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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
幕間 束の間のラブコメ(ただし相手は男)
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歓迎戦、始まります?

 悠人の腕にしがみ付いて離れないランクSの少女は「幽ヶ峰(かすがみね) (あおい)」と名乗った。今まで名前を知らなかったのもおかしな話ではあるが、まだ学校は始まって三日と経っていない。凄く濃密な時間を過ごしている気がする。


 長い校内通学路を通り、本校舎に入る。


 近未来的で綺麗な廊下を歩き、俺たち一行はB組の教室に入った。


「お、主戦力二名、遅いじゃん。30分も遅刻だぜい」


 声を掛けてきたのは田中…じゃない田村であった。切れよそのロン毛。


「やあ、キミたちが田村君の言ってた人たちだね?」


 田村の横に立っていた男子生徒が話しかけてきた。


「俺は松田(まつだ)周平(しゅうへい)。ランクAさ。よろしく。キミたちのことは良く聞くよ」


 松田はそう言うと、「おうい」と、窓際の席に座り、ライトノベルを読んでいた男子生徒に声を掛けた。生徒はそれに気付くと読んでいた本を閉じ、立ち上がってゆっくりと俺たちの方に歩いてきた。


「お、来ましたな。やっとブリーフィングが始められますぞ。自覚を持って欲しいですな、自覚を」


 こちらへ来るや否や彼はそう言って、右手の中指でメガネをつい、と上げた。本当にこんなことする人いるんだ……。


「ええと、なんのこと?」


 悠人は首を傾げていた。事態がややこしくなりそうなので助け舟を出す。


「今日みたいな大人数戦は登校時間より早い8時から、9時までの1時間が作戦会議(ブリーフィング)になってるんだ。試合は9時からだぜ。まあもう8時半なんだけどな。うっかりしてていつも通りの時間で来ちまった」


「ああ、そういうことね」


 わかったよ、と言って悠人は松田に向き直る。


「じゃあ、始めようか」


 俺たちは着席する。教壇の上に松田と先ほどのメガネ君が立っている。黒板代わりの巨大なモニターには、ビル街らしき場所のマップが表示されている。


「あー、拙者は時野。時野(ときの)誠司(せいじ)。時間もないから手短に作戦を伝えますぞ」


 と、メガネ君は言って、持っていたデバイスを操作する。すると、ビル街を映す画面はズームした。すると、クラスの人数と同じ数の矢印のようなアイコンが並んでいた。


「ええと、今回の戦闘エリアは『大阪難波』ですな……東京の街だと、土地勘がある人間が有利になるからなのだとか」


 でんでんタウン、と呼ばれる通りがある有名な街だ。その日本橋(にっぽんばし)は第二のアキバとも言われているらしい。行った事はないが。


「まあマップがこうして配られているわけだし土地勘もクソもねえと思いますが……まあ気にしたら負けですな」


 と時野は言い、隣に立っていた松田が口を開いた。


「作戦を伝える前に、まず今回の歓迎戦のルールをおさらいしよう。今回の戦闘訓練…歓迎戦は二年生との共同訓練だ。クラスは全部で34で、それがこの広いマップで一斉に戦うんだ。クラス全員が戦闘不能になると、そのクラスは脱落になる。そして残りが5クラスになった時点で終了になるのさ。何か質問は?」


 まあ単純に言えばバトルロワイヤルである。ちなみに、戦闘不能になった生徒はその場から医務室の空いているベッドに自動で転送される。負った傷は蘇生時に綺麗さっぱり消えてしまうサービス付き。


「……ん、ないみたいだね。じゃあこちらから作戦を提示させてもらうよ。決定稿ではないから、修正点等があればいつでも言ってくれ」


 その言葉はつまり、自分たちがこのクラスのリーダーではないことを暗に示している。勝手にリーダーを気取っては反感を買うし、かといって何もしないままでは作戦もないまま歓迎戦に挑むことになってしまう。


「まあ、作戦って言えるほど高尚な物じゃないんですよ。俺がみんなに提案するのはたった二言だけですからな」


 そう時野は言った。


「散開しろ。生き延びろ……そうすれば勝手に他が潰し合ってくれますさ。卑怯だって言われたって仕方ないけど、やらなきゃなんねえんです。何せ、残った5クラスには……」


 成績アップとかあるのだろうか。はて、先輩から話を聞いた記憶があるが、内容を覚えていない。何か貰えたっけなあ……。『絶対に勝った方がいい』と言われたのは覚えているのだけれど。


「学食一ヶ月間半額チケットが配られるんですぞ!」


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 クラスメイトのほとんどが天高く拳を突き上げて吼えた。



 もっと高尚な理由があるのかとか期待していた俺が馬鹿であった。



「と言うわけで相手に目に砂を投げつけるとか重点的に急所を狙うとかして絶対に生き延びてくだされ。手段は問わないし人道を踏み外しても構いませぬ。一人でも最後まで生き延びていたら学食半額ですぞ!」


 こいつらに良心はないのか。どんだけ切羽詰ったお財布事情抱えてんだよ。確かに学食半額はありがたいが、良心の呵責を乗り越えた先に食う飯は果たして美味いのか。


「みんな真面目に戦闘技術上げようと頑張ってるのになんでここだけ勝利への動機が不純なの……」


 悠人が呟いた。


「バイト面倒だからに決まってるだろ」


 田村が、それがさも当然であるかのように言った。この学園は毎月の初めに、生徒に金銭を配布する。それでも生活費と言うには少ないので、沖ノ鳥市内の飲食店やコンビニでバイトをすることで金銭を稼ぐのだ。


 まあ、二年生からは給料出るけど。


「うーん、まあぶっちゃけボクも欲しいかなあ。バイト云々関係なしに」


「まあ魅力的ではあるな。せめて綺麗な勝利の上で手に入れたいもんだが」


 禁呪使いの似非ランクDにランクSがいるのだ。勝てないわけではないだろう。それと、我がクラスはランクSの全体的な人数の関係で、書類上はランクSは幽ヶ峰さん1人なのだ。代わりにランクAとランクBの合計が他のクラスより2倍ほど多い。ランクCはおらず、ランクDは俺と悠人である。どう考えてもバランスが悪い。


「クラスメイト全員の得意な魔法と武器能力を把握して歓迎戦までに作戦を練るなんて出来ませんからね。まあ無策でもなんとかなるでしょう。規格外、禁呪使いもいるわけですし」


 そう時野は言う。確かに禁呪使いは魔導士の中でも高位の存在である。なんでランクDなんでしょうね悠人(この野郎)


「学年戦こそ毎月あるけど、こうして上級生と戦える機会は年に数回とないらしいからね。貴重な体験だとおも……なんで皆そんな嫌そうな顔してるの?」


 悠人が嬉々として語るが、彼以外の生徒は心底不服そうな顔をしている。上級生は既にセミプロの魔導士としての免許(ライセンス)を取得しており、魔導犯罪者の逮捕や、魔物に関わる事件の解決を任されるような存在なのだ。当然ながら経験も実力も桁違いだ。その中でも『生徒会長』は次元が違う。聞いたところによると、地球に落ちてきそうになっていた隕石を、自身の魔法で粉々にしたそうだ。ちなみに、落ちていれば少なくともユーラシア大陸が消えてたとか。アメコミヒーローなら命賭けてた。


「ほんと……普通参加させないとかあるじゃん……なんで生徒会長まで出てくるかなあ…」


 康太はそう呟いた。その気持ちは大いにわかる。何故なら生徒会長が噂通りの強さを持つなら、開始から5秒もあれば歓迎戦を終わらせることが出来るのだから。


「後輩教育の一環だから、流石にそこまでしないと思いますぞ。まあ見敵したら容赦ないでしょうが……」


 そう溜め息混じりに時野は言う。


「出会わないのを祈るしかねえな。出会った瞬間死に物狂いで逃げよう。じゃないと全滅必至だ」


 俺たちが会話していると、時計を確認して一人頷いた松田は俺たちに向かって言った。


「そろそろいい頃合いだ。転送室に移動しよう。今から行けば時間もぴったりじゃないかな」


 その言葉を聞いて俺は咄嗟に時計を見た。時間にして8時40分前。移動に5分以上10分以下を要すると考えてもまあ妥当だろう。


「ん、じゃあぼちぼち行くかー」


 そういうことになった。



          ~~~~~~~~~~



「ん、早いじゃないか」


「あっ、見ないと思ったらこんなところに」


 転送室には須崎先生がいた。折りたたみ椅子を置いてくつろいでいた。自由だなあこの人。恋愛は不自由みたいだけど。


「燃やし尽くしてやろうか」


「なんで!?」


 まさか悟られたのだろうか。


「思いっきり声に出してたよ大輔……えげつないこと言うね…」


「はあ……まあいい。そろそろ転送だ、私は部屋から出るが、お前たちはこのままここにいろ。トイレは済ませたか? 今なら行って大丈夫だから、念のため行って問題ない」


 遠足出発前みたいなことを……しかし確かに戦闘中に催しては戦える物も戦えない。俺はお言葉に甘えてトイレに向かった。


 そして用を足して転送室に戻ってきて、少ししてから転送が始まった。時間にして開始4分前である。


「さて、どんなマップなのかな……っと」


 大阪であるらしい。俺は少し前まで本土の片田舎に住んでいたのだが、それでも大阪に行く機会なんて殆どなかった。それにでんでんタウンと言えばその筋の人間にとっては第二の秋葉原、西の趣都(しゅと)、などと言われている街だ。転送先はどこになるやら……。


 期待しながら転送が終わるのを待つ。光がやがて消え、転送魔術の物でない光が視界に差し込んでくる。


 到着したのは、見渡す限りビルが立ち並ぶ街だ。


「うわあ、すっごいねえ。ずっと東京で過ごしてたからビル街なんて見飽きたはずなんだけど、なんか違った趣があるというか」


 康太は周囲をキョロキョロと見回しながら言った。他のクラスメイトも似たような行動を取っている。俺は秋葉原でこう言った雰囲気には慣れているつもりだが、西と東ではやはり違いがある。


「そりゃこれのほとんどはオフィスビルとは違って店舗用のビルだからな。ってうお、アニメイトだ」


 沖ノ鳥島にもアニメイトは存在する。しかしここまで大きくはない。いや、このアニメイトが巨大なのか。


 場所にしてメインストリートであるでんでんタウンから少し脇道に入ったところで、軽く携帯電話で調べたところによると、歩行者天国でもないのに普段から訪れる人たちが車道を悠々と歩いているらしい。軽い事故も多いのだとか。


「あれ、ほらあの、あれはないんだね。日本でトップクラスに高いビル」


 悠人はそう言いながらも周りを見回している。


「そりゃ難波じゃなくて阿部野橋だよ……ここじゃねえわな」


 恐らくあべのハルカスのことを指していっているのだろう。というかいいのかこんなに観光気分で。一応ここは魔術によって投影されている擬似空間に過ぎない。まあ建物の内部まで忠実に再現されているらしいし、戦闘のことなど忘れて動き回りたい気持ちはある。しかし不気味なのは、人が一人もいないことか。まあ仕方ないと言えば仕方ないのだが。


 夏休みに悠人と康太辺りを誘って大阪を訪れるのもいいかもしれない。買える物は秋葉原とそう変わらないかもしれないけれど、場所的に飛行機代は安いし。


「ほらほら皆様! スイッチを切り替えるのですぞ! そろそろ始まりますゆえ、このままでは戦闘にすらなりませぬ!」


 意外や意外。なんとこういう場所が最も好きそうな時野が冷静に指揮を執っている。


「まあこの風景見飽きたしな……何回来たかわからへんわ…」


 と。確かに時野はそう呟いた。俺はとあるネットスレで見付けた内容をふと思い出し、口に出してみる。


「かんさいーでんき」


「ほーあんきょーかい……ハッ!? 何故それをッ!?」


「つーれてって」


「たこまっさ…なんやて!?」


「551の肉まんがあるときー」


「わははははは……なんでそんな詳しいんや!?」


 間違いない。大阪府民だこの人。


「ひ、人が苦労して方言隠しとったちゅうのにこいつはあああ……!」


「え、なんで隠す必要あるんだよカッコいいじゃん大阪弁」


「……それでも珍しがられるやろ…」


 時野も苦労しているらしい。というか大人しそうで知的なイメージだったのに大阪弁を話し始めるや否や一気にイメージが変わった気がする。


「はあ……もうええわ。バレたもんはしゃあないわ…道案内は俺に任せえ。そこの路地から向こうのTE○GAショップまで把握しとるし」


「女子もいるから控えた方がいいと思うな!?」


 開始まで残り1分。心強い味方が出来たのだった。

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