中でクラスメイト君たちと対面している。
両者の距離はだいたい5メートルぐらいか。魔装使いにとってあってないような距離である。
「それで、アルのパンツが欲しいんだっけ?」
「え」
「違えよ!」
小粋なジョークなのだが、反応が過敏なんだよなぁ。男なら美少女のパンツを求めるものなのかね?美少女のパンティーおーくーれー!てきな?七つの玉が足りないね、探してこなきゃ!
「ジョークだよジョーク。アフガニスタンジョーク、おーけー?」
「なんでアフガニスタンなんです?」
そんなのはなんとなくだね。
人数でも、あの戦闘試験を見てれば俺より勝っているのは分かっているのに何故かクラスメイト君たちは余裕がない。
それにしてもアルはいつまで隣にいるのだろう。
「私の問題でもあるのですよ?騎士はこのような理不尽を許してはならいのです!むふーっ!」
かっこいい!!そして可愛い!!
けれど、それを納得してくれるとは限らない。
「おい、王族さん、さっさと捌けろや。こいつは俺らとそこの奴の喧嘩だ」
「5対1でやり合うのを見逃せと?クラスメイトなので穏便に済ませたいのですが、これは騎士である前に人として見過ごすことができる所業ではありません」
「アホか。これは俺らが申し込んで、そいつが受けた正式な喧嘩だぞ?騎士サマにはこれが理不尽だとでも言うのか。馬鹿かっつーの。んなどうでもいいもんで邪魔すんな」
「恥ずかしくはないのですか!たった一人に寄ってたかってなんて」
「あいにく俺らはFクラス、落ちこぼれの連中なんでな。取り得ることができる手段を使うのが普通なんでね」
「アル」
本当になんでここまで親身になってくれるのかわからない。たかだな高校のパートナーになっただけなのに。
「まあ、見てなって。騎士王の直系が出たら簡単に終わっちまう。それにパートナーの実力をちゃんと知るチャンスだぜ?」
騎士王の直系の強さに興味はあるが、今回はスルー。
アルは頬を膨らませ、少し拗ねてしまう。
その姿が……いや、と首を振って頭に浮かんだものを消す。直系だからといってその人そのものではないのだ。一つの個人を重ね合わせるのは失礼なのだから。
「よし、今日は俺んちで交流会でもすっか」
「急にどうしたのですか?」
「ほら、俺らほぼ初対面だからな。仲良くなるためには飯を囲うのが一番なんだよ。モルドレッドと歳高も呼んでワイワイしようぜ?」
「……」
そんな言葉が出るとは思わなかったのだろうか。呆気にとられた顔にニヤリと悪い笑みを返す。
そんな俺に苦笑を浮かべてしまう。納得はしてないが今回は譲ってくれたのだろう。感謝しかない。
「ふふ、じゃあ貴方の実力をしかと見させてもらいますね?」
「ヤハハッ、あまりの弱さに腰抜かすなよ?」
アルが観客席に移動したのをしかと見届けてから思考を切り替えていく。
英雄の子孫がいなくなれば余裕が取り戻せると思っていたが、どうにも緊張をしているのだ。
その姿に確信を得る。
各々が自分の得物を手に取り5メートルの距離を開けていく。クラスメイト君たちは俺を囲むように広がっていく。多対一なら当然の戦法だ。
体内の魔力に意識を向けて、腕につけているブレスレットに流し込む。
ブレスレットのゲージはモルドレッドと戦ったときより1増えて2割ほど溜まった。
「制限少量解除」
それにしても、初日からして散々なのに二日目でこれとかこの先不安しかない。
どうして、こう、落ち着いた学校生活を送ることができないのかね。
「武装開始」
ブレスレットが鍵を得たことにより形状が変化する。手首から肘まで覆う白銀のガントレット。
そして腰の後ろに手を回して一振りの得物を掴む。
観客席の一部からふざけんな!という声が聞こえた気がしたが気のせいだと思おう。後で面倒くさいことが起こる気がしてならない。
さて。
「なあ、俺あんまさこういうことを言いたくは無いんだよ」
「あ?何をだよ?」
このシナリオを。
「俺は別に強くないし、目立ちたくも無い。落ち着いて無難な生活ができれば構わないんだ」
決められた物語を。
「それでも言わせてもらうぞ?」
仕組んだ黒幕に向かって宣言する。
「―――たかだか、五人ごときで俺を倒せるとでも思ってんのか?」
見通しは甘く、抜けしかない罠なんて鼻で笑いながら壊してやるよ。
読んでくださりありがとうございます!
ブックマークをつけてくれた方、ブックマークをつけなくても読んでいただいた方、感想やポイントをくれた方。大変励みになります。
次回も是非楽しみにしていてください!
『異世界でも死ねなくて』もよろしくです!