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トンネル(著:花芽

 昔のことである。

 僕がまだ小学生だったとき、庭に変な穴が空いていたことがあった。母に聞くと、それはモグラの穴だと言う。「モグラがね、土の中でトンネルを掘っているんだよ」と、母は教えてくれた。

 当時の僕はモグラなんて見たことがなかったので、母の言う『モグラ』という生き物が一体どんな形をしているのかが気になった。僕はその、庭に空いた穴の中をまじまじと覗き込み、モグラを探した。穴は筒状になって、横へと――想像していたよりもずっと遠くまで伸びていた。それはまさに、トンネルそのものだった。

 手前の、日の光が届く範囲しか見ることは出来なかったが、僕はモグラ見たさにいつまでもその暗い穴の奥を眺めていた。結局その日は、モグラを見ることは叶わなかった。

 次の日。僕は学校の図書館でモグラを調べることにした。図鑑の目次を開き、目的のページを探す。

 密に生えた毛。ずんぐりとした体。大きな前足。鋭い爪。視覚がない代わりに嗅覚に優れ、土の中を移動して餌を捕食する。

 そんなモグラの写真と説明を見た僕は、前日よりもモグラを見たい、という思いが膨らんだ。

 どんな風に動くのだろう。どんな風に土の中で生活しているのだろう。どんな声で鳴くのだろう。どんな仕草で餌を食べるのだろう。

 僕の頭の中はモグラの事でいっぱいになった。下校時間が待ち遠しくて、午後の授業は集中できなかった。駆け足で家に帰ると、父の車があった。いつも夜遅くにならないと家に帰ってこない人だったので、夕方の時点で家にいるなんて、なんだか不思議に思えた。

 帰宅した僕は、ランドセルを下ろすことさえせずに足早に庭へ――モグラの穴がある場所へと向かった。

父の後ろ姿があった。庭の隅で草むしりをしているらしい。父は僕に気が付き、おかえりと声をかけてきた。僕は適当に返事をする。

 僕の気持ちは、目の前にいる父にではなく、地中にいるであろうモグラに向いていたので、父の言葉なんて耳に入らず、曖昧に頷くばかりだった。

 父との会話を終えた僕は、早速モグラの穴の前に座り込んだ。早く会えないかな、なんて子供らしい期待を胸に、そのモグラが作った穴を見つめた。その時。

「ほうら。モグラだぞ」

 声がした。父の声。僕は顔を上げ、父がいる方を見た。そこには死んだモグラを、まるで僕に見せびらかすかのように片手で持ち上げている父がいた。

 昔のことである。もう何十年も前のはずなのに、僕はこの出来事を、中々忘れることが出来ないでいる。


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