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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
宿泊オリエンテーション
20/207

無気力30分クッキング

 琵琶湖をボートで楽しんだ。次は少し移動し、キャンプ場に来ていた。


「昼飯はカレーだ。飯盒炊爨だ。ほれ、作れ作れ」


 そう須崎先生は言った。なんて投げやりな……。


「確か、飯盒炊爨は専用の班組みになるんだよね?」


「女子が加わるだけだけどな」


「たしか、悠人が班を決めてたな」


「誰が来るんだろう……」


 ……まあ、だいたい予想は付いてるけど。


「……カレー。……つまりリンゴ入れ放題。……パラダイス」


「か、カレーへの認識が著しく間違ってます!」


 女子二名がやってきた。案の定、幽ヶ峰さんだった。もう一人は……まさか……!


「あ、あの、よろしくお願いします」


 白鷺(しらさぎ)飛鳥(あすか)さん……1年2組のマドンナである。黒いロングの艷やかな髪、奥ゆかしい態度、見る者全てを和やかな心持ちにさせるその顔……。大和撫子という言葉はまさに彼女の為にあるだろう。


 しかし待て。飯盒炊爨の班は男子三人、女子三人。まあ女子の方が圧倒的に多いから、大半の班は女子だけで6人になるのだが。


「あともう一人の女子って一体……」


「飛鳥見てデレデレしてんじゃねー!」


「ごふぁっつ!?」


 後頭部に激しい痛みがッ!?


 俺は吹き飛び、頭から土の地面に突っ込んだ。


「な、なんだあの女の子! 急に走ってきたと思ったら飛び蹴りをかましたよ!?」


 悠人がやけに丁寧に解説してくれた。


「むうっ、あれが世に聞くドロップキック」


「知っているのか康太!」


 俺は地面とキスしながら反射的に叫んだ。うえ、口の中に土入った。


「……多分、大輔の方が詳しいんじゃないかな……」


 そう康太が言うので、慌てて起き上がり、俺を蹴っ飛ばした人間の顔を見る。


「お。お前はブラックスワン!」


「その名前でアタシを呼ぶなァ─────ッ!」


「はんぶらびっ!?」


 鳩尾を蹴られた。俺が何をしたと言うんだ……。


「悠人、知ってる?」


「うん……白鷺さんと常に一緒にいる女子生徒だよ。名前は黒鳥(くろとり)夕緋(ゆうび)。男子内では……」


 俺が鳩尾を抑えながら、その言葉の続きを言う。


「見た目は綺麗なのにやたら攻撃的だから、見た目は白鳥、でも中身真っ黒ってことでついた異名が『ブラックスワン』……」


「余計な事を……言うなァ!」


「ぺぷし!」


 また蹴られた。ブラックスワンって結構カッコいいと思うのだが、気に入っていないのか。


 俺は痛みを堪えながらブラックスワンこと黒鳥夕緋を見据える。


 前髪は邪魔にならない程度に、乱雑に切り揃えられ、側頭部の髪は肩にギリギリ触れないくらいの長さだ。その勿論ブラックスワンという名の通りというか、髪色は黒だ。


「いい? 飛鳥に不用意に近付いたらブッ殺すかんね」


「ふぇぇ……この女すっごい物騒だよぉ……」


 これはあれか、レズか。


「や、やめてよ夕緋ちゃん。鹿沼くんは何もしてないよ」


 女神が降臨しなすった。


「ま、まあ飛鳥がそう言うなら……」


 黒鳥は頬を赤らめながら俺から離れた。あ、これレズだわ。


「と、とりあえずカレー作ろう、ね? ボク達の班だけだよ、まだ調理器具すら触ってないの」


「そうだね、いい加減に進めよう」


「……アップルパラダイス」


「が、頑張りましょう!」


「意気込む飛鳥も可愛い……」


 前途多難にも程がある。



      ~~~~~~~~~~



「さて、まずは調理器具を洗うぞ。軽くでいい。衛生管理は大事だ」


「はーい」


 俺が指示を出し、皆がそれに従う形で調理を進めていくことにした。


「じゃあ悠人と康太は俺と一緒に牛肉と野菜を切ってくれ。白鷺さんと黒鳥は、ご飯を炊いて欲しい」


「…………待って欲しい」


 幽ヶ峰さんが俺の肩を力強く掴む……っていててててて! めり込んでる! 指が肩の肉に!


「……私が割り振られていない」


 どこかに割り振ったら絶対に何かしらやらかしそうなので心底嫌である。


 しかし、このまま放っておくのが一番怖いような気もする。


「…………リンゴでも切ってて下さい……」


 食後のデザート用なのか、リンゴがあるのである。それも人数分。


「でも酸化しちゃうから、食べ終わってからな?」


「……え? ……リンゴはカレーの具材でしょ?」


「辛いものの後に甘いもの食べたいとは思わないか?」


「……鹿沼はずるい」


 幽ヶ峰さんがヨダレを垂らしながら退いていった。なんてわかりやすい……。


「じゃあ、さっそくやろうぜ」


 そして、俺達の戦争(クッキング)が始まった。



  ~~ここからはダイジェストでお送りします~〜



「ああ! 肉がニュルニュルするうううううう!」


 康太は肉の感触で悲鳴を上げ、


「な、涙が止まらない……タマネギほんと苦手だなあ……ちょっとこれ拭ってくれない?」


 悠人はタマネギで涙を流し、


「しゃーねーな……ほれ」


 俺は悠人の涙を拭ってやり、


「きゃああああああああああ!! 涙を……涙をおおおおおおおお!! ごっしごしいいいいいいいいいいいいい!!」


 白鷺さんが興奮して叫びながら米を洗い、


「腐女子モードの飛鳥……可愛い……」


 黒鳥がウットリする。お前もう白鷺さんならなんでもいいんだな。


 そして炒めものに移る。


「あ、油が跳ねちゃう」


 白鷺さんが肉や野菜を炒め、


「炒めてる飛鳥……可愛い……」


 黒鳥はまだウットリしている。仕事して下さい。


「…………ここにリンゴを……」


「きみどれだけリンゴ好きなの!?」


 横では悠人と幽ヶ峰さんが夫婦漫才をしていた。


 だいたい炒め終わったので、水を加える。沸騰したらあくを取り、材料が柔らかくなるまで15分程煮込む。


 待っている間、雑談でもしようかと思い白鷺さんの方を向くと、黒鳥にフライパンで殴られた。視界に入れることすら許されないの……?


 火を止めて、カレーのルーを割って入れる。溶かしてから弱火で10分程煮込む。


 もう同じ轍は踏むまいと白鷺さんに背を向けると、「飛鳥に失礼だろーが!」とフライパンで殴られた。もうお前、俺を殴りたいだけだろ。


 そんなこんなで、カレーが出来ました。レシピはハ○ス食品が紹介してる的なアレです。


「……普通だな」


「……普通だね」


「……まあ、そりゃそうだよね」


「で、でも美味しいですよね!」


「カレー食べてる飛鳥……可愛い……」


「……甘みが欲しい。リンゴを要求する」


 …………まあ、成功ってことで、いいんじゃないですか。もう。

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