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学内戦、一週間前

「…………説明」

 俺は正座していた。隣にちょこんとシエルも座っている。

 目の前には、手を腰にあてて頬を膨らませて立って怒っている康太。まさに「ぷんすか」という擬音が似合いそうで、とても可愛い。だが男だ。

「あー……アレだよ。運命のイタズラ」

「どこから攫ってきたの!」

「そこかよ! いやちげえよ攫ってねえよ公認! これ公認!」

 どこから説明したものか……。



「出かけたらなんか変な集団に出くわして、本拠地乗り込んで、こいつ保護して、死んだ」

「死んだ!?」

「しんでた」

「死んでたの!?」

 ああダメだ。説明が凄く不十分。

「詳しいことはともかくとして」

「ともかく!?」



「魔導士協会からのお達しなんだよ。引き取れって」

「そりゃなんでまた」

「懐いてるから」

「んー」

 空気を読んでか読まずか、シエルが俺の腕にしがみつくように抱きついた。

「狙われてんのこいつ。ユニオンに」

「え……マジ?」



「で、ユニオン連中は魔導士協会に保護されてると勘違いしてるはずなんだよ。で、俺に懐いてるし、ユニオンから引き離す意味も含めてセキュリティも固いこっちで預かることになったわけだ」

「な、なんとなく理解はしたよ……」

 康太はなんだか疲れたように言った。

「で……どうすんの、学校になんて言うの」

「あ、それはもう許可取ってる。というか、協会が取ってくれたらしいし」

 これで須崎先生に怒鳴られたらどうしよう。



「まあ、ここで寝泊まりするのはいいけど……いや、いいのかな……男二人の部屋に小学生くらいの女の子がいても」

「倫理的には完全にアウトかねえ。でもまあ手を出そうと思うか、この子に」

 俺と康太は視線をシエルに向ける。シエルは、急に注目されたことを疑問に思ったのか、小首を傾げた。

「……なんだろう。父性が……」

「だろ……?」

 むしろ守ってあげたくなる。



「そういや、何歳なの?」

「わからん」

「ええ……」

 見た感じは小学校低学年である。おおよそ9歳、10歳程度だろうか。

「で、シエル、自分が何歳かわかるか?」

「んーん」

 首を横に振った。わからないらしい。

「まあ10歳としておこうか。さて……子供の扱いなんてどうしよう……わかんないよ僕」



 俺だってわからん。でもまあ、明らかにわかっていることは一つある。

「甘やかせば……いいんじゃないかな」

「目がマジだよ大輔……!」

 こんな可愛い生き物に厳しく出来るほど俺は鬼じゃない。

「まあ……妹だと思えばいいんじゃないかな?」

「………………」

 妹……妹……か……。

 ダメだ……こき使われた記憶が……!

「? 大輔?」

「え? あ、いや、悪い、ボーっとしてた。いいな、妹。じゃあ余計に甘やかすわ」



「可愛いから仕方ないよねえ」

 俺と康太は二人してシエルの頭を撫でる。

「んふー……」

 とても満足そうである。頭撫でられてご満悦。可愛い。

「いやあ……髪サラッサラだよこの子……肌は真っ白でお人形さんみたいだし……なんなの!?」

「落ち着け」

 しかし、確かに不思議な子である。



「たのもーッ!!」

 なんかめっちゃ頻繁に来るなあ……。

 エリーである。妹さんも同伴だ。

「……………………ゑ?」

 エリーが停止した。

「あらあらあらあら。あらあらあらあらあらあら」

 エミリアが面白そうに笑っている。この状況を楽しんでいるのか。

「お……」

「お?」

 エリーが俯いて震えている。



「男同士で子供って出来るのかいッ!?」

「出来るわきゃねーだろアホがァァァ─────────ッッッ!!!」

 何を勘違いしたのか、シエルを俺と康太の子供だと思ったらしい。



「そうだとしても育ち過ぎだろうが! ちったあおかしいと思いやがれッ!」

「あ、そ、それもそうだね……。……良かったあ……」

「あ? 良かった?」

「い、いや! なんでもない! なんでもないんだよ!」

 エミリアはくすくすと横で笑っている。

「お兄さま、本題を忘れていますわよ」

「そうだね、うん、そうだ」



 エリーはうんうんと頷いてから俺に向き直った。その表情は真剣である。

 俺もシエルの頭から手を離し、話を聞いてやる体勢を取った。

「まず、一つ報告なんだけれども、次の歓迎戦では1クラス対1クラスになった。校長先生が機械を無茶に弄ったせいで、不具合というか……細かい設定になってしまったらしくてね。さっき先生から連絡が来たんだ。ランクSに優先的に連絡を回してるらしい」

「へえ、じゃあ俺なんか最後になるな。で、それがなんだってんだ? まさかウチのクラスとお前のクラスがやるって感じか?」

「ああ、うん、まあ、そうなんだけれども」



 それだけのために来たのだろうか? 一日でもすればわかる情報を伝えるために?

「お兄さま、本題、本題!」

「ええと、ええとだね、そのう……もし、もし僕のクラスが君のクラスに勝ったら……」

 エリーは深呼吸をしている。そんな告白寸前の女の子みたいな表情をされるとドキッとするのでやめて欲しい。最近、男にばっかときめいてるじゃねえか、ふざけんな。



「ぼ、僕と友達になってくれっ!」



 なんとまー、可愛らしいお願いですこと。それはそれとして、気になることがあるので聞いてみる。

「勝ったら、でいいのかよ?」

 負けたら友達になれませんよそれ。大丈夫ですか。その時のメンタル的な意味で。

「う、あ? ああー……!」

 やっちまった、みたいな顔をしている。考えてなかったのかよ……。

「というか、まあ、忘れたかもしれないから言っとくけど、お前、初対面の時に散々俺をボッコボコにしてんだからな?」

「う、うぐうううううううう…………! そ、それは忘れてくれと言っただろう!」



「むしろ何がどうなったらあんなキャラに行き着いたんだよ、おい」

「す、好きなマンガのキャラがアレで……マンガの中でも人気者だったから……真似をすれば僕も人気になれるかなって思って……入学前から頑張ってキャラを作って挑んだら本当にクラスの皆と仲良くなれたし……」

 エリーはそう言うが、はてさて第三者から見ればどうだったのか。

「で、エミリア、本当はどうだったんだ?」

「人気者というよりは崇拝に近かったですわね。美形で、男にも女にも見える中性的なイケメンが女王様プレイですわよ? 男女問わず発狂してましたわ」

「だろうなあ……」



 崇拝≠人気、である。少々エリーは純粋過ぎる気がする。

「で、なんてマンガのなんてキャラだよ。知ってるかもしれん。というかなんとなく見当付いてるけど」

「く、クリムゾンスケイルのリメーラ……」

 クリムゾンスケイル。ファンタジーマンガで、個性的なキャラで人気がある。

 リメーラは男装の麗人でムチを持ったキャラクター。本当の身分は王女であり、身分を隠して主人公と旅をしているのだ。

 クリムゾンスケイルはいわゆる俺TUEEEE作品である。主人公は生まれ持った、溢れ出さんばかりの力を駆使して世界を救うのだ。俺はこういう作品があまり好きでは無いのだが、友人からの勧めで読んだことがある。



「これでお前の魔導武装がムチで本当は女だってんなら完全にマッチしてんだけどな」

「馬鹿を言わないでくれたまえ……まあ、ムチなんだけど」

「リーチじゃねえか。目指せツモ」

「性別なんかツモらないよ!?」

「役は国士無双女体化待ちってとこか」

「そんなもの待たないでくれたまえ!」

 ねえのかな、女体化魔法。…………いや、あっても困る。康太にうっかりプロポーズしかねない。いや、エリーもエリーでかなり……。



「男で何を考えてんだ俺はぁぁぁぁぁぁッ!」

「な、なんで急に頭を地面にぶつけるのかな!? 怪我をするからやめたまえ!」

 俺は雑念を追い払うことに成功した。試しに康太の顔を見てみよう。

 康太は部屋の中に上がり込んできていたエミリアと談笑している。めっちゃ盛り上がってる。いつの間にそんな仲良くなったんだお前ら。

 しかし……可愛いなあ……あれが女だったらなあ……はっ、払えてねえ雑念!



「と、とにかくだ。僕だけが勝った時のことを決めるのもおかしい話だ。君も僕のクラスに勝った時のことを考えていてくれ。ぼ、僕は君に何を命令されても甘んじて受け入れるつもりだ……! なんでも言うことを聞くよ……」

 ん? 今なんでもって言ったよね?

 しかしどうしたものか。男相手になんでもと言われてもな……。俺にはそっちのケはないし……って、エロいことばっか考えるのがおかしい。

 ラーメンでも奢ってもらうとしようか。食べてる間、ずっと歓迎戦の時のことで弄り倒してやろう。



「い、一週間後の学内戦が楽しみだ! で、では!」

 顔を真っ赤にしたエリーは走り去っていった。律儀に部屋の扉を閉めて。

 ……っていうか今更だけど、本人認証もナシにどうやって部屋の扉を開けたんだよ。

 という疑問をエミリアにぶつけてみた。

「え? そんなもの、ランクS特権に決まっているではありませんの。というのは冗談で……あの認証機械、魔力(エナ)が大き過ぎる生徒が手を当てると自動で開いてしまうのですわ。不具合だと思って頂ければいいですわね」

「運営対応しろよ。フォーラム戦士になってやろうか」



「な、何を仰っているのかわかりませんけれど……あと普通に鍵、開いてましたわよ」

「ああ、閉めてなかったねえ。でもさっきの話が本当なら女子の部屋入り放題じゃない? いいなあ」

 康太があっけらかんと言った。アホか。……いや、悠人なら許されてそうだなあ……イケメンだしなあ……。

「で、大輔さんはお兄さまに何を命令するのか、決めましたの? どんないかがわしいことを命令なさるおつもりなのか……教えて頂けませんか?」

「しねえよっ! 俺は普通に女の子が好きだしな。まあ、精々ラーメン奢ってもらうとかその程度だよ」



「でも、わたくし、もうすでに一部の女性の皆様に言いふらしてしまいましたわ? 『お兄さまと2組の鹿沼大輔がにゃんにゃんする』と」

「撤回してこいやあああああ!!」



 来週は、4組との勝負である。

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