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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
かくも騒がしき美術館
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迫る気配

 閉じた瞼が微かに明るくなる。外に出たのだ。

「あー……どんだけ時間経ったんだ?」

 俺は目を開けて、ポケットにある電子生徒手帳端末を取り出した。要するに特別製のスマートフォンだ。俺達は普通に携帯、と呼んでいる。日本製なので爆発はしない。

「……十分しか経ってねえ。もっと経ってると思ってたんだが」

 俺が呟くと、康太は俺の端末を横から覗き込んだ。

「あれ? 緊急連絡メールを受信してるけど……」

 見てみれば、メールが届いている。正に今届いたところらしい。

「心象世界は圏外だったからだろうね……。僕らの端末にも来てる」



 緊急連絡メール……。内容はわからないがロクなものではないことは確かだ。

「どれどれ……? …………。大輔、これ」

「ああ、見てるよ。しかしどうしたもんかね……」

 その文面は。



『沖ノ鳥島北部、オフィス街に魔物(ガルナ)出現の報告あり。魔導士が向かうまで非難されたし』



「……そーら見ろー。やっぱりロクでもなかったじゃねえかー」

「大輔が遠い目を!?」

 俺達は魔導士候補生で、一年生なのでライセンスもない。二年生になれば仮免取得試験があるのだが。

「俺達は出来るだけ離れるべきだな。勝手に交戦すれば命が危ない。それに……」

 そう。そもそもの問題。ここは結界内なのに魔物(ガルナ)がいるということそのものが、異常。

魔物(ガルナ)が結界内に入れるケースは一つだ。それも……ついさっき、知ったろ?」

 俺が悠人に視線を向けると、彼は頷いた。



「ああ……この魔物(ガルナ)は、元人間だ(丶丶丶丶)



 イェルヴァさんと同じ、元人間の魔物(ガルナ)

「だけど、魔物(ガルナ)として報告されてるってことは負の感情が強いんだろう。イェルヴァさんから聞いたけど、人が魔物(ガルナ)になっても、普通にしてればわからないらしいしね」

「それはつまり……なんだ? 魔物(ガルナ)としての力が使えるってことなのか?」

「イェルヴァさんも、ほぼ人間でありながら魔物(ガルナ)でもあるから心象世界を作ってただろう? 恐らく、そういうモノ達が結界の中に入れるのは、魔物(ガルナ)の力を有効に使えるってわかってるからじゃないかな」

 ということは、魔導士協会は元人間の魔物(ガルナ)についてわかっていることが多い、ということなのだろうか。



「ともかく、触らぬ神に祟りなし、とも言うのだし、僕らは関わらないようにしよう。というか関わると減点喰らうかもしれないからネ!」

 悠人が珍しくそんなことを言った。俺は悠人のことを敵絶対殺すマンだと思ってた。

「お前が減点を気にするとか珍しいな。いいんだけどよ」

「ショッピングセンターの事件の時に、一人で突っ込んでいって減点されたから……」

 減点されてたのか……俺は人命救助で加点だけされたけど。

「まあ、プロの魔導士は僕らなんかよりも遥かに強いからね。気付いたら終わってるんじゃない?」

「だな。芸術鑑賞してても問題はねえだろ」

 やる気が無いのではない。戦う資格がそもそも無いのだから仕方ないのだ。

 魔物(ガルナ)の交戦許可があっても俺はやんないけどね!



「…………僕はなんだか嫌な予感がする……というか近付いてきている気がするのだけれど」

「や、やめろよそういうこと言うの……」

 その瞬間、館内に警報が鳴り響く。

魔物(ガルナ)が接近しています。繰り返します、魔物(ガルナ)が接近しています』

 焦った女性の声。フラグの存在を信じねばなるまい。

「お前のせいだああああああああッ!」

「僕は何もしていないではないか!?」

「口に出すだけでも建つの! フラグってそういうものなの!」



 しかしこっちへ来たって交戦許可は無いのだ。うん。

「悠人、いいか、やんなよ? 俺達魔導士候補生だし一年生だからな?」

「わかってるよ。どんな相手かもわからないのだし、僕だって使える魔法がそう多いワケじゃない」

「魔法語は勉強しとけとアレほど」

「普段から単語帳見てるんだからいいんだよ! ともかく、僕らも避難しておいたほうがいいかもしれないよ」

「ああ。こっちに来ているみたいだが、まさかここまでは入ってこないだろ。動かないのが一番だろうな」



 瞬間、美術館の入り口が爆発した。そこに、人の姿をした何か(丶丶)が立っていた。


「…………入ってきた」

「アンタもフラグ建ててんじゃないのよ」

「ああああああ!! しまったあああああああ!!」

 爆ぜるような悲鳴と共に人が奥へと流れていく。俺達もそれについていくことにした。

「俺、悠人だったら『僕がなんとかする!』とか言って突っ込んでいくと思ってた」

「……今からでもやろうか?」

「ゴメンナサイ!」

 お茶目な性格をしている。イケメンで魔力(エナ)が多くて性格もいい。勝てる要素無いんだけど。いや勝とうとも思わないが。



 俺達は避難している一般人に紛れて逃げる。周りに比べて冷静なのは、俺達が魔物(ガルナ)のことを知っている(丶丶丶丶丶)からだ。

「勇気と蛮勇は違うよ。履き違えるようじゃ魔導士の機動官になんかなれない。そうでしょ?」

「わかってるようで何よりだ。俺が監督官になったらお前、俺の下につけよ。楽できるから」

「……まあ気を許せる相手なのはイイことだと思うけどさ、絶対ブラックな仕事場だよね?」

「アットホームな職場です!」

「信用出来ないよね……」



 俺達は裏口に辿り着く。

「落ち着いて! ご老人の方と子供連れの方から避難を!」

 先回りしていたのか、エリオットが職員に混ざっていた。何やってんのお前ら。

「ご婦人、落ち着いて下さい。我々は魔導士候補生です。あの魔物(ガルナ)がこちらへ来たら、我々が命を賭して皆様を逃しましょう!」

 あ、バカこの野郎。そもそも戦わねえっつってんのに。しかし効果はあるだろう。魔導士候補生という頼ることの出来る存在を示し、今すぐ逃げなくとも少しは安心出来ると思わせることが出来る。エリーは美形なので効果は二倍だろう。

「……はい……」

 如何にもお金持ってます☆みたいな雰囲気を持った女性が目をハートにして頷いた。こうかは ばつぐんだ!



 すると、周囲の女性が一斉にエリーの周囲に群がった。僻んでるワケじゃないけど、まるでハエみたいだね! いや、僻んでないよ! …………僻んでないんだからねっ!

 ちょっと離れたところだと、男共が群がっていた。何やってんだろ。

「皆様方、殿方なのですから落ち着いて下さいまし。こんな状況でも落ち着いていられる殿方は……」

 何故か俺の方をチラチラと見ながらエミリアは言う。

「素敵だと思います……わよ?」

 おおおおおおっしゃあああああ!! と小さい歓声が上がった。疑問形に上目遣い。これはポイント高いよ? でも俺の方を向くのはドキッとするからやめようね?

 とりあえず、客は落ち着いて避難出来ているようだ。



「避難誘導を進んでやるとは……あいつら正義感で動くタイプだったか」

「大輔……これ……」

 康太が引きつった笑顔で携帯を見せてきた。

「あん? なんだよ」

 表示されているページは、この端末に備わる、魔導士候補生としての成績を司るアプリのもの。どんな行動をすればポイントが入るのか、などが色々表記されている。そこに、こんな一文があった。

『非常時における避難誘導  10pt』

「稼いでんじゃねえよ!!」



 あいつらの笑顔が一気に信用出来なくなった……!

「ちょ、ちょっと! そこの御仁! 暴れないでくれたまえ!」

 焦るエリーの声がしたので、なんだなんだと俺もそちらへ行く。

「やかましい! 儂はこんな者共とは違うのだ! 何故儂を先に逃がさんのだ!」

「だから女性と子供が先だと言っているではないかね!」

「女子供の命と儂の命、どちらが大切かもわからんのか!」

「この……ッ!」

 エリーが困っている。今の時代にあんなのいるんだ……。

 仕方ないので助け舟を出してやることにした。普通の対応じゃなくても大丈夫そうだわ。



「おいオッサン。男のクセになにをナヨナヨしてんだ? ん?」

「なんだ貴様は! 儂は開創グループの会長だぞ! 庶民が話しかけていい相手でも無いのだ!」

 どこだよ開創グループ。知らねえよそんな企業。

「話が噛み合ってるようで噛み合ってねえけどなんとなく察したわ。アンタは避難最後でも大丈夫そうだな」

「なんだと!? もしも儂が死んだらどうするつもりだ!」

「いやどうもしねえけど……。あ、一般人の死亡って俺のポイント減るからダメじゃん。強く生きてねオッサン」

「貴様のために!?」

「そうそう俺のため俺のため。でもアンタを優遇すんのは残念ながら無理だ。規則で女子供が先なんだよ。ま、そろそろアッチも避難終わるみたいだし? そもそも魔物(ガルナ)がこっちに来るとは限らねえし? そんなに焦んなくてもいいって。来ても俺らがなんとか……いや、俺以外がなんとかするし」



「貴様……あまりふざけていると権力でどうとでも……!」

「何をそんなに怯えてんだよ。なんかやましいことでもあんのか?」

 そう、このオッサン、妙にビクビクしている。まるで。

「アンタ……あの魔物(ガルナ)に心当たりでもあるのか?」

 敵の正体でも知っているかのように。

「ち……違う! 儂は何も知らん! 儂のせいではない! 儂は何もやっとらん! ヤツが悪いのだ! ヤツだけが!」

 これは、コイツが関わっていると見て間違いなかろう。

「悠人。相手の見当が付きそうだぞ」

「なんだって?」



 悠人が俺の方へ歩いてきた。

魔物(ガルナ)ってのは恨みの塊であったりするわけだ。そんで、ここに企業の会長がいる。性格からして結構恨まれてるだろう。しかもこのオッサンは怯えてる。なーんかありそうだよな?」

「……ふむ、何か知っている可能性は高いだろうね」

「ま、関係があるって決まったわけじゃねえ。美術館に来た理由が絵だったらいいんだが」

「アニメ制作関連かもね?」

「それだとこっちじゃなくて制作会社の方行くだろ……いやあの原画に文句ある人? それで魔物(ガルナ)になるとかなんか嫌だなおい……」

 俺はエリーとエミリアに視線をやった。もうほぼ女性はいない。

「ま、言っても美術館だ。休日だけどそんなに人は多くないだろ」

「男性が圧倒的に多い。それもアニメの原画展目当ての人がほとんどだね」



 女子供の避難はそこそこ時間掛かったけど、それよりも長いのか……大丈夫かこれ。

「……! ……みんな、魔導武装出して」

「……なんだと? まさか……」

「そのまさかだね。どんどんこっちに来てる。残念だけど、絵が関係してるわけじゃあなさそうだ」

 避難をしている俺達の方へ向かってきている。つまり、ここにいる誰かへ対する恨みがある、ということだろう。

「あ、ああ……あああああ……」

「? おい、オッサン、どうした」

「や、やめろ……来るな吉岡……」

 先ほどよりも怯えている。吉岡とは一体誰なのか……いや、もう予想はついた。



 女性の避難が終わる。そして、全員が異様な気配を察し、誰もが息を飲んだ。静寂が訪れる。足音が、どんどんと近付いてくる。

「……避難誘導は俺が続ける。お前らランクSどもはなんとしてでもアレを食い止めろ。一般人に傷一つ付けんなよ、いいな!」

「減点対象だからね! 任せてよ!」

 悠人は魔導武装を顕現させる。

「はあ……どこ行ってもこうなるのかしら……」

「…………私はもう諦めている」

 アルカニアと幽ヶ峰もそれに続く。



「大輔、ボクはランクAなんだけど……まあいいや、援護くらいなら出来るからね」

「僕だって大輔に格好良い所見せなきゃね!」

「はあ……面倒ですわね……」

 俺以外の全員が戦闘態勢になった。ちなみに俺は魔力(エナ)が低いので見学です。魔物(ガルナ)魔力(エナ)の塊だから、戦闘した場合、魔力(エナ)が少ないと防御力も低い。つまりこの場の魔導士候補生の中では一番俺がすぐ死ぬ雑魚。

「わ、儂を逃がせ!」

「え、やだ。あの魔物(ガルナ)、アンタを狙ってんだろ? アンタ逃したらまた魔物(ガルナ)もそっち行くじゃん。逆にここに残しとけば、相手はここからは動かなくなるじゃん?」

 つまり、わかりやすいターゲットを立てることで、相手の行動を制限しようということ。人数ではこちらが圧倒的に勝っている。こちらは一人を守ってればいいし、相手の攻撃の目標もわかっているので何かと行動しやすいのだ。



「さてお前ら、一年早いが楽しい楽しいお仕事の時間だ! 命懸けだけどな! 内容はオッサン守りつつクソッタレの魔物(ガルナ)をボコる! なんてわかりやすい! じゃあ後はよろしく! 俺は男性客と一緒に逃げます!」

「後で覚えてなよ?」

「すみませんすぐ戻ります!」

 俺達の戦いが始まる。


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