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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
決戦、アルカニリオス王国にて。
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幕引き 前編

 俺は逃げる。脱兎のごとく。それはもう清々しいまでに逃げた。


「はあ……逃げないでよ。早く貴方の持っている札を回収しないといけないんだから」


 やはり目的は俺ではなく俺の持つ札か。結界内で死んだ時、復活場所を指定する便利な代物。欲しがりそうな気はしていたが、やはりそうか。


「オプションの人質はいらねえと思うけど……な!」


 逃げながら、階段を飛び降りる。踊り場に着地して、全身を捻って方向転換、そのまま1階へ降りる。


 戦闘音の鳴る方へ逃げる。悠人にどうにかしてもらおう。俺には荷が重すぎる。


「もう……面倒くさい!」


 いつの間にか背後にいたアリーシャがムチを振るう。


 ムチは俺の脚に絡まった。そのままバランスを崩して転倒してしまう。


「ぐおっ……! ああもうクソッタレ!」


 転んだまま、俺は脚を一度折りたたむようにして縮め、そして跳躍するが如く伸ばした。


 蒼空の力で、空気を蹴る。その動きが想定外だったのか、アリーシャはムチを手放してしまう。


「あら……小賢しい」


「しつっこいなオイ!」


 アリーシャはムチを一瞬にして魔素(マナ)に戻し、また顕現させた。


「御札さえ置いて行ってくれれば何もしないわよ。私が相手取らなきゃいけないのはあくまでこの国。子供のお守りは専門外だわ」


「なんでそこまでして欲しがる!」


「私達のような外国人はこの国の領域内で死んだ時、一時的に拘置所に送られるの。それは困るのよお」


 なるほど、そんなシステムがあるのか。ならば欲しがるのも納得だ。


「じゃあ尚更こいつはやれねえな……」


「力尽くで頂くからいいけどね!」


 アリーシャはムチを振るう。俺は槍でそれを振り払う。


 俺は蒼空を構え、警戒しながら周りの状況を確認する。ここは廊下で、目で見える範囲に階段がある。俺は侵入してきた厨房を背にしている。そしてアリーシャは俺の目的地である悠人達の戦闘場所……つまり酒場部分に行く道を塞ぐようにして立っている。


 なんとかして脇をすり抜け、向こうへ行けば俺の勝ちだ。


 そしてもう一つ考える。何故あそこまで戦闘が長引いているのか。


 それは恐らく、外部に影響を及ぼさない為に力を抑えていることと、時間稼ぎだろう。流石に康太達は合流したと見ていい。実力から考えて、エリーも既に合流しているはずだ。


 大きな魔法……それも、ランクSや悠人の禁呪まで使ってしまうと、周りの建物にまで影響が出てしまうだろう。一網打尽には出来るだろうが、周辺住民からすればたまったものではない。だからチマチマ戦っているのだ。


「じゃあさっさとトンズラこかなきゃなあ……」


「あら……随分と余裕じゃない」


「これがそう見えるかよ。こちとら雑魚も雑魚、下っ端も下っ端なんでな……。ぶっちゃけ吐きそう」


 俺は強い奴の前に立つととても緊張する。敵意があればもう最悪だ。クマより知能がある分タチが悪い。


「軽口を叩いてる内は余裕なのよ。そうね……じゃあ、ここまで手こずらせてくれたのだし、面白いモノ見せてあげる」


 アリーシャがその大きな胸の中心に、握り拳をぶつけた。


「来なさい……魔鎧(ディアルナ)!」


 その言葉と共に、アリーシャの身体に変化が現れる。胸の中心から、全身に広がっていくように鎧が覆い尽くしてゆく。


 そして、無骨な、無駄な装飾の一切ない女性らしいフォルムの鎧が目の前に立ちはだかった。


「……初めて装備してみたけれど、案外いいわね。身体の動きは一切邪魔しないし、重くもないし、何より魔力(エナ)を普段より強く感じるわ」


「あれが……魔鎧(ディアルナ)か……」


 天空魔導旅団が装備していたという、魔導武装とは少し違う、『魔導士の力を最大限に発揮させるもの』としての装備。何故それがこんなところに……。


「ああ、訳がわからないって顔してるわね? どうせだから教えてあげる。これは魔鎧(ディアルナ)。なんでも、私の祖国では品質の悪いこれを大量生産しているそうよ。この国の魔鎧(ディアルナ)一つにはこれが百個あっても足りないでしょうけど、貴方一人を煮るなり焼くなりする分には充分過ぎる代物ね」


 そうか、この世界では割りとポピュラーな装備なのか。俺達の世界の銃や戦車に相当するのがこの魔鎧(ディアルナ)とやらなのだろう。


「……俺如きにそこまでやるのかよ?」


「貴方、背中に厄介な物付けてるじゃない? 派手に魔法を使えば貴方の仲間に場所がバレる。小さな魔法を使えば貴方にそもそも届かない。私の(フィアッタ)ではどうにも相性が悪いようだし」


 (フィアッタ)……恐らく、この世界で魔導武装を指す言葉だ。こっちの方がカッコいいじゃねえか……。


「でも、殺す気はないわよ? ほら、そうなると札を回収出来ないじゃない?」


「……じゃあ、回収した後は?」


「うーん、それはその時に考えるかしら」


 殺される。絶対に殺される。


「まあ、とりあえずやることをやりましょうか」


 その瞬間、アリーシャの姿が視界から消える。


「な…………?」


 俺の視界がグルリと回った。左半身に強い衝撃と痛みが走る。


「凄いわね、これ……まるで自分の身体じゃないみたい」


 俺の脚にはムチが絡まり、首を回して背後を見ると、魔鎧(ディアルナ)を纏ったアリーシャの姿があった。全く動きが見えなかった。


 しかし、ここで一つ、疑問が生じる。何故ここまで攻撃にダメージが無いのか。殺さないにしろ、傷を負わせれば俺の動きも悪くなり、簡単に札が取れるようになるはずだ。


「じゃあこのまま全身を縛って……」


 ムチはまるで生きているように俺の手足を縛った。いかん、なんか目覚めそう。


「さて、どこに隠したのかしら?」


 アリーシャが俺の服を弄り始める。貰った札は適当にズボンの右ポケットに隠した。これではすぐに見付かってしまう。


「……あら、あったわ、これね」


 やはりすぐに見付かった。


「……一つ、わかったことがある」


「何かしら。言ってみなさい」


「お前、革命とかやりたくてやってるわけじゃないだろ」


 アリーシャの動きが、止まった。


 そう。こいつとの戦いでわかった。こいつはこんな状況でも優しい(丶丶丶)


 人質も俺も、目立った怪我をしていない。それどころか、気絶させて札を奪うなりすればいいのにそれすらしない。


 人を傷付けないのだ。否、傷付けられない(丶丶丶丶丶丶丶)のだろう。


 そんな彼女が、何故こんな馬鹿げたことをしているのか。俺ではきっと想像もつかない。ついたとしても、果たして俺に何が出来ると言うのだろう。


「………………そうね。こんな馬鹿なこと、やりたくなんてなかったわ。でもね、やらなきゃならないの。ねえ、どうすればいいの? どうすれば皆が幸せになれるの?」


 アリーシャはそう言った。それはきっと、彼女の本音のカケラ。


 だけれども。


 だけれども、俺はその言葉を受け止められない。そういうの(丶丶丶丶丶)は、きっと俺の役割じゃあない。


 俺では、困る人に手を差し伸べてやれない。全てを背負ってやれない。


 だから、俺は言うのだ。


「んなこと、俺が知るか。お前が弱いのがいけなかったんだ。お前が縋らなかったのがいけなかったんだ。縋る強さがなかったのがいけなかったんだ」


 俺には絶対に頼らせない。頼らせてはいけない。こんな脇役に彼女の本音を吐露させてはならない。彼女の本音は、全て背負ってやれる人間にこそ話されるべきものだ。


「アンタが誰かに負けたら、もう一回、同じ話をしてやれよ。同情ぐらいはしてくれるだろ。もしかしたら、助けてくれるかもな?」


 そう言った。出来るだけ嘲笑しながら。出来るだけ彼女が傷付くように。誰かにどうしようもなく縋りたくなるように。


全ては「彼」に託すため。


 きっと、禁呪使いの「彼」ならば、全てを丸く収めてくれる。


 この国に俺や康太が連れて来られたのも、きっと全て「彼」の「人助け」のせいだろうから。


 目の前で、鎧の中で苦しんでいるであろう女は絶対に助けてしまう。


 本音を少しだけ見せたにも関わらず、素気無く拒絶された彼女を救うには。


 「彼」の力しかないと、そう考えた。


「…………そうね。貴方の言う通り。全ては私の無力のせいね。全ては私が……」


アリーシャは俺のズボンの右ポケットから札を抜き取った。


そして、右拳を振り上げた。


そうだ。それでいい。脇役の舞台はこんなもので充分だ。


 彼女の中に、俺の言葉を少しでも刷り込むことが出来たのならば。きっとアリーシャは「彼」に負けた後に縋る。縋ってもらわなくては困るのだ。


その為に、俺の敗北という手土産を持って、アリーシャには彼の元に向かって貰いたいのだ。


公崎悠人(ヒーロー)のところへ。


全ての準備は整った。俺の思惑通りに事が運べばいい。

でなければ────。


俺が、痛い思いをするだけ損だからな。

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