第五話 強くなりたい俺と最強の幼馴染
SIDE:アレン
昔語り。
「なぁ、アレン? お前、最強になりたい?」
目の前の彼女にそう問われたとき、俺は驚いた。
何故、お前がそれを言うんだ?
お前こそが、最強じゃないか。
俺の名前はアレン。貴族じゃないので苗字はない。
そして俺には、小さい頃からの幼馴染がいる。
名前は、エディ。
俺と同い年の女の子だ。
亜麻色の髪に桃色の瞳が綺麗な、見た目は可憐で儚げな少女である。
見た目だけは。
エディの「伝説」の始まりは、六歳のとき。
俺たちのちょっと上の世代に、横暴でいつも虐めようとしてくるやつらがいた。
奴らのリーダーは村長の一人息子で、名前はジャック。
親である村長含め、大人たちも見つけるたびに叱ってはくれる。だが。
何やったって将来自分が村長になるのだから。
そんな考えの元、反省したふりをするだけでしばらく経てばまた繰り返すのだ。
力では叶わないので、俺たちはいつもジャック達にやられてばっかりだった。
やりかえすが、その倍をやりかえされた。
だが、あの日は。
エディと一緒に川に遊びにいこうとしたとき、ジャック達が俺らの行く手をふさいだ。
そして、俺の頭に泥団子をぶつけてきたのだ。
泥が俺の髪を茶色に染めたのをみて、奴らは笑った。
俺は負けじと反発した。
「なにすんだ!馬鹿ぁっ」
「下々の仲間にいれてやっただけさ。感謝しなあ!」
奴らは、とりわけ俺達のことを虐めてきた。
それは、俺の貴族みたいな金髪が気に入らないからだった。
このジャック達の行為はいつもよりひどかった。
俺がこぶしを振り上げると、ジャックはいとも簡単によけ、殴り返してくる。
でも、いつもどおりだった。
後ろで小刻みに震えるエディが叫ぶまでは。
エディの化けの皮がはがれるまでは。
「あーあーあー! いつものフリしてれば、鬱陶しい! 記憶振り返っても、鬱陶しいわお前ら!」
「はあ!?」
エディの科白に奴らははじめ、ポカンとしていた。
今までのエディはよくも悪くも「女の子」で、こんな言葉遣いはしなかったからだ。
俺は、うすうす気づき始めていたが。
「なに年下に当たってんだぁ? 羨むなら一人で羨んでろ!」
「羨んでねぇし!」
そんな言葉と共に、動揺しつつ殴りかかってきたジャックをいなし。
「だったら、自覚させてやるよ! 羨ましくて堪らないってな」
その後に続いたジャックの仲間の蹴りをよけ。
エディは、こぶしを振り上げた。
この後エディはジャック達に説教をした。彼らがぐれていたのは、このままこんな村で人生を終わらせるのが嫌だったから。俺をとりわけ虐めにきたのは、俺の金髪が「外の世界」を思い起こさせていらいらするからだった。
知るか馬鹿。
そんな彼らに、エディは言った。
「だったら、あたしが『こんな村』の意味をかえてやるよ」
エディはこのときから、「素の姿」をさらけだすようになったのだ。
八歳のとき、エディは森で一人、熊を狩ってきた。
十歳のとき、村の近くにならず者が住み着いた。
そいつらのひとりが村人の一人フィリップさんにいわれのない暴力を振るった。
エディはそれを知ると、ジャックを含めた仲間たちを集め、ならず者のアジトを一昼にして壊滅させた。
十二歳のとき、エディは「避難訓練」を始め。
十三歳のとき、見事に魔物たちから村人を守った。
エディはいつの間にか、村最強と呼ばれるようになってた。
エディの訝し気な目線を受けて、はっと我にかえる。
あれから、今。俺たちは、十六歳になった。
取り敢えず、エディの問いに返事をする。
「最強? なんでそんなことを?」
エディは言う。
「いや。昔、言ってたじゃないか。最強になりたいって」
そういえば、そうだったな。
俺は昔、そんなことを叫んでいた気がする。
「ああ。そう言えばそうだったな。確かにもっと強くなりたいとは思うけど」
「けど?」
そう言えばいつからだろう。
エディが強くなったのは。
「うーん。最強とは違うんだよなぁ」
いつからだろう。
俺が、最強を目指さなくなったのは。
アタシガ、カワリニ、ミンナヲマモルカラ。