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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
かくも騒がしき美術館
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みんなのお話


     ~~~鹿沼大輔の場合~~~



飛ばされたのは、見覚えのある市街地であった。そう、異世界の──アルカニリオスの城下町だ。だが、描かれているものの時代は数十年も昔のもので、やはりところどころの雰囲気が違う。

「誰もいねえのクソこええ……」

 魔物(ガルナ)の心象世界に人の気配したらそれはそれで怖いのだけれど。

「こんにちは。お元気かしら。ご機嫌かしら?」

 美人が空からゆっくり降りてきた。女神様じゃ……!

「あー……どうも、って言っときゃ正解なのか?」

「ええ。お話したいだけだもの。じゃあちょっと貴方の中の感情、見せてね……って、これは……ううん……」



 なんだかすげえ渋い顔をしている!

「まずあの……これだけは言っておくけれど……貴方、結界の外に出ちゃダメよ。負の感情が今日会った誰よりも強いもの」

「……は? ちょっと失礼じゃないそれ」

 それはつまり、魔物(ガルナ)になる寸前だとでも言っているのだろうか。

「貴方自身は気付いているのかしら。いえ……気付いているのでしょうね。貴方の中には諦めと……劣等感と、深い悲しみが見えるの」

「あー……」

 自覚しているのは間違いではない。心当たりもある。



 正直、ここで自覚していない振りをしてもいいのだが……相手は心を読めるらしいし、下手に嘘をついても仕方ないか。

「だいたい心当たりあるわ」

 そう素直に言った。

「うふふ、真面目な子なのね。貴方の中にそういうものが見えたということ、忘れないでいてあげて。……さて、じゃあお話しましょうか。貴方の物語が知りたいの!」

「アンタ実は重い話とか嫌いだろ……」



 仕方無いので、妹と姉の話でもしてやることにした。

「ウチは五人家族なんだが……男が二人で女が三人だから自然と女が強くてな……実家にいる時は……自分の基本的人権の有無を疑ったもんだぜ……」

「貴方の悲しみってもしかしてそれなのかしら……」

「多分そう……」

 他愛ない話だ。そう……十数年とパシられただけだから……うん……。

「他にも聞かせて、貴方の物語。唯一無二の、貴方のお話」

 黒歴史を暴かれる気分になった。



     ~~~エミリア・レッセリアの場合~~~



「お兄さま……いえ、お姉さまは優柔不断ですのよ! もうさっさと女だって明かして告白でもなんでもしやがれってんですのよおおおお!!」

「貴方もだいぶ苦労しているのね……」

 エミリアは送られてから、ずっと愚痴を言っていた。

「貴方の中の感情、ほぼストレスに近いものだし……」

「わたくしも実は男ですのよーって大輔さんにもう打ち明けてしまいたいのですけれど。それをやってしまうとまたお姉さまがややこしいのですもの!」

「別にいいような気がするけれど……」

「抜け駆けすると怒られそうですもの……」

「なんだか恋の話を聞いている気分になってきたわ……」



「別に大輔さんのことが好きってわけではないですけれど……普通に女性にもときめくことだってありますわよ」

「今女性にも(丶丶丶丶)って言ったわよね!?」

「小さい頃から女として育てられてきたのですわ……大輔さんにときめいた時、すごく複雑な気分になりますの……」

 エミリアはしょんぼりと言う。

「エリオット家はややこしいことになる呪いにでもかかっているのかしら……貴方のお祖母さんも男装してたのよ」

「血は争えませんわね……」

 イェルヴァは、なんだか難しい顔をしていた。



     ~~~広城康太とシエルの場合~~~



 康太とシエルは、なだらかな丘に送られていた。

「ふふ、なんだかお母さんと娘みたいね」

「ボクは男です! 男ですから!」

「…………冗談でしょう?」

「本当ですから!」

「……貴方達を見ていると、性別が些細な問題に思えてくるわ……」

 イェルヴァは同時に全員と会話している。故に、エリオットの秘密もエミリアの秘密も知っているのである。



「……シエルちゃんは女の子よね?」

「うん!」

「……どうしてかしら、信用出来ないわ」

「ちゃんと女の子です!」

 イェルヴァは何を知ったんだろう、と康太は密かに思った。

「でも、康太くんはこんなにいい子なのに、男友達が今までいなかったなんて信じられないわねえ」

「みんな優しかったけど……誰一人男として扱ってくれなかった……」

 中三の夏、他クラスの男子生徒に告白されたコトなんて誰にも言えない。



「大変だったのね……」

「うん……でも、大輔は一応男扱いしてくれるから……初めての男友達なんだ……」

「昔は友達とかどうしていたの? どんな生活をしてたのかしら」

「女子とスイーツショップ巡りとか……一人でショッピングとか……」

「…………」

 それは女子扱いされても仕方ないのではないかしら、という言葉をイェルヴァは飲み込んだ。

「……じゃあ今の男友達について聞こうかしら?」

「大輔と悠人と……エリオットかなあ」

「男友達……まあ、そうね」

 エリオットは違うのだが、その事実は言わぬが花だろう。イェルヴァは黙っていることにした。



「シエルちゃんは……良い子ね。褐色の肌に金の髪で青い眼……とても綺麗な子。それに彼女の感情は安心感がほとんどを占めている……心まで綺麗なのね」

「大輔が拾ってきたんですよ。本人はなんか妙なこと言ってましたけどね。こういうのは俺じゃなくて悠人がやるべき仕事じゃないのかとかなんとか」

「……極まってるわねえ」

 イェルヴァはまた渋い顔をした。しかしすぐに笑顔を浮かべて言う。

「じゃあ他にも聞かせて貰おうかしら?」



     ~~~ミオ・アルカニアと幽ヶ峰葵の場合~~~



「なんでコイツとセットなのよ!!」

「…………納得がいかない」

「面白そうって思ったのよ。実際今もちょっと面白いわ」

「何も面白くなんてないわよ!!」

 しかし、イェルヴァが面白がっているのはそれだけではない。本題は別にある。

「貴女達、悠人って子が好きなんでしょう?」

「「────!」」

 図星らしい。というかまあ、見ていてわからない人はいないと思う。

 それでも、やはり改めて他人に言われるのは恥ずかしいものがあるだろう。



 イェルヴァは一度だけ恋をして、しかし半ばで死んでしまって叶うことはなかった。

 だから、人の恋愛に口を出すのだ。自分のように後悔しないように。

 想いを伝えなかった結果、伝えられぬまま死んでしまったイェルヴァ。

 魔物(ガルナ)になったのは、これもきっと原因としてあるんでしょうね、と心の中で納得はしている。

「さ、じゃあ彼のどこが好きなのか聞かせてもらおうかしら?」

 イェルヴァはニヤニヤと、イタズラを企んでいる子供のような顔で問う。

「…………私は、一目惚れ」

「そう、一目惚れね。私もそうだったわー……。じゃあ、貴女は?」

「アタシは……その、色々助けてもらって……優しいんだって思ってからずっと悠人のことを考えるようになって……」

葵もミオも顔を真っ赤にして、俯きがちに言った。



「ああ……いいわねえ、可愛い女の子の恋愛って。とっても美しいものだわ……ああ、綺麗なものを見たせいで絵が描きたくなってきちゃった」

「…………描かないの?」

「描かないじゃなくて描けないのよ。私は心象世界を持っているけれど、ここ、私の絵の中だもの。絵の中で絵は描けないみたい。そもそもキャンパスも絵の具も無いしね。依り代さえあれば現世にも出られるのだけど……そうだ、レッセリアの孫に頼もうかしら」

「…………なんだか幽霊みたい」

 人類にとって、魔物(ガルナ)は敵だ。しかしこの眼の前にいる()を見ていると、人間と魔物(ガルナ)は共存出来るとさえ思ってしまう。



「私のような、人間が元になっている魔物(ガルナ)には、知能もあれば自我もあるの。でもまあ……いいことは何も無いけれどね。私は心象世界にいるか、誰かの魔力(エナ)の中にいないと存在出来ないし、そもそも死んだのは魔物(ガルナ)化が原因なのだもの」

「それは……どういう意味?」

 イェルヴァは表情を硬くした。

「いい? 人間が魔物(ガルナ)になるということはね、人間でありながら人間でなくなるということ。そもそも魔物(ガルナ)である私が結界の中にいるのはおかしいと思わない?」

「…………でも、ここは心象世界」

「関係ないわよ。心象世界は魔物(ガルナ)の一部なのだから。だけど私は人間でもあるの。だから結界は私を人間だと誤認する。貴女達、魔物(ガルナ)と戦う職業を目指しているのでしょう? なら、きっとまた出会うでしょう。人でありながら人でない存在と。もし彼らが憎しみに囚われていたら、その時は……」



「殺してあげてね」



     ~~~鹿沼大輔の場合~~~



「……そろそろ時間ね」

「時間?」

「心象世界に人を招くことが出来る時間にも限りがあるの。だから、名残惜しいけれどお話もお終いね」

「俺らは元の世界に戻れるわけか。で、イェルヴァさんはどうなさるので?」

「それは戻ってからのお楽しみよ。……そうね、またすぐに会えるってことだけは言っておいてもいいわ」

 ロクなことにならない気がする……!



 俺が戦慄していると、周囲の景色が徐々に光に包まれ始めた。

「もう消えるわ。私は消えないけれど。……ああ、何度見ても自分の描いた世界が消えてゆくのは慣れないものね」

 イェルヴァさんは、寂しそうに景色を眺めていた。

「さようなら、魔法使いを目指す子たち。また会いましょう」

 そう言って、ウィンクした。

「明日にでも、ね」

 そして、視界が暗転した。

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