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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
休息と混乱の一週間
68/210

木曜日、鳴り響く警報。

 叛逆のスワンは、職員室に足を運んでいた。

「先生、少しいいですか」

 いや、今はまだ黒鳥夕緋と言った方が良いかもしれない。

「む、どうした、黒鳥」

 呼び出したのは、須崎。勿論、本当に用があるわけではない。最も脅威であろう存在を、現場から遠ざけておきたいがためだ。

「新しい魔法語を覚えたんですが、あまり上手くいかなくて。先生は我が校でも最強と呼ばれていると聞きました」

「それで私に助言を求めようと? 私は別に最強では無いが、まあ、腕に自信があるのは確かだ。見てやろう。場所はここから近い……第二訓練室で良いな?」

「はい」

 須崎の後に、夕緋は続く……のだが、夕緋はスカートのポケットから乾電池のようなものを取り出し、職員室前の落し物ボックスの中に入れてから、須崎の後を追う。


 ──あとは、待つだけ。



      ~~~~~~~~~~



「ったくよお? 周りっくどいよなあ?」

 疑心のサードは、学園の敷地から少し離れたところにあるビルの屋上から、学園を見下ろしていた。

 エルゼラシュルドの敷地は広大だが、やはり立地も立地、人工島とは言え余った土地など無いので、住宅街やらビル街と隣接している。つまり、こういう高いところから簡単に様子を見られるのだ。

「────ビーコン設置を確認? なんだよ、案外やるじゃねえか?」

 サードは笑う。楽しそうに。子供のように。

「さて……夢想には悪いが、こっちはこっちで楽しませて貰うぜ?」

 風が吹く。街を歩く人々の、ある人は帽子が飛ばされぬように帽子を掴み、またある人は向かい風に顔をしかめた。


 いつの間にか、ビルの屋上には、誰もいなかった。



      ~~~~~~~~~~



 警報。


 けたたましい音が、校内に響き渡る。


「な、なに!?」

 廊下を康太と二人で歩いていた俺達。職員室に辿り着くまでまだ数十メートル。

 放課後で、部活のある生徒や校内で用事をこなすものも多い時間。

 そんな時間に、警報。

「可能性としては──ユニオンのヤツらか、魔物(ガルナ)が現れたか、だろうな……」

「なんでそんなに落ち着いていられるの!?」

「いや、まあ、警報が鳴ってるってことは異常が検出されてるってことだからな。とはいえ、まあ……動くべきなのは俺でもなし、こういうのは動ける奴が動くべきだろうよ」

「僕ら、動けるじゃん」

「────訂正する。戦闘力があって、動ける奴だ。康太は該当するだろうが……ねえ?」

「……ごめんネ」

 謝られた。うむ、切ない……。



「兎にも角にも、状況確認と避難だな。何があったかさえわかれば……」

 俺が言うと、康太はなにか閃いたように「あ!」と言った。

「職員室に行けば全部わかるんじゃないかな? 忙しいだろうけど、さ」

「それだな。おろおろしているよりはマシだ。なにもしないで避難してもいいが、敵の居場所が──いや、敵がなんなのか、そもそも敵がいるのかさえわからない以上、やっぱり情報を得るのが妥当だな」

 俺達は当初の予定通り、いや、予定よりも大幅に急いで、職員室を目指す。

 広大な敷地だが、走ればそう数分と掛かるような場所ではない。すぐに到着した。

魔力(エナ)の痕跡を追え! 絶対に逃すな! ヤツらの企てがわからん以上、ともかく彼女の保護が最優先だ! いいな!」

『了解!』

 須崎先生が、指揮を執っている。他の先生方は、それぞれの持場へ向かって行った。

「先生!」

 俺は声を掛ける。



「……鹿沼か……くそ、一番面倒な……いや、どうせ知られることか」

 俺に関係していることで、面倒な事。

「…………まさか、シエルが」

「……すまん。私が目を離していた隙に、男が突然職員室に現れ、シエルを拿捕された、と報告を受けている」

「特別な結界の効果で、校舎内では学生証が無いと転移座標が特定出来ないから転移魔法が使えないはずでは?」

「これを見ろ」

 須崎先生は、ポケットから乾電池のようなものを取り出して見せた。

「特殊な属性の魔力(エナ)を放出している。どうやら、これで座標を特定したようだな」

「……このパターンは、(リディール)ですか。これまた精製の面倒な……」

 魔法における五大元素、(フェルイ)(ウォルト)(ルーグ)(ウィール)(ダリア)。水を加工すると(クラード)の属性になる。

 そして、それらとは違う特殊な属性が(リディール)(ノクトッテ)

 そもそも魔法には属性による有利不利の影響が少なかったりするのだが、やはり火は水かければ消えるし水に雷はよく流れる。



 それら全ての影響を受けないのがこの光属性と闇属性であり、また特殊な使い方も出来る。

 その中の一つが、座標の送信だ。

「完全にしてやられたな……しかし、こんなものがいつからに落し物ボックスにあったのかがわからんのだ」

「気にしている暇じゃないでしょう。俺達も敵を探します。機動力だけは自信があります。指揮を」

 俺は須崎先生に指揮を請う。シエルが攫われた。ならば見付け出して取り戻すだけだ。

「それは無理だ。だってほら、貴様ら一年生だろう」

「…………しかし!」

「悪いが、ルールはルールなのでな。お前が魔導士候補生である以上、魔導犯罪者の捜索も交戦も許されてはいない。一年生が出来るのは人命救助だけだ。わかったら諦めて帰るがいい。なるべく大人数を引き連れて、な」

 そう言って、半ば強引に追い返されてしまった。



「……はあ、やっぱ規則には勝てねえよな」

「……だよね。とにかく、今はプロに任せるしか無いよね」

「現場経験のない俺らが行っても仕方ないだろ? まあ、妥当な判断だな」

「………でも、いいの?」

「なにが?」

 康太は、俺にそう問うてきた。

「だってさ、シエルちゃんが攫われてさ、黙って見てるだけでいいの?」

「……仕方ねえだろ、規則なんだから」

「でも!」

 康太は声を荒げた。

「ボクらが助けてあげなきゃ! だって最初に助けたのは大輔で! 今までずっと守ってきたのも大輔でしょう!? なんで規則なんかに従ってるのさ!」

「……」

 そう言われた。言われて、しまった。

 今まで、確かに俺はシエルに関して、ずっと規則を無視して行動してきたと思う。戸籍のない少女を学生寮に匿っているのもそうだ。

 でも、今になって俺は、規則だなんだと言っている。

 ああ──なんとみっともないことか!



 廊下。俺は康太に言われて、自己嫌悪で黙りこみ、ど真ん中に立ち止まっている。

 人気は無かった。警報で避難したのだろう。

 そこに、足音が近寄ってきた。

「大輔! 康太くん!」

「……悠人? どうした?」

「行こう! 今すぐは他の魔導士に見つかるから、今夜にでも!」

 何やら急いでいる。

「待て、落ち着けったら。どこへ行くんだ?」

「決まってるじゃないか!」

 悠人はさも当然です、とでも言うように、言った。



「シエルちゃんを、助けに!」



      ~~~~~~~~~~



 夜、七時。

 もう六月だが、やはり七時ともなれば暗い。七月になればもう少し明るいのだろうが。

「さ、行こうか」

 集まったのは、俺、康太、悠人、幽ヶ峰、アルカニア、エリー、エミリア。そして、たまにシエルと遊んでくれていたという、白鷺さんと、そのお付きの黒鳥である。

「まさか、白鷺さんが来てくれるなんてなあ」

「おかしい、かな?」

「いいえ全然ッ!」

 むしろ場が華やぐし、見ているだけで士気が上がるからだ。

「よし、全員揃ったね。でも、いいのかい、白鷺さん。危険だよ?」

「承知の上。大丈夫、私はちょっと離れたところにいるから、ね?」

「……うん、ありがとう」

「それに、シエルちゃんとはたまに遊んでいたの。だから、助けたいなって」

 女神である。



「いいかい、これから僕らは魔導犯罪者と戦うかもしれない。だから、覚悟はしてくれ。前に、ヤツらは魂を捕まえるビンを持っていた。今回も持っているだろうから、結界があるから死んでも大丈夫、なんて思わないで」

 悠人は、いつになく真剣な声音で言った。俺も魂が捕まったしネ!

「魂ってね、魔素(マナ)になるんだ。それも、とてつもない量の、ね。使われたりしたらその魔素(マナ)は完全に消えてしまう。だから──」



「絶対に死ぬな」



 そう、悠人は言った。だが、俺達はそれに微笑みで返す。いや、まあ、正確には俺以外は。

 何故俺は微笑まないのか。

 弱いからである。

「俺も後ろに下がって白鷺さんを守っとくよ。黒鳥だけじゃ限界があるだろうし、まあ、白鷺さんが狙われる、なんてことも滅多にないだろうけどよ」

「うん、僕らが絶対にシエルちゃんを取り返すから、安心してて」

「頼もしいな」

 そうだ、こいつはいつも頼もしい。

 例えるならば、正義のヒーロー。

 なんでも自分で解決しようとするのだ。

 いや、違う。


 なんでも一人で(丶丶丶丶丶丶丶)解決してしまう(丶丶丶丶丶丶丶)


 それは、理想像。

 俺が子供の頃に夢見た存在に、他ならなかった。

 だからこそ、思う。

 俺はヒーローにはなれないと。


 そう、わかっていたはずなのに。


 俺は、シエルを助けた。助けて、しまった。

 まるで、物語の主人公みたいに。


 そのツケが、回ってきたのだ。

 ユニオンという敵は、強大だ。俺の手には余るほど。



「大丈夫。なんとかなるよ。いや、違うな。うん。なんとかする、って言った方がいいかな」



 そう言って笑うのだ。この目の前の主人公(ヒーロー)は。

 ああ────敵わないなあ。

 最初から敵わないなんてことはわかりきっていた。

 だから、劣等感なんて感じない。絶対に。



 だって、俺はもう諦めていたから。



 でも、そんな俺でも。

 諦めきれないものはある。


「シエルを絶対に取り戻すぞ……!」


 俺はせめて、シエルにとってのヒーローでありたい。


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