外野たち
一方その頃、ビルの外。
「…………はあ」
エリオットはテントの柱にもたれかかって溜息をついていた。
「あら、幸せが逃げますわよ?」
エミリアはパイプ椅子に座りながら優雅に紅茶を飲んでいる。
「なんでそんなに余裕を持てるんだい……?」
「逆に、わたくし達が焦って何が出来ますの? 外で大騒ぎしていれば相手が牢屋に送られるのであれば、お酒でもなんでも持ってきますけれどね」
むぐ、とエリオットは口を閉じる。
エミリアが怒っていることに気付いたからだ。
「まったくもう、まったくもう……。大輔さんは結局見付からないし追い出されるし先生方は動く気配がありませんし!」
「そ、そこまでにしといた方が……ひっ」
康太がエミリアを諌めている途中で何かに怯え、数歩後ずさる。
「丸聞こえだぞ、エミリア」
須崎がテントの前に立っていた。
「す、すすすす須崎先生!?」
エミリアが焦りながら声の方を見る。
「ち、ち……ちが……」
「うん? 釈明くらいは聞いてやる」
「違いませんわ! 確かに強固な結界なのかも知れませんが、それにしたってわたくし達が中に転移させられる前とされた後で拠点にいる魔導士方の人数ほぼが変わっていないのはなんですの!? わたくし達、そんなこんなの内に一人逮捕しましたけれど!」
「……まあ、ぐうの音も出ないのは事実だ。あの結界は少々特殊でな。禁呪による物だ。禁呪による結界は通常の結界とどう違うか……授業ではまだ禁呪にはほぼ触れてないが、わかるか?」
「ええ。強度、細かい形状、通す魔法と通さない魔法を設定できるのですわよね」
「そうだ。あと、通す人物や所持している道具による通過の可否などもだな。そしてあの結界は、それをまあクソ丁寧に設定しているわけだ。結界の解析は出来たのだが……禁呪である以上、魔法を無効化できるような反則的な魔導具があれば話は別だろうが、生憎とそんなものは今の今まで見付かっていない。事前に魔法を阻止するものはあるがな」
「それで、先生方はどうするつもりですの? まさか、中にいる魔導士候補生が解決するのを待つとでも?」
「お前そこそこ無礼だなあ……。勿論、こちらもただ眺めているだけのつもりはないさ。いや、準備にかなり時間が掛かっているがな……そろそろ終わる頃だろう」
そう言って、須崎はテントの外を指差した。
「社会科見学だとでも言っておくか。ついてこい」
須崎が歩き出し、三人はそれに従う。
「……あれ、さっきまでありましたかしら?」
エミリアの視線の先には、巨大なテント。
「アレが我々魔導士の全力の準備、だ。中に入れてやろう。安心しろ、話は後で通す」
「「「安心できませんけど!?」」」
とは言いつつも、須﨑に連れられて3人はテントに足を踏み入れる。
「うわっまぶしっ」
康太が目を覆う。
「これは……巨大な魔杭? こっちの世界じゃ空気中の魔素が少な過ぎてマトモに動作しないはずじゃ?」
エリオットの言葉に須崎は頷いて言う。
「そうだ。こっちでは満足に動かん。なので改造した。見た目は魔杭そのものだが、中身は大量の魔力を溜めることの出来る貯金箱のようなものさ」
「それで、アレをどうするおつもりですの?」
「結界を破るには、結界の二倍以上の魔力をぶつけねばならん。それも一気に、な。あのバカでかいモノに魔力を限界まで貯蔵し、結界にぶち込んでやろう、ということさ」
「……それ、戦闘員減りますわよね?」
「まあそうなる。だがアレに魔力を込めるのは全員ここでの戦闘が不得手な魔導士だけだ」
「戦闘が不得手な魔導士なんているのですか?」
「ああ、厳密には狭所での戦闘が、だが。結構いるのだよ、広いところでしか力を発揮出来ないのが」
「……大輔とか、そのタチだなあ……」
康太は思わずそう呟いた。大輔は以前にも「狭いとこは苦手」とかそういう旨のことを言っていたように思う。
「さて、我々はアレに魔力が溜まり次第、作戦を実行する。お前らは謹慎中の身だから、見学以上は許可できんがね」
「勿論ですわ。邪魔になってもいけませんし、先ほどのテントに戻ってもよろしくて?」
「ああ、構わんよ」
「失礼しますわ。行きますわよ、二人共」
エミリアはそう言って康太とエリオットに声をかける。
「え? あ、ああ……」
「うん、行こー」
二人はエミリアに従って巨大なテントから出た。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「さて、状況を整理しましょうか」
学生用に用意されたテントに戻ってパイプ椅子に座るや否や、エミリアがそんなことを言い出した。
「まさか、まだ何かやるつもりなのかい?」
エリオットがそう聞くとエミリアは首を横に振る。
「それぐらいしかやること、ありませんわよ。それに色々と疑問もあるので、話せばなんとかなるかと思いまして」
「うん、ボクもちょっと気になることあるんだよね」
「えーと……」
エリオットは特にピンと来ていないらしい。
「わたくし達が何故ビルの中に飛ばされて、何故外に追い出されたのか……ですわよ」
「ああ、なるほどね」
「ボクらの前に急に転移魔法使いが現れて、気付けばすぐにビルの中だった。魔法陣、誰か見たかい?」
エリオットは頷きながら言う。
「ああ、僕らの足元に巨大な一つが展開してたよ」
「では、誰を中心にしていましたか?」
「公崎くんだったはずだけど……」
「つまり、わたくし達、とばっちりを受けたって可能性がある訳ですわね」
「……ああ、そういう事か」
転移魔法の魔法陣は、基本的に転移させる対象の真下に展開される。そしてその魔法陣の内側にあるものは全て転移の対象になるのだ。
「でも、公崎くんだけを狙うなら小さい魔法陣でも良かったはずじゃないかい?」
「相手からすれば敵陣に突っ込んできている訳ですから、狙いを外すわけにはいきませんでしょ? それに、魔法を察知されて回避されても困るでしょうし……同じ手は二度とは通用しないと加味した上での安全策だったのでは無いかしら」
「なるほどー」
康太が納得したように頷いた。
「そんで、オマケの僕らは散り散りにされてそれぞれ敵と戦ってた訳だけど、僕らに関しては勝っちゃったから追い出されたって感じかな?」
「だと思いますわよ? まあ、憶測に過ぎませんけれどね。向こうにとって都合が悪かったのかしら」
「はあ……中に戻れるなら戻りたいよ。もどかしいにも程がある」
「暇ですし、ね」
三人揃って、はぁ、とため息を吐いた。
同時に、地面が揺れる。
外から魔導士達の怒号が響く。
「何事ですの!?」
「まさか、魔杭が暴発したとか?」
「確かに魔力を溜め込み過ぎると爆発現象を起こしますけれど……まさかそんな……」
「とにかく外に行ってみよう!」
テントを慌てて出ると、臨時拠点のその中央のスペースに、男が立っていた。その足元のコンクリートは、男を中心にして砕けていた。とてつもなく重い物が落ちてきたように。
男は筋肉質の巨体。
須﨑が腕を組みながらその男の近くまで歩み寄り、口を開いた。
「ほう、魔導犯罪者とは……これまた珍客だな。悪いが……」
男達を、魔導士たちが取り囲む。その手には、魔導武装。
須﨑は片目を閉じて微笑んで、言う。
「大したもてなしは出来んぞ?」
須﨑を除く魔導士たちが男に向かって様々な属性の魔法を放つ。
それらは着弾して爆発し、爆煙が起こった。
しかし。
「気遣い無用。吾の仕事は主らの足止め故な。邪魔をしに来たのだ、歓迎されても困るというもの」
爆煙が急に晴れる。
そこには、魔鎧を纏った男の姿があった。
魔鎧の兜は円筒形で、俗に言うバケツ頭のような風体だ。鎧は飾り気のないフルプレートアーマーである。
「量産型の魔鎧か。だが……我々は侮らん。各員、戦闘用意」
「吾の名は無骨のベンケイ! 義によって助太刀いたす! ……人生で初めて言えたぞ……!」
睨み合う双方を、エリオット達は眺めていることしか出来ないのだった。




