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私のトンネル(著:帽子屋

ねぇ、少しだけ私の話を聞いてくれますか。

 

 私の実家は昔山を持っていて……まぁ山と言っても本当に小さな丘みたいなものですけれど……そこにあった小さなトンネルで遊ぶのが大好きだったんですよ。途中で土で埋まってしまっていて、向こう側には辿り着けなかったのだけれど、でも不思議とその場所が大好きだったんです。

 遊ぶと言ってもお友達とわいわい遊ぶんじゃなくて一人で土で埋まってしまってる所に背をつけて膝を抱えて座っているだけ。

 暗い子供って思うかしら?……いいえ。苛められていたわけじゃないのよ。ただ入り口から少しだけ光が差し込んでくるだけの薄暗くて静かなそこにいると何故だかとても心が落ち着いたの。私だけの秘密のトンネル、そう思っていたわ。でもある日を境にどうしてもそこへ行くことが出来なくなってしまったわ。

 

 どうしてかって?……そう、あれは夏の暑い日の事だったわ。小学校から帰ってくる途中に私ね、車にぶつかっちゃったの。でも私はその時はケロッとしててね、ただ車に凄く大きなへこみをつけてしまって……私、物心つく前の小さな頃に母を亡くしていてそれ以来父に育てられていたのだけれど、父がそれはそれは怖い人でね。小さな私は怪我とかよりもよそ様の車を傷付けて怒られる恐怖でいっぱいで思わずそこから逃げちゃったの。

 怪我は大丈夫だったかって?何故かその時は全然痛くなかったわ。

 沢山走って走って……私、いつの間にかトンネルがある場所へ来ていたわ。ここに隠れようって幼心に思ったんでしょうね。

 そしてトンネルのそばに来て違和感に気付いたの。トンネルの向こう側から風が流れてくる……もしかしたら土が消えちゃったのかもしれない、行ったことのない向こう側へ行けるのかもって私思ったわ。そしたら私、向こうにいってみたい!って思ってまるで吸い寄せられるようにしてそのトンネルの中に入っていっちゃったの。 

 トンネルの中はひんやりしていてね、いつもは通れなかった筈の場所には土なんて元から無かったみたいに石ころ一つ落ちてなくてわくわくしながら私、中を歩いていったわ。暫く歩いていったら遠くに光が見えて……その光を目指して行ったらひらかた場所についてね。そこはそれはそれは綺麗に整えられたお庭でね。透明な水がさらさら流れる小さな小川や色とりどりに咲き乱れる花々や見たことない木の実がなってる木が沢山生えていて……言葉では言い表せ無いようないい匂いが立ち込めていてね。まるで夢の中みたいな空間だったわ。

 私、探検気分でお庭を奥へ奥へと歩いて行ったの。お庭の持ち主に怒られるかもしれないなんて考えはどうしてか思い浮かばなくてね。お花を摘んだり木の根元に寝転がったりして遊んでいたわ。

 そのうち私、お腹がすいてしまって……ひとつくらいなら良いよね。って地面に落ちてる木の実を一つ拾って食べようとしたの。そしたらダメッ!って大きな声がして……思わず私、その木の実を落としちゃったわ。あ!怒られる!って思ってその声の方を見たら私と変わらないくらいの年の女の子が目をつり上げて走ってきてて……すぐに私の目の前に来たわ。

 そしたらその子、とても怒っていて……何しに来た!とかさっさと帰れ!とか大きな声で怒鳴り付けながら私の手を掴んでグイグイ引っ張って行くの。それも凄く強い力で……私、何度もその子に痛いって言ったのよ。でも聞いてくれなくてね……引き摺られるみたいにしてトンネルまで連れていかれたの。そしてトンネルに押し込むようにして背を押されてね……さっさと帰れ!まだ来るな!って私の背中に向かって言うの。私なんだか悔しくなっちゃって……何歩か歩いてから、その子の顔を覚えてやろうって振り返ろうとしたら握り拳くらいの大きさの石が飛んできて……私本当に怖くなって大泣きしなして父を呼びながら元来た道を走ったの。トンネルを抜けきった時は心底ホッとしたわ。

 もういいよね、あの子追いかけて来てないよね。ってトンネルを見ようとしたら目の前が真っ暗になっちゃって……


 そして目が覚めたらね。私、病院のベッドの上で包帯で体中をぐるぐる巻かれて点滴打たれて眠っていたの。

 側には父が泣く寸前みたいな顔して唇を引き結んで目元を真っ赤にしてこうやって指を組んでまるで祈るようなポーズをしててね……見たことがないような顔をしていたの。

 私がおとうさんって呼んだらそのまま泣き出しちゃって……あんな父をみたのは最初で最後だったかしらね。すぐに看護婦さんとお医者の先生が飛んできて、私車に轢かれてずっと眠ってたってお医者さんから聞かされたの。

 私、夢を見てたの。裏庭のトンネルで遊んでたのに……って言ったわ。そしたらね……皆そんなトンネルなんて知らないって口を揃えて言うの。そんなわけないって退院してすぐに私はトンネルを見に行ったわ。そしたらね……無いの、トンネル。目を瞑っていても辿り着ける位それこそ毎日のように通っていた筈だったのに……影も形もなくてもしかしたら私、長い長い夢をずっと見てて、それを本物だと信じてただけなのかもしれない。その時はそう思ったわ。

でもね……この年になって思うの。もしかしてあの子は私のおかあさんじゃなかったのかな、って。まだ自分のところへ私を連れていきたくなかったんじゃないのかな、って。

 ……ごめんなさいね。こんな夜更けに気味の悪い話を長々として……年寄りの戯れ言だと思って忘れてくださいね。看護婦さん。

 え?どうしてこの話を私にって?それは誰かに話しておきたかったというのもあるのだけれど……最近夢にみるようになったの。古びているけれど思いでの詰まった懐かしい生家、そして奥からひんやりとした風が吹いてくる私の……

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