表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
かくも騒がしき美術館
57/208

魔物覚醒

 エリオットは焦燥する。目の前の魔物(ガルナ)の中に、その器に。底知れぬ何か(丶丶)を感じるのだ。それはどんどんと大きくなり、その身体の外へと出ようとしている。

 元々、人の魔力(エナ)の器のみを見る──つまり、人がどれだけ魔力(エナ)をその身に溜め込めるか、ということを見る事のできるエリオットは、魔力(エナ)の残量こそ視れないが、器に仕込まれたモノを感知することが出来るようになっていた。

 大輔の器を初めて視た時は、ただのランクDだと思った。しかし前にじっくりと視た時は、その奥底に全く違う器(丶丶丶丶丶)を視た。そこで初めて、人の中には器は一つでないことを知り、より奥底まで視ることを覚えた。



 エリオットは一つの結論に辿り着く。さっきまで視ていたのは、吉岡という男の魔力(エナ)。ならば、奥から湧き上がる器はなんなのか。そう、魔物(ガルナ)としての魔力(エナ)だ。

 念のために奥まで確認しておいてよかった。注視しなければきっと気付かなかっただろう。

『エミリア、幽ヶ峰さん、ミオ。そろそろ攻勢に転じたほうが良いかもしれない。魔物(ガルナ)の気配が強くなってる』

『ええ。わかりましたわ』

『…………了解』

『確かに、気持ちの悪い魔力(エナ)が大きくなってきてるわね』

 魔導武装──天涯を握り直し、数歩だけ距離を置く。



「ク……ガ……グ……」

 苦しんでいる。まさか、自身の魔物(ガルナ)の部分に抵抗している……のだろうか。とエリオットは考える。

 大輔に伝えるべきだろうか。チラリと大輔の方に視線を向ける。

 魔導犯罪者に近付けずに、ひたすらトゲの束から逃げている姿があった。

 ──ダメだ。これ以上大輔には頼れない。僕がどうにかしなきゃ。

『……行くよ。僕らが魔物(ガルナ)を殺すんだ。今、ここで』

『やっとカッコいいところを見せられ……無理そうですわね、はあ……』

『…………ポイントは頂き』

『最近マトモに体を動かしてなかったし、丁度いいわね。気を抜いちゃダメよ。殺されたら死ぬんだから』



 顕現させた段階で蛇腹剣の状態にしておいた天涯を、魔物(ガルナ)に向けて振るう。

「ガ…………アァッ!」

 男の肩から、硬質の触手が現れて、天涯の刃を大きくはじき返した。

「く……もうほとんど魔物(ガルナ)に侵食されてるのか……!」

「まだですわよ! 朝焼(あさやけ)ッ!」

 エミリアがレイピアを持って背後から接近し、斬りかかるが、やはりこれも防がれる。

「イーちゃん!」

「ゴアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!!」

 溶岩の怪獣は咆哮した。魔物(ガルナ)の足元に、赤い円が出来る。

燃えろ(フェルイス)ッ!」



 属性しか詠唱していない、とても簡単な詠唱なのに、火柱が立った。並のランクSでももう少し小さい。得意な炎魔法で、召喚獣のイフリートの力も相まった結果だ。

 しかし。

「……ガッ!」

 火柱が消え、無傷の魔物(ガルナ)が姿を現した。全身にはどんどんと魔物(ガルナ)の触手らしきものがまとわりついている。

「…………氷よ(クラード)包め(ロミンサ)

 大きな氷の塔がガルアの動きを封じる……かと思われたが、数秒と経たずに氷が砕けた。

「ワ……タシ、ハ……!」

 吉岡と呼ばれていた男性は、最早その面影はなく、全身が鎧のようなものに覆われていた。



「なんだ……アレは……? まるで……魔鎧(ディアルナ)じゃないか……!」

 エリオット達は、息を呑んだ。

 戦うべきか、逃げるべきか。

「……ッ。やるしかない……! 大輔にここを任されたんだ! 逃げ出す訳にはいかない……!」

『エリオット、アレ、やっちゃいなさいよ』

 ミオが言った、アレ。エリオットは、それが何を指しているのかを一瞬で理解した。

『運が悪ければこの辺一帯が危ないんだよ!?』

『イーちゃんと葵の氷魔法でなんとかするわよ。構わずやっちゃいなさい』

『……わかった。手段は選んでいられないからね』

 エリオットは詠唱のために口を開いた。



     ~~~~~十分前~~~~~



 おかしい。

 疑心のサードと戦っていて、俺はそう思った。

 確かに、ダウトとかいう魔導武装から伸びてくる無数のトゲは確かに、刺されば致命傷になるだろうし最悪死ぬ。

 だが、それ以外の攻撃を全く仕掛けてこないのだ。

「…………」

 サードは心底楽しそうに、逃げ回る俺をニヤニヤと見ている。

 例えば、ヤツの使う転移魔法ならば、トゲの目の前に転移させれば一瞬で俺を殺せるだろうに、それをしない。



 逃げながら、悠人の方を見る。

 膝をつく蠱惑のフィザン。剣と盾を持って、余裕の表情で立つ悠人。圧倒していた。

「よそ見してる暇あんのか? ん?」

 サードが大きな声で俺に言う。

「アンタのやる気のない攻撃が相手なら余裕くらいあるっつの!」

「なんだ? やる気無いってわかってたのか? 俺は研究者タイプだからな? 無理に戦えって言われてもなあ?」

「じゃあもう退いてくんねえかな」

「……そうだな、いいこと思い付いたぜ?」



 サードは紙とペンを懐から取り出して、何かを書き始めた。その間もダウトのトゲは俺を襲う。

 しかし、余裕綽々である。ダウトのトゲの長さは限界こそあれど、どうにも絡まったりしないように動くらしい。エリーの魔導武装は絡まったが、ダウトは動きを最適化しているのだろうか。

 近付こうとすると、瞬時にトゲはダウトに戻り、俺をサードに近付けさせないように複雑な動きで展開してくる。



「ふん……? よし、もう良さそうだな? 戻ってこい、ダウト?」

 球は突然動きを止め、宙を浮いてサードの手元へ戻る。

「……」

 俺は動かないでいた。いや、相手が何を手の内に秘めているのかわからない以上、動けないのだ。

「そろそろフィザンの野郎もヤバそうだし? こっちはこっちでやることやっちまおうかね? ……嘘を吐けダウト、てめえは剣か?」

 ダウトがもぞもぞと動き出す。どんどんと形態が変わり、ダウトの形は、シンプルな諸刃の剣の形になった。西洋式の簡素な剣だ。



「なんでもアリかよ……」

「嘘つきはなんにでもなれるってこったよ?」

 サードは剣を構える。その構えは、まるで型らしい型ではない。研究者タイプで戦闘には向いていないのは本当のようだ。

「そら、行くぜ?」

 地面を蹴って、サードが迫る。俺は蒼空を防御のために構える。



 サードは、俺の真横を通り過ぎて行った。



「は? ……ッなァッ!?」

「わりいな? 俺の相方がピンチみたいだからな?」

 そう言ってサードは交戦中の悠人とフィザンの元へ向かう。

「あ、あの野郎……」

 今から追えば間に合うだろうか。間に合ったところで攻撃して通用するのか。ダウトの特性上、本人が動かずとも防御されるだろう。むしろ、俺が突っ込んでいって悠人の足手まといになるわけにはいかない。

 おっとり刀で駆けつける。悠人が苛立たしげにしていた。

「くそ……」

「わりい、俺じゃ止めらんなかった」

「大丈夫さ。しかし、転移魔法は厄介だったね……会話文詠唱は行き先が読めない。もう魔力(エナ)を感知出来ないところまで逃げられたね」

「あ? お前って魔力(エナ)感知出来んの?」

「本当の感知タイプには敵わないけどね」



 なんでも出来る奴だな、しかし。チート過ぎやしないか。

「ともかく、撃退はできたんだ。エリー達の援護に行こうぜ」

「そうだね」

 そう話していると、異変に気付く。

「なんだ……? なんだこの魔力(エナ)は?」

魔物(ガルナ)……!?」

 俺と悠人は魔物(ガルナ)の方を見る。姿が変異しており、エリー達が交戦していた。

「……? ミオから伝言だ。『エリオットが風水魔法を使う』って……風水魔法!?」

「はあ!? バカ、こんなとこで……!」

「ああ、でも、氷の魔法で威力を閉じ込めるみたいだ。葵ならできるだろうね」



 風水魔法。それは禁呪に近い魔法だ。周囲の魔力(エナ)をごっそりと使うので威力と攻撃範囲がとにかく高いので、公表されていない魔法語もそこそこある。

 だがエリーは異世界人。そんなことはきっとお構いなしだ。

「少し離れようぜ。魔力(エナ)が急に欠乏すると酔っちまうからな」

「そうだね。僕は特に呼吸から摂取する魔力(エナ)の量が多いから……」

 氷のドームが、音もなく現れた。

「あの大きさを一瞬で形成するのは化け物臭いな」

「本当にね。氷魔法じゃ勝てる気しないよ」

「お前でも勝てないのか……」

 氷で覆われているにも関わらず、大きな魔力(エナ)の流れと衝撃波を全身で感じた。大太鼓の音を間近で聞いている時のような、腹の底が震える感覚。



「一件落着だな」

「だね。魔物(ガルナ)討伐、ポイントどれだけ出るかな?」

「エリーにだけ入ったりして」

「うう……魔導犯罪者は逮捕しないとポイント入らないのに……」

 悠人もやはり成績は気にするようだ。少し安心した。

「よし、じゃあ帰る準備を」



 大きな、とても大きな、ガラスを割ったような音が周辺に響き渡る。



「……あ?」

「氷が……!?」

 破裂するように砕けた氷が飛び散った。砂煙が上がる。

「飛んでくんぞ! ……蒼空!」

「くっ……積乱!」

 魔導武装で、迫ってくる氷の塊を壊す。

「康太は!?」

 その銃型魔導武装で近寄る全ての氷を正確に破壊していた。

「大丈夫そうだな……エリー達は……」

 氷が破壊された衝撃か、四人が倒れていた。



「エリー! エミリア!」

「大輔! 魔物(ガルナ)の気配が消えてない!」

「わかってる! お前は幽ヶ峰とアルカニアを!」

 煙の中からエリーとエミリアを担いで退散する。

「風水魔法でも倒せねえのか……!」

 煙が晴れる。



 おぞましい鎧を纏った魔物(ガルナ)が、ゆっくりと歩いていた。

「ちっ……なんだってんだよクソッタレ……」

「まだ終わらせてはくれないらしいね」

 落ち着いている暇は無さそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ