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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
戦慄の林間学校
92/210

ちょっとした一幕

 俺はぐったりと、与えられた部屋で寝転んでいた。

 罰ゲームを受けている間に日が昇っていたようで、林間学校も二日目に差し掛かっている。俺はもう脱落しているけれど。

 時計を見てみると4時を指していた。マジかよ、スタートしたの死んですぐだぞ。

「とりあえず……寝るか……」

 夜通し、休憩もほぼ無しでひたすら引率でついてきている教師の全員と模擬戦をさせられる上に負けるとペナルティでトレーニングがついてくる。嬉しくない。

 そしてちょうど全員に負けてきたところだ。勝てるわけねーだろ。

「……もう……限界……」

 そして、俺は泥のように眠ることにした。



      ~~~~~~~~~~



 カンカンカンカン!

 甲高い、金属と金属が激しくぶつかりあう音によって俺は叩き起こされた。

「な、なんだぁ……?」

 ゆっくりと目を開く。

 眩しい陽光、何者かのシルエット。

 これは……夢? こう、幼馴染が起こしに来てくれているような……?

「誰だ……?」

「あら、見えないのかしらあん?」

 おや? 思ったより野太い声だ。うん、とっても嫌な予感がするぞぅ!

「ワ・タ・シよぉん!」

 身の危険を感じて、完全に覚醒する。



 そこには、エプロンを着た神帯先生がいた。エプロンはビビッドピンクだしハートマークで盛り沢山、フリフリ付きの数え役満。

 その手には中華鍋とお玉。大きな音を立てるためにわざわざチョイスしたのだろうか。

 いや、そんなことはどうでもいい。問題は何より……。



「……なんでブーメランパンツと裸エプロンなんですか、先生……」

「うふ、可愛いでしょおん?」

「…………エプロンのデザインはいいと思いますよ」

「あら、ありがとうねえん、これアタシの手縫いなのよおん」

「想定外の女子力!」

 店売りと遜色ないクオリティだぞコレ。

「さて、じゃあそろそろ本題に入ろうかしら」

 言って、エプロンと中華鍋、お玉を粒子化させた。残ったのはその鍛え上げられた実用的な筋肉とブーメランパンツだけである。

「昨日、鹿沼クンは引率の先生総勢十三名にボロ負けしたわよねえん」

「そうですね、完膚なきまでに」



 この学園の教師は全員プロの魔導士でもあるのだ。しかもほぼ機動官。魔法を用いる戦闘のプロフェッショナルだ。

「そこで、それのペナルティがこれから始まるのよおん。敗北数に応じてキツくなっていくのだけど……大丈夫かしらあん?」

「なんでこの訓練、ここまで痛めつけることに特化してるんですか」

「元々は自殺防止の脅し文句だったのだけど、それでもサバイバルよりはマシだと自殺した子が結構出たのよおん。こっちもやると言った手前やらないわけにもいかなかったからねえん……事前に脅してた内容より更に過酷にした形でこの習慣が生まれたのよおん」

「自殺した連中を俺は絶対に許さない……ッ!」

 楽して自殺した奴らのせいで真面目なハプニングで死んだ俺が苦労するのは納得行かない。

「とは言っても、筋トレぐらいのものよおん。この施設の中にジムがあってねえん、お昼からそこでペナルティの訓練だから、準備なさあい」

「へーい」



 そういうことになった。



      ~~~~~~~~~~



 明日は絶対に筋肉痛でひいひい言うだろうなってぐらい筋トレした。今、打ち上げられたリュウグウノツカイみたいに倒れ伏している。

 数人の教師が同じく筋トレしていたが、俺のメニューは模擬戦全敗によって一番キツいものだったので別クラスの教師が俺を見てちょっと引いていた。

 もう無理、死んじゃう。

「おい、鹿沼、動けるか」

「その声は須崎先生……動けるように見えますか……?」

「最早顔をこちらに向ける余力さえないか。ではそのまま聞け」

「緊急案件ですか~……」

 俺はうつ伏せになりながら答える。ひっくり返る余力さえない。



「うむ。夢想が脱走したようだ」



「……緊急にも程がありませんか!?」

「恐らく拘置所に異世界とのゲートが出現したのだろう。幾ら魔力(エナ)の流れを止めていたとしても、ゲートは言ってしまえば自然現象だ。魔力(エナ)によって引き起こせる、というだけのな」

「なんでそれを俺に話すんだとか、なんでそんな大事じゃなさそうなんだとかどこから聞けばいいんですかね」

「まあ一応お前って当事者だしな……。あと、後者も行方はさておき手口や実行犯は特定に成功している。それに、レナウセムに逃げられてしまえば我々は追えんのだ。管轄が違うからな」

「レナウセム……ええと、異世界ってランディースですよね? また違うとこと繋がったんですか」

「うん? お前はアレか、向こうの事情には詳しくないのか? 意外だな」

 俺は異世界についてはそこまで詳しくはない。向こうで魔法が生まれたとか、魔法は元々女のためにあるものだとか、そういうことなら知っているのだが……異世界そのものの事情には詳しくはない。

「この話は公崎たちにもしておくつもりだ。……そういえば、公崎たちだが……そろそろここへ着きそうだぞ」

「もう!?」

「あと一日もあればここの場所がわかるだろう。まあ、もうかなり近くまでは来ているのだが……」

 須崎先生は苦笑いしながら言う。



「ここ、地下だからなあ……」

「……ちなみに、地上に目印とかは?」

「エレベーター乗り場がぽつんとあるだけだ」

 あの森の中でそんなの見つかるわけねーだろ。あの森の森加減は故郷の山を思い出したわ。

「だがエレベーター近辺は魔素(マナ)濃度を意図的に濃くしてある。目視で見付けられなくとも魔素(マナ)でわかるようにしてある」

「……俺って魔力(エナ)保有量的にそういうの感知しにくいんですけど」

「…………今お前はここにいる。それが全てだろう?」

 すごくいい笑顔で誤魔化された。くそう、美人め……ッ! 許しちゃうッ……!



「まあいいですよ、慣れてますし。魔導士を目指す人間のほとんどは高い魔力(エナ)を保有してるわけですから、そりゃそっちに合わせられます。俺が追いついてないのが悪いんですよ、こういうのは」

「む……しかし……」

「俺でも感知できる魔素(マナ)ってのは相当なもんです。異世界に行った時でさえ、ほとんど違いがわかんなかったですし」

 異世界の方がこちらよりも空気中の魔素(マナ)は濃い。それでも俺は違和感の一つも覚えなかった。

「それより、夢想の件についてはどこまで聞いていいんですか?」

 そう聞くと、須崎先生は少し悩んでから話し始めた。

「簡潔に話すが……要はヤツが拘留されていた部屋にゲートが開いたわけだ。いくら部屋の中の魔力(エナ)魔素(マナ)を封じても、異世界からゲートを開かれてしまえばどうにもならんのだよ。それが自然発生によるものであっても、意図的に引き起こされるものであってもな」

「なら、犯罪者は脱走し放題じゃないですか」

「だがな、ゲートは別にどこでもドアじゃない。……この説明をするには、まずレナウセムについて話さなくてはならんが……どうする?」

「……とりあえず、場所を改めませんか」



 運動もしないのに長々とジムに居座るのも申し訳ない。それに、そろそろ体力も回復した。……ちょっとだけ。

「いいだろう。では……そうだな、適当に会議室でも使うとしよう」

 俺はノロノロと起き上がって、須崎先生にふらふらついていった。



      ~~~~~~~~~~



「まあ、今後授業でやるような内容だ。軽く説明するので予習だとでも思っていればいい」

「わかりました」

 俺と須崎先生、そして面白そうだと合流してきた神帯先生の三人は施設の会議室に来ている。

「鹿沼クンって博識なイメージだったから、レナウセムのこと知らないって聞いたのはビックリだったわあん」

「俺をなんだと思ってるんですか……爺ちゃんはあまり向こうのことは教えてくれませんでしたからね」

 ほとんどの知識は爺ちゃんの受け売りでしかないのだ。

「じゃあまずは……そうね、ランディースのことは知ってるんだったわねえん?」

「ええ、異世界の名前だってことは」

「行ってしまえば、それはこの世界を地球だと呼称しているようなものだ。我々が実際に足を踏み入れているのはレナウセムという一地方でしかないんだよ」

「地方なんですか」



「そうだ。レナウセムは地球と全く同じ面積なのだよ。しかしランディースという世界そのものの広さは未だ明らかになっていない。なぜだかわかるか、鹿沼」

「ええと、瘴気によって世界が分断されているんでしたっけ」

 前に聞いたことあったような、なかったような。

「その通りだ。瘴気……厳密に言えば瘴壁だが、それを超える手立ては未だ見付かっていない。ある程度の高度までは届いていないようだが、向こうではロケットが打ち上げられんのだ。この辺りの詳しい話は今回は控えておこう。ともかく、こうした瘴壁によって分断された一つのいわば箱庭を地方と呼ぶわけだ」

「なるほど……」

「そして、地球と同じ面積であるという部分が大事でな。我々の世界……向こうの言葉ではこちらをアーザルと呼んでいるのでそれを用いるが……」



 須崎先生はティッシュペーパーを二枚取り出して、横に並べた。

「いいか、片方がアーザル、片方がレナウセムだと思え」

「はあ」

「今、世界はこうなっている」

 そう言って、二枚のティッシュを綺麗に重ねた。

「ここに指一本で力を加えればどうなる?」

「穴が空きます」

「それがゲートだと思えばいい」

 つまり双方の世界に空いた抜け穴……ということだろうか。



「片方のティッシュにだけ穴を空けたとしても、下には穴は空かん。……あー、つまりだな、別時空同座標、というやつだ。例えばここでゲートが5回開いたとしても、5回とも同じ場所にしか出ないわけだ。そして夢想の脱走の話になるのだが」

「はい」

「こちらと向こう……日本はアルカニリオス王国領と繋がっているのだが、拘置所やら刑務所などといった犯罪者を収容する場所の座標は合わせてあるのだよ。そうすればゲートが空いてしまっても抜けた先は結局同じようなブタ箱だからな」

「……なら、今回はどうやって」

「向こうの拘置所からゲートを開いたのだろうさ。更にそこから脱走したとなると……アルカニリオス王国内にユニオンの協力者がいると考えるのが妥当だろう」

「……それは一大事では?」

「ああ。向こうの拘置所の関係者か、それともそれらに口が利く権力者か、だろうな。レッセリア兄妹やアルカニアにこの話をしていいものかと悩む部分でもある。お前はどう思う、鹿沼」

「俺ですか!?」



 そんなこと突然言われても。

 しかし……うーん。

 祖国に魔導犯罪者の協力者がいると知った場合、あいつらならどんな反応をするだろうか。

 ……ダメだ、付き合いがまだ浅い。こうするだろうと断定することはできない。

 例えばただ拘置所の関係者が協力者だったとすれば、そいつを炙り出して裁くだけで済む話かもしれないが……ユニオンの連中にアルカニリオスの権力者がついていた場合……どうなる?

 アルカニアは一国の王女だし、レッセリアの二人もかなりの名家だと聞く。協力者が貴族であったと仮定して、どうなる?

 ……わからん。向こうのパワーバランスなんて知ったこっちゃない。どんな社会かもよく知らんのに。



 悠人には話しておくべきか? 夢想は悠人を狙っているようだったし、教えないでいれば不意打ちなんかをされてしまうかもしれない。

 夢想の脱走を教えておけば、それについて警戒するかもしれない。

「ちょっと俺には判断しかねます」

「……まあ、そうだろうな。いや、おかしなことを聞いた。すまなかったな」

「いえ、構いません。しかし、どうするんです、結局」

「私としては……アルカニリオスの人間にはあまり教えたくないところだ。不確定な情報を与えて貴族同士のイザコザが生まれてしまう恐れもある。完全にコトを把握してから、話すべきだと思っている」

「なんでわざわざ俺に聞いたんですか……?」

「なに、ズル賢いことでも考えつかんかと期待しただけだ、悪かったな」

 もうそんな認識なのかよ。悲しい。

「夢想は悠人を狙っている可能性が極めて高いです。悠人には話しておくべきかと」

「なに? ふむ……なら、お前と公崎にだけこの件は話しておくとしよう。あと、あいつは何かとアルカニリオスの人間と仲がいい。うっかり漏らしでもせんようにあの辺りの話は拘置所の関係者とだけ話しておこう」



「逆に、俺には話しても良かったんですか?」

「こういう話を漏らして面倒になるということがわかっているのはお前だろうな、と判断しただけだ」

「自己防衛能力が高いという意味で受け取っておきます」

「よろしい。では話は終わりだ。レナウセム地方についての話は今後の授業を楽しみにしていればいい」

「はい、須崎先生」

 頷くと、俺の隣から大きなあくびの声が聞こえてくる。

「……あら、もう終わったかしらあん?」

 神帯先生の左頬が赤くなっている。

 …………寝てたな……。



「では鹿沼、明日はまた模擬戦だ。身体を休めておけよ。施設内の教員エリア以外なら好きに使ってもいい」

「あ、模擬戦はまたやるんすね……わかりました。ありがとうございます」

「うむ。ではな。……ほら、行くぞ、神帯」

「あらあん、待ってえ~紅ちゃあん」

「その名で呼ぶなと言っているだろうに」

 二人はそう言い合いながら会議室を出ていった。

 仲いいんだな、あの二人……。



 とりあえず俺も会議室から出て、旅館にたまにあるようなゲームコーナーで遊ぶことにした。ひゃっほう。

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