教団潜入
待ち合わせに使った、見ているだけでSAN値が下がりそうなオブジェの前で、俺含む人質たちは手を後ろ手に縛られて、座らされていた。多くの人は逃げたようで、人質もざっと二百人程度といったところだろう。円形にまとめられて、三十人ほどの宗教関係者が囲んでいる。
そして、皮膚を一切見せない斬新なファッションに身を包む男が、俺たち人質に向けて言う。
しかも俺は場所も運も悪く、頭に銃口を突きつけられている。涙目で両手を挙げるしかない。
「もし神を信じる心を持つのなら……神の名の下に救済を与えましょう」
意訳すると『僕たちの信じる神様を信じよう! じゃねーとぶっ殺すぞ』ということか。
ふっ、馬鹿げたことを。人がそんなつまらんことで神なんてものを信じるわけがないだろう。
「我々は結界などという下劣な空間下でも、人を神の御下へと送る加護があります」
……意訳すると『結界内だけど復活させないで殺人出来るよ』ってことか……。
「お助け下さいいぃぃぃぃぃぃぃぃィィィィィィィィィィ───────ッッッ!!!!」
まあ、うん、言うよね。というか叫んじゃったよね。
「ふむ。貴様は神への信仰を持つと言うのだな?」
「カミサマバンザイ!」
「ならば貴様は生贄にはせんでおいてやろう」
俺の叫びにつられてか、周囲の人間も助けを請い始めた。どんどん増えるよ信仰者。
だが嫌がらせとしては着々と進んでいる。このままもっと増えろ信仰者。信仰者の数=生存者だ。
「は、意味わかんねーし」
あ、この野郎バカ!
「結界? があるうちは安全って聞いたし。っつか神様とか頭おかしいんじゃね? ウケる」
そう言ったのは、なんともクラシックなギャルである。今どき珍しいギャルである。隣にはビックビク怯えている彼氏。これまた古めかしい格好をしている。なんで鼻にピアス開けてんの? 家畜願望があるの?
「……ならば貴様は生贄となるがよい」
男は、ギャルの腹部に剣のようなものを突き刺した。
「…………は? 意味わかんねえんですけど……」
血が止めどなく溢れだし、ギャルはその場に倒れ伏した。ピクリとも動かない。
そして、死体が、いつまでたっても消えないのだ。
結界内で死ぬと、その身体は消える。そして、蘇生処置がなされて、病院で復活、となるのだが……。
「結界とは、死んだ者の魂をその場に繋ぎ止めるもの。しかし私共は、神の思し召しにより、死んだ魂を封じ込めることが出来るのです」
そう言って、男は懐からビンのようなものを取り出した。中に、青い炎のようなものがユラユラと揺れている。
「これはこの愚者の魂……。聖地に帰ったら、これを神に捧げるのが我々の役目。新しき同胞達よ。後に皆にもこれを配布しましょう」
あのビンに人の魂を捕らえることが出来て、それはこの人数に配れるほど大量にある……。なるほど、イイことを聞いた。
出来ることならヤツらの本拠地に潜入したいものだ。今のうちに実績を積んでおけば後で楽出来るからね!
『悠人、聞こえるか』
『うん、聞こえてるよ。神様に助けを請うてたところから見えてたしね』
どうやら移動してきていたらしい。
『……人が死んだ。俺が思うに、あのビンさえ壊せばいつも通り蘇生は出来るはずだ。今の目的はそれだな。あと、ヤツらを殺さない方がいい。捕まえるのが一番だな』
『ま、病院で暴れられても面倒だしね。気をつけるよ。うっかりしてるとやり過ぎちゃうから……』
こ、この野郎……! まあいい。次は俺の思いついたことを言うとする。
『でだな。俺はこのままこいつらのとこに潜入しようと思うんだが、どうだ?』
『ダメだよ。危険すぎる』
『まあお前がダメっつってもやるんだけどな』
こっちは成績がかかっているのだ。模擬戦の点数は大きいが、俺では稼げる見込みがないからな。ここでちまちま稼がなくては。
魔導士候補生が犯罪や事件を解決させた場合、ボーナスで点数が貰える。日頃から実戦で鍛えようってわけだ。そして、成績の悪い生徒の救済措置でもある。
『……ま、君は危機管理能力に長けているからね。大丈夫だとは思うけどさ』
『それに……結界内で人を殺せるってんだ。調べない手はないだろ。そんなものが出回っちまったら終わりだ』
『その前に、この状況をどうにかしなきゃね。策はあるかい?』
俺は内申でニヤリと笑みを浮かべる。
『まず、出来る限り気付かれにくい魔法で、お前の方向を向いてるヤツを倒せ。そうすると確実に騒ぎが起きる。その騒ぎに便乗して、数人残して倒しまくれ。生き残りは逃げるはずだから、それに俺はついていく。いいな?』
『……よくもまあそんなことすぐ思いつくよね』
『誰だってこの程度は思いつくさ。じゃ、タイミングは任せるぜ』
そう言って、俺は魔素会話を切る。
その瞬間、俺の背後にいた信者達が断末魔を上げて倒れる。消えないところを見ると死んではいないようだ。しかし、せっかちなんだな……。
案の定、他の信者が混乱し始め、人質の間にざわめきが起きた。
それを黙らせようと信者が銃を構える。
「いやあ、まさかここまで上手く行くなんて……ビックリだね」
そんな呑気な声と共に、数人の信者が倒れた。
「峰打ちだから死なないとは思うけど────ね!」
さらに、目にも留まらぬ速さで十人ほどを倒す。俺なんかよりずっとはやーい。
俺の方を見て、にこりと微笑んだ。行けってことか。ならばやるしかないだろう。
「に、逃げろ! こんなところで捕まっては神にお向け出来る顔も無くなるぞ!」
と、俺は叫んだ。こんな騒ぎの中なので、誰が叫んだなんて誰も気にしちゃいないようで、信者どもは一目散に逃げていった。
『僕らはこいつらを縛り上げてから行くよ。魔導士達が来ないことには動けないね』
『後で場所を伝える。出来るだけさっさと来てくれよ。俺まだ死にたくないし』
俺はそう言って、信者に混ざって逃げる。
「……貴様、最も早く神に助けを請うた人間だな?」
信者の男の一人が、走りながら俺に話しかけてくる。
「あんた達に興味があってな」
とだけ言うと、信者の男は「そうか」とだけ言った。
どうやって逃げるつもりだこいつら……と思っていると、立体駐車場に着いた。そこの地下、最も奥の壁に魔法陣が描かれていた。
「……これは、転移魔法陣?」
転移魔法陣。2つ描いて魔素で繋げれば、通路になるのだ。便利だが、少しでも傷付くと使えないのが玉にキズだ。
「貴様、魔法語が読めるのか?」
俺が呟いたのを聞いたのか、男が話しかけてきた。マズい。極力魔導士候補生だとばれないように動かなければ。
「……魔法語は読めっけど、魔力が少ないから魔導士になるのは諦めた。昔の勉強の名残だよ」
息をするように嘘をつく。魔導士候補生ですとか言えるわけないよね!
「ふむ。ならば我々と同じだな」
そう言いながら、男は俺の肩に手を掛ける。
「我々は──神降ろしによって、全人類に平等に魔力を与えるために活動している」
と、言った。
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教団施設。そこに俺はついていった。
真っ暗な空間の中に数多のロウソクが揺れ、イメージ通り過ぎる宗教施設である。黒魔術とか使ってそう。
「奥に神子様がいらっしゃる。ご案内しよう」
西洋風なのか和風なのかハッキリしろよ。
「その全身隠す布とか着なくていいのか?」
「これは外にいる時しか着ない。魔力を完全にシャットアウトする効果がある」
「ああ……魔導士の探知回避か」
魔導士は微弱な魔力の痕跡を辿って魔導犯罪の犯人の下へ駆けつける。俺にはそんな芸当は無理だ。やだ、私魔導士に向いてない……?
「この扉の先でお待ちだ。我々はビンを置いてこよう」
「中身の魂はどうするんだ?」
「今のところは集めておくだけだ。ある程度集めてから一気に捧げなくては意味がないのでな」
何やらルールがあるらしい。口ぶりからすると、まだ他にもビンがあるようだが……。
「ではまた後で会おう」
そう言って、信者達は散り散りになっていった。
……これ行かなきゃダメかあ……。
とりあえずノックしよう。
「ノックしてもしもお~~~し」
…………返事はない。
「はあ……しゃーねえ、行くか……」
俺は深呼吸して、扉を開けた。
その瞬間、俺は脚を止める。
「…………!?」
そこに広がっていたのは、空だった。どこまでも続く、青空。
「どうなってやがる、こりゃ……」
雲は流れ、眼下には海まである。いや、上を見ても海だ。
海と海に挟まれた空の中にいるのだ、俺は。
視線の先に。一人、座っている女の子がいた。小学生くらいの、小さな女の子。
真っ白なワンピースを着た、真っ白な肌の健康的な子だ。
「…………だれ?」
その虚ろな目が、俺を捉えて離さなかった。




