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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
決戦、アルカニリオス王国にて。
32/208

嫌がらせの後日談

 後日のことである。

「おい、公崎、鹿沼。放課後に職員室に来い。いいな?」

 朝のホームルーム、不機嫌そうな須崎先生にそう言われた。とても怖い。

「な、なあ、これ絶対昨日のことだよな」

 俺は後ろの席に座る悠人に話しかける。

「え? あれ、なにか問題……あるよねえ」

「あるに決まってんだろ異世界の国家間関係ひっくり返したんだぞ!」



 国際魔導士協会が決めたルールとして、異世界の植民地化の禁止や、異世界の国家への個人での接触の禁止などがあったはずだ。俺達は2つ目を思いっきり無視したのだが。

「今日はもう授業まともに受けられる気がしねえ……」

「気が気じゃないからね……」

「っていうかこれ最悪退学とか……」

 俺がそう呟くと、悠人の顔がみるみる青ざめていった。



「……僕は今なら鳥になれる……!」

「わああああ待て早まるなああああああああああ!」

 窓から飛び降りようとする悠人の制服を掴み阻止する。

「まだそうと決まったわけじゃねえ! アルカニア辺りが口添えしてくれてるかもしんねえだろ!」

「そ、それもそうだね……」

 こいつこんなに心の弱いヤツだっただろうか。



「とにかく、真相は放課後だ。それまでは大人しくしてようぜ。後でアルカニアやらエリーのとこに行くのもいいだろう」

「いやあ、びっくりして飛び降りるところだったよ」

「お二方、朝から元気ですな。昨日も見ませんでしたが、どこへ?」

 時野だ。Yシャツに透けてうっすらと美少女キャラが見える。学校に着てくるんじゃねえよ……。



「いや、異世界」

「うん、異世界」

「お二方!?」

 時野がビックリしている。

「アルカニリオスにちょっとな。主にこいつのせいだけど」

 俺は悠人の頭を小突く。

「い、いや、まあ行くことは不可能ではないでしょうが……」



「俺だって本当は滋賀県観光したかったんだよ!! 計画立ててたんだからな!!」

「もー、大輔ったら、しつこいよ?」

 ぺし、と間の抜けた音がする。後ろを見ると、丸めた教科書で俺の頭を叩く康太の姿があった。

「一体いくら貰ったと思ってるのさ……ふふっ」

「そうだな……アホほど貰ったな……くっくっく」

「あんだけあったら沖縄にも行けそうだね」

「北海道で美味しい物を食べる旅でもいいな」



 時野がぽかんとした顔で俺と康太を交互に見る。

「新婚旅行を計画する夫婦に見えてきまぶげろふ」

 康太が持っていた教科書を全力で投げつけた。

「さて、じゃあ今日も元気に授業を受けようか!」

 満面の笑みだ。余計なことを言うと口を縫い合わすぞ、と言わんばかりのプレッシャーが襲い掛かってくる。

「ごめんなさい……」

 とりあえず謝っとけ。



 チャイムが鳴ったので、俺達は席につく。

 さあ、学生の本分を果たそう。



      ~~~~~~~~~~



 放課後。

「はあ……何を言われるのかわからないから怖いなあ……」

「俺もだよ。なにせやらかしたことは大事件も大事件だからな」

 悠人と連れたって廊下を歩く。職員室へと向かっているのだ。

 俺達の教室からはさほど遠くないので、すぐに到着した。

 ノックをして、入る。

「失礼しまーす」



「入れ」

 迎えてくれたのは、すごく不機嫌な須崎先生の声。

 俺と悠人は須崎先生の元へ向かう。

「はあ……お前らはなんということをしでかしたんだ」

「やっぱりマズかったですかね?」

「マズかったに決まってるだろう……とも言い切れんのだよ。なにせ中華民国から感謝されたのだからな」



「なんだって中国から?」

「忘れたか? シャリアルナは中華民国の指導下にある『行政指導特区』というやつだ。わかるかね」

 行政指導特区……。そう、異世界における非文明国を文明国に押し上げようとかいう、お節介も甚だしい国連の企画だったはずだ。

「今のご時世で植民地支配やらなんやらと馬鹿げたことをするのはナンセンスでな。シャリアルナは文明レベルこそ低いが国土だけは大きい。ふむ……これがどういうことか、答えてみろ、公崎」



「え、僕ですか……」

 悠人が驚いていた。思いっきり説明ムードだったからなあ。

「ええと……文明レベルを引き上げて、産業や経済を発展させ、交易対象の選択肢の一つにさせるため、でしょうか。国が広いということは、資源も多いということですし、人も自然と多くなります」

「正解だ。やるじゃないか」

 なんでわかるの……?

「歴史の時間だ。私の持っている教科は魔法学だが……異世界の歴史も魔法学に近しいし、構わんだろう。シャリアルナについての歴史を簡単に語るのも問題はあるまい」



 須崎先生は、そのまま続けて言う。

「まあ時間も無いので簡単に説明するぞ。昔、中華連邦とかいう国があったんだが、なんやかんやで滅んだ」

「雑! すっごい雑!」

「で、だ。問題はヤツらが残した国だ。ヤツらの悪い教えが残ったシャリアルナのことだな」

 この後も続く、懇切丁寧に最後まで雑だった須崎先生の話を要約すると。



 昔あった国の悪い教えだけを残してしまったのがシャリアルナ、ということらしい。



 詳細を少しだけ書くと、政府に都合の悪い人間を社会から消すとか、政府の人間にコネが無いと富裕層になれないとかそういうシステムを全部継承してしまったのだとか。

「中国はそれをどうにかしたかったようでな。交易相手の獲得、という名目で文明社会にしようと頑張っているのさ。そこで問題だったのは、中連の教えを受け継いだ政治家気取りのアホ共だ。ヤツらがいる限り体制は変わらんし変えられん。かと言って武力行使にも出れん。そんな時にお前らがしでかしたんだ。旧体制の人間の皆殺しをな。あ、もちろんちゃんと生き返ったが」



「えーっと……話が見えてきません」

「ここで君たちに質問だ。殺してやりたいほど憎らしい存在が急に目の前に現れたらどうする?」

「状況によりますよね。どう現れたのかも」

 悠人が飄々と堪えた。コイツが誰かを殺したいほど憎むなんて姿、想像出来ないな……。

「では君らは革命軍だとしよう。目の前に殺害対象が突然現れた。相手は無防備で、周囲には味方しかいない。……つまりそういうことだ」



「……それって」

「君らが政府の建物をド派手にぶっ壊した時、運が良かったのか、あの中ではほとんどの貴族階級の人間が集まってパーティーをしていたのだよ。それの全員が吹っ飛んだ。みんな死んだら病院で蘇生されるように設定されていた。だが、その病院は偶然にもレジスタンスの隠れ家の一つだったわけだ」

 偶然に偶然が重なった、ということだろう。

「結果、旧体制で甘い汁を吸っていた人間たちは、蘇生場所を決める魔導具を奪われた挙句、とにかく殺されまくったらしい。牢獄で生き返っても殺されるんだ。数人ほど気が狂ったそうだ」



 こわっ。

「もし私達が同じ立場でも同じことをやっていたかもしれん。残虐だと言うより、彼らの解放を喜ぶべきだな。で、本題なんだが……公崎、今週の日曜、空いているか?」

「え? 唐突ですね……特に予定はありませんけど……」

「じゃあお前中国行け。当日に政府の人間か来る。詳しい説明はその日に」

「ちょ、ま、待ってください! なんでですか!」

 なんてこった。悠人が中国までデリバリーされるのか。



「国を挙げても崩せなかった体制を崩したんだ。中国の政府が直々に礼をしたいらしい。あと、旅原と幽ヶ峰もそれに協力したとして表彰される。アルカニアも付き添いだ」

 俺の名前が挙がっていない。ラッキーである。アルカニアは黙っていてくれたのか。

「……先生、作戦の立案は大輔です」

「アルカニアからは『全て公崎悠人の作戦通りだった』と聞いているが?」

「じゃあ何故大輔をここに呼んだんです!」

「別件で頼みたいことがあったからだ。お前の件とは一切関係はないよ」

「…………!」



 悠人はイイ奴だ。成したことは評価されるべきだと考えているのだろうか。

「大輔、君はそれで本当に……!」

「アルカニアに全部聞いてくれ。黙っててくれって頼んだだけだよ」

「どうして!」

「それが一番都合がいいからだ……って言って納得してくれるか?」

「出来るわけ……!」



 悠人は怒っている。だけど、俺はその怒りを理解出来ない。

「お前ら、続きは後でやれ。そして公崎、ここからは鹿沼と少し話がしたい。追い出すようで悪いのだが……」

「……ええ、わかりました。失礼します」

 それだけ言って悠人は職員室を出て行った。

「さて……鹿沼。お前に以前聞いたことを覚えているか」

「ええと……どの件ですかね」

「天空魔導旅団のことだ。アレについて、わかったことがあるのでな。一応、お前も関係者だ。伝えておこうと思ってな」



 俺が関係者?

「いったい、俺がどこで関係したってんです」

「お前の魔導武装だよ、とぼけるんじゃない。アレは──竜騎士の槍だ」

「……まあ、そうなんですけどね。でも、別に本人から貰ったとか、そういうことじゃないんです。爺ちゃんが竜騎士の人間と親友で、その竜騎士が引退するってんで譲り受けたのが蒼空。それを俺が爺ちゃんからもらった、と。まあそういう感じです」

「ふむ……天空魔導旅団の人間の素顔を知る人間は現時点で存在しないと考えられているのだが……。戸籍から名前、顔、声すらわかっていないのだからな。君の祖父は凄い人間なのだろうか……」



「そうですね。で、俺に教えてくれる、わかったことっていうのは?」

「ああ。それだが……実は、聖騎士の魔鎧(ディアルナ)の装着者がわかった」

「……それむしろ悠人に教えるべきじゃ?」

 なんで俺なのだろう。いやまあ、竜騎士が誰か、とかなら理解できるけど。

「それ、俺に関係ないと思うんですよね」

「まあ待て。聖騎士は竜騎士と最も仲が良かったんだ。つまり、竜騎士の装着者のこともわかるかもしれん」

 爺ちゃんと仲が良かったらしい竜騎士がわかるのか……。

「まあもう聖騎士の人は故人なんだけどな!」



 こ、この先生……! 期待させるだけさせておいて……!

「本当になんで呼んだんですか……?」

 いい加減帰っていいかなもう……。

「ふん、いつもからかわれているんだ、これぐらいは許せ」

 そう言って須崎先生はぷく、と頬を膨らませた。馬鹿な……こんなクールビューティなデキる女がやる表情じゃね……可愛いいいいいいいいいいいいいいい!

「で、本題はなんなんです?」

「ああ、実はだな。君に頼み事がしたい。その前に説明するが、この学校には1000人以上の魔導士候補生がいるわけだが……ほとんどが市販品の魔導武装だ」



 魔導武装には二種類存在する。市販品の物と、一つしか存在しない物だ。

「だが、唯一無二の魔導武装を持っている魔導士候補生も少なくない。そこで、生徒という立場を使って、その魔導武装を調べてはくれないか。もしかすると、旅団に繋がるかもしれん」

「お、俺ですか……?」

「君は公崎よりも魔法業界に詳しいと見るが……どうかね?」

「あいつがどこまで知ってるかも知りませんからね……俺は爺ちゃんって生き字引的な人が身内にいたから多少は知っているんですが」

 爺ちゃんは何を聞いても答えてくれた。いや、違うな。旅団のことはあまり教えてくれなかった。



「この学校は変わった制度があってな……魔法に関する研究やら、論文やらで評価にボーナスがつく。言っている意味が、わかるな?」

「是非ともやらせて下さい!」

 つまり、低ランクの魔導士候補生への救済措置、ということだろう。

「よし。ならば決まりだ。形式はレポートでも写真でも構わん。なんなら口頭でもいい。教師の立場を利用して無理に聞き出そうとすると外部が怖いからなあ……」

 先生も大変らしい。

「じゃ、そういうことだ。頼んだぞ、鹿沼」

「ええ、どこまで調べられるかわかりませんが。失礼します」

 俺は職員室を後にした。



 まず手始めに……悠人の魔導武装でも調べてみようかね。


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