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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
宿泊オリエンテーション
19/207

琵琶湖の中心でゾウさんと叫ぶ

 大阪に到着してから、息つく暇もなくバスに乗り、数時間してから琵琶湖に着いた。


「ケツが……ずっと座ってたからケツがいてえ……」


「もうしばらくバスに乗りたくない……」


「うん……痛い……」


 俺と悠人と康太は臀部の痛みを訴えながらバスを降りた。


「琵琶湖だ……」


「琵琶湖だな……」


「琵琶湖だね……」


 眼前に広がる湖に対して、そんな感想しか湧いてこなかった。ケツの痛みでそれどころではないのである。


「パンフレットで見た時は『やべえ! ほぼ海じゃん!』とか思ったけど……ケツの痛みがほぼ全ての感情を支配している……」


「それ以上ケツ痛いって言うのやめよう……腐女子の皆様方がこちらを鋭い目で見てるから……」


「あれは獲物を狙うハイエナの目だよう……」


「狙ってるの腐肉じゃねえか……」


 とりあえず、これ以上ケツの痛みを訴えないようにした。


「2組―。集まれー。荷物をホテルの部屋に運ぶぞー」


 へーい、とこれまたやる気のない返事。全員なんでこんなテンション低いんだよ……。


「いや、多分堪えてるんじゃないかな……ずっと座ってたから立つのも辛い……」


 本音を言うともっと動き回りたいのだが。しかし今日は戦闘訓練がない……というか配布されたスケジュール表に乗っていなかった。


「ああ……琵琶湖の上を飛び回りてえ……」


「大輔の魔導武装……ええと、蒼空だっけ? あれいいなあ……」


 空を飛び回れる能力……だったら良かったのだが。いや、現にこの魔導武装はそういう装備なのだが、生憎と、俺の

魔力(エナ)が少なすぎるせいで全てのチカラを発揮出来ていないのだ。


「……身体、動かしたいなあ……。全身が凝って仕方ないよ」


「ああ、確かにな。戦闘訓練が無かったのがこれほど悔やまれるとは……」


 荷物を持ったまま腕を回すと、肩がゴキゴキと鳴った。


「とりあえず荷物を運ぶか。部屋も見ておきてえし」


「そうだね」


 俺達は『宿泊オリエンテーションのしおり』を見ながら、自分の部屋へ向かった。


 部屋の扉は開いていた。靴を脱いで荷物を運び込み、休む間もなく集合場所に戻る。


「しんどい……もっと楽しいイベントだと思ってた……」


「うん……今のところ琵琶湖見ただけだよう……」


「ほ、ほら、次はきっと楽しいイベントさ!」


 そう悠人が言うので、少し期待することにした。


 そして。


「どうしてこうなった……」


 俺と康太、悠人の三人はボートで漂流していた。


 数分前。


「せっかくの琵琶湖だからボートに乗るぞ」


 と須崎先生が言った。


「しおりだと……あ、本当だ。ボート体験って書いてある」


「やっと身体を動かせるイベントか……」


 俺は喜んだ。


「大輔ってそんなに体育会系だったっけ?」


 康太は俺にそう聞いた。運動は嫌いではない。身体を動かすのはむしろ好きだ。


「ただスポーツとかはそんなに好きじゃねえな」


 決められたルールの間でしか動けないのは少し窮屈だ。


 俺が一番好きなのはパルクール。蒼空を持ってやるとこれがとにかく楽しい。


「とにかくジャンプしたりしてな。意味もなく跳び回ってるだけでも結構ストレスが発散出来るからいいぜ」


「ボクの魔導武装の能力じゃ無理だなあ……」


「そういえば、どんな能力なんだ?」


「一つまで、デコイを召喚出来るんだ。それだけ」


「……えーと」


 何に使うんだろう……。


「形状はボクが決められるんだけどね。盾に使ったりするのが主かな」


「じゃあそれでバネなりなんなり作ったらいいじゃん」


「!」


 今気付いたのか……。


「じゃあ今度ボクも一緒に飛び回っていい?」


「ああ、いいぜ。一緒に汗をかくのも悪くねえだろ」


 俺がそう言った瞬間、遠くの女子の集団がキャー! と悲鳴を上げた。なんだと言うのだ。



「一緒に汗をかこうだって!」


「きっとベッドの上よ!」



「大輔、ダメだ、その槍でどうするつもりだ…………!」


「止めてくれるな、俺は、巨悪を倒さなければならないんだ…………ッ!」


「待って大輔!? ダメだよ!? ……でも、汗流すのって何が悪いんだろう」


「康太まで敵か……ッ!」


 俺は……腐女子が……憎い……!


「……よくわかんないけど……ボクと大輔が本の中でも仲良しって本を描いてる人達なんでしょ?」


 俺は……腐女子を……許そう……!


「……大輔ってそっちの疑惑掛けられても仕方ないと思うな……」


 悠人が何か言っているが気にしない。


「じゃあボートに乗ろうか。ボートも乗るの初めてなんだよねえ」


「そうだな、俺もだ」


 そのボートは、オールで漕ぐタイプの物だ。少し大きく、一人が漕ぎ、二人は待機するらしい。途中で交替出来るように、少し幅も広く、安全に船上で動けそうだ。


「じゃあ最初は誰から漕ぐ?」


「ジャンケンだろ」


「ジャンケンだね」


 仁義なきジャンケンの戦いが繰り広げられた。


「俺の勝ちィィィィィィィィィ─────────ッ!」


「クソおおおおおお!」


「そんなに漕ぎたかったの……?」


 身体を動かせるのはただ一人……ッ! そしてハイレベルな心理戦 (「俺パー出すわ」の応酬)の末に掴みとった、俺の勝利……ッ! 勝利……ッ! 勝利……ッ!


「さあ、漕ぐぜー! 超漕ぐぜー!」



 そして、今に至る。



「オールが折れた!」


「この人でなし!」


「俺が悪いのかよ!?」


 漕いでいたら急に折れただけなのに!



「はーっはっはっはっはっは!」



 な、なんだこの妙にイラッとする高笑いは!


「困っているようだね!」


「お、お前は!」


 向こうから来たのは、整った顔立ち。日本人のそれではない。その混じりけのない美しい金髪。そして似合わない男子の制服……。


「……誰だっけ」


「忘れるなッ! 歓迎戦の時に! カフェの中で!」


「ああ、いたなあそんなヤツ。魔物見てチビって逃げたのが」


「も、漏らしてなどいない!」


「ええー? ……今日も女にしか見えないな、エリーちゃん」


「しっかり覚えてるじゃないかあ!」


 むきー! とエリーは怒った。よく見ると、エリーの後ろに二人の女子生徒が座っていて、談笑している。女を侍らせてやがる……。


「ねえ大輔……なにあの変な人……」


「なんか歓迎戦の時にな、俺がランクDだと知ってメチャクチャ偉そうにしてたんだけど、魔物が出た瞬間ビビリまくって逃げたヘタレくん」


「う、うわあ……」


「おい、待て! なんて紹介をするんだ!」


 間違ってないじゃん……。


「いやいや、むしろ俺はお前を尊敬してるんだぜ? よくもまああんなに無様な姿を晒して俺の前に姿を出せたよな?」


「うっ…………」


「その神経ってほんと図太いわー尊敬するわー」


「うっ…………ひっぐ……酷い……」


「いやーほんと精神つよ……ってええええええええ!?」


 ガチ泣きしている!?


「前のこと……謝ろうと思ったのに……うう……ひぐ……」


「ええー……」


 見事にキャラがぶれっぶれである。なんでこんなに残念なヤツに好き勝手されたんだろう俺……あ、弱いからか。


「弱い人だって舐めてたから好き勝手したの……間違いだって思って……」


「おい、どこまで俺をバカにする気だ貴様」


 弱い相手には何してもいい理論は流石に頭にきますよ!


「その挙句……クラスメイトの女子だけじゃなく男子まで僕を崇め始めるし……どうすればいいんだよぅ……」


 断言してもイイ。可愛いけどアホだこいつ。


 ふと悠人と康太に目を向けると、悠人は微妙な笑顔をしていて、康太は「あの人なんで男子制服着てるんだろう……」と呟いていた。そのセリフ、そっくりそのままお前に返したい。いや、むしろ男子制服だからイイのか……。


「と言うかお前、自分の力を過信し過ぎだろ。いくらランクSだからってやっていいことと悪いことがあるぞ」


「うっ……き、貴族社会では力のない者は淘汰されていたから……」


「貴族? お坊ちゃんか」


「見た目的にはお嬢様だよね」


「ぼ、ボクを女扱いするな!」


 そのセリフを聞いた瞬間、康太が目を輝かせた。これははぐれた仲間を見付けた草食動物の顔ですわあ……。


「だよね! 辛いよね! 女扱いされるの!」


「え? あ、ああ……男だと僕は言っているのに……」


「だからボク、今日大浴場で証明するんだ! ボクが男だって!」


「いや……もう誰も疑ってないと思うけどな……」


「しょ、証明? どうやって?」


 エリーが食いついた。お前も切実なんだな……。


「ボクの下半身のエレファッ!?」


 俺と悠人が、折れたオールで康太の後頭部を殴った。


「──────────ッ!」


 殴られた部分を抑えてうずくまる。この野郎、こんな公共の場所で下ネタを平然と大声で言おうとするとはなんて野郎だ。


「何すんのさ!」


「それはこっちのセリフだ阿呆! なんてこと叫びやがる!」


「え? えーと……」


 康太はさっき言おうとした事を思い出そうとする。そして、耳まで真っ赤にして俯いた。


「勢いに任せすぎだお前は……。あ、悠人、禁呪のチューニング終わったか?」


「うん、いつでも行けるよ」


「じゃあ俺ら戻るから。お前も琵琶湖を楽しめ」


「ま、待てェ!」


 俺、悠人、康太の三人は、悠人がチューニングした転移魔法でボートごと岸まで戻った。


 エリオット・レッセリア……どこまでも残念なヤツだった……。

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