第一話 転生したあたしと洟垂れの英雄 (短編該当部分)
前に登校した短編の、連載版です。
赤い炎が焼きつくしていくなか、泣くことしかできなかった。
「最低だ、お前っ。馬鹿、馬鹿」
目の前の体から命が消えていくなか、叫ぶことしかできなかった。
「この野郎、満足そうな面、しやがってっ」
無力な癖に、誰かを救おうとしたのがいけなかったのか。
でも、自分の行動の責任は自分がとるべきだ。
お前が償うものじゃない。
そんなことされて、残された側はどうすればいい?
降り出した雨は、なんの救いにもならなかった。
もう一度、叫ぶ。
お前も。自分も。
「最低だ」
そのことについて思い出したとき、あたしは自分が落ちた木を見つめながら呟いた。
身を起こし後ろ頭をさすってみると、たんこぶができている。これは後々つらいだろう。
あたしはため息を吐くと、今置かれた状況を整理し始める。
あたしの名前は、エディ。六才のヨタ村の女の子。
詳しくは覚えていないが、どうやら前世では「日本」という国の「東京」という所に住んでいたらしい。
銀色のビルが立ち並ぶ、今よりもずっと発展したところだ。
その世界は文化も今の世界よりも発達していた。
例えば、本。高くて村長の家にしかないものが、図書館に行けば無料でバカみたいに沢山読める。
丁度その世界では、「英雄と白と黒の竜」という物語が、映画化されるって騒がれていた。あたしも何故だか興味を持って、読んでみたが……。
ここからが、問題だ。
この世界は、その物語「英雄と白と黒の竜」の世界らしい。今までがあまりにも類似している。
しかも、あたし、エディは、初めに英雄をかばって死ぬ「初恋の少女」らしい。
「最強になるーっ」
ふと子供特有の甲高い声がして、あたしの意識が現実にもどった。
視線を声が聞こえる方向に向けて……悲しくなった。
「おいおい、こいつが英雄様かよ……」
あたしの隣では、金色の髪の男の子がはちゃめちゃに木の枝を振り回していた。
若干鼻水が垂れてる。
「隣で、木から落ちたお友達がいるっていうのに? 笑って気が付かないこの子供が?」
でも、この村にそれ以外、アレンって名前の金髪の男の子なんていない。
ていうか、金髪の人間がこいつ以外いない。
頭の中がガンガンと揺れてきた。どうやら落ちたダメージはたんこぶじゃ済まなかったらしい。
「本当に、最っ低だ」
「エディ!?」
もう一度、ぱたりと倒れていくあたしにやっと気づいたのだろう。
意識が消えていく中、未来の英雄は、顔を真っ青にして泥だらけのまま駆け寄ってきた。
「英雄と白と黒の竜」
剣と魔法の世界を描く、近年まれに見る王道なファンタジーの物語。その癖、作り込まれたストーリーが人気を呼んだ。
主人公の名前は、アレン。幼少期はしがない村人であったが、黒竜にその村を滅ぼされたことをきっかけに自分の無力さを感じ、強くなろうと旅にでる。旅の途中で白竜に会ったアレンは、白竜の気紛れから手ほどきをうけ、道中人々を救いながら成長していく。そして、最後に仇である黒竜を倒し、王国の姫君と結ばれた。
その、英雄の始まり、村が滅ぼされるとき、黒竜の配下である魔物から主人公をかばい、死んでしまうのが、エディという亜麻色の髪の少女。死に際にエディは言った。
「どうか、幸せに……生きて」
あたしは。
あたしはこういう物語が大っ嫌いだ。勝手に庇って、勝手に死んで、勝手にその命を背負わせて来る、そんな物語が大っ嫌いだ。綺麗なまま死んでいくくせに、こっちは汚いまま死ぬことも許されない、そんな物語が大っ嫌いだ。
生きるなら、一緒に生きたい。死ぬしかないなら、あがきまくった後、一緒に逝きたい。
だからこそ、こんな物語なんて、こんな運命なんて、こんなエディなんて壊してしまおう。
始まりまであと十年。取り敢えず、村人全員の逃げ足を鍛えておこう。
黒竜の軍団にだなんて、それこそ英雄にしか勝てないからな。
あと、回復魔法をマスターしておこう。けがしてもいいように。
閉じた瞼の裏で、あたしはそんなことを考えた。