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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
決戦、アルカニリオス王国にて。
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少年の夢と現

 ボクは夢を見る。それは、ボクが初めて『彼』と出会った日の夢。


 ボクが出会った中で最も奇妙な『彼』の夢。


 誰よりも普遍的で、誰よりも特殊な。どこにでもいそうで、ここにしかいない少年の。


 そう、鹿沼(かぬま)大輔(だいすけ)の夢を。



      ~~~~~~~~~~



 入学して、突然のクラス内模擬戦も終わったあと、学園の男子が奇数だった為にたった一人割り振られた、ただ広いだけの静かな部屋で、ボクは本を読んでいた。


 隣の部屋で何か暴れているのか、高校生特有のテンションではしゃぎまわっているのかはわからないけれど、ドンドンと壁が震えていた。でもおかしいな。耐震も防音も完璧で、ランクSの魔導士が魔法を使わない限りは隣室に影響がないってパンフレットで謳われていたはずなのに。でも、きっとボクには関係ないと思って、読んでいた本に目を落とした。


 ……その瞬間、激しい揺れと音が響き渡った。


「……すっごい暴れてるし……」


 はあ、と溜め息をついて、ボクは静かな場所に行こうと決心した。


 ボクは今まで男子と話をする機会も少なく、今まであまり友達と呼べる男子が居なかったせいか、一人を好むことが多くなっていった。昔は恐怖さえ覚えていた静寂も、今ではボクの数少ない友達だ。


 ボクは何故か昔から男子に敬遠されるというか、避けられることが多かった。原因は今でもわからない。体育の前の着替えの時間は、何故か女子が男子を追い出してしまったし、プールの時間は女子がボクを取り囲むせいで男子と会話なんかロクに出来なかった。あの女子はなんであんなにボクに意地悪したんだろう……。


「はあ……どうせランクSが暴れてるんだろうな……。隣のことも考えてよ……」


 この学生寮で静かなところ……ロビーは憩いの場になっているからダメだ。となると……。


「もう夜だし、屋上とかでいいかな」


 流石にこの肌寒くて暗い夜に屋上に出る物好きはいないだろう。屋上に出たら、炎属性の魔法で明かりを灯せばいいから、寒さも暗さもなんとかなるはずだ。今はとにかくこの本の続きを読みたい。


 ボクは廊下に出て、屋上を目指した。



      ~~~~~~~~~~



 屋上に出ると、やはり誰もいなかった。というか寒い。


 ボクは晴天──火縄銃型の魔導武装だ──だけ出して、炎を灯した。ほんの少しの魔力(エナ)を注ぎ込み続けるだけで、ずっと灯り続けるのだから便利なものだなあ。


「…………」


 ボクが今読んでいるのはロボットモノのライトノベルだ。舞台が沖ノ鳥島で、つまり埋め立てられて都市にまで発展したこの島と同じなので気になって読んでみているのだが、ボクは元々ロボットモノにそんなに興味が無かったのでなんとも言えない。設定はまあ面白く無いわけじゃないけど……。


 しばらくして、1巻を読み終えた。ああ、次のを持ってきてない……仕方ないので、部屋に戻ることにした。屋上の扉を開ける。


 そこに、何故か屋上に続く踊り場に毛布を敷いている男子生徒がいた。


 これは一体どういうことだろうか。


 いや、男子の友達を作るチャンスかもしれない。思い切って話しかけてみることにした。


「ねえキミそんなとこで何やってんの?」


「ばーざむっ!?」


 ……凄い変な反応をされた。


 少年はなんというか……「あれ? どこかで会ったかな?」と思うくらい普通の顔……いや、どこにでもいる顔をしていた。印象に残らなそうな、そんな顔だ。映画のエキストラ、ドラマの背景。そう、思ってしまった。やだボク超失礼。


「え、ああいや、あのほら、うん、アレだよ、わかるだろ? つまりそういうコト」


「わかんないよ何一つとして!」


 そこで、聞き覚えのある声だなと思った。そうだ、今日、担任の先生を散々おちょくっていた生徒だ。そう気付いてしまえば、顔も自然と記憶の中で蘇った。ああ、そういえばそんな顔だったなあ。しかし、目の前の彼のせいでクールな女性のギャップ萌えに目覚めてしまった。どうしてくれる。


「……ってキミは須崎先生をからかいまくった人じゃん。勇気あるよね」


 そう言うが、彼は小首を傾げた。ああ、これ覚えてくれてないね。まあちょっと顔を合わせた程度じゃ流石にね。でもボクは覚えてるのに相手が覚えていないというのが少しだけ癪に障ったので意地悪して、


「同じクラスなのに……」


 と残念そうに言ってみると、相手は申し訳無さそうな顔をした。ちょっと罪悪感。


 申し訳ついでに自己紹介をすることにした。


「ボクは広城康太。広い城の健康太郎って書くよ」


「あ、これはご丁寧にどうも。俺は鹿沼大輔。鹿の沼にはまった大きい輔……? ダメだ、いい漢字紹介が思いつかん」


 うんうんと悩みだしたので、話題を振る。


「で、何してたのこんなとこで」


「ちゃうねん。部屋帰ったらな、同居人のめっちゃ強いヤツが女の子に押し倒されとってん。しゃーなし、ここまで来たんや」


「何故そんなに流暢に大阪弁を……!? ていうかそれ大問題じゃないの!?」


 ここは男子寮だし、女の子に押し倒されていたなんて大問題も甚だしい。ぶっちゃけ停学になったりするレベルだと思う。


「それなんてエロゲ?」


 突然、鹿沼くんは変なことを言い出した。


「は? 何言ってんの?」


「すいません……」


 萎縮した。案外打たれ弱いのかもしれない。


「まあつまり、部屋で男女の営みが繰り広げられそうだったから慌ててその場を去ったんだよ。邪魔しちゃ悪いし? 助けてとか言ってたけど知らねえよ恨めしい」


「助けを請うてたの!? 明らかに情事じゃないよ襲撃だよ!」


 鹿沼くんはルームメイトが襲われていたのを見捨てるような人間なのか……。


「で、リア充脱却戦争に惨敗を喫した俺は一人惨めにこうして人目につかないところで一夜を明かそうとしてたわけだ。オーケー?」


「全然オーケーじゃない!」


 普通の顔してるのにやってることはえげつないよう……。


「なんか部屋爆発してたんだよな……俺のコレクションは無事だろうか……はあ」


「魔法衝撃吸収素材あるのに爆発起きたの!? ただ事じゃないよそれは! そりゃ助けも呼ぶよ!」


 血も涙もない所業だ。仲良くなれる気がしない……。


「話変わるけど、いいかな?」


 突然、新たな話題の会話を切り出してきた。


「え、あ、うん」


「なんで男子制服着てんの?」


 なんて失礼なヤツだこの野郎。



「男だからだよ!!!!」



 どこからどう見てもボクは男だろう。……昔からよく「女の子みたい」と言われていたけれど。


「ハハハ何を仰いますやら」


「いや名前の時点で気付けよ!! ボク康太! 男!」


「何を言ってるんだ? こんなに可愛い娘が女の子なわけないだろ」


「え、あ、そうだね…って違う! 普通男は可愛くない! というか可愛い言うな!」


 本当に失礼なヤツだ。クラスメイトとは言え他人だというのにまるで遠慮がない。


「これからよろしくな、康太」


「あ、うんよろしく……じゃない! 何を全部終わったみたいな流れに持っていこうとしてんの!? そうはさせないからね!?」


「ハハハ、今日も元気だな康太は」


「キミはボクの何を知ってるの!?」


 ……ツッコミ疲れる。なんだこの人。息をするように変なことを言うぞ。


「はあ……もうなんなのキミ」


「正直すまんかった」


「いや、謝ってくれるならいいけれども……」


 素直に頭を下げられた。行動が全く予想出来ない……。


「あと、ボクを可愛いって言わないでね。結構傷付くから……うん……」


 小学校、中学校、ずっと女子にそう言われて周囲を囲まれてきた。そして可愛い可愛いと言われ続けた。あともうちょっとで閉所恐怖症になるところだったぐらいに取り囲まれていた。


「だ、大丈夫だ康太。お前はカッコいい」


 思いがけない称賛。しかも人生で初めて言われたかもしれない。


「本当!?」


 ……もしかしていい人なのだろうか、うん、そうだ。鹿沼くんは人の本質を見抜く力があるのだ。ボクの身に内在するカッコよさとか、須崎先生の可愛さを引き出していることから明白であろう。


「ああ本当だ本当。お前は十分男らしいよ、うん」


「だよね! そうだよね! そんなことを言ってくれたのはキミが初めてだよ!」


 ボクはこれまでイケメン俳優を始めとする「カッコいい人たちの仕草」を真似したり、男性向けファッション誌を読み漁ってカッコいい服を着たりしてきた。……得られた評価は「可愛い」の一言だったけれど。


「そういやランク聞いていい?」


 鹿沼くんはボクにそう聞いた。ふふん、ボクは見かけによらず結構な魔力を持っているのだ。


「ランクA!」


「マジかよ……」


 何故かテンションが急に下がっていった。そうだ、鹿沼くんのことをなんと呼ぼうか。……そう言えば、中学一年生二学期の頃に隣の席だった吉浦さんは言っていた。「男子と仲良くなるためには呼び捨てが大事よ」って。それを今こそ実践する時だろう。


「大輔は?」


「ランクDです……」


 ……ランクC より数が少ないらしいランクだった。


「……ラーメンでも食べに行く? 奢るよ?」


「やめてッ! そんな目で俺を見ないでッ!」


 ダメだ。最初のテンションに比べてどんどん下がっていっている。ここまで来るともう罪悪感まで感じちゃうぐらいに。


 なんとか元気づけてあげたい……そうだ。


「あ、そうだ。こんなところで寝るのもアレだし、ボクの部屋来る?」


 どうやらくじ引きで決まったらしい部屋割りで、ボクは奇跡的に一人部屋を勝ち取ったのだ。一人が好きなボクにしてみれば理想郷だが、でも、大輔を招き入れるのは悪い気がしない。何故だろうか。


「いいのかそれ。同居人いるだろ」


「いないよ。この一年生の人数は奇数だからね」


「俺は神を信じよう……」


 そんなに喜んでもらえるなんて……まあこのままだと毛布二枚で寝ることになるもんね。そりゃ嬉しいよね。


「じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ。部屋はどこにあるんだ?」


「四階だね。なんか隣ですごい音が起きてビックリして屋上に避難してきたのだけれども……って、あ」


 ……そういえば、大輔の部屋、爆発したなんて言ってたっけ……。隣だったのか……。


「……まあ、うん、厄介になるわ」


「どうぞ……」


 ボクの部屋に、クラスメイトを泊めることになったのだった。



      ~~~~~~~~~~



「……う、ん……」


 ボクは目を覚ました。なんだか夢を見ていた気がする。


「あら、お目覚めですの?」


 横たわっているボクに、声が振りかかる。


「随分と愉快な夢をご覧になっていたようですわね?」


「ええと……そうだ、エミリアちゃん。ここは?」


「わかりませんわ。気がついたらここにいましたもの。手は縛られていますし、ここ、魔素(マナ)も遮断されていますわね。魔法を使うことも魔導武装を出すことも叶いませんでしたわ」


 ボクは後ろ手に縛られた身体を起こして辺りを見てみる。どうやら木造の、倉庫らしきところに捕まっているらしい。この部屋には樽や木箱が多く、そして乱雑に置かれていて、酒の匂いがした。埃っぽさが無いので、今でも良く人が出入りする部屋のようだ。


「一つわかっていることは、相手はわたくし達に危害を加える気が無かったということですわね。汚れはあっても、身体には傷一つ付いておりませんもの。恐らく、人質以外の価値を期待していないのでしょうね」


「いや、だってボクら人質だろ?」


「慰み者になる恐れもあったのですわよ?」


「…………」


 さらりとエミリアちゃんはそんなことを言った。……まあボクは男だからいいけど……。


「ま、私達は無理でしょうけどね。性別が違いますもの」


「……達?」


「あら失敬。貴方は、でしたわね」


「まあそうなんだけど……」


 そう言って、彼女はうふふと笑った。手が縛られてさえいなければ、マンガのお嬢様のように、手を口元に持って行って上品に笑っていただろう。


「でも……なんでそんなに落ち着いてるの?」


 エミリアちゃんは、誘拐されたにしてはかなり落ち着いている。まるでなんでもないことのように。


「あら、慣れてますもの」


「誘拐に!?」


 この国ってそんなに殺伐としているのだろうか。


「主に他国からのスパイに、ですけれどね。でもこんなに手の込んだ誘拐は初めてですわ。なにせ……ほら、アレを御覧なさい」


 彼女が指を指した方向に、宙に浮いた、30cmほどの青い結晶と、その台座らしき六角形の石が置いてあった。


「それは魔素(マナ)(エル)塞き止めし者(バンナーロ)と言う魔導具。主に、刑務所などに置く物ですわね。名前の通り、それが置いてある空間には魔素(マナ)が流れなくなりますの。細かい原理は企業秘密らしいですけれどね。特許申請の用紙があれば見れるとは思いますが」


「異世界にも特許とかあるんだ……」


 これのせいで魔法も魔導武装も使えないのなら、これを壊せばいいのだ。


「とおりゃあ!」


 思いっきり蹴ってみた。しかしビクともしないどころか、蹴った脚が痛い。


「ああ、それ魔法以外では壊せませんわよ。むしろ刑務所でそれが簡単に壊れたら大問題ですわよ」


 ……まあそんなことだろうとは思ったけどさ。


「じゃ、仕方ないね。大輔たちを待とうかな」


「貴方の変わり身も大したものですわね。しかし、出会ってから一週間の相手をよくもまあそこまで信頼出来るものですわね。普通じゃ考えられないですわよ」


「んー、そう言われるとそうなのかもしれないけどねえ」


 言われてみれば、なんでボクは大輔を信頼してるんだろう。半年経ったのならまだしも、一週間だよ、一週間。


「もしかして貴方……大輔さんを慕っているのでは?」


「慕ってる? まあでも確かに、ランクが低くても頑張ってるのは確かに尊敬して……」


「あら、今の慕っている、は恋しく思う、の意味ですわよ? ほら白状しなさい、ホモなんでしょう? BLなんでしょう?」


「ええッ!? ちちちち違うよ!? ボクちゃんと女の子好きだから!」


「女の子『も』、ではありませんの?」


「違うううううッ!」


 酷い誤解だ。確かに大輔は見かけによらず男らしいけど…………ってなんでボクはこんなことを!?


「あら、顔が赤くなっておいでですわよ? 同性愛の素質、あるのではなくて?」


「皆無だよッ!」


 まさかこの子も腐女子だったのか。いやしかしなんだか彼女達とは違うオーラが漂っている。


「実は私、同性愛者ですの」


「…………ああ、うん、恋って自由だしね、うん」


 なんで誘拐されてるこの状況で僕達はこんな会話を……?


「まあ、それはさておき。問題はどこから抜け出すか、ですわね」


「いや、脱出しようとしてるのがバレると、もっと見つけられにくい場所に移されちゃう危険性があるから、ここで待っている方がいいんじゃないかな。地下牢に入れられたりするよりはここの方がいいと思うんだ」


「……確かにそうですわね。しかし、脱出が出来る可能性も無くなりますわよ」


「いや、だって大輔たちが助けてくれるもん」


「……大した信頼ですわね」


 エミリアが呆れたように言った。


「だって、そういう人達(丶丶丶丶丶丶)でしょ?」


「困っている人を見捨てない……だから悠人さんはここに来て、だから大輔さんはここに留まった、と?」


「まあ大輔は本気で嫌がってたけどね……でも、納得も早かったよ。諦めって言ったほうが正しいかも知れないけどね」


「……面白い人達ですわね」


 そう言ったので、ボクは笑った。


 ……どうせすぐ助けてくれるんだもんね、大輔は。

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