ゴール!
~~~~~公崎悠人の場合~~~~~
「……これが、ゴール?」
僕たちの前には、立方体の建造物。
見慣れた分厚いスライドドアと、下を示す印。要は、エレベーターだ。
「罠だったりはしないかい?」
そうエリオット君が隣から聞く。
「周囲には何かしらの表記があるわけでもありませんわね。ゴールとでも書いてあればわかりやすいのですけれど」
「行ってみないことにはわからないだろうけど……確かに罠である可能性もあるし、どうしようか」
地下に潜ったとして罠だとわかった場合、脱出に多少手間取ってしまう。死亡すると罰ゲームがある今回、そんなリスクは避けたいところだけど……。
「あ、エレベーターが来たよ」
……康太くんが平然とエレベーターを呼んでいた。
チーン、という軽妙な音とともにドアが開く。
「乗らないの?」
康太くんはすぐさまエレベーターに乗り込んだかと思うと、小首をかしげてこちらを見てきた。
「怖いもの知らずだなあ……」
「でも、ここでぐずぐずしてても仕方ないんじゃないかしら?」
「…………珍しく……意見が合う……」
ミオと葵も頷いてエレベーターに乗った。エリオットくんやエミリアちゃんもそれに続く。
「まあ、最悪天井をぶち抜けばいいか。ゴールだったら二度手間だしね」
そして、結局全員で地下に潜ることになった。
~~~~~鹿沼大輔の場合~~~~~
「死んじゃう」
全ての訓練メニューを……俺は、終えたと思っていたのだ。
戦闘訓練もやったし、筋トレもやった。
だが、俺の眼前に広がるこれはなんだ。
「絶対に死んじゃう」
凄まじい風切り音を立てながら振り子運動をする、巨大な刃物。
それが、長細い通路にびっしりと敷き詰められている。
通路の先には扉がある。あそこがゴールだろうか。
『やあ、気分はどうだ鹿沼』
「最悪です」
『だろうな。さて、ここからが本番だ。現生徒会書紀はボロ泣きしていた』
「……俺の知り合いですねそれ」
『で、だ。お前にはこれから我々謹製の素晴らしいアスレチックコースに挑戦してもらう』
「アスレチックは見えないのにバイオレンスは見えます先生」
道としては一本道だもの。ただエゲツないビジュアルのギロチンが大量にぶんぶこぶんぶこ動いているだけ。
『安心しろ。アレは魔法とはまた違った製法で出来ているので、直撃しても魔力にダメージが入りつつ吹き飛ばされるだけだ。まあ、その道から落ちると即死する設定にしてあるけどな』
「要は当たったら即死ってことでしょう?」
『その通りだ。まあ、やってみるのが一番早かろう。一本道だ、さっさと終わらせてしまえ。……ああ、あと魔導武装の使用は禁止だ。身体能力の向上があると見ているこっちが面白くないのでな』
今聞き捨てならないことが聞こえたような気がするがなるほど、魔導武装は使えないのか。確かに権限させようとすると……何かに邪魔をされているような感覚。確かに出せないらしい。
しかし……見たところギロチンの動きも緩慢だ。いくら威力があろうとも当たらなければ意味もないだろう。
よし、と、一歩踏み出す。
右足が床に付いた瞬間、床に矢印の模様が浮かび上がった。
「え」
矢印が輝き、俺の身体は矢印が示す方向へ――弾き飛ばされた。
「移動床ァァァァァァァーーーッ!?」
そして、魔導武装も装備していないので空中で身動きが取れない。いつもの癖で空中を蹴ろうとするが、もちろん動くわけもない。
飛ばされた先に、ギロチン。
「へぶろす!」
脇腹に衝撃。痛みはなく、ただ何かが当たった気がするだけだ。しかし俺の身体は吹っ飛び、通路脇の真っ暗闇へ叩き落とされる。
いつもならば蒼空を出して窮地を脱するところだが、今の俺には何も出来ない。
先の見えない虚空へ、浮遊感を伴いながら落ちる。
そして、俺の意識は一瞬途絶える。
目を覚ますと、アスレチックの入り口。眼前の床には、光を失った矢印模様。
「……なるほど、そりゃギロチンだけなわけないか」
恐らく、もっと性格の悪い罠が仕掛けられている。どうにかして攻略しなければ。
『一度発動した罠は数度と動かん。全部の罠に引っ掛かれば、安全に進めるぞ』
「それまでが一切安全じゃない……」
つまり救済措置なのだろう。
『ま、引き続き頑張りたまえ』
それっきり、アナウンスは聞こえなくなった。
「……ま、やるかぁ」
よく見ると床はパネル模様になっている。これ、もしかして全部に罠が設置されてんのかな……。
立ち止まっていても仕方ないので、行くしかあるまい。……まあ痛くはないから……。
その後。
急に一本道が坂道になった上に大量のローションが降ってくる。
トゲが大量に付いた鉄球が降り注ぐ。
とてつもない勢いの風が吹く。
避けられないほどのビームが出てくる。
etc……。
時計もないのでどれぐらいの時間が経ったかわからないが、俺は疲れで死にかけながらもゴールに辿り着いた。
『おお、おめでとう。私達の予想よりも早く終わったな』
すごく久しぶりに須崎先生の声を聴いた気がする。
「ほんと……確かにこれは泣きたくなりますね……でも……泣きませんでしたよ……」
『うむ、だがまあ、ここで泣くようなやつは今までいなかったと思うぞ』
「え?」
ゴールの扉が開く。
そこは出口ではなく。
新たなアスレチックの入り口。
それも、どう見てもギロチン一本橋の数倍の大きさである。そう、かつて行った訓練施設よりもデカいかもしれない。
恐らく、これらのアスレチックは大阪にあった施設のような『実際に建設してあるもの』ではなく、歓迎戦などで使うような『魔法でそれらしいモノを作っている』のが正しいだろう。
「ま、まあ確かにアレだけじゃ泣くほどの罰ゲームにはならないっすよね。でも全然耐えられますよ。なんのこれしき」
『これは言わば二面だ。全部で五面まである。さて……ん、どうした鹿沼?』
マジ泣きした。
~~~~~広城康太の場合~~~~~
『………………』
ゴールした場所は、まるでホテルのロビーのようだった。
なんというか、あまりにも普通で拍子抜けしてしまった。
そこには、神帯先生が立っていた。
「先生……ええと、大輔はどこにいますか?」
悠人がかなり遠慮がちに神帯先生に聞く。
「あら、ゴールしてすぐそれかしらあん? 罰ゲームがあるって言ってたでしょおん? そっちにかかりっきりよおん」
「…………」
葵ちゃんが申し訳なさそうな顔で俯いた。
「それ、彼だけなんですか?」
「一人のために罰ゲームなんか作んないわよおん。リタイアした子全員それをやることになってるわあん」
「今、何人リタイアしたんですか?」
「現時点で五人よぉん。だけど、あのアスレチックは数日経ってから参加になるのおん。最初に軽い筋トレをやらせて、罰ゲームって言ってたけど全然楽勝じゃんと思わせてからやるって紅ちゃんが言ってたわあん」
「せ、性格が悪い!」
「まあ、Sっ気が強いからねえん。ああ、そうそう」
神帯先生は人数分の鍵を取り出した。
「これ、個室の鍵よおん。全員のサバイバルが終わるまではこの施設を好きに使っていいわあん。ジムとか色々あるのよおん」
「……あ、ありがとうございます」
「あら、元気ないわねえ。どうしたのおん?」
「その……ある意味僕らがリタイアさせたので、謝りたいんですけど」
神帯先生はそれを聞いて、少し顔をしかめる。
「こっちでも死因は確認してるわあん。料理に魔力が混ざって、それを摂取したことで自身の魔力が全損したっていう、なんとも珍しい死に方ねえ」
「…………私のせい……謝りたい」
「んー、やめといたほうがいいと思うわよん?」
意外な言葉だった。
どうしてだろう、とボクが考えていると、エミリアちゃんが口を開いた。
「ちょっとだけ込めた魔力で死んでしまうほど魔力が少ないとは思わなかった、とでも言うつもりですの?」
「あ……」
悠人ははっとしたように声を漏らした。
「まあ、謝りたいって気持ちはわかりますわ。ですけれど……きっと、それを大輔さんは望んでいないと思いますわよ」
それだけ言ってから、エミリアちゃんは「部屋に行きますわ」と言って離れていってしまった。
「……エミリア、なんか鹿沼のことなんでもわかってるって感じよね。昔から人の機微には聡い子だったけど……」
ミオちゃんがそう言う。
エリオットくんはその言葉を聞いて少し俯いた。何かを悩んでいるような表情をしている。
「……いや、僕が言うべきことじゃないな」
その声は、近くにいたボクでさえギリギリ聞こえるかどうかというほどだった。
「とりあえず、ボクも部屋に行くよ。謝るにせよ謝らないにせよ、大輔が戻ってこないことにはどうにもならないからね」
「そう……そうだね」
他のみんなも、部屋に向かうことになった。
~~~~~エミリア・レッセリアの場合~~~~~
わたくしはベッドにうつ伏せになっていました。
「……誰よりも早く、大輔さんに会わないと……」
こうやって気を揉んでいることが一番失礼だと、わかっています。
気を遣われることが、どれだけ辛いことかも、わかっています。
「もう……間違えるわけにはいかないのですわ」
昔の記憶が脳内によぎりました。泣いていたあの子に、あの時のわたくしは何も出来ませんでした。
たとえ、相手が胸に秘めた心の声を聞いてでも。わたくしは絶対に間違えません。
他ならぬ、わたくしのために。




