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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
戦慄の林間学校
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二人っきりの談笑

      ~~~~~鹿沼大輔の場合~~~~~



 つかれた。


 全てのアスレチックを踏破する頃には、すでに夜になっていた。もう身体バッキバキ、明日絶対筋肉痛で動けなくなるな……。

「こちらをどうぞ」

 すっと横からスポーツドリンクが差し出される。

「おお、ありがと……う?」

 そこにいたのは、エミリアだった。

「よう、もうゴールしてたのか」

 案外早いもんだな。……いや、基準を知らないから、もしかすると遅い方かもしれないけど。



「その……大変だったようですわね、罰ゲームの方は」

「まあ、そうだな。っつっても、いい運動にはなったよ。あんまり身体、動かせなかったからな」

 すぐ……死んだし……。

 ここで、エミリアの顔が少し暗いことに気付く。ははーん、さては幽ヶ峰に殺されたせいで俺が怒髪天を衝いてるんじゃないかと危惧してんな?

「先に言っとくけど、お前が心配してるようなことはねえぞ」

「……その、ようですわね」

 すごく驚いていたような顔をしている。俺がこんなことで怒るか。

 こういうの慣れてんだから。

「ま、八つ当たりぐらいはしてやらねえとな。今度、幽ヶ峰に作らせた料理を俺が作ったっつって悠人に持っていってやろう。あいつ微塵も悪くないけど」

 あいつなら笑ってない目で美味しいとか言いながら全部食いそう。ダメだ、見てて面白くない。そうだな……幽ヶ峰にキャラ弁でコーティングした激辛料理でも振る舞ってやろうかな。



「……はぁ、まあ大輔さんがそれでいいなら、わたくしもしつこくは聞きませんわ」

「おう、そうしろそうしろ」

 手近なソファに座る。エミリアも、何故か俺の隣に座った。

「…………怒ってないか見に来ただけなんじゃないの?」

「あら、お邪魔でして?」

「そういうわけじゃないけど……」

 こう、女の子と二人っきりって変に緊張するんだよな。まあ、俺に気があるってことはありえないから変な期待はしねーけどさ。

 俺は無害な童貞なのだ。3つの「ない」を心情としている。


 期待しない、勘違いしない、恋しない。


 中学時代に痛い目を見てから、そう自分に言い聞かせている。

 あの時に言われた言葉も、あの顔も。

 俺は絶対に忘れない。忘れては、いけない。

 他ならぬ俺が、二度と傷付かないためにも。



「……大輔さん?」

「おっと、エロいこと考えてたわごめん」

「どういう神経してますの!?」

「いやーすまんすまん、冗談だ。で、なんか話でもあるのか?」

 わざわざ俺の隣に座るってことは、まあ何かしらの用があるってことだろう。経験則からして。

「いえ、先程大輔さんが仰った通りの用事でしたわ」

「……ならなんで俺の隣に?」

「お話がしたい、ではいけませんか?」

「お前は変わったやつだなぁ……」



 そういうことなら、休憩がてら会話に興じるとしよう。

 せっかくだし、俺も色々聞くとしよう。

 俺が死んだあとに面白イベントがなかったか、とかさ。



      ~~~~~エミリア・レッセリアの場合~~~~~



 つくづく本音のわからない方ですわね、大輔さんは……。

 どの声を聞いても、せいぜい可愛らしい嫌がらせを考えている程度だなんて。

 ……わたくしが心配しすぎているだけかもしれませんが……。

 ですが、本当に小さく小さく小さく聞こえた声が、わたくしの頭の中で響きます。

 警戒心が薄ければ薄いほど心の声は明瞭に聞こえますが、隠したい過去、相手には話せないと思っている思考の声はほとんど聞こえません。

 生まれながらにして与えられた体質。『眼の前にいる人間の心の声を聞く』という力。



 一度は使い方を誤りましたが……もはや二度はありませんわ。

「大輔さんについて聞きたいですわ」

 間違えないためにも、相手のことを理解する必要があります。

 思考の声を聞くことは記憶を見ることではありません。心の中で考えていることは当人の常用語で思考されます。それを聞いているに過ぎないのですから。

「昔、どんな子供でしたの?」

 小さい頃の大輔さん。こちらの世界では生まれてすぐ魔力(エナ)が決まるわけでなく、ある程度の成長の後に保有魔力(エナ)量が判明する、と聞きましたわ。

 空っぽの器のまま産まれ、成長と共に器が満たされてゆく……そして、保有量が多ければ多いほど最大値がわかるのも遅い……と。



「うーん、泣き虫だったな」

 あら、意外ですわ。泣いているところなんて見たことないですのに。

 さて、もう一つの声は……。

 ……聞こえませんわね。あまり話したくない過去だったのかもしれませんわ。

「今は流石にデカくなったし、昔みてーにピーピー泣かねえけどさ」

 そう言って、大輔さんは恥ずかしそうに笑います。そこで、声が聞こえてきました。

『ま、イジメられてたんで泣いてたのもあったなあ。せめて無魔力者(エナガロシア)ならイジメられずに済んだんだろうけど』

 ……昔の話を聞くのはやめましょう。大輔さんの笑顔を見ていて苦しくなって来ましたわ……。



「では……そうですわね……」

 さきほど微かに聞こえた声からして、恋愛の類の話は避けるべきでしょう。しかし……何を聞いたものでしょう……。

「逆に聞くけどよ、お前の子供の頃はどうだったんだ?」

 大輔さんからそう聞かれました。こちらが聞きっぱなしも悪いですものね。

「習い事で大変だったことはよく覚えておりますわ。レナウセム……つまりわたくしたちの世界でも楽器演奏は貴族の嗜みでしたわ。あとは貴族の会合にお兄さまの代わりに行かされたり……あまり遊んでいた記憶はありませんわね」

 その頃でしたわね、初めて出来た友達を失ったのは。

「やっぱよう、中世ヨーロッパみてえだよな」

「それ、よく言われますわね」



 割と違う文化ではあると思うのですけれど……確かにこちらの、特に欧州の文化に近しいところは多いですわね。

 大輔さんが楽しそうに笑います。

「夏休みあたりにさ、アルカニリオスをぶらぶら歩き回りてえんだよな。聞いたところによると、犯罪発生率がすげえ低いんだろ? 海外って怖くて行けねえしさ。前にちょろっと行ったときもそこまで回れなかったしな」

「あら、嬉しいことを仰りますのね。その際にはわたくしとお兄さまでご案内して差し上げますわ」

「いいね、あと二ヶ月で夏休みだし、おすすめスポットでも考えといてくれよ」

「その前に期末試験がありますわね」

「いいね、あと二ヶ月で夏休みだし、おすすめスポットでも考えといてくれよ」

「……現実逃避はいけませんわよ」



 やめろォ! と大輔さんは声を上げて頭を抱えますわ。

「国語やら数学は別にいいんだが……魔法学系の実技が……実技が……」

「……そういえばありましたわね、そんなのも」

 大輔さんは中間試験の時も悶えていらっしゃったのですわ。ちょうど今のように。

「赤点ギリギリだったの、学校辞めようかって気になるからダメだわ……」

「成績見せていただきましたけど、どうして身体能力強化系や設置系を中心にしなかったんですの?」

 エルゼラシュルドでは入学時に学科を決めます。魔法には幾つかの分類があり、苦手だと思うものや伸ばしたいと思うものを選択することでその一点の授業が増える仕組みになっているのですわ。

 学期ごとに転科ができるので、満足すれば他の魔法を学ぶことも出来ます。

 大輔さんと悠人さんは放出魔法学……つまり、最もポピュラーな魔法であり、魔法そのもののイメージとなるものですわね。



「そっちはもう俺が使える分の効率化は済んでんだよ。学ぶことがねえ。だいたい爺ちゃんに教えてもらったからな」

「なるほど……過去の積み重ねは大事ですわね」

 効率化というのは魔法を理解し、余分な魔力(エナ)を削ぎ落とすことです。魔法は詠唱に必要な魔力(エナ)以上のものを流しても効果はありませんが、漠然と詠唱しているだけでは、生まれた魔力(エナ)の流れにつられて、使わないはずの魔力(エナ)まで流れ出てしまうのです。例えるなら水流でしょうか。

「俺みたいな魔力(エナ)の少ない人間はさ、最初に効率化をするんだよ。使える魔法がそもそも少ないから、魔法語を覚えるよりも効率化やってる時間の方が長いのさ」

「……大変な研鑽の上に立っていらっしゃるのですわね」

 大輔さんがいま、このソファに座るまでどれだけ苦労を重ねてきたのでしょう。

 わたくしが貴族相手に媚びている間、大輔さんは血の滲むような努力をしてきたのでしょう。



「ま、その結果がコレだけどさ」

 魔力(エナ)の保有量は増えることがありません。どれだけ訓練をしても、器が大きくなることはないのです。

「……申し訳ございません、無神経なことを」

「いーよ、そんなに気を遣われるのも辛いもんだぜ?」

「あ……」

 また、やってしまいました。

「まあでも、魔力(エナ)がないならないなりのやり方ってもんがある。それに、機動官よりも俺が目指してる監察官の方が給料多いんだからなザマーミロ」

「……首が飛びやすいんですわよね?」

「それを言うなよ……」



 大輔さんは項垂れてしまいます。

「でも、きっと大輔さんなら大丈夫ですわ。わたくし達のことを……よく見ていらっしゃいますもの。監察官は機動官との信頼関係が必須、でしょう?」

「それを言うならお前のほうがそうだろ、いっつも気ィ遣ってんだから」

「…………!」

 つい、驚いてしまいました。

 そんなことを言われたのは、いつぶりでしょう。

「……その、なんだ、あー。ありがとな、俺のこととか気にかけてくれてさ」

 心の声は聞こえませんでした。いえ、違いますわね。


 口に出した声と心の声が、重なっていましたわ。

 それは、つまり────。



「ふふっ、どういたしまして、ですわ!」

 わたくしは出来る限りの笑顔で、大輔さんの感謝に応えたのでした。

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