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物語の域  作者: なつめくう
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妖精ピアニストⅣ

第5話 妖精ピアニストⅣ


そうだ......私は本を開いて気がついたら森にいたんだ。あの少女は一体......。いや考えてもわからないな。いまはこの世界から出る事と約束を果たさなければな。


ふかふかのベッドの上で夢現微睡みた私は目を覚ました。眼に映るは木の天井と吊るされた灯だ。


「ここは......?」


顔を上げて周囲を見渡すと、木の上から蹴りを見舞いした少女の隣にいた少年と目が合った。


「あ!お姉ちゃん、起きたよ!」


少年は嬉しそうにそう言った。よく見てみるとここは、イルムじいの家だ。


「あ、起きたのね。えっと、さっきはゴメン!人間がいたから侵入者かと思っちゃって......」


そう言って頭を下げて謝罪をしてくれた。艶やかな黒髪が私の前に垂れ下がったので触って見た。


「ひゃ!?」


うん。サラサラしている。高級クッションのように触り心地が良いので撫で始めたら少女は倒れてしまった。顔から煙が出るのではないかというレベルで顔を真っ赤にしていた。


「ひぃぃぃ......」


「お、お姉ちゃん!?」


羞恥心で気絶するなんて初めて見たぞ。私はベットから這い出て、空いたベットに少女を乗せるために持ち上げた。なかなか軽いな。これならあと3人居ても持ち上げられるだろう。この子はアレだな、喋らなければ大和撫子になれると思う。髪からは金木犀のような匂いもするし、ここらへんは妖精の特技かもしれんが......。例えばイルムじいはすっきりする匂いがする。

メリーはアマリリス。この少年からは爽やかな匂いだ。


「ひぃ!?」


少年と目があったら怯えられてしまった。今の私は獲物の匂いを嗅ぎわけることに必死になって居て、はたから見ればなかなかヤバイと思う。


「安心しろ。匂いを嗅いでいただけだから」


そう言って宥めようとしたところ、更に怯えてしまって部屋から飛び出てしまった。


「ありゃりゃ......」


これは反省しなければならないな。まさか、あそこまで怖がりだとは思わなかったよ。私は少女をベットに寝かせて一息ついていた所で扉が開いた。


「ふぉっふぉっふぉ!お主は面白きかな。最初から見させてもらったぞ」


表れたのはその顔に笑みを浮かべているイルムじいだった。最初から見てたなら助けてくれよ......。


「イルムじいさん。あの双子は一体?」


「あやつらはエナとシグと言ってな。男っぽいのがエナで臆病なのかシグじゃ」


なにやら変な双子だな。女の子扱いされて羞恥心で倒れるエナと私の眼光にやられて怯えてしまうシグ。なんというか、アンバランスな奴らだ。


「ところで私はどのくらい寝ていたんですか?」


「もう、朝じゃぞ。かれこれ10時間くらいかのぉ?」


疲労も溜まっていたのだろう。いきなり訳のわからない土地に来て歩き続けたのだから。


「さて、メリーは何処ですか?今日からメリーの人見知りを直したいと思います」


「そうかそうか。なら、ここを出て右手の通路を真っ直ぐ行けば着くはずじゃ」


「わかりました。あと、双子には後日謝らなければなりませんね......」


「なら、明日、訪ねて来なさい」


「ありがとうございます」


私は軽く頭を下げてイルムじいの家から出ていく。イルムじいのいった通りに右手の通路を進む。


人見知りを直す方法の考えはあるが、これは厳密に言えば直す作ではない。しかし、1ヶ月後のコンサートで演奏するために慣れるならコレでいいはずだ。


それと、私には人見知りを直す以外にもう一つ目的がある。それはこの本の世界からの脱出だ。まだ、確証はないが、取り戻した記憶を辿るとここが『オルモンドの森』である可能性が高いのだ。そういえば、メリーはこの森のことを妖精の森と言っていたが、果たして彼女の言っていた事は本当なのだろうか?実は演技が上手かったり......はないだろうな。


そんなことを考えながら歩く。すれ違う妖精達に朝の挨拶をして進む。朝から楽器を担いで飛んでいるけど、よく持ちながら飛べるなら。それと、寝ぼけてるのか蛇行してる妖精もいる。やめてくれよ、妖精が木にぶつかってる姿なんて私は見たくないぞ......。


そんな私の切望も虚しく一人の妖精が木にぶつかってしまう。遠目から見た限りでは琴をもった少女だった。少女はぶつかった衝撃で墜落して、琴の下敷きになっていた。なにがあっても楽器を守るその精神には敬意を表すと同時に、朝の弱さには同情した。かく言う私も朝に強いわけではないがあれほどではない。


うん?よく見てみると見たことある顔だな。あの方向は確か......あぁ。メリーか。


私は目をクルクル回しているであろうメリーの元に走って向かう。まったく、人の期待を裏切らぬ少女だよ。

周りの妖精は手慣れた感じで毛布をかけている。琴も安全な場所に移動させられている。どうやら妖精達にとっても見慣れている光景らしい。俺は走っている自分がバカらしく思えて減速し、やがて彼女の元に辿り着いた。


「ひぇ〜お星様が回るぅぅ」


この顔を見てると彼女が嘘を言っていたと少し疑った自分が恥ずかしいよ。こいつには無理だ。妖精史上一の馬鹿で純粋なやつなんだろうな。これ以上がいるなら、私は相手をすることができないだろう。


私はメリーを持ち上げて背中に乗せ、メリーの家に向かって歩く。ついでに琴をお姫様抱っこしていく。本来であればメリーと琴の位置関係は逆だろうが、前に抱えている時に何かされたらたまったもんじゃ無いからな。琴の穏やかそうな表情を見ている方がマシだよ。


メリーと彫られた木を発見した私はやっと着いたと言う感じでため息を吐いた。メリーの家(木)は他の木に比べると小さく、登る必要がなかった。その為、すぐに扉を開いて中に入ることができた。


木の中は質素で飾り気がなく、寂れた田舎の家よりも部屋は小さく、家具も少ない。私はギシギシと音を立てるベットにメリーを寝かせて、琴を壁に立て掛けた。


「はぁ......メリーと話すのにも一苦労だよ。人見知りの前に根本的な所から変えた方がいいんじゃ......いや、無理だな」


私のキャパシティーを超えた問題は放置するのが賢い判断と言えるだろう。この天災妖精は人様が足を踏み入れてはいけない領域にいる。それさえわかればどうとでもなるさ......きっとな。


私はメリーが目を覚ますまでにふと目に入った本棚の本を手に取った。その本は子供用の絵本だった。と言うより、本棚には絵本しか入っていない。

俺は暇つぶし兼、この妖精の森について知るために絵本を読み始めた。


題名、妖精の森。

作者、ラヴェル


かつて、しんじゅうたちがすんでいたもりがありました。


そこにはさまざまなしゅぞくがいて、たのしそうにくらしていました。


ですが、にんげんがせめてきてほろんでしまったのです。


ですが、ようせいだけみんなりょこうにいっていたため、いきのこっていたのです。


それからようせいたちは「う......ぅ?」私は読むのをやめて声の方を見る。メリーが目を擦って起き上がっていた。私は絵本を本棚に戻してメリーの方に行った。


「あ、れ?......」


メリーは周りを見渡してそれから私を見つけると首を傾げて止まった。恐らく、彼女の頭が時代に追いつけてないのだ。私は悲鳴を上げられる前に耳を塞い......「きゃぁぁぁぁぁぁ!?」


間に合わなかったのでメリーのソプラノボイスから発せられる殺人的な悲鳴を浴びた私の耳が悲鳴をあげる。


「うるさいぃぃぃぃぃ!!」


出会った時より威力が増しており、耳を塞ごうがその威力は衰えなかった。堪らず私は叫んでいたのだった。


それからしばらくして両者ともに落ち着いた所、メリーは木にぶつかって倒れたところを運んで上げたと説明すると謝罪してくれた。


「ごめんなさい!ごめんなさい!また、迷惑をかけてしまって......」


「いや、いい。諦めたから」


私は一呼吸置いてから話を始めた。


「ところで、メリー。私がなぜ来たかわかるかい?」


「え、?えっと......なんででしょう?」


うん。知ってた。メリーの株が私の曲線を振り切って崩壊している。


「人見知りを直すと約束しただろ」


「あぁ!そ、そうでした!」


あの時、勢いで言ってしまった事を今更後悔している。天使の演奏を見せてくれたメリーが此処までの天災だとは思わなかった。過ぎたことは仕方がない。約束した以上、それを果たすのが私だ。


「人見知りを直しての1ヶ月後のコンサートには期待してるからな!」


そう言うと彼女は困った顔をした。


「心配するな。1ヶ月で直してやる。思う存分演奏しろよ。私は楽しみにしているからな」


「え、えっと。私はコンサートには出ませんよ。例え、人見知りが直っても......」


最後は消え入りそうな声でそう言った。

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