※異世界転移モノではありません。
「つ、疲れた……なんだあれ……なんだあれ……」
「およそ人間が挑んでいい難易度じゃなかったね……」
俺達は全難易度クリアを目指したのだが、どう足掻いてもSASUKEだけは無理だった。あれおかしい……。ちなみに、一番進んだのは悠人だった。なんでそんな身体能力も高いんだよチートかよ。
「ははは……僕も疲れたよ流石に……。これは明日、全身筋肉痛だろうね」
そう笑う悠人の背後から、およそ現世では放たれてはいけないレベルの怒りのオーラが放出されていた。大丈夫かアレ。なんやかんやで固まって魔物が生まれちゃうんじゃねえの。
「…………赤いのが脚を痛めた時は面白かった」
「アンタが無様に落ちた時も滑稽だったわね!」
「…………貴女の方が無様に落ちた。……悲鳴を上げて落ちていた」
「何一つ声を上げず真顔で落ちたアンタはもうホラーの一種だったわよ!?」
いやー……女って二人でも姦しいなー……。
「そろそろアスレチックの時間も終わりだね。着替えておこうか」
悠人の提案に乗ることにして、俺達は更衣室に移動する。
「…………早めの移動だから誰もいない。…………つまり愛しあい放題。…………ちゅっちゅしよ?」
……何故か男子更衣室に幽ヶ峰さんが来ていた。
「う、うわあ! 大輔、康太、助け……ってア゛ァーッ! 凍ってるゥーッ!」
そう。更衣室に幽ヶ峰さんが入ってきた瞬間、聞こえない程の声で詠唱したかと思うと、俺と康太の身体を氷が包んだ。凍っているのではなく、氷に文字通り包まれているのだ。中は空洞である。しかし何故凍らせなかったのか。見せ付けるつもりなのだろうか。
「……見えてるけど動けない。……本当に凍らせると凍死する。……私はそこまで鬼ではない。……まあ広城は耐えると思うけど。…………鹿沼は絶対に死ぬ」
魔力が多ければ多いほど魔法に対する防御力が大きくなるのだ。つまりランクSは攻守共に最強。俺のような低ランクは攻守共にクソザコナメクジなのである。
「ね、ねえ、どうして君がそんなに僕にくっつくのかわからないんだけど……」
「……ラブアットファーストサイト」
「一目惚れに該当する英単語が無いからってそんな翻訳でいいの!?」
「……グーグル先生、嘘付かない」
しかしなんであの少女はあそこまで悠人に入れ込むのだろうか。やっぱりあれか。顔とランクか。確かにランクSならば将来も安定しているだろう。年収にして1000万は固い。
「あ、そ、そういえばミオちゃんが僕に頼み事があるって言ってたから急いで着替えなきゃ!」
「……逃げる文句で他の女を使うなんて。……悠人は将来プレイボーイになる」
「付き合ってる前提!? いや僕まだ恋愛とかする気無いからね!?」
「……やっぱり噂通り……悠人は同性愛者?」
「断じて違うぅっ!」
否定してくれて良かった……本当に良かった……。
「と、とにかく! 二人を解放して女子更衣室に戻るんだ。じゃないと怒るよ」
「…………無念」
幽ヶ峰さんは渋々出て行った。
……氷魔法を解除せずに。
結局、氷魔法を解除するのに手こずったので、早めに着替えに来た意味が無くなりました。
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アスレチックが終わると、もう日が暮れかけていた。俺達はまたもバスに乗ってホテルに戻ってきた。皆がホテルの中に入っていく。康太は「も、漏れるっ、トイレッ。さ、先行ってるね!」と言ってトイレに行ってしまった。
「大輔、次の予定はなんだい?」
「ああ、ホテルに移動で休憩だってよ。その後入浴して、飯食って、自由時間があって、就寝だそうだ」
「ちなみに、明日の予定は?」
「観光」
「観光かい!?」
滋賀県は琵琶湖以外にも観光地があるとネットに書いてあった。彦根城辺りは有名だろう。ちなみに俺は黒壁スクエアってところに行ってみたい。
「康太と二人でガラス工房とか見て回ろうって約束してんだよ」
「……ほんとに恋人みたいだね君たち……」
「やめろあらぬ疑いが掛かるだろ……。お前も来るか?」
悠人が少し嬉しそうに微笑んだ。
「いいね、実は少し誘われるの待ってたんだ」
「……お前も人のこと言えねえ気がするなあ……」
腐女子が近くにいなくてよかった。
「じゃ、まあ部屋でトランプでもしようぜ」
「そうだね。僕ババ抜き強いよ?」
「ババ抜きに強いも弱いもねーだろ……」
ポーカーフェイスが上手いとかそういうことなのだろうか。
「康太が待ってるからな、さっさと行こうぜ。寂しがるといかん」
「…………やっぱり二人って付き合ってるよね……?」
付き合ってないと言うに……。いや、まあ、正直なところ康太が女子だったら色々ヤバかったかもしれん。理性とか。
適当な雑談をしながら、俺と悠人は部屋に移動した。
「というか、おい悠人、赤い髪の女子に話があるって言われてるんじゃ無かったのか?」
「………………あっ」
本気で忘れていたらしい。記憶能力に難がありますね……。
「ちょ、ちょっと今から行ってくるよ」
「女子の階層は神帯先生が見張ってるって情報が来てる。諦めて全員が集まる夕食の時に話すんだな」
「そうするしかないみたいだね。アルカニアさんには悪いけど、そうするかな」
俺達はトランプをしたり、テレビを見て過ごしたりして時間を潰し、やがて入浴の時間が訪れた。
「この入浴時間でボクは……男である真の証明が出来るんだ……!」
一名、切実な願いを持っている奴がいる。というかこの顔で男性のシンボルがコンニチハしてしまったら色々マズイ事になりそうである。なんとか阻止せねばなるまい。そういうのはエロ同人の中だけでいいのであって、リアルでは男か女かわからないこの絶妙な感じがイイのだ。
「あれ、そういや悠人は?」
「なんか、ミオさんとかいう赤い髪の……ほら、あのランクSの女の子に呼び出されてたよ」
「モテてるなアイツ……このまま行くとハーレム形成しちゃうんじゃねえの」
俺の周りは男だらけなのだが。康太、悠人、エリー……そういやアスレチック以来見てないけどどうしたのだろうか。というか風呂どうするんだアイツ。
「あ、エミリアちゃんからメール来てたんだけど、二人は部屋のお風呂に入るらしいよ」
「いつの間にメアドの交換を!?」
康太のコミュニケーション能力が留まるところを知らない……。
「というかおいお前女の子とメアド交換したのか!? エミリアって曲がりなりにも美少女だぜ!?」
「いや……向こうから『大輔さんの生態を報告していただきたいのですわ』って教えてきたんだけど……」
「動物扱い!?」
「あ、あははは……」
康太が乾いた笑い声を発していた。まあもうそんなことはどうでもいい。今は風呂だ、風呂に入りたい。
俺と康太は部屋のドアを抜ける。
そこは、夕暮れ時の草原であった。輝く太陽は地平線に沈みかけ、真っ赤な空は緑の雑草を橙に染め上げていた。
「あれぇ───────────────ッ!?」
風呂は!? 覗きイベントは!? 俺達の桃源郷は!?
「ちょ、だ、大輔、帰れないよこれ! ドアがない!」
「ど、ドラ○もぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!?」
俺と康太は草原で騒ぐ。すると、けたたましい鳴き声のようなものが耳をつんざいた。
ドラゴンが。神話などの伝承に出てくるようなドラゴンが俺達の前に着地した。
「……今まで楽しかったぜ康太……来世でも仲良くしてくれよな……」
「諦めてるゥ───────────────ッ! 逃げようよ大輔! ここボク達がいた世界よりも魔素濃度が濃いよ!」
「魔素濃度が濃い? なら俺は無限に跳べるかもしれん! 掴まれ、飛ぶぞ!」
俺は蒼空を顕現させる。すると。
「おーい、愉快に漫才してないでさっさと乗りなさいよねーっ」
と、少女の声が聞こえた。
「……今、ドラゴンから聞こえたよな」
「……め、メスなのかな」
「ちッが─────う! なにを変な想像してるわけっ! アタシはアルカニリオス王国第二王女、ミオ=アルカニアなのよっ! アタシを爬虫類扱いしないでくれる!」
そう叫びながら、ドラゴンの背から降りてきたのは、見知った顔……赤髪のランクSの少女であった。
「……は?」
「感謝しなさいよアンタ達! 悠人に免じて、アタシの国を救う手助けをさせてあげる!」
わけがわからなかった。
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俺と康太はドラゴンの背に乗って、とってもファンタジーな王国っぽい街の中心にそびえ立つ城に通された。その時にはもう夜の帳が降りてきて、遮るもののない空を真っ黒に染めている。
そういえば、乗せてくれたドラゴンが何故か俺に怯えていた。槍使いだからだろうか。古来より槍は竜を狩る武器だ。ファイナルなファンタジーが言うのだから間違いない。
そして、通された部屋で俺達を待ち受けていたのは悠人であった。なんだか申し訳無さそうな顔をして、ソファに座っていた。
「…………あの、まず謝らせて貰っていいかな。ごめん」
「おい、説明が先だろ。どうなってんだオイ」
「その先は僕から説明させて貰おうか!」
バン! と木製の扉を壊れんばかりの勢いで開け放って、エリーが現れた。一体全体どうなっているのだ。
「キミ達には、この国を救って欲しい!」
……それさっき聞いた。




