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次の一手のために

 俺はデイビッドの手にある本を警戒しつつ、適度な距離を保つ。

 本型魔導武装は魔導武装の中でも特殊なモノのカテゴリに入る。専用能力が統一されている、ということは覚えているのだが、それがなんだったか……。

「さァ、活目しなさい、神の使いを!」

 偉大なる神の教え(サルベイション)が光り、そして共にデイビッドの背後にも光の珠が現れる。



「これぞ天使! 我が神の意思を私に伝える存在ィ!」

 光が消えると、そこには化け物がいた。

 人型で、大きさは幼児ほど。首から先に顔はなく、身体は全体的に痩せ細っており、骨張っている。背中からは鳥の羽が生えている。

「すっげえ生理的に無理……」

「あァ……美しィ! これぞ神による造形!」



 あー……思い出したー……。本型魔導武装の能力は『持ち主の心を具現化し使い魔を召喚する』とかいうものだった。どんな心持ちであんなキモいの召喚出来るの。

「さァ、天使様! あの雑魚をサクッと殺して下さいィ! そして神子様を探しに行きましョう!」

「それが出来たらいいんだがなあ」

 俺は思いついた作戦を実行する。嘘ついてヘイト溜めて、時間を稼ぐのだ。俺ってば嘘つくの得意だからー。息をするように嘘つくからー。まあ、嘘だけど。康太とか悠人ばっかり相手にしてて嘘なんかつけるわけないだろ。



 でも、こいつは別だ。なんせイイ奴じゃないからな。嘘ついても良心が傷まねえ!

「お前、魔導士の本部に突っ込む自信ある?」

「……なんですッて? まだ居るでしョう、ショッピングモール(ココ)に」

 よし、かかった。チョロい。

「危険思想の人間に狙われてる少女がいて、狙ってる危険思想の人間がいて、魔導士候補生の俺がいて、生き残った魔導士がいます。さて、どうするでしょーか?」



「…………まァ、妥当な判断ですねェ。しかし……逃がす暇なんてありましたかァ?」

「なんのために魔力(エナ)をばばら撒いたと思ってんだよ。それに逃げたのはガキじゃねえ。生き残った魔導士だよ。ガキを一人で逃がすわけねえだろ」

「…………はァ~~……。面倒臭いことしてくれますねェ……」

「お褒めに預り光栄だよ。さあ、どうする? 俺としては引いてくれるなりすると俺も死なねえで済むんだがな?」

「じァあ、アナタを殺してからまたゆッくりゆッくり、信者(てあし)を集めてェ、力を蓄えてェ、魔導士協会本部でお祭りですねェ」



 なんだこいつすっげえポジティブ。魔導士協会舐め腐り過ぎだろ。

「我が神の使徒よォ! あの雑魚を手始めに捧げましョう!」

「うっわきっもこっち来んな」

 デイビッドの使い魔が俺に向かってくる。近接戦闘タイプのようだ。

 蒼空のリーチに入った瞬間、使い魔は俺に向けて手をかざす。



平伏せ(レーム)人間(ヒューロ)

 顔ないのにどこから声出てるんだそれは。

 そんな疑問を持ってもキモいのは止まらない。掌の魔法陣が光る。俺の背中にとんでもない重圧がかかる。地面に叩きつけられる。まるで背中に三人近い大人が座っているようだ。

「終わりですねェ! 爆発せよ(ロクス)

 俺はその瞬間、デイビッドの視線を見た。そして、魔力(エナ)を使う。

 爆発するのは俺──ではなく、俺が接している地面だ。魔力(エナ)による爆発だが、ダメージは半端なものではない。



「ぐ、う、お、おォォォォォォォっ!!」

 着ていた服の前面はボロボロになり、身体の皮が裂ける。

「……魔力(エナ)で、防御しましたねェ?」

「守ったのは俺自身じゃねえ……げほっ」

 口の中が鉄の味だ。なんだか全身痛えし立っていると身体が裂けそう。

「無属性魔法なら俺でもある程度対処出来るさ……魔力(エナ)の流れが単純だからな……」

 俺は爆発する寸前、残っている魔力(エナ)の70%ほどを地面に流し込んだ。



 デイビッドが発動させた魔力(エナ)を、俺の魔力(エナ)でせき止めたのだ。空気中では出来ない芸当。閉鎖空間である地面の中だったからこそ出来たわけだ。

「イイことを教えてあげましョう! 神の使徒の重力魔法は一度使うとしばらく使えませン! しかしィ! 固有能力は別に存在しているのですねェ!」

「どこがイイことだよ……魔法使えて能力もある上に……召喚者も自由に動けるなんて頭おかしいんじゃねえのか設計者……」



 俺の槍なんかちょっとジャンプ出来るだけだぞ。出てこいや設計者。

 しかしどうしたものか。この状況では迂闊に動けない。後で悠人達は来てくれるだろうが、そこにはシエルもいるはずだ。

 嘘がバレるのはまだいい。恐らく、悠人ならデイビッドには負けない。

 だが、デイビッドが戦闘行動を取らなければ話は別だ。あの神の使徒の能力が人を攫うことに関する能力だった場合、シエルを連れ去られてしまう可能性がある。



 それに、未だに戦闘に使われていないのだ。戦闘向きの能力でない可能性が高いだろう。そうなると、より一層シエルを連れ去られる可能性がある。

 それだけは避けねばならない。本気で逃げられてしまえば、次また探し出せる自信が無い。



 悠人と魔素(マナ)会話をしたいが、空気中の魔力(エナ)が濃すぎて魔素(マナ)が届かない。どれほど時間を稼いでいいものかがわからない。

 とりあえず、聞きたいことを聞いてみることにしよう。これによって動きが変わってくる。素直に答えてくれるとは思わないが……。



「なあ……あんた、もしかしなくても、アレ、持ってんだろ?」

「ンン~~……? なァンのことですかねェ?」

「人を殺すためのビンだよ。魂を閉じ込めるだかなんだかのな」

「えェ、当然ですともォ。いついかなる時も生贄は欲しィですからねェ。それともなンです? 生贄に立候補ですかァ?」



「馬鹿か。死んで回復! って手が使えねえってだけだよ。まあ……体力回復だけなら今すぐにでも出来るがな」

 空気中の魔力(エナ)を、身体に取り込む。

「知ってるか。魔力(エナ)ってのはな。身体にいいんだぜ」

 魔力(エナ)を使い過ぎると疲れる。ならばその逆ならば。

 取り込めば回復になるはずだ。

「さてェ……じャあ休憩にでもしましョうかねェ」

「やけに待ってくれるんだな。ありがたいけどよ」



「いえ、まァ。ブシドー、とでも言いますかァ。郷に入ッては郷に従えとも言いますからねェ。それに私、楽しくて仕方ないンですよォ。アナタほど私の前に長く立っていた人間はいませンからねェ」

「褒めるんじゃねえよ。照れるじゃねえか。俺はただ小細工を弄してるだけだぜ」

「日本人は謙虚ですねェ。……いやァ、しかし……久しぶりに人と話していて面白いと思いましたねェ」

「は? …………ふぅ、あーしんど……。楽しいか? ガキだぜ、相手」



「いやァ、楽しィですよォ? 何が嘘で何が本当なのかァ……どこまでが本心でどこまでが冗談なのかァ。探りながら喋るのはァ、なかなか無いですからねェ」

 ……まあ、頭使って喋ってないし……。ほぼ脊髄反射で喋ってるからな……。

「あァ、今アナタ、自分に何か言い訳したでしョう? 嘘、つきましたねェ?」

「……いやちょっと何言ってるかわかんないですね」



「10年近く日本に住ンで来ましたがァ、日本人ほど面白い人種はいませンよォ。本音に建前……相手の立場を慮って会話を進める……自分のことは語りたがらない……熱しやすく冷めやすいことが多い……面白いですよォ。これでも元々神父なンぞをやっておりましたからねェ。懺悔を聞いていたものですよォ。人との関わりが多かッたッてことです」



「日本語上手いなと思ったらそういうことかい。でも、いいのか、こんな時間を作ってて。俺、もう大体疲れ取れたぜ?」

「発音はクセがあるとよく言われるンですよねェ。……あァ、回復しましたァ? じャあそろそろやりましョうかァ。神父をやッていた頃は、暴力はご法度でしたからねェ。どうせ久しぶりに遊ぶならァ、全力で遊びたいじャないですかァ!」



「今でもご法度だよ! ……はあ、とんでもねえのに喧嘩売っちまった……」

「さァ! さァさァさァさァさァさァさァさァさァ!」

 やだ……ちょっといい人? と思ったらやっぱり狂信者だった。理性的だったり狂っていたり、掴みどころが無さ過ぎる。



「だがまあ……もう小細工はナシだな。手は尽くした。後は真面目にやるさ」

「楽しみにしてましたよォ! アナタの本気をォ!」

「そら、行くぜ! お喋りは終わりだ! 待ってくれてありがとよ!」

 俺は蒼空を構え、デイビッドとの距離を詰める。

「ヒャヒャヒャァ! イイですねイイですねイイですねイイですねイイですねイイですねェ! 最ッ高ですよォ!」



      ~~~~~~~~~~



「どうしましたァ!? さッきから逃げてばかりですよォ!」

「やかましい! キモいんだよニッコニコ攻撃してきやがって! 近付こうと必死だし爆発避けんので忙しいんだもうちょっとガンジー然とした態度を取ってみろアメリカ国籍白人男性住所不定無職!」

「よォくアメリカ出身だってわかりましたねェ!」

 いや、適当に言っただけだけども。



 俺は距離を図りながら、飛んでくる爆発を回避している。視線を見ればどこが爆発するかわかる。魔法は自分の視界の入った範囲でしか発動出来ない。爆発する(ロクス)の動詞を詠唱する場合、視線の中央に意識を向けなければいけないのだ。いや、まあ、だいたいの魔法がそうなのだが、例外ももちろんある。



 しかし……一番気になるのは、デイビッドが属性語を詠唱に組み込まないことだ。さっきからずっと動詞詠唱……それも爆発する(ロクス)の動詞ばかりだ。魔力(エナ)が空気中に充満しているという状況では確かに無属性詠唱の方が危険性は少ない。が、攻撃のための手を失っているとも言える。



「ンン~~……中々やりますねェ。もう重力を掛けてもほぼ完全に対処されてしまいますしィ……違う手を使いましョうかァ! 使徒様ァ!」

引力の(ベリーア)圧を(シャーム)

 攻撃の機会を窺っていた俺の身体が、急に真後ろに吹き飛ぶ。何かに引っ張られている感覚。身動きが取れない。

「ちっ……」

 だが空中ならば。俺は動けるはずだ。思い切り地面を蹴る。少し動くが、引力は止まらない。



爆発せよ(ロクス)ゥ!」

 突然、空中が爆発する。空気中の魔力(エナ)が攻撃性を帯び、俺の身体を襲う。

「…………がッ……!?」

 血を吐く。引力が同時に消え、俺はその場に崩れ落ちる。

「ぐ……ああ……くっそ……防御が追いつかねえ……!」

「まァた防いだんですかァ? 魔導士だッて一撃で死ンだンですけどねェ」

「爺ちゃん仕込みの防御技さ……そら、喋ってる場合かよ!」

 俺は勢い良く飛び上がり、蒼空をデイビッドに突き刺そうと飛び掛かる。



「……! 使徒様ァ!」

 蒼空は使徒の身体に突き刺さる。使徒は痛みを感じたように身体をよじる。

「鬱陶しいんだよ!」

 刺さっている蒼空を思い切り振り下ろす。使徒の身体は裂かれ、魔素(マナ)に────。

「あァ、もう楽しい時間も終わりなンですかァ……。ダイスケ=カヌマ。これほど楽しかッたのは久しぶりですよォ。お疲れ様でした。神の名においてアナタに安らぎを──」



 ならなかった。デイビッドの持つ本から、使徒に対して魔力(エナ)が送られている。それで切り裂かれかけていた使徒は回復した。俺は反応出来ない。蒼空を振り切ってしまったから。



 胸部に痛みが走る。ゆっくりとそこを見ると、使徒の腕が俺の左胸に近い位置を突き刺していた。顔のない使徒が、俺の方を見た気がした。まるで、やり返してやったぞ、とでも言うように。

「──ああ……ここで死ぬか……俺は」

「えェ。そうなりますねェ。魂は、失礼ながら頂きますがァ。アナタほどの戦士の魂だ。さぞ大きなモノでしョうからねェ」

 デイビッドの手には、ビンが握られている。死んだ人間の魂を閉じ込める、それが。



「く、くく、そうか、真の意味で死ぬのか……げほっ。そいつぁなかなか出来ねえ体験だな……」

「人生で最後の瞬間ですよォ。何かあれば、神父らしく聞きますがァ?」

「教祖だろ、お前は……。なに、死なんさ。死ぬのは今だけだ。どうせすぐ目が覚める。そのための時間稼ぎだったんだから」

「……そうですかァ。それでよろしィのですねェ? では、使徒様。痛みなく安らぎを────」



      ~~~~~~~~~~



 時は数分前に遡る。



「なんだって?」

 僕は、突如現れた、シエルと名乗る少女の相手をしていた。場所は教団が使っていたビルの中だ。

「だいすけが……だいすけが、ひとりで……」

「一人で? 一体、何が……」

ゆうと(丶丶丶)をよんでこいって。あいつならなんとかするって。そういってた」

「……わかった。場所はどこかな?」



 また大輔は一人で何かをしている。何をしているかまではわからない。だけど、それはきっと誰にも気付かれないことなのだろう。誰にも認められないことなのだろう。

「よんかい。よんかいにいるよ」

「わかった、すぐに行くよ。……ミオ、葵、シエルちゃんを見ててくれるかな?」

「…………私も行く」

「私だって行くわよ。これ以上ほったらかしなんて嫌だわ」



「……しえるも、いきたい」

 三人共、僕の目を見てそう言った。信念と覚悟を持った目だ。説得出来ない目だ。

「……大輔が助けを求めてる。きっと危険だ」

「なら、なおさらアンタだけ行かせられないわよ。手伝わせなさい、アンタの親友を」

「…………鹿沼には、借りがある」

 まあ、言っても聞かないんだろうな……。

「わかった。でも、危なくなったらすぐに逃げるんだよ。僕はとにかく、大輔を助けないと……嫌がらせだなんだって言って、何をしてるかわかったもんじゃないからね……」



 大輔は、作戦を考えるにあたってリスクを考えないというか。リスクとリターンを天秤にかけて、リターンが大きければその作戦を実行する、みたいなことをやりかねないんだよなあ。

「じゃあ──行こうか。みんなで」

 僕たちは、転移魔法陣をくぐった。


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