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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
決戦、アルカニリオス王国にて。
24/207

決戦前夜とその朝のドタバタ。

「で、何すりゃいいの」


 俺と康太はソファに座り、悠人やミオ、エリーと向き合う。


「まあ難しい話じゃないわよ。この国……アルカニリオス王国がちょっとピンチというか……クーデターを起こそうとしてる連中がいて、そいつらを悠人にボコって貰おうってわけ」


どうやらファンタジー世界も平和なわけではないようだ。いや、それよりも……。


「お前ら異世界人だったの?」


「え、今更なの? アタシはここの第二皇女。エリオットは……」


「レッセリア家の長男さ! ……あ、いや、長男です、王女様」


 あのエリーが畏まっている……!? これは槍の雨が降りかねん……。


「いいのよ、エリオット、友達じゃない」


「み、ミオ……」


 友達いないもんだと思ってた……。


「なあ、質問なんだが」


「言ってみなさい、悠人の友達くん」


「クーデター組織壊滅させるために悠人呼んだんだろ?」


「そうね、その通りよ」


「……俺と康太、いる?」


「ぶっちゃけいらないわね」


 本当にぶっちゃけやがったこの野郎!


「でも、悠人が『大輔と康太くんの力が必要だ』って言うから渋々連れてきたの。感謝しなさい」


「怒りこそすれ感謝はしねえよ……。とりあえず、元の世界の帰り方を教えてくれ」


「…………」


「俺みたいなのはいたって足手まといになるだけだ。ランクD だぜ、俺」


 異世界よりも滋賀県がいいのである。


「残念だけど、こちらとあちらを繋ぐゲートの次の開通は明日よ」


「向こうとこっちの時間の流れ方にもよるな」


「時間は同じよ。こっちが昼なら向こうも昼だわ」


「で、明日の何時頃に開通するんだ?」


「……午後の6時よ」


「嘘だろ…………」


 俺の楽しい観光計画が……ひこ○ゃんが……。


「…………はあ……。まあいいや。一ヶ月は悠人に飯奢ってもらうか。それで手を打ってやるよ」


「一ヶ月もかい!? ……でも、そんなに楽しみにしてたのを邪魔したんなら当然か……」


「康太、バイトで金貯めて、夏休みにどっか旅行行こうぜ」


 しょんぼりしていた康太に話しかけると、康太はヒマワリのような笑顔を見せた。


「旅費を悠人くん持ちにすればいいんじゃないかな!」


 天才かよ。


「それともこの国に請求する?」


「お前頭いいな!」


 俺と康太がそんな話をしていると、ミオが溜め息をついて言った。


「はあ……活躍したら報酬は出すわよ……」


「いやっほう! ナントカ王国バンザイ!」


「アルカニリオス王国よ!」


 覚えにくいんだよこの名前! しかも変な名前だし。


「今アンタ変な名前な国だなって思ったわね……?」


「い、いや! そんなことはあるぞ!」


「あるんじゃない!」


 しかし魔法語に詳しい俺ならばわかる。大方、建国者の『アルカニア』と、魔法語で『王』を意味する『リオス』を合わせただけの簡単な名前だ。結果ちょっとダサくなってるが。


「じゃあ、ブリーフィングを頼めるかな」


 悠人がアルカイックスマイルで言った。なんでお前そんな仏みたいな笑顔出来んの。奢りの対象が自分から余所へ向いたからか。


「作戦なんてほどでもないわよ。ヤツらのアジトはもうわかってるの。後は突入して大暴れするだけだわ」


「シンプルで嫌いじゃないぜ」


「アンタ、突撃しても死ぬだけじゃない」


 ……言い返せないのが悔しい。


「明日に備えて今日はもう休んで。全員に部屋は用意してあるから。お風呂も部屋のを使えばいいわ。案内はメイド達がしてくれるから。じゃあ、よろしくね」


 そう言ってミオは部屋を去っていった。……悠人の腕を引っ張って。


「なあ、何があったらあんなにメロメロになるんだ?」


「……まああの顔で口説かれたら落ちるんじゃないかな」


「口説くような奴かね」


「無意識にラブコメの主人公みたいなことでも言ったんじゃない?」


「……それは容易に想像出来るな……」


 ただでさえ主人公のような風体だ。イケメンで魔力(エナ)も多く禁呪も使えて、天空魔導旅団のリーダー、聖騎士の魔導武装を持っている。


「……これ絶対敵わないよな」


「だよねえ」


 俺と康太は二人して笑った。



      ~~~~~~~~~~



 メイドさんに案内された客室で風呂に入り、豪華な晩餐を取った。異世界の物なのか、食べたことのないモノばかりであった。食べようとすると悲鳴を上げる人の形をした野菜とか、プチプチ食感の小さな目玉とか……。聞いた話だと豪華食材らしい。珍味のカテゴリだと思う。


 そして、夜。


 俺は客室でゴロゴロしている。本があったが全て読めない言語で書かれていた。魔法文字でもない言語だ。こちらの日常生活用の文字だろう。


 とりあえず客室を色々漁ってみることにした。


 まず、客室は電灯らしき物で照らされており、室内の明るさは元の世界とあまり変わらない。アレは噂に聞く『魔導具』という奴だろう。マドゥーグではない。


 なんというか、豪華なホテルを連想させる部屋だ。ベッドが一つあって、ソファと机があり、本棚にクローゼット、備え付けのお風呂、冷蔵庫のような魔導具や、なんとテレビのような物まである。なんというか……異世界に来てる感がゼロだ。

 というか異世界にも風呂に入る文化はあるんだな……。



 リモコンのようなものを見付けたので、テレビのようなものに向けて適当にボタンを押してみると、電源が付いた。ほんの少し魔力(エナ)を消費した。なるほど、リモコンを使うにも魔力(エナ)が必要なのか。しかし消費した魔力(エナ)も一瞬で回復した。空気中の魔素(マナ)濃度が高い証拠だ。



 やっている番組が、なんと日本語で喋っていた。なんてご都合主義なのだ……と思ったら、日本のアニメであった。異世界でも人気なのかよ。しかし字幕がついていない……これ、本当に使っている言語が同じである可能性があるな。

 適当に時間を潰していると、部屋のドアがコンコンと音を鳴らした。誰か来たようだ。



 ……まさか美人メイドさんが夜這いに来た的なイベントがついに俺にも……?



 ウキウキしながらドアを開けると、何故か女物のパジャマを着て、枕を抱き締めている康太であった。……しかも頬は赤らんでいるし目が潤んでいる……。


「よう、康太、どうした」


「ふぇぇ……大輔ぇ……怖かったよう……」


 俺は今お前のその態度が怖い……。なんだ、まさかコイツが夜這いに……!?


「へ、部屋に……部屋に……幽霊っぽいモノが出て……」


 なに? ……異世界にも幽霊はいるのか……。


「とりあえず、ついてってやるから部屋に戻れ、な?」


 こんなところを他人に見付かったら俺のホモ疑惑が確固たるモノになってしまう。それだけは回避したい。それでも康太とならいいかな……と思えるのがちょっと悔しい。


「やだ! ……もうあんな怖い思いはしたくないんだ……」


「……とりあえず中に入れよ。詳しく教えろ」


「うん……」


 いつにも増してしおらしい。抱き締めたくなるからやめて欲しい。


 俺は康太をソファに座らせ、俺はベッドに腰掛ける。


「で、何があったんだ?」


「うん……実は、部屋でくつろいでたら、お風呂から変な音が聞こえて、何かと思って見に行ったんだ、そしたら……」


「そしたら……?」


 俺はゴクリと唾を飲んだ。まさか本当に幽霊が……?



「『悠人……悠人……』って声と共に、浴槽からびしょ濡れの幽霊が現れたんだ!」



 …………それ多分ここにいないはずのあの人。


「ボクはもう怖くなって逃げ出して……何故か枕持って来ちゃったんだけど」


「……まあ、うん。ゲート開いてないはずなんだから来れるわけないよな、うん」


 幽ヶ峰がこっちに来れるはずないのだ。ゲート開通魔法とかあったような気もするが……。


 その時、廊下から湿った足音が聞こえる。


 ヒタリ……ヒタリ……ヒタリ……。


 どんどんこちらへ近付いてきている。これが康太の言っていた幽霊か!


「……怖いよ、怖いよ大輔ぇ……」


「まさか幽霊とかの類が苦手だったとは……」


「ホラー番組はなんやかんや言って気になって見ちゃうんだけどね……ってそんな話してる場合じゃないや……」


 足音はどんどん近付いてきて、俺の部屋の前で止まった。嘘だろ……?


「……だいす……むぐ!」


「……声を出すな……静かにしてろ……」


 大声を出しそうになった康太の口に手で蓋をし、ソファに押し倒す。


 ドアがゆっくりと開いた。俺はソファに康太を押し倒したまま、更に身体を密着させる。これでソファの背もたれが遮って、ドアから俺達が見えなくなるはずだ。


「…………悠人は……ここじゃない」


 あれやっぱり幽ヶ峰だろ。なんでこっちにいるんだ。


「む……むぐ……」


 康太が少しずつ力を抜いていく。なんでこの状況でリラックス出来るんだお前。


「……誰がいるかわからないけど……失礼した……」


 そして幽ヶ峰さんらしき幽霊はドアを開けて去っていった。


「……ふう、あれ絶対幽ヶ峰さんだろ。怖がる必要は無かったな……ってお前なんでそんな顔赤いんだ!? 風邪でも引いたか?」


「……大輔……」


 なんだか目がトロンとしている。なんだ、なんでそんな艶かしいんだお前、男だろ。


「いいよね……」


「何がァッ!?」


 何がいいの!?



「ボクもうこの部屋で寝る……眠いから……ソファでいいよね……おやすみ……」



 そう言ったきり、康太が眠りについた。寝息を立てている。



 ちょっと期待してしまった自分がいた。俺、もう引き返せないとこまで来ているかもしれない。


 とりあえず、康太をベッドに寝かせ、俺がソファで眠ることにした。運良く毛布がクローゼットに入っていたので、それで俺も眠った。



      ~~~~~~~~~~



「……すけ……大輔……朝だよー」


「……ん……おう、おはよう」


「ふふ、昨日の大輔、カッコ良かったよ」


「またお前は誤解を招くような事を……」


 康太は恥ずかしげに微笑んだ。もう男でもいいのかもしれない……。


「さ、早く行こう、ご飯がボク達を待ってるよ!」


「ああ。……しかし、朝から元気だな、アイツは……」


 康太は先に駆けて行ったようだ。俺もゆっくりと起き上がり、その後を追いかける。



      ~~~~~~~~~~



 客間に入る。悠人、康太、そしてミオと、給仕係らしい女性が数人いた。


 そして、王族が毎朝食べているというありがたい朝食を頂く。


 その最中である。


「ねえ、アンタ」


 ミオが俺の方を向いて話しかけてくる。しかし若者特有の主語抜き会話なので、誰に話しかけているのかと伝えるために俺は後ろを向いた。


「アンタよ、アンタ、その間抜け面! 或いはモブ顔!」


 あ、これやっぱり俺のことだわ。


「鹿沼大輔だ。アンタなんて名前じゃねえ」


「あっそ。じゃあ大輔。アンタ、昨日の夜に変なモノ見なかった?」


 なんて無礼なヤツだ……。凄く変なモノを見たが、しらを切ることにした。


「いや、見なかったぞ? 人への態度が変なモノなら今見てるけどな」


「なっ……! アンタ、偉そうに……」


「偉そうなのはそっちだろ。悠人もなんか言ってやれよ」


 俺が黙々とご飯を食べている悠人に話しかけると、悠人は微笑んで言った。


「アルカニアさん、ダメだよ、そういうの」


「……そうよね、悠人がそう言うなら仕方ないわ」


 そう頬を赤らめてミオが言った。馬鹿な、まさか悠人は魔導士ではなく調教師……? いや、エロい意味ではなく、動物とかの方で。


「で、何か見た? メイドが騒いでたのよ」


「幽ヶ峰をそのまま幽霊にしたみたいなトンデモ現象には遭遇したけどな」


「それよ! 一体どうしてアイツがここに……?」


 どうにも幽ヶ峰の存在に薄々感付いていたらしい。これが女の勘という奴か。



「…………悠人に群がるハエはここね」



 突然。


 ミオの傍らから気配なく亡霊のようなモノが現れ、ヘッドロックした……なんでその技のチョイス?


「な、なんでアンタがいんのよここにいいいいっ! 完全に置いてきたハズでしょ!?」


「…………私、こちらとあちらを繋ぐゲートを一時的に開通させる魔法、使える」


「なんでそんな高位魔法をアンタが使えんのよ! ああもう、いいから離しなさいったら!」


 朝っぱらからキャットファイトとは元気な連中である。俺はパンのようなモノをモサモサと食べて眺める。


「ね、大輔、滋賀県もいいけど……異世界もいいんじゃない?」


「観光出来る時間でもあったらいいんだけどな。ま、忙しいから無いんじゃねえか」


「むう……」


 康太は異世界に興味津々のようだ。まあ、俺も魔法が生まれた世界に興味が無いわけではない。一応ファンタジー世界なのだ。見ておきたいという気持ちはある。


「おい、アルカニア。自由時間とか無いのか?」


「朝食を食べたら、好きに動いてていいわよ。昼には帰ってきて貰うけどね」


 壁に備え付けられた時計で今の時刻を確認すると8時だった。4時間は好きに動ける訳か。


「もう説明も済ませておきましょうか。……昼に、反王族組織の会合があるらしいの。そこを一気に叩くつもりよ」


「そこまで情報を手に入れているのかい?」


 悠人は朝食を終えたようで、少しくつろいで座っている。


「ええ。諜報部隊に潜入させているから」


「その情報の信憑性は?」


「高い……とは思うわよ。でも、嘘って可能性も否めないわね」


「危険だな……本当に作戦を決行する気かい?」


「これ以上放置しておく訳にもいかないのよ。結界を壊されでもしたら大惨事になるわ。アタシだって危険なのはわかってるけど……結界があるから、死んだって死なないわ」


 二人が真面目に会話している。しかし俺はここでも下っ端のようなものなので、食べる手を止めないで適当に流し聞きしていた。


「……結界があれば死んでもいいなんて思っちゃダメだよ。死への恐怖をなくしたら、キミはもう魔導士にはなれない」


「え、あ…………。……そう、そうね。悠人の言うとおりだわ」


 そういえば……。幽ヶ峰は一体どうしているだろうか。そう思って視界を動かして探してみると、見付けた。会話に夢中になっているミオの朝食を目にも止まらぬ早さで食べている……。


「…………おかわり」


 人の分を食べた上でおかわりを要求している……。


「じゃ、辛気臭い話は終わり。相手がどんな策を講じたって、こっちには立派な軍師がいるからね。ね、大輔」


「え、何その信頼……」


 軍師って褒めすぎだろ。


「俺はちょっと卑怯な手を思いつくだけだぜ」


「自分で言うんだ……」


 性根が腐っているのである。


「その卑怯な手が今は必要なのさ。相手の卑怯な手を看破してくれそうだろ? だから呼んだんだ」


「……ええと、ボクはなんで連れて来られたのかな?」


 そう。俺が卑怯ということで連れて来られたのなら、康太はどういう役割で連れて来られたのだろうか。


「大輔のボディガードさ。こっちの世界じゃ、大輔の近接戦闘も魔法に劣ってしまうからね。康太くんの魔導武装は銃のタイプだから、遠距離で狙ってくる敵を迎撃出来る」


 そこまで考えていたのか。そこまでして俺達を巻き込みたかったのか……。


「ま、ブリーフィングもここまででいいでしょ。僕は街が見たくてね。康太くんと大輔も楽しんでくるといいよ」


「お前も一緒に行かないのか?」


「ははは、アルカニアさんに街を案内してもらう約束なんだ」


 ……どうせミオ辺りだろう。国の案内を口実にデートに誘っていると見た。まあ、悠人は本気で案内だけだと思っていそうだが。


「じゃ、またあとでね」

 そうして、俺達は別れた。康太と連れ立って客間を後にする。ふと後ろを振り返ると。



「…………おかわり」



 食欲が止まらない幽ヶ峰が給仕係を困らせていた。腹ペコモンスター……。

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