戦慄のショッピングモール
脇役の嫌な予感的中率は異常。
今俺は、頭に銃口を突きつけられているので涙目で両手を上げている。
場所はショッピングモールだ。なんでこうなった。
事の発端は、ピザ食った次の日にまで遡る。
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学校が昼休みを迎えた。
俺は大きく伸びをしてから立ち上がる。康太を学食に誘って昼食を取るのが最早日課のようになってきた。
「あ、大輔……ちょっといいかい?」
立ち上がると、後ろの席の悠人が話しかけてきた。なんだか非常に困ったような顔をしている。関わりたくねえー……。
だが面倒なことにならない可能性だってもちろんある。俺は頷いた。
「本当かい!? 助かるよ!」
「はは、そんなに深刻なことなのか? 話してくれよ」
「いやー、それがね、今週の土曜日に買い物に行くんだ」
「ん、荷物持ちとかってことか? おいおい、持ちきれねえほど何を買う気だ?」
「やー、そうじゃないんだ。でも助かったよー」
悠人は、笑顔で言った。
「アルカニアさんと葵とだけじゃ、気まずいからね!」
どうやら俺は、今週の土曜日までの命らしい。
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そして。土曜日である。
俺は今日、とある場所に向かう。
沖ノ鳥島にある三大ショッピングモールの一つである「おきのとりモール」という場所だ。休日だからか人は多い。特に家族連れが多いようだ。ここは家族連れに向けた店舗が多く、子供用品やおもちゃ売り場等が大きい、らしい。
指定された時間よりも出来る限り早く来た。具体的には1時間前。
一度は承諾してしまった以上、断るのはほぼ無理だ。
隣の部屋にいるから体調不良が……と言ってもすぐバレる。他の用事をほのめかそうにも「しばらく暇だわー」とか休み時間に話してしまっていた。詰みです。
で、なんだって早く来たのか。何故なら、遅れた場合と時間ピッタリに来た場合を考慮してのことである。
俺の勘に過ぎないのだが、恐らくあの二人は恋のライバルである。
そして今回はショッピングデート。女の子にとっての一大イベントだ。なんでそんなのにライバル連れてきてるのかわかんないけど。……待てよ? ……いや、まさかな。
脱線してしまったが、俺が早く来たのは事前にアルカニアか幽ヶ峰に俺の立場を説明するためである。
先手さえ打ってしまえば俺が不幸な死を遂げることはあるまい。
待ち合わせ場所だ、と言われたのはショッピングモールの中にあるなんかすっげえ前衛的なモニュメントの前。タコのようでタコじゃない、なんだか呪文を唱えたくなる造形だ。なんか……見ていてすっごく正気度が下がる……。
そして待つこと数分。先に来たのはミオ=アルカニアである。異世界の王女様だ。今日も真っ赤なツインテールが輝くぜ。
服装は、高貴な出身とは思えないくらい現代の女の子。モデルをやっていてもなんら不自然ではない。だがモデルと違って、服に着られているという感じはない。完全に着こなしている。
「……なんでアンタがここにいんの? それとも、他の誰かと待ち合わせ?」
「はっはっは、奇遇だな。って言えたらどれだけ良かったか」
そわそわとしながら来るや否や、俺の姿を見て眉を釣り上げた。ごめんなさいね……。
「悠人から聞いてないのか?」
「なんにも聞いてないわよ。悪い?」
「滅相も御座いません」
睨まれるだけで土下座して謝る俺。弱すぎる。
「まあなんだ。悠人が男一人に対して女が二人だったら気が気じゃないって泣きついてきたんでな。まあ友人として仕方なく、さ」
「……待ちなさい。女二人って、どういう、こと、かし、ら?」
「痛い痛い痛い痛い痛い! 般若のような形相で俺の脚を踏まないでおくんなまし!」
やっぱり何も聞いてないみたいだ。というか何も言ってねえのかあのアホは。
というわけで。一から百まで説明しました。
「……はあ。まさか、すごい男に惚れたのかしら……」
「相手が惚れられてることに気付いてねえパターンだぞ。災難だったな」
「……ねえ、もう一人が誰か、すっごく予想が付くんだけど」
「……まあ、もう見えてるしな」
俺とアルカニアは、人混みの中から現れた悠人──と、その腕にしがみつく幽ヶ峰葵の姿。
ああ、やっぱりそう来るよね──と死期を悟ったお爺ちゃんが如き顔をしていると、真横から凄まじい殺気が迸った。いかん、死ぬ。殺気だけで俺が死ぬ。周囲の客もドン引きである。
「……言っとくけど、俺はお前らの邪魔はしないからな。気配消しとくからアプローチしてさっさと引っ付け」
「…………悪いわね」
「なに、貰った金が予想より多かったんでな。その分の働きぐらいはするさ」
小声で会話していると、悠人達がこちらへ辿り着いた。
「やあ。待たせちゃったかな?」
待たせちゃったかなじゃねえよボケと言いたい。非常に言いたい。
「じゃあ行こうか」
「ええ、そうね」
ああ! 笑顔が! 引き攣りに引き攣っている! アルカニアさん超不遇!
「…………ふっ」
い、今! 幽ヶ峰がアルカニアを見て勝利の笑みを!
「………………」
それに気付いていたアルカニアの目と、勝ち誇り続ける幽ヶ峰が交錯する。そして俺の寿命がストレスでマッハ。
「……帰って康太とスカルガールズやりたい……」
俺の悲痛な呟きは雑踏に消えた。
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一番最初に訪れたのは、メンズ向け衣類の店。
なんかチャラッチャラした頭の悪そうな服から、無難にカッコいい服まで混ざり合っている。カオス。
俺は少し離れたところから三人を見ている。すっげえイチャイチャしている。死ね。
「……トイレ行こ」
黙って離れる。声をかけて空気を壊すのも悪いしな。
店を出て、吹き抜けになっている道を歩く。すっげえ綺麗。一人で雑貨店とか回るのもいいな。
とりあえず用を足し、店には戻らずぷらぷらと歩き回ることにした。
通路の向こうから聞こえる、かなりカオスな爆音。まさか……。
俺は曲がり角を曲がる。
げ、ゲーセンだァァァ──────────ッッッ!!
俺は尻ポケットから軍手を取り出す。あるとは思っていたが本当にあるとは……!
そう、俺は音ゲーマーなのだ。洗濯機大好き!
ゲーセンに入るために歩く。いざスライド地獄……というところで、ショッピングモールには似つかわしくない音が流れた。
それは銃声。続いて、多くの悲鳴。
「ええー……」
また面倒なことになったようだ。テロリストかな、それとも強盗集団かな……うふふふ……。
現実逃避している暇はない。俺は悠人に電話を掛ける。
2コールで応答があった。
「……ちょっと、今隠れてるから……! ……今どこにいる?」
「3階のゲーセンの前だ。銃声あったけどほとんどの人がゲームの音で気付いてねえ」
「……神経がず太いのか鈍感なのか……まあ、とにかく合流できるかい? 君の知恵が欲しい」
また買い被られている……! だが合流はするべきだ。俺は一人だと弱いからネ! 守ってもらおうね!
「お前は、1階のさっきの店だな?」
「……試着室に隠れてる。……というかなんで一人で3階まで……?」
「後でその話はする。3階にはまだ敵は来てないみたいだし、出来る限り隠れて行くわ」
「……透明化魔法を使えばいいじゃないか」
「ランクAの魔法じゃねえか喧嘩売ってんのかぶっ飛ばすぞ」
「…………ごめん」
そして俺は通話を切る。さて、どう動くべきか……。
ともかく、策も無しに突っ込むと駄目だ。銃で撃たれても結界があるから死にはしないだろうが、面倒であることはまず間違いない。
ぶっちゃけ魔導士達が来るまで大人しく待ってれば良さそうだが、状況は良くはならんだろう。むしろ停滞しそう。
まあ悠人がいればなんとかなるだろうが……彼ではちょっとやり過ぎてしまう。
禁呪の力を舐めてはいけない。多分ここボッコボコの廃墟になる。
だから、俺が嫌がらせを考えよう。出来る限り店側に損失を出さないようにしよう。賠償請求で須崎先生が頭を抱えないようにしよう。
俺は思いついた嫌がらせの内容を悠人にメールで送り、俺は俺で動くことにする。
悪いな悠人。合流出来そうにないわ。
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そんで。
俺は、3階まで人質を集めに来た武装集団に捕まり、人質集団に仲間入りしていた。
不甲斐ないと笑うことなかれ。俺は敵の情報を集めるためにここに来たのである。
さあ、連中の会話を聞こう。敵は、顔どころか、皮膚すら出さないほどの厚着……というか、布をとにかく繋げまくりました、というような奇妙な衣服に身を包んでいる。
どんな会話が聞けるのだろうか。
「ああ……神よ、生贄は足りるでしょうか……」
前言撤回。これヤバイやつ。宗教関係者の方でしたか。
魔素による意思伝達だ。悠人、へるぷみー。
『悠人、聞こえるか? 聞こえて下さい。マジで』
『……大輔? 電話も使わないでどうしたんだい』
『敵に捕まっちなってよー。で、敵なんだけど、どうやら宗教関係の集団らしいな。今は情報収集に徹する。嫌がらせ思いついたら伝えるから待ってろ』
『いや、まあ全部まとめて吹き飛ばそうと思えば出来るんだけど……生憎、チューニングをしてなくてね。建物が崩れるかもしれない』
『俺が連絡するまでチューニングやっててくれ。じゃあこっちはこっちで頑張ってみるわ』
そう言って俺は会話を終える。
俺は深呼吸を一つして、集中する。
さあ、新興宗教に仲間入りするとしよう。




