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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
入学と、クラス内模擬戦。
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クラス内模擬戦、決着!

 ランクSの少女が、手に持つ大きな諸刃の剣を振り下ろし、悠人は片手剣で受け止め弾き返す。大剣は少女の身長の二倍近いサイズで、少女の細身の身体で持てているのが不思議だ。


 俺はその戦闘に酷く惹かれてしまったのか、もっと近くで見たいと思った。しかし近づけば巻き込まれてしまうだろう。


 ステルス系の魔法が使えれば苦労はないのだが、残念ながら最も簡単なステルス魔法はランクBである。俺の保有魔力量では数秒と持たない。それにあのレベルの戦いであるならば、近付くには気配も消さなければならないだろう。気配も消せるステルス魔法はランクAである。


「…! ………!」


「………! …………!」


 何か話しながら戦っているらしいが、この距離からでは会話をしているであろうことしか確認できない。仕方がないので、足元で倒れている木の幹に腰掛けて、縁側に座り日向ぼっこをする老夫婦よろしく暖かい目で二人の戦いを見守ることにした。


「いやー……よーやるわ」


 それが俺の正直な感想である。今の気分は、プロスポーツを観戦しているサポーターのそれに近い。


 二人が離れ、双方がお互いに対して手をかざした。掌に魔法陣が現れる。少女は青、悠人は赤の魔法陣だ。


 魔法陣はわかりやすく、色で属性が判断できるようになっている。とは言え、それはあくまで五大属性であれば、の話で、音魔法や毒魔法などは黒であったり白であったりするので、マイナーな属性を使っていると判別がされにくい。


 加えて、火属性の魔法であっても水属性に勝てる。魔法に流し込まれた魔力(エナ)が不利分を埋めるほど多ければ、火は水を蒸発させるだろう。


 詠唱が終わったらしく、魔法陣から光が発せられる。少女の青い魔法陣からは莫大な量の水の刀が現れる。恐らく超高圧水だろう。そして、悠人の赤い魔法陣からは、その水の大きさの倍はあるであろう青い炎が噴出した。どう考えてもランクDの魔力量ではない。


 その炎は水を全て蒸発させ、しかし勢いは衰えることなく少女を呑み込んだ。周囲の木々は炎に包まれた瞬間に炭と化している。


 炎はある程度進んでから消えた。その通った跡には焦げた木々と、倒れたランクSの少女が残されていた。


 悠人が、ランクSに勝った。


「……嘘やん」

 そう似非関西弁で呟きながらも、俺は必死に考えを巡らせる。


 逃げるか、戦うか。


 本音を言えば戦いたくはない。ランクSに勝てるような相手とランクDの俺が戦っても結果は火を見るより明らかだ。



 逃げよう。



 そう思った瞬間、悠人が目の前に立っていた。



「うおわあああああああ!? 命だけは許してつかあさい!」


「…何言ってんの…?」


 しまった。あまりの驚きで、山賊に襲われた農民の魂が降りてきてしまった。


「い、いや…。というかお前…ランクDじゃなかったのかよ。嘘だったのか?」


「嘘じゃないよ。ほら」


 そう言って悠人は俺に、電子生徒手帳の画面を向けてきた。名前の欄の下には、『ランクD』の文字が表示されている。


「いやしかし、残ってくれてて良かったよ」


 悠人は片手剣を構える。


「大輔とは一度、戦ってみたかったんだよね」


 俺は一度も戦ってみたくないのだが。


「あ、いやほら、時間も時間だしさ。いいところで終わっちまうかもしんねーだろ?」


 そう言うと、悠人も納得したように頷いた。これで無駄な戦闘は避けられそうである。


 ホッと胸を撫で下ろしていると、脳内に声が響いた。魔導士の基本テクニックである。空気中の魔素(マナ)に少しだけ魔力(エナ)を注ぎ込み、自分を中心とした円形の範囲にチャンネルを作る。そのチャンネルの範囲内であるならば、指定した相手と、伝えたい内容のみを思考だけでやり取り出来るのだ。詠唱なしで効果が発揮できる、数少ない魔法だ。


 それは、我らが麗しき須崎先生の声であった。


『これ制限時間ないぞ。誰か一人になるまで終わらん』


 なんだとおおおおおおおおおおおおお!?


「えっ、じゃあ戦えるじゃないか」


「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」


 首が千切れんばかりに俺は首を横に振った。命が惜しいお年頃なのだ。訓練で死んだりしないけど。


「ほら、」


 悠人は構えを直す。その身に纏う空気が変わった。


「やろうよ」


 有無を言わせぬ圧力。その表情は笑顔であるにも関わらず、そこからは底の見えない自信が見て取れた。


「はぁ…」


 俺は溜め息をついて、手を握る。それと同時に光が現れ、俺の武器が元々そこにあったかのように握られていた。それは、一本の長槍だ。


「期待すんなよ、こちとらランクSよりマイナス百倍強いんだ」


「謙遜しなくていいよ。…その手の槍、『蒼空(そうくう)』だろう?」


 悠人はそう言う。そう凄い物でもないのだが。ただちょっと有名なだけであって。実際、俺はこの槍を全く使いこなせていない。それにこれ只のもらい物だし。


「お前に言われたかねえよ…」


 悠人が持っている武器も、それはそれは名の知れた武器だ。名前だけなら歴史の教科書に載っているだろう。俺は家庭事情により、魔導武器の知識を得る機会があったので知っているに過ぎないが。


「さて、じゃあやろうか」


「ああもう…ツイてねえなあほんと…」


 俺は構えを取った。やるからには本気で掛からねばなるまい。それでも一太刀浴びせられるか微妙だ。俺は放出魔法が大の苦手なので牽制も出来るかどうか怪しい。


「はっ!」


 悠人は、信じられない速度で俺の眼前に迫り片手剣を振り下ろす。俺は面食らって咄嗟に真後ろに跳んだ。剣が空を切る。いや、斬っているのか。


「くそ…目で捉えられねえ」


 俺は着地し、悠人を見据えた。彼は余裕を持って剣を構え直している。


 直後、その姿が消える。否、消えたように見えるほど速く動いているのだ。


 俺は直感を信じて槍を前方に突き出す。すると、ガキィン! と金属音が鳴って、突きが防がれる。槍の先には、次の行動に移っている悠人がいた。


 悠人は剣を振り下ろし、俺は槍の柄でそれを弾き返した。しかし怯まず斬り上げ、薙ぎ払いと剣を振るうが、俺はなんとか防ぐ。


 埒が明かないと判断したのか、悠人は大きくカカッとバックステッポ…もといバックステップする。



怨嗟の(ベルスガ)英雄の(ハルアーロ)力をもって(ファルテス)現れたまえ(カルニーク)膨大な(メイズラーズ)凍える(クラードス)弾丸よ(シュラウト)!」


「はぁ!? 禁呪だろそれ!」


 前半に詠唱された魔法語は『禁呪』と呼ばれ、どこの教科書や参考書にも載っていない魔法語だ。消費される魔力量が通常とは比べ物にならない上、詠唱に組み込むだけで魔法の形式が変わってしまうのだ。存在が機密とされ、書類はおろかデータとしてすら残されていない。何故俺が禁呪を知っているか、というのは別の機会に話すとしよう。


 悠人は魔法陣から数え切れない程の氷の弾丸を精製する。それも、俺をドーム状に囲むように。回避は無理そうだ。


「僕の勝ちだね」


「ああ、知ってた」


 訓練室に、轟音が響いた。



          ~~~~~~~~~~



「うーん…うーん…タコタンのランスラで床が美味い…ヨシダアアア……はっ!?」


 なんだかすごく悪い夢を見ていた気がする。


「あ、大丈夫かい? なんだか良くない夢を見ていたようだけれども…」


 ベッドの横の椅子に座っていたのは悠人であった。


「いや、ああ、大丈夫だ、問題ない」


 爽やかな笑顔で返してから、周囲を見渡す。病院の病室のような部屋だ。天井近くに金属のレールがあり、そこからカーテンが垂れていて、ベッド付近を区切っている。圧迫感もあるが、安心感も同時にある、不思議な感覚だ。


「ここは保健室だよ。気絶してたクラスメイトもみんな転送されてるね」


「お、おう、そうか…。じゃねえよ! お前! なんでランクDで禁呪なんか詠唱に組み込んでんの!?」


「え、いや、僕禁呪使わないと魔法使えないし…」


「は?」


「僕は生まれつき、空気中の魔素を魔法に出来ないんだよ。だから、体内の魔力をダイレクトに魔法にするしかないんだ」


 本来、魔法は体内の魔力を燃料にして空気中の魔素を魔法的物質─つまり魔法そのものへと変換させる。魔素は魔力を作るにも、魔法を構成するにも必要である、ということだ。魔法陣は体内と体外を繋ぐパイプの役割を果たす。こうすれば、少しの消費魔力で強い魔法を使える。


 しかし、禁呪に指定される魔法語が詠唱に組み込まれた場合、魔素を変換するのでなく、体内の燃料たる魔力をそのまま魔法に変えて放出する。すると、魔法陣はパイプではなく砲口の役割となるのだ。体内の魔力を直接変換するので、魔力消費がとにかく激しい。


「しかし、なんで君が禁呪を知っているかが不思議だよ。禁呪自体、重要機密指定だし、ランクSの魔導士だって知っている人は限られるのに」


「まあ俺はそういうのに凄く詳しい人が身内にいるからな…」


 機密を孫可愛さでペラペラと話してしまう困った爺ちゃんが。


「っていうか俺も数個は禁呪を知ってるが、さっきのは全く知らない禁呪だったな。もしかして、魔術協会すら認知してない魔法語なんじゃないか?」


「まあ、そうだね。かと言って別に禁呪は使用が禁止されている訳じゃあないからね」


「俺が詠唱したら魔法も発動しないで魔力切れで倒れるだろうがな……」


 俺は魔力量はランクEレベルなのだ。


「ってお前がなんでランクDなのかわかったよ…。通常の魔法が使えないんじゃ、ランク測定の時の魔術項目で通常放出魔法詠唱テストじゃあ点取れないわな…」


「まさかそんな場で禁呪使う訳にもいかないからね」


「保有魔力量はどうなんだよ? 流石にそこは間違えようがないだろ。禁呪使えるんなら並みのランクSよりも多いぞ」


「いや…何故か計器が測定不能になっちゃったんだよ。故障したんだろうね。それで、まあ針はゼロに近い数字を指してたからランクDになったね」


「アホか、それ針が一周してる上に測定不能に陥るほど魔力多いんだよ。てかなんで少ない魔力量で禁呪使えてたのかって疑問に感じなかったんだよ」


 悠人は俺の想像以上に天然なのか…抜けているところがあるようだ。


「じゃあ、僕はそろそろ行くよ。なんか、ランクSの女の子に呼び出し喰らってね。さっき勝ったから、プライドに傷を付けちゃったみたいだ」


「そりゃお前は書類上はランクDだからな…」


 そう言って悠人は手をヒラヒラと振って保健室から出て行った。割と長い間話していたが間に合うだろうか。いや、多分指定された時間よりは遅れるだろう。


「…………?」


 カーテンの外に誰かが立っていた気配がするが、恐らく他の生徒の見舞いだろう。



 ふと窓の外を見た。



 綺麗な夕日に染まる中庭と、そこを半裸で全力疾走する筋骨隆々の成人男性が日の光で真っ赤に染まっていた。


 ……何あれ。

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