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物語の域  作者: なつめくう
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妖精ピアニストIII

第3話 妖精ピアニストIII


メリーやイルムじいと雑談しながら歩いていると村が見えてきた。大きな木をくり抜いた中に梯子がかかっているツリーハウスがいくつも乱立している。これが妖精の村か。自然との調和を意識したのか、建築技術が足りないだけかわからないが、私は前者だと思いたい。


「着いたぞ。まずは儂の家で色々と説明させてもらうぞ」


「わかりました」


妖精たちは羽ばたいており、梯子を使わずに家と家を行き来している。あるものは木の枝に座って談笑し、また子供達は追いかけっこなどをしている。

そして、一番気になるのは皆んな何かしらの楽器を持っていることだ。小さなものから大きなものまで様々な楽器を持ち歩いている。ここら辺も説明してくれるだろうと思い、此処では何も言わなかった。


「あれ、人間?」

「うそ、なんでいるの?」

「でも、精霊に懐かれてるよ?」

「本当?」


どうやら人間と言うのは思った以上に珍しいらしくて好奇の視線に晒されることとなった。私は特に気にすることもなくイルムじいについて行く。俺の顔に何かついてるかな?自分の格好を整理してみよう。まず、会社帰りのためスーツを着ている。そして持っていたはずの鞄は消えており、現在の所持品は拾った石ころのみ。うん、不自然なところしか無いが仕方ないと割り切ろう。


イルムじいが大きな木の前で止まると、「着いたぞ」と言って梯子を上って行く。メリーは飛んで上まで行ってしまった。なるほどね。この梯子は人間用じゃなくて老人用のものなのか。俺はゆっくりと梯子を上って上の部屋に着いた。


部屋には本棚とベッド、それからテーブルがあり、床にはマットが引かれている。イルムじいはテーブルのそばに座って私に座るように促したので、私はイルムじいの前に座った。


「さて、まずは妖精の文化について話そう。ここに住むのであれば知らねばならぬからの」


「はい。お願いします」


「その前に、メリーはアイリスと遊んでおれ」


「はい!」


元気よく返事して隣の部屋に向かって盛大に転けて行くことは俺にとっては知ってたとしか言いようがない事だ。

すると、ドアが開いて中から白銀の髪を腰まで伸ばした蒼い瞳の少女がメリーを引きずって中に入れた。蒼い瞳の少女はこちらをチラッて見て扉を閉めた。


「アイリスは儂の孫じゃよ。なにぶん無愛想じゃがお主も仲良くしてやってくれ」


「はい。できるだけ善処します」


私の彼女に対しての第一印象は氷のお姫様と言ったところか。まぁ、第一印象など当てにならないことはメリーの一件で把握済みだ。きっと彼女も私のイメージを音を立てずに崩して行くだろう。


イルムじいから聞いた話を纏めればこうだ。

1.妖精は楽器を使って精霊と交流しているため、みんな楽器を持っている。


2.楽器にも数があり、4年に一回だけ行われるコンサートで優勝すればこの村に一つしかないグランドピアノを与えられる。


3.森の外に出ることは禁じられている。村の外に出るには誰かに報告してから出なければならない。


以上のことを話して聞かせてくれた。


「ルールの説明は以上じゃ。ここからは儂からのお願いなのだが、1ヶ月後にコンサートが開かれるのじゃが、それまでにメリーの人見知りを直してくれんか?儂の見立てでは優勝は間違いなくメリーじゃ。じゃが、奴は人前に立つと緊張で硬直してやがて倒れるのじゃ。まともに演奏できたものではないので頼みたい」


あの、素晴らしい演奏は一人の時でしか聞くことかできないのか!私はこれほどまでに絶望に打ちひしがれたことはない。


「わかりました。それまでに直して見せましょう」


私はそう決意したのであった。




その後イルムじいと軽い雑談を交えて外に出た。メリーはアイリスと遊んでいたし、やる事もあるので特訓は明日からにしよう。


私はイルムじいから村の地理を聞いたので現在は挨拶回りをしている。


「初めまして今日から村に住まわせてもらいます知樹と言うものです。よろしくお願いします」


「おや、ご丁寧に。こちらこそよろしくねぇ」


何てことを1時間かけて終えて私はイルムじいの家に帰る途中だった。


そう。上から声が聞こえた。枝の上に立って腕を組んでこちらを睨む少女と隣で少し涙目な少年だ。どちらも黒髪黒目で似ており、恐らく双子であろう片割れの少女が私めがけて飛び降りてきた。


「人間め!成敗!!」


少女のしなやかな足から繰り出される飛び蹴りは真っ直ぐに、そして力強く私の顔面を蹴ってスカートを翻して地面に着地する。その神秘の領域の下には何も履いておらず、紳士的にはアウトな光景だ。


着地に点数をつけるのであれば10点は固いだろうが、淑女としての点数は-297点となる。かく言う私はその衝撃で頭から後ろに倒れて地面と挨拶をしている。これで挨拶周りは完了だな。


おのれクソガキ!と心で囁き私の意識は闇に消えて言った。

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