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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
幕間 期末試験
96/210

テスト勉強会

      ~~~~~鹿沼大輔の場合~~~~~



 気付けば、もう7月。

 夏休みまで、あと一ヶ月もない。


 だが。



「第一回! チキチキ☆期末対策勉強会ィィィィィーーーーーッ!」



 その前にテストがあります。



「な、なんだいその胡乱なイベント名は……」

 悠人が俺の異常なテンションにドン引きしていた。てへ☆

 ちなみに、ここは悠人と幽ヶ峰の部屋(愛の巣)。林間学校の時に発案した悠人に続いて康太も「せっかくだしさ、みんなで勉強会とかしようよ!」と言ったのに端を発し、一番最初に言い出した悠人の部屋で開催される運びとなった。俺と康太の部屋にはゲーム機がアホほど置いてあるので、今回のイベントに一番向いてない。

「つっても、別にどいつもこいつもそこまで勉強会が必要だとは思わねえんだけどな」

 今回のイベントに参加しているのは俺、康太、悠人、幽ヶ峰、アルカニア、旅原さん、レッセリア兄妹の合計八人。あと勉強はしないけど普通にいるシエル。



 二人部屋に九人いるとはいえ、ここの寮の部屋はちょっとした高級マンションの一室レベルなので、まったく窮屈さは感じない。こんなの作るから反対団体に税金の無駄遣いだとか言われるんだろうけど、そんなこと知ったことか俺たちは快適ですイェーイ!

 室内には床に小さな机が2つ置いてあり、4人ずつ分かれて床に座ってお勉強、という感じ。

 シエルはベッドの上で、俺の持参した携帯ゲーム機で遊んでいる。いつもは活発で好奇心旺盛なシエルも、ゲームをやっている時は別人かと思うほど静かになる。

「で、何からやりますの?」

「順当に考えて、国語からかい?」

 レッセリア兄妹が俺に質問をしてきた。

「いんや、全員の苦手科目しかやんねーよ」

「えっ? 満遍なくやらなくていいのかい?」

 エリーが驚いたように言う。

 そこへ悠人が助け舟を出してくれた。



「得意な科目をやったってしょうがないだろう?」

「そうそう、得意科目ってのがなんで得意なのかって言ったら、結局そういうのは自分に合ってるからだ。合ってるもんは自然とそこそこ出来る。なら、わざわざ時間を使うこともねえだろうよ」

「で、お前ら持ってきたんだろうな、アレ」

 持ってくるように指示しておいたものを促すと、全員は一枚の紙を取り出して、机の上に置いた。

「じゃ、俺と悠人で確認するぞ~」

 それは、中間試験の結果が書かれた紙だ。点数が低いものから手を付けていく、という流れになる。

「俺は康太とレッセリア兄妹を見るから、残りは頼むぜ」

「うん、任せて」

 


 そうやって、まず俺と悠人で全員の苦手科目を把握するところから。

 というか、俺が教師役をやっているのがまずおかしいのである。前回だって平均点は75点ぐらいだったし、もう一人の教師役である悠人(中間試験平均98点)には到底敵わない。

「さて、まずは康太から見てみ……待って?」

 平均点、40点。

 文系科目はそこそこ取れているが、理数系が壊滅的だ。ギリギリ赤点は免れているレベル。ちなみに、エルゼラシュルドの赤点は35点である。

「なんでだよ! 初回の中間なんかそこまで難しい問題なかっただろ! なんなら問題数水増しのために中学レベルの問題だって出てたじゃねえか! ちゃんと勉強したのか?」

「べん……きょう……?」

「お前も勉強会やろうって言っただろ! 初めてそんな言葉聞きましたみたいな顔するんじゃねえ!」

 こんなんだったから勉強会を提案してきたのか……。ともかく、康太の苦手科目がわかったので次に行こう。

「エミリアは……。うわ、全部俺より良く出来てる……お前が教師役やれよ……」

 平均90点だった。俺の場合は文系科目が高く、理数系が比較的低いが故の75点だったが、エミリアは文系も理系もそつなくこなしている。



「まあ、貴族ですので」

 ふふーん、と自慢げにエミリアが言った。ない胸を張っている。

「ってことは、エリーもイイ点取ってんだろうな、どれ……」

 ……エリオットの紙がない。

 しかし、さっき机の上に置いたのは俺も確認しているので……隠したってことだろうか。

「エリー、お前……」

「ぼっ、僕はいいからっ! 康太くんの勉強をみんなで見ようじゃないかッ!」

「エミリア、頼む」

「はいですの」



 エミリアが、エリオットの後ろに回り込んで羽交い締めにする。

「床にも手にも紙がない……とすると、大輔さん、ポケットの中ですわ!」

「よし、でかした!」

 俺はエリオットのズボンのポケットに手を突っ込む。

「ひゃぁぁぁぁぁぁっ!」

「やめろ! へ、変な声を上げるんじゃねえっ!」

 ただでさえ女みたいな声をしているのに、ポケットに手を入れられているのがこそばゆいのか嬌声みたいな悲鳴を上げられた。変な気分になるから勘弁してほしい。

「前にはねえ! じゃあケツポケットォォォォーッ!」

「や、やめ、ダメだ、お尻は────!」

 ズボッと、両方の尻ポケットに同時に手を突っ込む。

「くひぃぃぃぃぃぃんっ!」

 やめろ……やめろ……妙にエロい悲鳴をやめろ……。

 そこで右手に何かが当たったので、すかさずサルベージ。



「解放してよーし!」

「イエッサーですわ!」

 ノリいいなこいつ。

「ひ、ひどい……ひどいよぅ……」

 エリオットはその場に倒れ伏してしまった。 

「どれどれ……?」

 隠すほどの点数ってことは……そりゃもうヤバいもんなのだろ……う!?

「英語が……壊滅的だッ……!」

 全体的には良い。エミリアと比べても遜色ないほどだ。だが……英語がとにかくエラいことになっている。28点ってなんだよ、初めて見たわ。

「日本語を覚えるのでいっぱいいっぱいなのに……さらによく知らない国の言語なんか出来るわけないだろう……」

 それは、非常に切実な声だった。まあ確かに、彼らにしてみれば英語って第二外国語みたいなものだもんな。



「でもむしろ、エミリアはよく出来てるよな。俺も英語は苦手だってのに」

「まあ、もしもこれが受験英語でなく会話用の英語だったら、わたくしも大変だったのですけれどね」

「英語の点数がどれだけ高くても、別に話せるようになるわけじゃねーからなー」

 やるだけ無駄感は尋常じゃないけれども、やんなきゃ大学受験に響くんだからやるしかない。

「これで苦手科目は洗い出せたな。エリーは英語、康太は……全部……」

「てへ☆」

 てへじゃねえよ可愛いなクソッタレ。

「じゃ、始めっかー」

 地獄の勉強会が、始まった。



      ~~~~~二時間後~~~~~



「終わる気配がない」

 まずは英語から初めていたのだが……エリオットも康太も、高校に入ってからの英単語がそもそも覚えられていなかった。

「中学レベルはまあ、入学できるほどには出来てるけども……」

 康太も中学までの内容はまあ出来ているというのに、高校入学後の内容がかなり壊滅的だ。

「でも、テストまでまだ日数はありますわ」

「今回の範囲も授業を聞いてればわかるレベルだしな、まあ一学期なんてそんなもんか」

 そう言ったあと、康太が机の下で俺の足を蹴った。

「な、なんでだ……」

「なんでもないよっ!」



 よくわからないが怒られた。

「さて……じゃあ続けるか」

「ですわね。英単語をどうやって覚えさせましょうか……」

「そのあと文法もあるかと思うと頭痛くなってきた」

 テストまで日数があるとはいえ……いや、範囲内の単語だけやればまだ間に合うかもしれない。

「ともかく、だ。単語帳をひたすらやるぞ」

 その言葉に、康太とエリオットは頷いた。うむ、やる気はあるらしい。

 さーて、と身体をストレッチさせていると。



『やあ、元気かい?』



 そんな声が、脳内に響いた。

 紛れもなく、悠人の声。だが……悠人は向こうでミオの相手をしている。

『夢想……!』

 脱獄したと聞いていたが……この島に戻って来ていたというのか。

『で、早速本題なんだけれどもね、今から僕が指定する地点に来てほしいんだけど、いいかい』

 ……何を言っているんだ、こいつ。

 例えば決着をつけようと悠人に魔素(マナ)を通じて話しかけるならばわかる。

 だが……なんで俺なんだよ。意味がわかんねえ。

『そう構えないでくれ、少し話がしたいだけさ。危害を加えるつもりはない』

『……信用できると思うか?』

『はは、そりゃ無理だろうね。だけど君は来るとも』



『なんでそう思う? これを他の奴らに話しても良いんだぜ?』

『僕らは魔物武装(ガルフィアンナ)って代物を作ってね、今も実際に持ってるんだ。魔導武装に魔物(ガルナ)(レン)を組み合わせたものだね』

 それは、紛れもない脅迫だった。

 有り得ない例え話だが……結界内に魔物(ガルナ)がいたとして、その魔物(ガルナ)が人間を襲った場合、結界が持つ蘇生の効果を受けられずに死ぬ、とされている。

 そんなものが魔導武装と組み合わさったとなれば。

『……知り合いから聞いてるぜ、結界内でも人間を殺せる最悪の武器だろ』

『どうだい、来る気になったかな?』

 来なければ、魔物武装(ガルフィアンナ)で人を襲うぞ、とでも言いたいのだろう。クソッタレ。



『…………どこに行きゃいい』

『1階のロビーにある男子トイレの一番奥の個室に』

 やだ、トイレで密会……?

『そこに転送魔法陣を置いてある。魔法陣が他の誰かに見つかる前に来ることをオススメするよ。じゃあ、待ってるよ』

 心中舌打ちをしながら、俺は立ち上がった。

「悪い、トイレ行ってくるわ」

 嘘は言ってない。そのまま部屋を出ようとする。

「あら、どちらへ?」

 エミリアがふとこちらを向いた。部屋にだってトイレはあるのだから、そりゃ出ようとすればおかしい。

「あー、腹痛を伴う方だからよ、いくらダチん部屋だっつっても気が引けるだろ? 俺の部屋で済ませてくるよ」

「そうでしたか。いってらっしゃいませ、ですの」



 なんとか誤魔化せたらしい。

 そのまま部屋から出て廊下を歩き、エレベーターに乗って1階へ。

 共用トイレの一番奥の個室に入ると、何かを踏んだようでカサリ、という音が足元から聞こえた。

 それは、そこそこの大きさのコピー用紙だ。魔法陣が描かれている。

「わーい、なんてローコスト」

 俺は、光に包まれた。



      ~~~~~~~~~~



 学生寮の屋上は非常に凝ったものになっている。

 屋上庭園が備えられ、かつカフェが併設されているのだ。しかも、壁や天井としてガラスが張られている。雨の日でも屋上でコーヒーが嗜めるというわけだ。



 しかし、俺が入学直後に毛布を持って寝泊まりしてやろうとした場所も屋上に繋がっている。あっちは生徒の立ち入りが禁止されているが。


 そして今、俺が転送させられた場所でもある。


 俺の眼前には見知った顔がいる。悠人と全く同じ顔、同じ声……だが、浮かべる表情や仕草は全く違う人物。

 夢想だ。

 更に見知らぬ男が二人、夢想の両隣に立っているのと、俺の真後ろに一人だ。

「や、悪いね、突然呼び出してさ」

「本当にな。で、なんだってんだよ」

「いやなに、ちょっとした挨拶をね」

「挨拶だぁ?」

 俺とお前はそんなに仲良くねーだろ。

 というか……。



「この首筋に当たってる冷たいもんをなんとかしてくれよ、なあ」

 そう、呼ばれてわざわざ来てやったというのに、なぜか命の危機にあるのである。

「オルファくん、離していいよ。彼は──馬鹿じゃないからね」

「……わかりました」

 すっと、俺の首筋から冷たいものが離れた。見ると、それは一振りのナイフだ。

 だが、その鍔の部分に、オレンジ色の小さな球体がついている。

魔物武装(ガルフィアンナ)、か……危害加えないとか言ってよくもまあそんなもんを俺に当ててたなお前ら」

「だけど危害、加わってないだろう?」

「未遂はノーカンってお前……お前……」



 敵同士だというのに、明らかに空気がおかしい。

 本当にこちらへの敵意が、ない。

「でだね、まあ用事といえば2つなんだけど」

「……」

「まず1つ。さっき言った通り、挨拶をしに来たのさ。あれだけのことをした割には処分が軽いどころか、本部所属になってね、沖ノ鳥島を離れることになったんだ」

「そうかい、そりゃおめでとさん」

 読めない、真意が……読めない。

 何故その話を俺にする? わざわざ呼び出してまで、だ。

「で、2つ目なんだけど」



 夢想は、俺の方に手を伸ばした。まるで、握手でも求めているみたいに。

「ユニオンに──来ないかい?」

「…………は?」

 ビルで対峙したときにもスカウトっぽいことは言われた。言われたが……冗談じゃなかったのか、アレ。

「君は……僕に似ている。その行き場のない劣等感、ただ漠然とした自己嫌悪がね」

「……」

 また、劣等感か。

 イエルヴァさんにもかつて言われた、俺が抱いているはずのない感情を。

 無自覚な、それを。



「…………悪いな、俺は監督官になって年収一千万コースって夢があるんだ。反社会的勢力に属するつもりはねえよ。安定しなさそうだし」

 と、返した。そう返すほか、なかった。

「そうかい、それが君が想う夢、というわけか」

 しかし、夢想は妙に納得した様子だ。

「だけどそうだね、もしも君が夢敗れた時……また声をかけることにするよ。ほら、滑り止めの就職先さ」

「それ、職って呼んでいいもんじゃねえだろ……」

 返すと、夢想は何がおかしいのか、少し笑ってから俺に言う。

「いやあ、君と話すのは新鮮でいいね。正義感一辺倒な人間なら、きっと僕らを捕まえようとしただろうし、ここへ来たとしても僕らを警戒し続けていただろう」

 したって無駄だからだ。警戒って行為には対応がその後に付きまとう。だが、俺にはどんなことが起きてもどうにかする力なんかないので、もう諦めきっているに過ぎない。

 もしも今、目の前の全員が俺に襲いかかってきたら……俺は為す術なく命を落とすだろう。



「君は不思議な人間だ。高校一年生で……よくもまあそこまで身の程を弁えているものだよ。だけどね、僕は思うのさ」

 ゆっくりと、夢想は俺の方へ歩み寄ってくる。

「きっと君は……自らを過小評価し過ぎているんじゃないか、とね」

 ああ、またか。

 こいつらはまた、違う誰かを見ている。

 ここに鹿沼大輔という人間がいるのに。弱っちくて、何も出来ないちっぽけな人間がいるのに。


 何が見えているのだろう。誰が見えているのだろう。

 彼らが見る鹿沼大輔とは、どんなやつなのだろう。


「…………正当な評価さ。誰よりも、俺が知ってるとも」

 そう言うと、それでも夢想は笑顔を崩さずに俺に言う。

「評価というものは本人ではなく、第三者がつけるものさ」



 勘弁してくれ。俺に出来ないことまで求められるのはゴメンだ。

「ま、気が変わったら僕らの元へ来てくれればいいさ。君みたいなのをずっと敵として相手にしていると、こっちも疲れるしね。……ああ、褒めてるんだ、一応ね」

「どうしようもなく挫折したら行くかもな」

 そう軽口を叩くと、夢想は微笑みだけを返してきた。

「じゃあ、僕らはもう行くよ。本部に顔を出さなくちゃいけなくてね」

「そうかい、あんま悪いことすんなよ」

 夢想が指を鳴らすと、横にいた男が詠唱する。そして、ゲートが現れた。こちらとレナウセムを繋ぐゲートだ。

「それが悪人にかける言葉かい。じゃあ……っとと、忘れてた忘れてた」

 そのゲートへ夢想が入ろうとして──足を止める。



「実はね、僕もついに名前まで名乗ることになったのさ。ほら、今まで通り名(コード)だけだったんだけど、夢想ってのがもう1人本部にいてね。仕方なく、さ」

「へー」

 魔導犯罪者のコードネーム。元々は魔導士が魔導犯罪者を識別するために使っていたものが、いつの間にか彼ら自身で名乗るようになったとかなんとか。

「夢想のエラー。僕のことはそう呼んでくれ。……じゃあ、また会おう。あ、いや、でも僕がいる現場には来ないでね、やりにくいから」

「一年生だ、あんたらが来ない限りは俺たちは現場にも出ねえよ」

「そりゃ安心したよ。じゃあね」

 4人の魔導犯罪者たちは、ゲートの中へ入っていった。



「さて……」

 勉強どころではなくなった感は否めないけれども、かと言ってやらないわけにもいかない。

 屋上から出ようとして、扉に手を掛けて……気付く。

 鍵、内側じゃん。開いてないじゃん。



 …………どうすっかなー。



 数分悩んだのち、普通に屋上から飛び降りてからエレベーターに乗って戻った。

 着地した時、イチャついていた通行カップルの眼の前に着地してしまい、彼氏が失神するぐらい驚かせてしまったが部屋には帰れたので問題ありません。

 え、わざとだろって? あはは、まっさかー。

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