カップリング成立戦略会議
始まった、始まってしまった。
『大輔×エリオットカップリング成立戦略会議』が。なんなんだよこれは。
「さて……まず、これからする話は康太さんの口が堅い可能性に賭けた話なのですけれど、口は堅い方ですか?」
「もしかして今ユルユルにしたら解放してもらえる?」
「あら、こんなに面白いことから逃げるような方でもないと踏んでいたのですけれど」
「くっ……いやたしかに面白そうだけど! でも僕は親友の恋愛対象性別を変えるようなことは……」
「片方、実は女──だとしたら、どうです?」
──────!
ま、まさか……そんな……。
「大輔って…………女の子だったのか…………」
「逆、逆ですわよ逆」
ですよねえ。
「エリオットくんが……エリオットちゃん……ってことだよね?」
「まあ、そういうことになりますわね」
「…………なんでそんな愉快なことに?」
エミリアちゃんは話し出した。
「ええ、本来はわたくしがエリオットになり、お姉様がエミリアになるはずだったのですけれど……」
「……え、ちょっと待って? 本来は?」
………………ということ、は?
「わたくし、ついてますのよ。うふふ」
「──────────────────────」
「? あら? もしもーし……失神してますわね。仕方ありませんわ、限りなく弱い雷よ」
静電気バチーッ。
「痛ァ!?」
「起きましたわね、続けますわよ」
「衝撃が……それどころじゃないよ……!」
ずっと……ずっと上品で綺麗な女の子だと…………。
「あ、これ大輔さんには内緒でお願いしますわね、まだ女で通ってますので」
「ど、どうしてだい?」
「散々ラブコメチックに攻めて『もしかしてエミリアって俺に気があるんじゃないか……』とか思わせたあと、お風呂に突入しようかと思いまして♡」
「なんでそんなことを!?」
ひたすら純情を弄びに掛かってるじゃないか!
「これもお姉様のためを思えばこそ……! ぶっちゃけお姉様は奥手で臆病なので、まだ女だと思われているわたくしが横槍を……」
「エリオットくんからすれば……弟が新たな扉を開いたようにしか見えないよ……!」
「でもそういうの、こちらでは普通なんでしょう?」
「普通って程じゃないだろうけど……まあ、あるね」
「まあ本音を言えばお姉様をからかいたいだけですわね。8割ぐらいは」
ほらやっぱり! ついでに大輔もからかいにいってるからタチが悪いよう!
「……なんとなく、なんとなく魂胆はわかったよ。でも、それをなんでボクに話すんだい? 確かに面白そうではあるけれど……」
「一緒に可愛い服を着て大輔さんに迫りませんこと?」
「迫りませんことよッ!」
女装してからかえって事じゃないかあ! ボクには親友を裏切れない……ッ!
「まあまあそう言わずに。良いですか、大輔さんは過去に失恋を経験している……らしいではないですか」
「ああ、うん。そう言ってたね」
「少なからず女子への苦手意識もあるかもしれません」
「話の雲行きが怪しくなってきたな」
「男子の出番では?」
「引っこんでた方がいいと思うなあ……」
なんで新たな扉を開拓する方向に……。
「というか……大輔の恋愛のトラウマをこれ以上増やしたくないんだけど……」
「トラウマ? 1年間彼女がいた……という話ですわね?」
「ああ、うん……」
とは言っても、他に好きな男がいたから、という理由でフラれたのだ。思春期男子にとってはトラウマモノだろう。僕なら立ち直れないと思う。
だって、それは明確に優劣を付けられる行為だから。お前の上位互換がいたから、と。
笑って話せる気は、しない。
「でも、エミリアくんが暴走気味なのは珍しいね。いつもはこう、静かに構えてる感じなのに」
「……まあ、少し事情がありまして……わたくし達は大学卒業と共に故郷に帰る予定ですので、急いているのですわ」
「……そっか、留学生なんだもんね。……あれ? でも大輔って……魔導士になってからじゃないと恋愛しないとか言ってたような」
「わたくしが性急に進めようとする理由、おわかりになりまして?」
そっか、タイムリミット付きの恋愛なんだ……。
「もっと言うと、お姉様には発情期がありますので……」
「えっ何それ」
「わたくし達の種族の女にはあるんですの、高揚期と呼ばれる時期が。だいたい夏頃に来ますわね」
「……で、それがどう問題なの?」
「例えば大輔さんとお姉様が正式に付き合ったとしましょう。そうすればいつでも大輔さん成分を摂取できますから問題ないのですが……仮にこのまま悶々とし続けたら……」
「……し続けたら?」
「お姉様が獣族としての姿となり、大輔さんを襲います」
「…………放置した方が面白くない?」
そんなパワープレイに出られるなら最初からやりなよー、もー。
「でも十中八九子供が出来ますので……」
「えっ」
「出来ずとも、出来るまで続くので……」
「怖いッ、高揚期怖いよォッ」
そんなん途中で死ぬ可能性だってあるじゃん! いや結界の中なら問題ないだろうけど!
「理性のないまぐわいで産まれた子供と共に大輔さんは我が家に婿入りすることになりますから……」
「それは…………大問題だね…………」
人によっては役得になるんだろうけど……。
「相手は大輔だもんなあ」
「そーなんですのよ。もう手強くて手強くて」
本気で苦労してそうな顔をしていた。でも、1度の恋でどうしてここまで……。
「なんとしても大輔さんにはお姉様とくっついて頂かないといけないんですのよ。獣族の女は……生涯に1人しか愛せませんから」
「えっ?」
「その相手が大輔さんなんです。大輔さんは幼馴染さんのことを想っていらっしゃるのでしょうけど……それでも」
本当にお姉さん想いなんだなあ。
「このまま行くと……適当な女を宛てがわれたわたくしが家を継ぐことに……」
「そこなんだ…………」
どうも、アルカニリオスでは家業は基本的に長女が継ぐらしいのだが、そこが未婚だと次女や次男が家長になるらしい。
「レッセリア家はそもそも獣族の一族ですので、他の貴族……商売で財を成した人達と違って、血筋で貴族の立場にいる訳です。多額の納税をしている貴族と違って税金で養われている側の貴族ですので……肩身が……狭いんですの……」
一緒くたに貴族扱いなんだ。もっと特別な枠とか作ればいいのに……。
「出来ればわたくしは自由に生きたいんですの。なので、まあほとんど自分の都合ですわね」
苦労してきたんだろうなあ。
「それで、結局どうするの?」
「お姉様が大輔さんへの好意を自覚している以上、もう攻めさせるしかありませんわね。幼馴染とやらの得体が知れないのが怖いですけれど……どうしましょう、正統派な美女が出てきたら」
「男装女子だって属性的には負けてないんじゃないの?」
「イロモノ枠なので……」
実の姉をイロモノ枠呼ばわりすることあるんだ。
「ともかく、あの手この手を尽くしますのでどうか協力してくださいまし。見返りは……シンプルにお金でどうです?」
「嫌だなあ友達くっつけるのに金銭受け取るの!」
「では……この大輔さんの隠し撮り写真などは……」
「なんでそんなの持ってるの!?」
「お姉様のやる気アップアイテムですのよ」
盗撮写真チラつかされてやる気出してたの? どんどんエリオットくん……エリオットちゃんの印象が変わっていく……。
「はあ……まあ面白そうなのは確かだし、協力はするよ。というかここまで秘密を明かされて引いた時の方が怖いしね」
「察しがよろしいですわね〜」
えっ怖ァッ。
「レッセリア家の沽券に関わる話ですので、まあ痛い目……とは言いませんが記憶はちょっと弄ったかもしれませんわね〜」
あっぶな、断らなくてよかった……。
「で、何から始めるの?」
「今日は大輔さんとお姉様のデートの日ですので、尾行します」
「……尾行してどうするの?」
「あわよくば交尾に持ち込みたいですわね」
「そんな言い方ってないよォッ」
というか僕らみんな高校生だからね!?
「まあ手を繋ぐだけでも良しとしますわ。ともかく進展して欲しいですわね……行きますわよッ!」
「わあやる気に満ちてる〜……」
僕は引っ張られるようにして、エミリアくんに着いていくことになった。




