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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
幕間 日常は流水が如く
33/210

アイツと俺と魔導武装と。

 二つ返事で頷いてしまったけれど。

 これ、実はすっごい難しいぞ。

 俺はとにかく弱い。魔力(エナ)が低いので魔法防御も低いし、戦闘でも多分気付いたら死んでる恐れがある。

 中学の時の「床ソムリエ」の異名は伊達ではないのだ。魔法コースは簡単な模擬戦あったしね!

 つまり。戦闘中に調べる、ということが難しいということだ。



 とりあえず、だ。

 今の方針は悠人の魔導武装、あの剣と盾を調べること。

 でもどうしたものか。魔導武装は一応個人の所有物である。市販品の魔導武装でも、チューニングすれば固有の能力が変わる。魔導武装の能力は、いわば切り札に近い。

 魔法は魔法語を聞かれれば詠唱される内容がわかるので瞬時に対策──出来んことはない。俺以外の人ならネ!

 だが、魔導武装というのはタチが悪い。なにせ詠唱や予備動作が一切ナシで何かしらの効果を発揮する。



 少々話が脱線してしまったが要するに。

 魔導武装の能力は人に知られたがらない人が大半なのだ。まあ切り札だし。戦局を左右するし。

 そんなものを悠人が教えてくれるだろうか。ということだ。



 でもまあ何もしないのでは何も進まない。

 ダメ元で聞いてみる作戦を決行してみる。



      ~~~~~~~~~~



 夕方6時。放課後である。

 学生寮の、お隣の部屋のチャイムを鳴らす。

「…………はい」

 扉を開けて出てきたのは幽ヶ峰である。エプロンを巻いていて、まるで新婚の嫁。

「…………私と悠人の愛の巣に……何か、用?」

 小首を傾げる幽ヶ峰。美少女のこの仕草はクラっと来る。いや待て、なんだか別の外的要因でクラっと来た。気付いた瞬間、鼻孔を貫いてぶっ壊しそうな刺激臭がした。



「……なに作ってんだ?」

「…………カレー」

「カレーの匂いじゃねえよ!? 何入れたらこんな匂いするんだ!?」

「…………硫化水素と、ノルマルバレルアルデヒド……メチルイソブチルケトン……どれもカレーのスパイス」

「違うぞ!?」

「…………カレーは薬膳料理にもなるらしい」

「薬は薬でも劇薬だ!」



 俺は鼻をつまみながら部屋の中を覗く。奥のほうで、ピクピクと動く死体があった。

「……救急車呼ぼうか」

「? …………何故?」

「死人! 死人が出てる!」

「…………ああ、悠人のこと? …………疲れて寝ているだけ」

「アレが!? 電極刺されて電気流されてるカエルの死体みたいになってるけど!?」

 とにかく救助しなければなるまい。

「ああ、そうそう。悠人に用事があってな。アレ起こして外に引っ張りだしてくれねえかな」



「…………わかった」

 幽ヶ峰は部屋の奥に行き、ピクピクと動いていた手を掴んで引きずって廊下まで連れてきてくれた。

「…………私は料理作っておくから」

「劇薬にまだ毒を足す気かお前は……」

 とりあえず扉を迅速に閉めて、悠人の死体を屋上に運ぶ。

 吹く風に当てる。肌寒さもほぼ無くなってきた。そろそろ春も真っ盛りである。



「…………はっ!?」

「お、生き返った」

「……あれ? 川の向こうに父さんと母さんが見えたんだけど……」

「急に悲しいこと暴露すんじゃねえよ切なくなるだろうが」

「あ、大輔か。ありがとう、助かったよ。危うく川を渡りかけた……」

「お、おう……」

 悠人が屈託のない笑顔で礼を言う。命を救われた男はこんな顔をするのか。



「そうだそうだ。何か用があったかい?」

「おう。魔導武装の能力おせーて」

 まあ無理だろうけど。

「ああ、そんなこと。いいよ」

「……まあそうだろうな……って、あん?」

 いいよって幻聴が聞こえた。



「でもまあ、口頭で説明するのもなんだし、1階の訓練室に行こうか」

 訓練室……そうだ、そういやこの学生寮にも訓練室があるんだったか。

「いいのか? 魔導武装の能力をそう簡単に教えちまって……」

「どうせいつかはわかるんだし、それが早いか遅いかの違いだろ? それに、知っててもらってた方が作戦の幅も広がるしね」

 俺による作戦立案が前提か……まあいいけど。

「でもまあ、タダで教えるわけにもいかないな」

 それはそうだろう。切り札を教えてもらうわけだし。

「じゃあ、僕と本気で模擬戦してくれたら、教えてもいいよ」

「…………は?」



      ~~~~~~~~~~



 男子寮1階、訓練室。

 他にも訓練に励む熱心な生徒がいたので、訓練室にある機械で設定をいじって、俺と悠人の二人しかいない個室のような空間を作った。俺に教えてはくれるが、周りには見せたくないらしい。

「……なあ、結果見えてるのに何をやるつもりなんだ? 魔法の試し打ちか?」

「そんなことしないよ。ただ、本気の君とやってみたくってね。まだ、本気……出して、ないだろ?」

 …………なんてこった。そんな馬鹿な。



 ……本気じゃないと思われていたなんて……!



 どうしよう。非常に言いにくい。悠人もまさかあんなに弱いのが俺の全力だとは思うまい。どんな世界にいたんだよ。

 何度も言うが、俺は弱い。クソザコナメクジだ。ちょっと動ける雑魚だ。北斗の拳の名も無きモヒカンぐらい弱い。

爺ちゃんに稽古は付けてもらったが、それでも魔法相手だとアリと象ぐらいの実力差がある。



「あー……悠人? そのな、あのー……」

「ああ、言い忘れてたけど、魔法は無しだ。純粋に体術だけで勝負しよう」

 ダメだ聞く耳持ってくれねえ。仕方ない。ならば見せてやるしかないだろう。

「相手を殺すのも無しにして、授業で習ったあのルールを使おうか。ここで死んじゃうと……向こうの蘇生部屋で復活するらしいんだけど、面倒だからね」

 ちなみに、魔導武装の攻撃は魔力(エナ)の量に依存しない。武器としてのダメージがそのまま入る。



 だが、悠人が言う「あのルール」……魔力(エナ)を魔導武装に流し込んだ上で戦うルールでは、腕が飛んだり頭が飛んだりなんてスプラッタな光景が生まれない。代わりに、相手の魔力(エナ)にダメージが入る。わかりやすく言うと、MPを減らすわけだ。

 平常時の魔導武装では相手のHPに、魔力(エナ)を流し込んだ魔導武装ではMPにダメージを与えるのだ。わかりやすくて何より。

 では、魔力(エナ)を全て失った人間はどうなるか。正解は気絶である。しかも魔力(エナ)保有量の半分ほど回復するまでは目が覚めない。どれだけの睡眠でどれだけ魔力(エナ)が回復するかは人それぞれだ。



 ちなみに俺は全回復に2時間必要です。短い方です。やったね! 嬉しくない!

「さて、じゃあやろうか」

 悠人は片手剣と片手盾を顕現させる。

「……後悔すんなよ?」

 後で絶対気まずいからな! 絶対だぞ! 俺は心中ビクビクしながら蒼空を顕現させ、ちょこっと魔力(エナ)を注ぎ込んだ。あまり注ぎすぎるとすぐ気絶するから。



「……行くよ!」

 悠人は一気に地面を蹴って俺に接近してくる。俺は上へ跳び、突進を回避する。

「そこッ!」

 急停止し、俺に追いつかんと悠人は跳躍した。俺は焦ってもう一段空気を蹴る。

 悠人のジャンプが頂点に達し、落下を始めたところを狙って、槍を構えて、身体を地面へと向け、上空を蹴る。

「そら────行け!」

 矢のように悠人に迫る。だが、槍を盾で思い切り殴られ、軌道を逸らされてしまう。



「ちっ……なら!」

 俺はまだ二段のジャンプを残している。悠人が空中にいる間だけは俺のほうが有利なのかもしれない。畳み掛けるなら今だ。

 空気を蹴り、接近。しかし、悠人は落下しながら身体を捻り、俺の攻撃に合わせて剣を振るい、俺の槍を防ぐ。

「まだまだァ!」

 最後の跳躍。悠人の背後から迫る。悠人は俺の方を見て少し微笑んだ。

「それでジャンプは最後……だろ!」



 盾を装備している左手で俺の腕を掴み、剣を振りかざした。

 俺は身体を縮め、盾に両足を当てて、思い切り蹴るように脚を伸ばす。

「…………!」

 悠人は驚いたように手を離す。俺はそこから、一段跳んで距離を取って着地する。悠人も、同じタイミングで着地した。

「言い忘れてたが……蒼空の能力は──両足が、同時に物質に触れた瞬間にリセットされる。壁やら天井やらでもいい。便利だろ?」

「そんな能力だったのかい……。そうだ、教えて貰ったついでに、僕のも言っておこうか。僕の積帝はね────」



 悠人は片手剣──積帝を両手で構え、大きく振りかぶる。真っ白な光が積帝を包み込んだ。



「斬撃を飛ばすのさ」



 剣が振り下ろされる。閃光が形を成して、俺の立つ場所の、ほんの数センチ隣。俺にギリギリ当たらない程度の場所を通過した。背後から、大きな音が聞こえる。恐る恐る振り向くと、地面がえぐれていた。瓦礫らしき塊が飛び散っている。

「……まあ、こんな感じさ」

「……強すぎない?」

 あの斬撃は魔力(エナ)の塊だろう。魔法詠唱なしで、魔力(エナ)の塊を飛ばす。頭おかしい……。

「ちなみに、この盾は……まあ、簡単に言うと、魔法を無効化出来るんだ。限度はあるけどね」

「いやいやいやいやいやいやいや! 無効化ってなんだよ!」



 魔法を無効化。出来てもせいぜい相殺だ。一部の魔導武装は魔法を斬ることができるが……それとは訳が違う。

「よし、説明も終わったし、手合わせの続きと行こうか。大輔、謙遜してる割にはかなり強いと思うよ」

「せめてダメージ受けてからそういうこと言ってくんない?」

 悠人には一太刀も浴びせられていないばかりか、息一つ上がっていない。対してこっちはかなり疲れている。ヤツは化け物か。

 ならば。


「先手必勝ォォォォ─────ッ!!」


 短期決戦しかなくなくない?

 俺は悠人の顔面めがけて蒼空を思いっきり投げつける。悠人は盾で顔を覆う。魔導武装は顕現状態であるため、手放しても身体能力は高まったままだ能力こそ使えないが、この身体能力ならば数十メートルほどジャンプするのは容易だ。

 蒼空を投げると同時に俺は悠人から見て左側へ駆ける。悠人の意識は蒼空へと移っているようだ。真横へ来たと同時に蒼空は悠人の盾に当たるすんでのところまで来ていたので、蒼空を魔素(マナ)へ還して、またすぐに手元で顕現させた。それと同時に飛翔する。



 いつまで経っても盾に槍が当たらないことに気付いたのか、悠人が盾を下ろす。俺は既に悠人の真上だ。

 空気を蹴って、真上から急襲する。

「────上ッ!?」

 悠人はその場から飛び退く。俺の槍はそれに一瞬遅れて地面に突き刺さる。飛び退いた悠人は、俺に向かって盾を投げつけてきた。俺は急いで槍を構え、防御の姿勢を取る。



 細い槍の柄は、回転しながら飛んできた盾を捌ききれず、跳ねた盾が俺の肩に激突する。

「…………つッ……!」

 盾が魔力(エナ)に還って消えた。俺は目の前に悠人がいないことに瞬時に気付く。俺の真似をするつもりか……?

 瞬間、背後で音がした。普段なら聞き逃すであろう、小さな小さな音。だが俺はそれに反応し、察した。────後ろにいる!



 俺は真上へ跳躍する。身体の前面を地面に向け、天井には背を向けている形で上昇する。

先ほどまで立っていた場所を見るが、そこに悠人の姿は無かった。

「どこへ────ッ!?」

「…………君なら、こう来ると思ったよ!」

 突然、背後から声がした。振り向くよりも前に、積帝──悠人の片手剣が、俺の胸を貫いていた。

「んなっ…………?」

「僕の、勝ちだね」



 魔力(エナ)が底を尽き、意識が段々と遠のいていった。



      ~~~~~~~~~~



男子寮、ロビー。ソファや購買、自動販売機などがあって、生徒の憩いの場になっている。男性教員も男子寮に住んでいて、電子タバコを吹かしている。時間としては、模擬戦から30分程度しか経っていない。気絶していた俺に、悠人が魔力(エナ)を分けてくれたらしい。ありがたや。

「お疲れ様。飲むかい?」

 そう言って、ハンドタオルを肩にかけた悠人は缶ジュースを俺に差し出してきた。

「ああ、奢りなら貰う」

「奢りでいいよ。いい訓練になった。武器に注意を向けさせてから攻撃、か。うん、かなり参考になる」



「そりゃどーも。……しかし、なんたって俺が上へ逃げるってわかったんだ?」

「僕だって本当は賭けだったさ。だけど、背後で音を立てれば、空中戦が強い大輔なら跳ぶんじゃないか、って思ってね」

「あの音は?」

「僕が斬撃を飛ばした場所、石が転がってたからね。盾を投げて、石を拾ってジャンプして。背後に向けて石を投げたんだよ」

 そんなことやってたのか、畜生。……いや、待て。おかしいぞ。



「なあ、お前、それ一瞬でやったのか?」

「あー……まあ、そうだね。積帝と積乱は身体能力の向上が他の魔導武装よりも大きいから……」

 魔導武装まで強い。なんてこった。こいつ本当に強いじゃねえか。禁呪使いで魔力(エナ)も多くて、なおかつ魔導武装もアホほど強い。チートだ。



「でも、なんだって僕の魔導武装を知りたがったのか、少し興味あるな」

 それもそうだろう。突然聞かれたのだから、気にもなる。

「あー……ほら、俺って監督官志望だし?」

「……指揮官ポジションは嫌なんじゃなかったっけ?」

「あー、ええ、ほら……もうここまで来ちゃったら引き返せない感じがするからほら……」

 言い訳が苦しい! これ、後で須崎先生に報告する、なんて言えないよなあ。

「ああ……なるほどね、うん、納得したよ。じゃあ、機動官志望の僕はこのままでも大丈夫かな」



 監督官と機動官。魔導士は、主にこの二つに分けられる。

 簡単に言えば、監督官がリーダーで、機動官を取りまとめる、といった感じだ。

「ランクが低い俺では機動官にはなれんからな。まあ小さい頃は夢見てたが……現実はすぐに見えるもんさな」

「……諦めなかったら可能性は……」

「無いんだな、それが。まあ監督官でも現場には立てるし、リーダーの方が偉いわけだしな」



 監督官には、基本的にランクCやランクDの魔導士が任命される。部下となるのはランクAやらランクSやらになるのだ。

「ぶっちゃけ部下の起こした問題の責任を負わせてすぐに首切るための役職だしな。その分給料も退職金も高いから言うことなしだ」

「良いのかい? 君はそれで……」

「良いとか悪いじゃねえよ。この道しかねえんだからな」

 俺は一気にジュースを飲み干す。柑橘系の甘みが喉を通って、身体の中を冷やした。



「ま、叶う夢ばっかじゃねえってコトだ。ジュースありがとな、今度またなんか奢るよ。金ならしばらくは困らねえしな」

「うん、また明日」

「おう」

 俺はロビーを後にして、部屋に戻るために廊下を歩く。

 よし、今日は康太に思いっきり慰めてもらおう。

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