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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
休息と混乱の一週間
66/210

水曜日、放課後に動き出す思惑。

 火曜日。

「さて、聞きたいことがあるんだろう?」

「…………」

 カラオケの個室。

 ニコニコと笑顔を浮かべている両者だが、感情を悟られないために敢えて微笑むサードとは違い、夢想は心底楽しそうな笑顔だ。

「じゃあ早速だが、本題に入っていいか?」

「構わないよ。なんでも聞いてくれ」

「つっても、大したことじゃねえよ? アンタの企み、概要は知ってんだが、いくつか知りたくてな?」

「細かいところを補足したい、と。合理的だね」



 疑心が考えている作戦を行使するには、出来るだけ多い手札が必要だ。とある人間に対して、切れるカードを持っておかなければならない。その為に、情報を集める。

「俺達は前まで空の神子を捕獲してたな? で、魔導士のヤツらに奪われたが……潜入してる叛逆のお陰で潜入ルートも確保したな? 加えて、儀式を始めるための鍵まで見付けたな? とは言え……本土の連中が何もして来ねえのは妙じゃねえか?」

「そうだね。泳がされている感じがするかな。とは言え、やることは変わらないさ。気付いた時にはもう遅いってね」

「そういやよ……なんだって世界から魔法を消そうとしてんだよ?」

「はは、それは全部終わったら話すよ。作戦概要を話しておいたほうがいい」

「そうかよ? じゃあ、そうだな……鍵と錠前だがよ? 終わったらどうなんだ?」

 空の神子と、白鷺飛鳥とかいう女子生徒。儀式(丶丶)を行った時点で、世界から魔法が消える。いや、この世界から魔素(マナ)が消え去る……と、それだけをサードは聞いている。



「ああ、死ぬよ。全身の魔力(エナ)を無理矢理引き出すんだからね」

「……死ぬのか?」

「尊い犠牲だよ。仕方ないさ。大願成就には犠牲がつきものさ」

 サードは心の中でほくそ笑む。これで交渉材料が整った(丶丶丶丶丶丶丶丶)

「捕獲した後、俺が監視していていいか?」

「どうしてだい?」

「いや、監視とまでは言わんが……鍵と錠前を捕獲してみろ、絶対に魔導士の連中が来るな? 俺の魔法は知っての通り、触れている相手のみを転移できる魔法を使えるわけだ? なら、緊急時のためにも俺は隠し場所を知っておくべきだろ?」

「最もな意見だね。よし、捕獲した後は君と……そうだね、時間稼ぎのための戦闘要員として叛逆をつけようか。苦楽と無骨は攻めてきた時に迎撃に出てもらおう」

「よし、決まりだな?」

「聞きたいことはそれだけかい?」

「ああ、そんだけだな? そういや、俺に用があったんじゃないのか?」

「いいや? 街で見掛けたから声を掛けただけだよ?」

「そうかい? ま、いいや? じゃあ俺は暇つぶしに街に出てるぜ? 最近、こっちに回ってくる仕事、無えしな?」

「君は人殺しとか窃盗とかを好まないようだしね。裏社会で生きるような僕らに回ってくる仕事から合法の物を探すのは骨が折れるだろうに」



 サードは部屋を後にしようとして──立ち止まって、言った。

「一曲でも歌った方が良かったか?」

「お好きにどうぞ。料金は僕持ちで結構」

「じゃいいや?」

 サードは、いつもと変わらぬ微笑をたたえて街へ繰り出す。ただ、その笑みはいつもと違って、心からのものであった。



          ~~~~~~~~~~



 水曜日だ。

 時刻は放課後になったばかりである。

 俺が帰宅準備をし終えると、扉の近くで康太が壁に寄りかかって待ってくれていた。

「シエル、迎えに行こうか」

「おう」

 空の神子、と呼ばれ、ユニオンに狙われているシエルを寮の部屋に一人きりにしておくわけにもいかない。魔導士協会もそれを考慮して、授業のある日はシエルを預かってくれている。使い魔(ファミリア)申請さえ通れば、寮でテレビを見せておくなりゲームをさせておくなりしていられるのだが。

 シエルは職員室に預かってもらっている。エルゼラシュルドの教師はほぼ全員が現役の魔導士である。加えて女性がほとんどだ。とても可愛がられているらしい。

 いいなあ。俺も大人の女性に可愛がられたいなあ。

「あ、大輔がエロいこと考えてる」

「何故バレたし」

「なんか……わかりやすかった……」

 顔に出ていたのだろうか……。



 雑談しながら歩いて職員室を目指していると、白鷺さんがオロオロとしていた。一人でいるとは珍しい。いつも黒鳥と一緒にいるからな。

「あ、鹿沼くんと広城くん。夕緋ちゃん見かけてない?」

「いや、見てないけど……康太は?」

「あ、そういえば、凄く急いで女子が教室を出て行った気がするけど……黒鳥さんだったかはわからないかな。顔、見てないし」

「夕緋ちゃん、電話にも出ないの……。夕緋ちゃん可愛いから、何かに巻き込まれて無ければいいんだけど……」

「いやあ……うん、大丈夫じゃねえかなあ……」

 奴の戦闘力は凄いからな。まあ、避けようと思えば避けられるんだけども。本気でギリギリ避けられるかどうかってとこだからなあ。

「それでも女の子だもん。何があるかわからないでしょ?」

「うーん……」

 精神操作魔法は禁呪だし、病院以外で睡眠導入魔法を他人に使うと魔導士が即座に駆けつける……つまり、エロ同人みたいな展開は現実では出来ないのだ。残念だったな変態どもめ。



「まあ、俺らこのあと街に出るし、見掛けたら連絡する」

「本当!? ありがとう!」

「大輔、顔、顔。すっごい顔してるよ今」

 康太が俺の袖をちょいちょいと引っ張ってくれたおかげで正気に戻った。

「じゃあ、俺らはシエルを迎えに行くから」

「うん。私はもう少し校内を探してみるね。ありがとう」

「例には及ばないよ。ね、大輔」

「おうとも」

 白鷺さんと別れ、再び職員室を目指し歩く。

「白鷺さんに凄くデレデレするよね、大輔は」

「むしろお前がなんでしないのかわからねえ」

「脈ないってわかってるし」

「やめてっ! 現実を突きつけるのはやめてっ!」



 康太は俺が思っているよりもリアリストだったようだ。いいじゃん、夢ぐらい見たってよう……。

「着いたよ」

「うう……失礼しまーっす」

 ガラス張りのスライド式ドアを開けながら挨拶。

「だいすけ!」

「鹿沼くん、広城くん。今日も子育て、大変ですね」

 シエルの手を引いて俺達の所へ連れてきてくれたのは、うちのクラスの現代文担当教師である源先生である。

「さ、お父さんと……お母さ……お父さん……?」

「親子って発想をやめて下さいっ! 兄妹とかあるでしょう!」

 女みたいだ、とか、可愛いと呼ばれることを極度に嫌う康太は職員室でキレた。ふええ、先生の視線が怖いよお……。

「だいすけー、こうたー」

 シエルは俺と康太の間に入ってきて、それぞれの手を握ってきた。

「あのねー、きょうねー、えりおっとがおかしくれたよー!」



 そう言って、満面の笑みを向けてきた。

「…………」

「うー?」

 あまりの可愛さに硬直していると、シエルは小首を傾げた。

「…………」

 更に硬直する俺。康太も固まっている。

「どしたのー?」

 その声と同時に、俺と康太はシエルが握っていた手を離し、しゃがんだ。

 二人がかりで、思い切りシエルを抱きしめる。

「な、なにー!?」

 シエルが困惑している。

「その子、職員室内でも人気なんですよ。授業がない人が一人だけ担当することになってるんですけどね。現時点で抱えている書類仕事が正確に終わっていることが担当の条件で……作業効率が格段に上がっているので助かっている、と須崎先生が仰っていました。そんなこと抜きに可愛いですよね、その子」

「「ですよね!?」」

 見事に声がハモった。いや、しかし……。



 シエル担当システムは須崎先生が考えた……のだろう。可愛さに惑わされず利用するとは……。

「本当に、職員室の活気が違いますよ。特に女性から人気ですね。ほとんど……独身ですから……子供に触れる機会が……ね……?」

 源先生の頬を光るものが伝った気がする。スルーするのが優しさだろう。

「じゃあ俺達は帰るっす」

「先生さようならー」

「ええ、さようなら」

 俺と康太はシエルを挟むようにして並び、俺はシエルの右手を、康太は左手を取って歩く。もう少し小さければ、上に引っ張って浮かせる……なんてことが出来るのだが、見た目は十歳の少女だ。それなりに成長しているし……問題は、精神年齢がどう見ても十歳じゃないということだ。まるで……そう、なんの教育もされてないような。

 この年齢の女の子ならば、もう少しマセていてもおかしくはないはずだ。

 それが、まるでこの子は六歳や七歳くらいのように見える。


 きっと、この少女には何かしらの事情がある。


 だけど、今は知る時では無いのだろう。


 今はただ、家族も無く、過去(きおく)も無く、頼れる人間もいなかったこの少女の傍にいたいと、願う。


「だいすけ、どーなつたべたい!」

「おうおう、買いに行くかー」

「僕も食べたいなー!」


 成り行きで助けたし、助けたから懐かれているというのもわかっている。

 でも、俺に向けられている笑顔は揺るぎない本物だ。

 それを守りたいって思うのは、おかしいことだろうか。



          ~~~~~~~~~



 沖ノ鳥市内の、とあるバー。

 ユニオンのメンバー御用達の店だ──バーのマスターは、常連客が魔導犯罪者であることなど知らないが。

 サードに呼び出された叛逆は、不満そうに隣のカウンター席に座った。

「…………なに?」

「悪かったな? こんな時間に学生さんを呼び出しちまってよ?」

「ふん。さっさと要件を言いなさいよ」

 サードはぐい、とグラスの中身を流し込んで、言う。

「そろそろ本格的に動くらしいぜ?」

「…………それが?」

「それでだな?」

「……」



「お前に空の神子と白鷺飛鳥の確保を頼みたいんだがな?」



「……正しい判断だね。アタシなら確実に確保出来る」

「だろ? 夢想は無骨をけしかけて奪うつもりだったらしいが……まあ、こっちのがスマートだとは思わねえか?」

「アタシが飛鳥……いや、白鷺飛鳥を捕獲するとなったら、情が移って逃亡を企てそうだって考えたんだろ」

「ご名答? だが無骨じゃ魔導士協会に動きを察知される危険性の方が高いわな? まあ、奴なら簡単に突破出来るだろうが……儀式を急ぐ必要が出来ちまうし? だから俺ァお前の方がいいって夢想に推薦したんだぜ?」

サードは、変わらぬ笑顔で言う。



「なあ────叛逆のスワンさんよ?」



 叛逆のスワンは──黒鳥夕緋(丶丶丶丶)は、不満そうにただ鼻を鳴らすだけだった。

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