期末魔法実技試験
康太が、動かなくなった。
筆記試験が終わってから部屋に帰ってくるなりベッドに突っ伏して、しばらく呻いたあとに完全に活動を停止した。
……なんて声掛けたらいいの、これ。
ちなみに、俺はまあいつも通り。取れそうな問題はちゃんとやって、取れなさそうな問題は当てずっぽう。文章を書かされるタイプの問題は後回しにして、選択問題ばかり拾っていけばまあまあ安定する。
そんなやり方を康太に勧めた。康太はいつも文章問題ばかり先にやって時間が足りなくなったりしていたようで、実際に選択問題だけで問題出してみたらまあまあ取れてた。
曰く、「文章問題って点数大きそうじゃん」とのこと。塵も積もれば山となる、ということわざを必死に教えました。
とりあえず声をかけよう。もう思いついた言葉でいっちまえ。
「……テスト、ダメだったのか?」
あァーッ! 俺のバカァーッ! いきなり核心に迫るやつがあるかァーッ!
「…………多分、これまでにない出来だったと思う」
「なら、なんでそんな芋虫みてえになってんだ?」
「…………なんか……今まで自分って何やってたんだろうって思って……」
まあ、やり方は人それぞれだしほら、と励まそうと思ったが、やめておいた。
その自らのやり方が間違いであったと悔いている人間にかける言葉を、俺は生憎と持ち合わせていないのだ。
「ほらほら、明日は魔法の実技だぜ。低ランク放出系魔法のテストだから俺でも楽勝。お前も、確か魔導武装を介さない魔法が苦手だったんだろ? ちょうどいい機会だと思うぜ」
そう言って、康太の背中を優しく叩いてやる。
「うう……そうだね……」
「ただ、これから先、どんどん高ランクの魔法になっていくことを考えると……つらい……マヂ無理……夏休み明けたら魔法陣専攻に転科しょ……」
どれだけ詠唱文を覚えても、魔力が足りなくて発動しなくて落第することを考えれば……いや待てよ? イイこと思いついた。
「授業変わっちゃうじゃん……」
魔法実技は移動授業である。その移動先はそれぞれが専攻している魔法学になる。俺も康太も悠人も放出魔法学なので移動先は同じなのだが、魔法陣だの自己強化だのを取っている生徒は別の教師のもとで授業を受けている。
「魔法陣学の実技なんだけどよう。アレって魔法陣制作を数日かけていいらしいからよ、さっさと陣だけ構築しちまって、数日かけて魔力を注ぎ込めば俺みたいな低ランク者でも安定して点取れるらしいんだよな。放出取ってから知ったけど」
放出魔法はその場で魔力が消費されるが、魔法陣は要求数まで魔力はストックされ続けるのである。魔力が回復したら魔法陣に注ぎ込む、を繰り返せば、俺のような低ランク者でも高ランク魔法陣を作れる。入学時点で実技に数日かけることを知っていれば取ってたのに……。
「ともかくだ、筆記のことは一旦忘れようぜ。返ってきた時にまた落ち込むなり喜ぶなりすりゃいいさ。だろ?」
「ん、そうだね。大輔、単語帳取って」
「あいよ」
英語のでなく、魔法語の単語帳である。学校がくれました。
「大輔はすごいよねえ、いっぱい単語覚えてるんだもん」
「爺ちゃんに教えてもらってただけだよ。ガキの頃から魔導士目指してたからな」
実際、結構な単語を覚えている。暇があれば爺ちゃん謹製の単語帳を見ていたなあ。
「じゃあさ、問題出してよ問題。僕は目を瞑っとくからさ」
「へいへい」
「じゃあ……」
そうして、俺と康太は明日に備えて勉強したのである。
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実技試験当日。
俺たち2組の面々は訓練室に集まっていた。
床に座る俺たちの前に立つ須崎先生。
「えー、今日は実技だ。2回目なので特にこれといった説明はしない。放出は私についてこい。魔法陣は稲垣先生のところへ、自己強化は神帯先生のところへ行くように」
俺は放出なので、須崎先生についていく。ハイヒールで凛と歩く須崎先生はかっこいい。だが……どうしても俺の視線はお尻に向いてしまう……ッ!
そんな俺を横からつつく者がいた。康太だ。
「……今、先生のお尻見てた?」
「ソンナコトナイヨー」
「見てたでしょ」
「ソンナコトナイヨー」
「テスト前にそんなこと考えてて大丈夫かなあ……」
訓練室を歩く。何も投影されていないので、とんでもなく広く真っ白な空間だ。
「さて、この辺りでいいだろう」
須崎先生が、持っていたタブレットを操作する。
すると、訓練室に風景が投影され始める。
現れたのは……洋画で見かけるような射撃訓練場だった。
離れたところには人型の的も置いてある。
「では出席番号順に行うぞ。まず1組1番! 嗚呼崎 入江! ここに立て」
「はい!」
呼ばれた他クラスの少女が、須崎先生の指す場所に立った。
「私は今から魔法詠唱を日本語で話す。それを魔法語に訳し発動しろ。これを三回繰り返し、点数を付ける。いいな?」
『はい!』
試験が始まった。
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「2組6番! 鹿沼 大輔!」
「はい!」
しばらくして、俺の番が回ってきた。
さて……どんな詠唱が出題されるやら。
今までの流れから見ると、おおよそ2~4語で構成された簡単な詠唱だけだ。これなら低ランクな俺でも点数を取れるだろう。
「1問目だ。炎の槍で貫け」
「炎の槍で貫け!」
属性詞、主語(ないし名詞)、動詞の3語詠唱。うむ、簡単だ。
唱えた通り、掌の先で光る赤い魔法陣から槍を象った炎が現れ、遠くの的をぶち抜いた。うむ、自分でもなかなか無駄のない魔力コントロール。他属性魔法はまだ効率化の余地があるかもしれない。
「よし、では2問目だ。雷にて破壊せよ」
「か、雷ィ!? なんだっけなえーと……雷にて破壊せよ」
黄色い魔法陣から、雷が現れる。閃光はまっすぐ的に直撃した。
「うむ、いいぞ。では最後だ。風よ、十一の剣となりて敵を切り裂け」
難問が出た。ど、どうしよう。ええと……ご、5語詠唱じゃねえか! 特に数字が入っているのがまたややこしい。今日始めての5語詠唱が俺とかツイてないにも程がある。
「う……風よ………………」
数字……そうだえーと。
「十一の剣となりて敵を切り裂け!」
おおー、と後ろから歓声が出た。難問だった……。
緑色の魔法陣から、色のついた剣を模した風が11本現れ、的に向かって飛翔し、的をバラバラにした。
「ぐ、ぐふっ……」
な、なんたる魔力消費──! どう考えても11本はキツいって。
「よし、満点だ。部屋に戻ってよし」
「わ、わーい……」
ヨロヨロと部屋への帰路を……辿る前に悠人と康太を離れたところで待つことにした。一緒に帰る約束をしているのだ。しかし、しんっど……。まだ保有量的には余裕があるが、一度の消費量が大きいと疲れてしまう。例えるならば50m走を全力疾走した後、という感じ。
「次、2組7番、公崎 悠人!」
「はい」
おお、2組のエース。特別に禁呪の使用を許可されているラッキーボーイ。まあ、禁呪詞つけないと魔法が発動しない体質だから仕方ないんだけどネ。
「では1問目だ。炎にて包め」
「英雄を支えし力無き者共の声よ。炎にて包め」
いつも通り、禁呪を唱えてから普通の詠唱。
だが……的の周りにとてつもない大きさの炎のドームが現れてしまった。禁呪、魔力の消費方法を変えるだけじゃなく魔法の威力をアホみたいに上げるから……。
順番待ちの生徒たちがドン引きしている。2語詠唱の威力じゃないんだもん。俺があのサイズの魔法を唱えようと思ったら限りなく大きなとか付けないと無理。
……いや、付けても途中で魔力切れて半分以下のサイズにしかならなさそうだな。はあ……。
その後も悠人は3語詠唱と4語詠唱をえげつない威力の魔法でこなしていった。
悠人のあとの生徒が全員気の毒過ぎる。アレのあとに魔法を披露しないといけないとか拷問に近いんじゃねえか。
ちなみに、康太は1問だけ落とした。
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「いやあ、俺でも取れる実技はありがてえなあ」
「言ってしまえば単純な暗記テストだったからね。しかし、大輔もすごいもんだね、ただの1つも魔法を外さなかったじゃないか」
「外す外さない以前の広範囲爆撃マンに言われたくねえよ。まあ、ああいうコントロールは得意だからな」
そもそも全く動かない的だしな。
魔法は基本的に目線や意識の中心部に向けて飛ぶ。だが、少し魔力を消費すればちょっと曲げたりも出来るので要練習。
「ボクは……最後の詠唱がマジでわかんなくて……」
「数詞は鬼門だよなァ。1桁ならともかく、2桁からはややこしいことこの上ねえんだもん。……悠人、5683は?」
「え、なんだい急に。ええと、5683かな、合ってる?」
「ごめん、出しといてなんだけど合ってるか把握してない」
「ええ……」
へー、4桁ってなんかもう超絶ややこしいんだなー、へー……。まあ詠唱する機会なんか一生ないんだろうけど。
「そうだ、みんなは夏休み、どうする予定なんだい?」
「ああ、明後日からか。俺は最初の一週間は実家に帰るぜ」
「そうなの? そういえば、前に田舎だとか言ってたけど……どこなんだい?」
「東京っちゃ東京なんだけどな。蝉和村ってわかるか? 檜原村の近くの集落なんだけどよう」
「聞いたことないなあ……」
「まあ、あった方がビックリだよ。で、俺はしばらく本土に帰るんで、なんかあるならこっちに帰ってきてからにしてくれなー」
「そっか、ここって一応離島なんだっけ……」
康太がそう呟いた。たまに忘れがちになるが……ここは日本最南端の島なのだ。島の中央に行くとサンゴ礁が見れるヨ。
「お前らはどうすんだ?」
「僕はミオに誘われてね、アルカニリオス王国に行くんだ。向こうの文化はこっちじゃ見られないものが多いし楽しみだよ」
「…………」
あ、こいつデートのお誘いだって気付いてねえ。うーん、あとで幽ヶ峰にチクっとくか……面白そうだし……。
「康太は?」
「ボクはねー、部屋で死ぬほどゲームしようかと思ってるんだ」
「……そういえば明日発売だっけ、ブレイクスルーシリーズの新作」
ブレイクスルー。珍しい日本発のFPSシリーズだ。ちょっと有り得ない広さのマップで101対101の大迫力の近未来戦闘が行われるゲームである。人型ロボットから獣型ロボット、ファンタジー系のロボットに乗って戦ったり、歩兵でロボットに立ち向かったり出来る。更にマップの端には巨大戦艦があり、101人目はここで艦長として戦闘支援を行うのだ。今作では宇宙マップが追加されるらしい、もうすっごい楽しみ。
「そう! ふふふ……ボクはこの夏休みをFPSに捧げるまであるよ!」
「幸せそうだな……帰ってきたらパーティ組んでやろうぜ。あー、モニター買っといてよかったわ」
「そうだね! 大輔が出遅れている間にマスターして、帰ってきたらリードしてあげるとも!」
なんて屈託のない笑顔なんだ。
「みんな見事にバラバラだな」
せっかく初めての夏休みなのだ。みんなでどこかに行きたい気持ちはある。
「じゃあさ、みんなが帰ってきたら海に行かないか?」
そう、悠人が言った。なるほど、夏だしな……。
「いいじゃねえか。どこの海に行くんだ?」
「……まあ決めてないけど、おいおいね」
言い出したばっかなんだから決まってるわけねえだろ。何聞いてんだ俺は。
「……なあ、どうせ試験終わったんだし打ち上げでもしようぜ、ファミレスとかカラオケで」
「お、良いね! みんなも誘おうか」
そうして、俺たちの1学期は終わりを告げた。
……あ、明日の終業式で終わるんだった。




