夏の恋バナ 3
「ね、だいすけ」
「うん?」
「シエルはね、ずっといっしょ!」
「……はー! もう可愛いなあこの子は! よーしよしよしよしよしよし!」
「わー!」
ひたすら頭を撫でくり回す。よく考えたらさっきの回想全部シエルに聞かれてんじゃん! は、恥ずかしー!
「ああそうか、大輔にはもうシエルちゃんがいるから」
「違うよ!?」
「ロリコン……」
「違う! これは……兄的な! 兄的なやつだから!」
そう言って、俺たちはゲラゲラ笑った。
……ああ、いいもんだ。こういうのは。
やっぱ、恋愛とか……ダメだな! もし康太とか悠人に彼女できたら……まあ、付き合いは悪くなるんだろうなー……。
寂しいもんだぜ。まあ、悠人に関してはアルカニアと幽ヶ峰を俺がけしかけてる部分もありますけどお……。
「そういえば、大輔の机の上にあるあの写真は誰なの?」
俺の机の上の写真……あー、ガキの頃のやつだ。俺と咲月のやつだな。
どう話すかなあと思っていたところ、部屋に闖入者が現れた。
「や、やあ! 遊びに来たよ!」
お、エリオットだ。そういやいねーなと思ってたんだよな男子組の話なのに。
あいつもモテそうだよなあ……。たしか、あいつのクラスでは崇められてんだよな……異世界貴族系イケメン……まあそうなるか……。
「えーと、なんの話をしてたんだい?」
「恋バナ」
「えっ」
エリオットが硬直した。なんだ? やましいことでも……?
「つっても、俺がフラれた話をしたぐらいだけどな! で、あー……なんの話だっけ?」
「あの写真に写ってる子って誰なのかなーって」
……さて、咲月をどうやって説明したもんかな。まあ重い話は抜きにしよう。そういうのは俺のキャラじゃないからな。
「んー……初恋の幼馴染?」
「はつこッ!?」
エリオットが仰け反った。そんな驚くことある? さては、俺のことを恋とは無縁のヤツだと思ってたな?
「へえ、幼馴染か。どんな子だったの?」
悠人が屈託のない笑顔で聞いてくる。くっ……なんて答えよう。
「まあ、そうだな。すごい元気なやつだったな。野山を駆け回ったりしてたなあ……」
「そっか、田舎の方なんだもんね」
「って、初恋なの?」
康太が食い付いてきた。
「まあな。ほら、ガキならよくあるだろ? そんなもんだよ」
「初恋の相手の写真を大事にしてるんだね。結構ロマンチストなんだ?」
「なんでお前らそんなグイグイ来るの……?」
高校生男子、恋バナに飢えすぎだろ。いやまあ俺も同じ状況ならウザいぐらい聞く自信あるな。そうなるわ、うん。
「まあ、今でもアイツのことを忘れた日はないわな……」
「お、おおっ!」
「マジだ! マジのやつだ!」
「あ……あああ……」
男子共は三者三様の反応をする。悠人も盛り上がってるし康太もなんか楽しそうだ。エリオットは硬直している。実はこいつ、結構純情なのかも?
「この子は今どうしてるの?」
……!
死んだとは……言えねえよな、流石に。まあ、ありがちな答えにしとこ。
「あー……実はもうだいぶ連絡とか取ってなくってさ。多分、どっかのエルゼラシュルドにいるんじゃねえかな……アイツも魔導士を目指してたし」
おお、我ながらいい感じじゃないか?
「それでも想い続けてるんだね……やっぱりロマンチストだね!」
「まあ、彼女1回作ったけどな……そんなイイ話でもねえって」
慣れたはずなんだけど……やっぱりからかわれるとむず痒いもんだな。
「なんだかんだ、さ。俺はアイツの……咲月のことばっか考えてるし……少なくとも、魔導士になるまでは彼女とかは無縁じゃねえかな。1回フラれて痛い目見たしな!」
約束を、果たすまでは。咲月の夢を代わりに叶えるまでは、俺に恋愛なんかやってる暇はないだろう。
ただでさえ弱いんだし、寄り道なんかしてる暇ないんだ。
「…………」
「なんだよ、なんか言えよ! なんだこの空気!」
「いや……まさか大輔からそんな話が出てくるとは思ってなくて……」
「大輔、全然自分のこと話さないからさー。でも……いやあ、まさか大輔からそんな話が出てくるなんてねえ」
「や、やめろやめろ! 恥ずい! ただただシンプルに恥ずい!」
シエルに助けを求め……うわあ聖母みたいな笑みを! なんでそんな表情に!
「は、ははは……僕はちょっと部屋に戻るよ……?」
「え? お、おう」
この空間に耐えられなくなったか? ふっ……ピュアなやつめ。
「くそ……お前らも浮いた話が出てきたら死ぬほどつっついてやるからな……魔導士になるまで恋しない俺と違って、お前たちにはまだイジる要素がある!」
「僕も機動官になるまで恋とかする気ないよ?」
おお、哀れなりアルカニア&幽ヶ峰……。壁は非常に高いぞ……。
「じゃあもう康太! お前覚悟しとけよ!」
「彼女作ってゲームの時間減るの嫌なんだよね」
「なんなんだよお前らはよおおおおおお!!」
俺がただ恥ずかしかっただけじゃねーか!
そうして、男たちの部屋はまた騒がしくなっていくのだった。
~~~~~エミリア・レッセリアの場合~~~~~
部屋の扉が開きます。見ると、お姉さまでした。
「あ、戻ってきましたわね……なんですのその見たことないオーラは!?」
「僕は……もう、ダメだ……」
大輔さんに手紙をよこしたあの日のようなドス黒いオーラを纏っていますわ……一体なにが……?
「実は……」
~~~~~~~~~~
「なるほど……」
どうしたことでしょう。掛ける言葉が見当たりませんわ。
未だ続いている初恋……まさかそんな言葉が大輔さんの口から出てきたとは到底思えませんが、事実なのでしょう。
「1年間恋人がいたという話に関しては、あまり考えない方がいいでしょう……しかし、フラれたというのは別れを告げられたということですわよね」
それが尾を引いていなければいいのですけれど……。
「わたくし達は長くても、大学4年生までしかこちらにはいられません。しかし、大輔さんが魔導士になるまで恋愛をしないと言っていたのであれば……え、これ無理では?」
「うっ……やはりそう思うかい……?」
「大輔さんは意志の強いお方だと思います。相当のことがない限り、難しいでしょうね」
「…………僕はもうダメかもしれない」
「獣族の女って面倒ですわね……」
祖繁紋が現れると、こうなるんですわよ……。母もそうだったらしいと父から聞きましたわ。
相手のことしか考えられなくなるわけですからね。高揚期が来たらどうしたらいいかしら……。椅子にでも縛り付けた方が良さそうですわね……。
「ともかく、今は大輔さんに嫌われないことが大事だと思いますわよ。相当のことが起きることを願いつつ……」
「う、うん、そうだね。嫌われてしまっては元も子もないのは確かにそうだ。しかし……女だと明かせないというのは、少々もどかしくもあるね」
「でも、お姉さまが選んだんでしょう? 男友達として傍にいたいんだと」
「それは、そうだけれど……」
しかし、男である期間が長ければ長いほどリスクになりそうだとも思いますわね。
ずっと男だと思っていた相手が実は女だった、という異質な状況では、おそらく……いえ、必ず接し方がわからず気まずい空気になるはず。
「というか……わたくしも普通に女だと思われてるのですわよね……まあ、わたくしはいいですけれど……」
可愛く在る、というのも悪くないですからね。どうせ成長してしまえば男に寄っていくわけですし、若く可愛くいられるうちに堪能しておくのもいいものでしょう。
まあ、その……男だと明かした時の大輔さんの顔を見たくないといえば嘘になりますけれど……。ふふ、どんな顔をするのでしょう。わたくしの股間に大輔さんと同じ物が付いていると知ったら。
「え、エミリア……顔が怖いよ?」
「あら、いけませんわ。……ごほん。そうですわね……2年生になったら正体を明かす、というのはどうでしょう? いい節目ですし、何より学校に提出した書類の書き直しが楽なタイミングでしてよ」
「確かに、ずっと男でいても仕方ない、か……。わかった、そうしよう。そこから、女として意識してくれれば、万々歳だね」
ギャップ萌え、というのもありますし……それを狙えればいいのですけれどねえ。
「問題は、宿から一緒に出てきた女性くらいですわね……一体どのような関係で……」
「え、言った通りじゃないのかい?」
こ、この人は……! はあ、まあいいでしょう。こんなに純粋な方なら、大輔さんが嘘を吐いている可能性を説いても首を傾げそうですし……。
何より、大輔さんが初恋の相手を大事にしていらっしゃるなら、敵視するのは早いように思えますし、ね。
「楽しみですわね、大輔さんをお義兄さんと呼ぶ日が」
「き、気が早いよう!」
「うふふふふ……」
そんなこんなで、わたくし達は……というかお姉さまは決意を新たになさったのでした。




