学内戦開始
俺達は、転送室にいる。
「いいかい? 作戦は覚えたよね?」
悠人はクラスメイト達に確認を取る。
「ええ……ですが、そう簡単に行きますでしょうか?」
時野は不安そうだ。
「あまりに危険だしすぐバレると思うんだが」
松田も不安そうである。
というか、クラスメイトが全員不安そう。
「大輔の作戦はいつも無茶だけど、今回は逆に普通……? いや、安定してゲスいんだけどさ」
「お前らすっごい失礼!」
マトモな作戦だと思ったらこれだよ! 褒められすらしねえ!
「あ、あはは……でも、作戦とか思いつくの、大輔くらいだからねえ」
康太が笑う。今日も笑顔が女の子にしか見えない。
「探せばいるだろ。俺よりもっと頭イイ奴」
多分監督官志望は俺だけだけど。
「そろそろ時間だ。ルールを簡単に再確認しておこう。今回は一対一だ。スタートしてからはお互いのスタート位置がわからない。つまり、索敵しなきゃならないんだね。まあ、今回に限っては必要ないか……なんで大輔、あんなこと思いつくんだろうね」
「誰だって思いつくって。むしろなんで皆やんねえんだよ」
俺は別段変わったことをやっているつもりはないのだ。
「お、魔法陣が光った。もう転送だね」
「勝つぞ! 成績に関係するからな!」
「スポーツマンシップとかじゃないんだね!?」
~~~~~~~~~~
着いた先は、群馬県であった。
「違うよ!? ここジャングルだから! 何をもって群馬だと思ったの!?」
「え? 群馬にもあるじゃん、ジャングル」
「無いよ!?」
グンマー帝国の戦力は一部族だけでアメリカを凌ぐ……!
「さて、じゃあ作戦開始な。光魔法頼むわ」
俺は悠人に言った。こいつ禁呪さえ詠唱に加えればどんな魔法でも使えるからなあ……。
「英雄を支えし力無き者共の声よ、光よ身体を隠せ」
魔法陣から光が発せられ、俺の身体は────消えたように見えている、はず。
俺が見ている俺の身体にはなんの変化も無いから不安になる。
「大丈夫、消えたよ。光の屈折も大丈夫だ。違和感無い」
「これあったら女湯覗き放だ……あ、ごめんなさい嘘です嘘ですから無言で魔導武装構えんのやめてください死んでしまいます」
クラスメイトの過半数は女子なんだからフルボッコにされたらひとたまりもない。
でもよく考えたら俺ってばこのクラスで一番弱いんだから一人でもフルボッコにされるじゃん。やだ、恥ずかしい!
「補助魔法って二つ重ねても消えねえよな……? 風よ我が身を包め」
この魔法、浮遊とか空中の単語が一切入ってないから浮く気しねえんだよな……。久しぶりに使った、物体を空中浮遊させる魔法である。人間でも浮けるのだが、これ使って浮いてると、外部からの影響を受けない限り動けない。俺の蒼空も『外部からの影響』に含まれるのだが、5回までしか空中を蹴れない。リセットをするには、固い物質に両足を同時に付ける必要がある。地面でなくてもいいが、足の裏全体が触れなければならない。靴を履いてると、靴底全体になる。
「じゃあ行ってくる。あ、もしも俺が死んだ時は悠人が全部なんとかしてくれるから」
「信頼が重いよ!?」
「ほい。じゃああとよろしく~」
俺は蒼空を顕現して跳ぶ。これ蒼空もちゃんと隠れてるんだろうか……。
『言い忘れてたけど、その光魔法は君の身体だけを包んでるタイプじゃない。まあ、君は今、光学迷彩のボールの中に入ってるものだと思ってくれ』
なるほど。周囲まとめて隠れてるのか。ジャングルの中みたいな、物質が密集してる場所でこの魔法を使えば、木々まで不自然に消えてしまうから迂闊には使えないな。
俺の魔素会話が届く範囲で索敵をする。上空でずっと留まり、戦局を見て指示を出す。
俺はある程度の高度に到達し、停止する。
『こちら大輔、フェイズ2始動』
『了解、巻き込まれそうになったら避けなよ?』
『こっちまで届く恐れあんの……? あとジャンプ3回残ってるから……まあ大丈夫だろ』
『じゃあやるよー』
作戦としては、俺が司令塔となって戦局を操作するわけだが、木々がとにかく邪魔なのだ。ジャングルだからね見えないからね。
そこでフェイズ2だ。まあ、それはこれから起こるわけだが……。
俺の眼下に広がるジャングルの、2組がいた場所が少し光る。そして。
全部燃えた。
2組のいる場所から大きな、とてつもなく大きな炎の塊が、真っ直ぐ、ゆっくりとジャングルを燃やしながら進む。そう、俺の真下で。
「あっづ! 死ぬ! 熱気が昇ってきて死ぬ!」
俺は超逃げる。死ぬわけにはいかん。
離れたところで停止する。
熱気が届かないところまで行くのに2回ジャンプした。残りは1回。元のところに戻るのは無理だ。いや、今もまだ燃えているから回数が残っていても戻れないな。
「どうしたもんかね……一度着地して回数回復しとくか……解除」
風の魔法を解除し、俺は落下する。かなりクラスメイト達のいる場所から離れてしまった。早く戻らなければ。
少し開けた場所があったので、そこに着地する。
魔力を回復しようと思い、休憩していると、声が段々と近付いてきた。
「何人やられたんだい?」
「はっ! 6人死亡! 4人が負傷であります! エリオット様!」
聞き慣れた声と、知らない女子の声。
…………。
あいつ、やっぱそういうポジションなんだな…………。
「だ、だから、様とか付けるのはやめたまえ……」
「いえ! エリオット様はエリオット様です! 入学式の日……運命を感じました……」
「……漫画にあった高校デビュー失敗って、こういうことを言うんだろうなあ……」
声がどんどん近付いてくる。マズい、エリーは魔力を感知出来る。透明になっても、ランクDの何かがそこにいる、ということはなんとなくわかってしまうだろう。
さっさと退散してしまうに限る。
~~~~~~~~~~
未だに炎は燃え盛っている。空がとても熱い。『ジャングルをどうにかしてくれ』とは言ったが、何故炎をチョイスしたのだ。確かに一番手っ取り早いけども。上空のこと完全に度外視してただろ。
「まあ、敵の場所が早々にわかったのはラッキーだ。……ああ、見えるわ2組」
俺はクラスメイトの元へ跳ぶ。魔素会話の届く範囲にまで近付いた。
『詠唱方向、9時の方向だ。炎は直線的で避けやすい。もっと回避の難しい物はあるか?』
『まーた難しいことを…………じゃあ水と雷のコンボでいこうか』
俺の眼下に、大き過ぎる波が流れる。大きな音を立てて木々を薙ぎ倒し、洪水はどんどんと拡散していく。そして光る。あれすげえ雷流れてんな。
かなり視界も開けて、4組の姿を確認出来た。悲鳴が聞こえる。災難だね君たち。
『……! 向こうのランクSが来る! 動き、見えるかい?』
見渡してみるが、開けた場所には2組以外は見当たらない。となると、相手の動きは一つだ。
『ジャングルの中から奇襲が来る可能性が高い。奴の攻撃手段がわからないんだ、注意しろ』
『……待った、これは…………大輔! 避けろ!』
「んな……ッ」
瞬間、俺の足に、何かが絡まった。
とてつもない力で、地面へと引っ張られる。
「これは……鞭か……!」
ということは。
「エリー…………ッ!」
鞭は俺の足から離れず、どんどん地面が近付いてくる。
「させ──る、かァッ!」
思い切り空中を蹴る。横方向に向けて跳ぼうとするが、一瞬動きが止まっただけで、すぐに地面へと向かう。ダメだ、力が強すぎる。
『すぐに援護に……くっ、残ってる4組か! 少しだけ耐えてくれ!』
『無茶言うな、すぐに死ぬわ! 残ってる生徒も少ないはずだ、あとはゴリ押ししろ!』
地面にぶつかる瞬間に鞭が解かれる。俺は土に蒼空を突き刺し、さらに横方向に向けて跳ぶ。蒼空を軸に一回転し、落下の勢いを殺す。
「あー……死ぬかと思った」
「やれやれ、それがランクDで、それも自虐ばかりしている者の動きかい? 信じがたいね、全く……クラスのほとんどがやられたよ。僕は確かに君を真っ先に落とすと言った。だが、まだ見付けてさえいない段階でここまで痛手を負わされるとはね」
声のする方を見る。
「ええ……奇襲攻撃とも言いませんわ。MAP兵器ですわよ、あんなの。普通、遭遇するまで攻撃とかしませんわよね……」
エミリアとエリーが、魔導武装を構えて俺の前に立っている。
「よう、元気そうで何よりだ」
「何を言うかい。まったく……でもまあ、これでやっと本気の君を見れるかな?」
「お兄さま、こっち2人いますけどよろしいんですの? イジメになりますわよ?」
「僕だけで戦うよ。フェアじゃないからね」
ランクSがランクDに挑んでる時点でフェアじゃないんですがそれは……。
「さあ……行くよ?」
俺は、やはり不幸らしかった。




